野球小僧

黒船来襲

間もなくJリーグが開幕しますが、2007年からJリーグの全試合を放送していた「スカパー!」から、新たな中継パートナーとして、インターネットスポーツ中継サービス「ダ・ゾーン」を展開する英国のスポーツコンテンツ企業、パフォーム・グループと契約すると発表しました。

日本での衛星放送の大手・スカパー!がJリーグの試合中継から「完全撤退」することを発表したのは、昨年12月15日でした。「Jリーグ見るならスカパー!」というCMでもお馴染みで、その撤退には驚きました。

それ以上の驚きは、破格の契約額です。最終的にパフォームがJリーグ側と結んだ契約額は10年分で約2100億円。それまでスカパーとの契約は1年あたり約50億と言われ、単純計算で実に約4倍強にもなります。

日本では今まであまり耳にしない、ダ・ゾーンは昨年8月に日本でのサービスをスタートしました。MLBやF1などの世界中の130を超える競技、約6000試合以上の中継を月額1750円(税抜き)で楽しめる画期的なサービスが売り物で、日本での配信開始にあたり、目玉コンテンツとして白羽の矢を立てたのがJリーグだったそうです。

Jリーグは1993年の開幕当初はジーコさんやリネカーさんなど、世界一流選手を迎え入れて、一大ブームを巻き起こしました。その頃は、民放各局は試合を連日地上波で生中継し、日本中がJリーグブームに沸いていたものです。しかし、ぽっと出の熱狂したブームは去るのも早く、民放各局が徐々に放送しなくなり、見放されたような形になったJリーグは、本来のサッカー好きの熱心なファンは残ったものの、新たなファン層の拡大に苦慮する時期が続きました。そんな中でJリーグに救いの手を差し伸べたのがスカパーでした。

スカパーは2002年の日韓ワールドカップ中継で手応えを感じたのをきっかけに、年間で千試合近くも行われるJリーグの全試合を中継することを決めました。もちろん、誰もやったことがない挑戦で、当然放送のノウハウもありません。Jリーグ側ですら、「そんなことが実現できるのか」と疑心暗鬼だったそうです。それでも、試行錯誤の末に2007年のシーズンからJ1・J2全試合の放送を実現しました。

それ以降、スカパーもコンテンツ充実に力を入れ、社内に設けた専任チームがスタジアムに足繁く通い、時にはチームとイベントを共催するなど、リーグ全体を盛り上げるための様々な企画を打ち出してきました。その努力の結果、2007年の放送の開始以後、Jリーグ中継パックの契約者数は右肩上がりに伸び始めていました。

そんな思いもあって、今回Jリーグ放送権を失ったショックは大きく、完全撤退については社長のあいさつ文がHPに掲載されるほどのことでした。さらに、衝撃的だったことは、約2100億円というパフォーム側の契約金額であり、個人契約の月額料金だったようです。実際、スカパーのJリーグ全試合視聴プランより1500円近く安い月額料金で、どうやって2100億に見合う利益をあげるのかが不思議だそうです。

結局、スカパーは2月以降のすべてのJリーグ試合中継セットの提供を終了し、今後はJリーグ以外の国内試合や海外リーグなど、これからもサッカー関連番組を充実させていくそうです。それでも、Jリーグ中継を失うことによる経営へのダメージは大きいことは想像に難くありません。

さて、Jリーグ中継を行うパフォーム・グループは、正直、今回話題になるまで知りませんでした。ただ、日本では無名なものの、デジタル技術を駆使して世界約100ヵ国でスポーツコンテンツを提供する国際企業で、欧州ではよく知られた存在だそうです。あらゆるスポーツについてのデータや記事のほか、自ら試合の映像も制作し、主に企業やメディアに対して提供しており、スポーツニュースで流された会見映像が実はパフォーム制作などということも珍しくないそうです。

会社設立は2007年(何かスカパーとは因縁を感じるのですが)と、パフォームは歴史こそ浅いが、その成長は目覚まく、2011年2月には世界最大のサッカー情報サイトである「ゴール・ドットコム」をはじめ、スポーツデータを扱う企業を次々と買収し、世界でも有数のスポーツ総合企業に成長しています。

今回、「いくらなんでも2100億円は高すぎるのでは」との声に、ダ・ゾーンのサービスを統括するジェームズ・ラシュトンさんは「ベリーベリーベリー、自信がある。投資したおカネを上回るリターンを得られると確信している。日本への投資は長期的な視点で見ている。Jリーグのパートナーとしてサッカーファンを増やし、スタジアムの体験をすばらしいものにする。こうした取り組みがすぐに収入に結び付くとは思わないが、スポーツを楽しむ人が増え、サッカーを見る人も増えて、スタジアムに行く人も増えれば、ダ・ゾーンの会員も増える」と強気の考えです。

