【会員制】秘密倶楽部「オーヴ」の夜

今夜もあの重厚な扉の向こうには
妖しくも美しい、不思議な空間がある。
「秘密倶楽部・オーヴ」

不在の店主の代わりに切盛りしているのが、チーママのお玉である。
今日は新人面接を行うため、少し早めの出勤をしていた。

ラウンジやバーの募集広告というのは、極めてシンプルである。
たいていは、年齢制限と時間帯を書いたものだが
ここ「オーヴ」では、店の形態が少々特異なため、更に簡素な募集広告になっていた。
『委細面談』
たったそれだけの広告であった。

「どんなのが来るのか楽しみだわ。」

そんなお玉の後ろを行ったりきたりして店内の掃除や、準備に忙しいトモロヲと淑之。
彼らはいわゆる黒服だが、この店では少々違う。
黒タイツなのだ。
トモロヲは、黒タイツの中の頂点だ。
細かなきくばりと瞬時の機転が利き、営業中の店内を取り仕切っていた。
美人チーママのお玉との相性も良く、店の儲けもなかなかのものだった。
その手腕が、店主のフジコからも一目おかれ、すっかり店を任されていた。

淑之は、最近入ったボーイだ。
ふらりと飛び込みでボーイの面接に来たのだが、
この店の特殊な雰囲気にすんなりと慣れ
今では、黒タイツ姿がとても気に入ってるようだった。
淑之の素顔は、まだあどけなさが残り若々しい。20代前半だと聞いていたが、それよりも若く見える。
そんな明るく、多少甘めのマスクの彼に、店の女の子もファンが多い。
つい先日も、彼に熱を上げていた娘が急に店を辞めてしまった。
男と女が集う場所には、そういった話はよくあることなのかもしれない・・・。

キィ・・・　バッタン。。
「すみません、面接に伺いました・・・カオリです。」
陶器のような白く透き通った肌をした美しい女性が扉の前に立っていた。
お玉はニッコリと微笑みかけ、面接を行うボックス席へと彼女を通した。

「バッチリだわ」
彼女に聞こえないほどの小さな声でお玉は呟いた。