駒井健一郎34才。
商社にて特別養護老人ホームの受注に失敗し
子会社へ出向するもミスを押付けられ退社。
妻の美緒と娘のめぐみは実家へ帰り別居中。
午前10時から、中堅信販会社の面接が入っていた。五反田駅から
歩いて五分ほどのところにある総ガラス張りのオフィスビルを
訪ねると、すでに二十人近くのライバルが暗い廊下の
スタートラインで待ち受けていた。
待合室も無く、パイプ椅子すら出されず、三十分以上も待たされて
面接が始まった。自分の順番が回ってくるまでに、さらに四十八分
が経過し、ずっと立ちずくめだった。
いくら買い手市場とはいえ、思いやりの見えない対応に、会社の
姿勢が透けて見える気がした。
危惧は、面接室に入るなり的中した。面接官は三人。そのうち、
真ん中にいた年配の男が、今にもテーブルへ足を上げそうな、
そり返った尊大な態度で履歴書をめくりながら、健一郎が子会社に
出された理由をねちねと責め立ててきたのだ。
「自分はまだ若いので、新たな気持ちで再スタートを切ろうと
転職を考えました」
「しかし、おかしいじゃないかね。君のような若さで、どうして
子会社に出される。君の話を聞いていても、わたしには疑問しか
浮かんでこないね」
君の仕事ぶりによほど問題があったんじゃないのかね。年配の面接官は首をひねり、根ほり葉ほり辞職までの顛末を突つき回した。
あげくは、「隠そうとしても、調べればわかるんだぞ」と脅しにも
近い文句を口にした。
中途退社の何が悪い。言葉を返したかったが、めぐみの笑顔を思い出し、ぐっと腹に力を入れてこらえた。商社で長年培ってきた
人脈を生かして御社で働ければ、と考えております。
「待ちなさい。君はわたしの質問に答えていない」
「正直にお答えしたつもりですが」
「老人ホームの土地問題以外にも、何かあったんだろ?」
「いえ。自分ではいい仕事をできたのではないか、と考えています」
「そうやって、自分のミスを自覚していないのが問題なんだな」
「は?」
「よくいるんだよ、君のように突っ走るしか能のない社員が。
冷静に己を振り返ることができない。人との力量差を認めようと
しない。上司が馬鹿だからいつも責任を負わされ、部下が使えないから一人で走り回るしかない。そう思いながら、本当は協調性が
ないために、社員の和から浮いている現実に気づきもしない。
君が打ち明けてくれた事情はわたしから見れば、そういった自覚の
足りない社員の典型に思えるね。君は子会社に出されたことをいつまでも不満に思ってたんだろ?どうして自分だけ理不尽な扱いを
受けるのか。なぜこの歳になって、名も知れない会社の面接を
受けなくちゃならない。ごまかしたって、わかるんだ。過去の仕事に今も未練たっぷり自信とプライドを持ち続けてる。だから、わたしの質問を無視しても平然としていられる」
一方的に決めつけられた。けれども、まともに反論できない弱さが
健一郎にはあった。
「言っておくが、会社を誇りに思えない社員がいたのでは、社内の結束は図れない」
「お言葉を返すようですが‥‥‥」
いけない。そう思った時は遅かった。面接官の黄色い目が粘着質の
光を帯びた。
「会社を誇りに思う、それは各人の自由でしょう。しかし、会社が
押しつけるものではないと思います。まず仕事に誇りをもつこと
こそが最優先ではないでしょうか。愛着や誇りは長い時間をかけて
作られていくものに思えます。その愛着と誇りが会社に持てなかったから、わたしは退職したまでです」
「つまり君は、うちの会社に入っても、誇れる仕事ではないと思えば、またすぐにでも辞めてやる。と言いたいわけだね」
「違います。仕事への誇りと会社への愛着は別だと‥‥」
「ご苦労さん。君の考えはよくわかった」
「待ってください。何もわたしは御社を軽視するつもりで言ったのではなく、どんな仕事でも誇りを失わずにいたいと‥‥」
「もういい。下がってもらって結構だ。‥‥はい、次の人入って」
面接官の目は、もう次の履歴書に向けられていた。
やってしまった。なぜ先をよく考えもせずに反論したのか。後悔が
胸を突いたが、あとの祭りだった。
面接会場から出て行く自分の首は秋風を受けるひまわりのように
うなだれていただろう。廊下に続く列の長さは、十五分前と少しも
変わらず、競争率の高さをあらためて知らされ、絶望的な気分で
オフィスビルを出た。
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