全国の地方大会での統計がわからないため一概には言えませんが、来年以降も何年か続けて甲子園でこのペースでホームランが打たれたとなれば、金属バット禁止というお達しが高野連から出てきても不思議はないと思います。
社会人野球でも以前は金属バットが使われていた時代がありましたが、打球スピードが速くなって危険ということもあり、2005年からは禁止となりました。大学野球は当初より木製バットで、金属バットの時代はありません。
高校野球で金属バットが使われたのが、読売ジャイアンツが最下位になった1974年でした。甲子園に初めて導入された夏はホームラン11本。当時はまだ金属バットが登場したばかりで、使用した選手は全体の約60%ほどでした。その中で、木製バットを使い続ける選手もいました。その代表が、優勝した千葉・銚子商高の二年生で四番の篠塚和典(当時は利夫)さんでした。
なお、神奈川・東海大相模高の原辰徳さんは一年生でした。東海大相模高では金属バット対応として、練習では1kgの竹バットを振り込んでスイングスピードを上げ、試合になると軽い金属バットに持ち替えたりしました。まだ性能は悪く、930~950gと現在より重いものでしたが、打球の速さは格段に変わったそうです。
ちなみに金属バットがその年から導入されたのか、その理由や背景は、はっきりしていないそうです。一説には「バット用の木の不足」「自然環境の保護」「金属バットは折れないから、高校野球の経費負担を軽減できる」といった理由などで何となく納得できそうなのですが。
バットに使うアオダモなどの不足は確からしい話ですが、当時広く使われていた合竹バットでも充分だったと思われます。まだ環境意識は高くない時代でしたし。経費負担というのが、しっくりするような気もします。
現在の価格で考えれば木製バット約1万円弱。一方の金属バットは2万~3万円以上します。目の前の投資だけで考えれば、金属バットは高いですが、木製バットは金属バットに比べて、折れたり、劣化したりと交換するための経費がより掛かります。ですから、長期的な投資視点で考えれば金属バットの方がお得になります。
そもそも、野球はお金のかかるスポーツです。グローブも高級モデルは4万~5万円の価格が当たり前です。スパイクにアップシューズなんかは、もはや消耗品です。アンダーシャツ、ストッキングにスライディングパンツ。試合用の硬式球は1個1000円以上します。そこへバットだけコスト削減策で金属バットというのも、偏っています。
さて、高校までしか使えない金属バット。優勝した花咲徳栄高は打撃力向上のためトラックのタイヤをハンマーで打つ(たたく?)練習を取り入れたそうです。また、ほとんどのチームは打撃練習の方に時間を割いているのが現状です。それが悪いという訳ではありませんが。ただ、高校野球から上のレベルに進んだら使えない金属バットというのは、野球界に対してどういう役割を持っているのか、個人的には不思議でなりません。
中田翔選手(北海道日本ハムファイターズ)、筒香嘉智選手(横浜DeNAベイスターズ)ほどの強打者でも、プロ野球に入ってレギュラーになるのに4~5年はかかっています。近年では高校通算71本のホームランを放った高橋周平選手(中日ドラゴンズ)は5年で20本のホームランと伸び悩んでいます。どの選手も木製バットへの対応に苦労したのが一因に挙げられています。そして、3選手共にバットを引く方の手を故障しています。中田選手、筒香選手はそれでも対応に成功し、プロ野球でも四番バッターなりましたが、木製バットでは打てず、プロで活躍せずに終わった選手はたくさんいるのです。これで、高校からMLBへ直接行けば、より苦労してしまうことでしょうね。
すべてが金属バットが原因とは限りませんが、金属バットにしか対応できない打撃技術を、ある意味極めた弊害なのかもしれません。
ちょうど、今年はU-18ワールドカップがあります。日本代表も金属バットではなく、木製バットを使用しなければなりません。いっそのこと、高校野球も木製バットに戻したらどうでしょう。