昨夜、NHKのニュースでも取り上げていましたが、カメラの台数を増やし、ヨーロッパのサッカー中継のように選手がゴールを決めた瞬間、顔のアップも含め、様々な角度からの臨場感のある映像を準備するようです。そういうノウハウを日本にも導入できれば、新たな楽しみ方で視聴者を増やせるかも知れません。それでも、ダ・ゾーンの月額1750円という契約料で年間210億円を回収しようとすれば、約100万人の契約が必要であり、利益を出すためにはさらに数十万人の契約が必要な計算です。日本という限られた範囲の中では無理はあると思います。

それでも、パフォームが強気なのは英国企業であり、スポーツを扱っている企業であるということです。英国では政府公認の「ブックメーカー」が賭博を運営しているという背景があるからです。それに近年では各国でスポーツ賭博のネット化が進んでいたりします。最近はスマホで試合を見ながら賭けられるシステムが完成されているそうです。今までは試合前の予想で賭けるありませんが、試合展開に応じて試合中に変動する倍率を見ながら賭けられるインプレー・ベッティング(試合中の賭け)も盛んになっているそうです。

そして、このパフォームは、「ウォッチ&ベット」と呼ばれるスポーツ賭博の運営者に向けた動画配信サービスで急成長した企業なのだそうです。合法賭博用の動画配信のプラットフォームを持ち、パフォームは安定した収入を得ているというのです。

パフォームは10年という長期契約の中で、日本におけるスポーツ賭博の「合法化」を見据えているのではないかという想像もされているようです。日本では野球賭博の問題もあり、賭博=悪というイメージが強いですが、あれだけ反対意見の多かったカジノ関連法案も可決してしまい、そもそも、文部科学省が所管するtoto(サッカーくじ)は、3年連続で売上高が1000億円を突破し、巨大なマーケットになっていることを考えれば、スポーツ賭博の新たな市場開拓として、日本が選ばれたというよりも、標的にされていると思うのは、考えすぎというものでしょうか。

それはともかく、受け入れたJリーグ側はさっそく、来季からのJ1上位チームの賞金の増額が発表され、1位のチームには合計で21億5000万円が支払われることになりました。これは、昨季の4億8000万円の4倍以上になります。また、それと同時に外国人選手の登録枠を増やすことも決まりました。そうなると期待できるのは欧州の大物スター選手が日本でプレーすることも可能になるでしょう。それはそれで、楽しみが増える可能性があります。

こうした流れは他のスポーツへと広がる可能性もあることでしょう。

米国ではMLBファンがケーブルテレビや衛星放送の契約を解約して、インターネット配信サービスに乗り換える動きが顕著になっています。MLB自体が年間約1万2000円の加入料で全試合を視聴できるインターネット動画配信サービスを運営しており、スポーツ専門チャンネルESPNの視聴者数は減少の一途だそうです。すべての放送がインターネット中継だけになる可能性もあると言われています。

日本のプロ野球の場合では、ジャイアンツ戦であれば地上波中継は日本テレビ、BSはBS日テレ、CSはG+というように、チーム(親会社)と結びつきの強い企業が放送権を持つ状況がありますが、大きなメディア企業との結びつきが小さいチームを中心に、米国のようにインターネット配信サービスが主流になる日が来るかも知れません。というよりも、スマホの普及スピード、通信料の値下げなどを考えれば、変化の夜明け間近でしょう。

パフォームがスポーツ・インターネット動画配信の黒船来襲となるのか。これからの10年間は、スポーツ界とインターネットの文明開化となるのでしょうか。


コメント一覧

まっくろくろすけ
eco坊主さん、こんばんは。
私も「ラ・セゾン」だったら知っていたのですが。

いやあ、Jリーグが手軽に見られなくなると、ないものねだりで見たくなってしまうのが人情。でも、ここはNHKさんに頑張っていただきたいと思っています。

ま、私はテレビ東京、Jスポ、テレビ朝日、日本テレビで充分です。あっ、高校野球のためにNHKは必須。
eco坊主
おはようございます(*Ü*)ノ"☀

パフォーム・・知る由もございません。なんせ、4年前はPerfumeさえ知らずに職場(当時HC)の人から呆れられたほどですから~

サッカー中継も殆ど見ないですね~
ガイナーレは応援しているのですけど!

TVは地上波だけでいいです。
大河と科捜研の女と相棒と笑点が見られれば!
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