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殺人は眠り続ける 小説編その14

2014-11-06 00:51:06 | 殺人は眠り続ける(完結)

 2010年8月。

 晴海は居間の開き戸で、何やらごそごそ探してます。

 「ちょっと、外で一回埃を払ってよ。」

 母、砥代子に文句を言われてます。

 「美帆はいつ帰るって?」
テレビを観ていた父、洋海が聞きました。

 「夏休みいっぱいって言ってたけど、何日かわかんない。」
晴海が答えます。

 「夏休み最後の土日に迎えに行かなきゃいかんかな?」
と洋海。
 「一回電話してみる。」

 (本当に父さんは美帆には甘い。)

 自分には厳しい洋海の態度と比べる晴海です。

 「…これかな?埃を払ってくる。」

 晴海は1冊のスクラップブックを持って、玄関に向かいました。

 「……なんか随分古いもん引きずりだしたな。」

 居間で晴海が広げてるスクラップブックを、洋海が覗き込んで言いました。

 「これ、いつからここに入れてあったの?」

 「全然分からん。というか、何でお前これの事知ってんだ?」

 「だいぶ前に他のもの探してて見付けた。」

 「ふーん。」

 「…これ、父さんの字じゃないよね。」

 スクラップブックの書き込みを指差して、晴海が聞きました。

 「違う。」

 「おばさんの字?」

 「んー、多分そうかな?」

 「やっぱり……。最初の記事が1991年、おばさん、高校生だよね。」

 新聞の1面記事に、書き込み。
(学校の授業で使ったのかな?)

 1年ぐらいそんな感じで記事が貼られてましたが、その後はバラバラ。芸能記事や料理のレシピなど、内容も日付もバラバラです。

 (なんとなくだけど。)
ページをめくって行って、ふいに手が止まりました。

(やっぱり……。)

 「何だ?」

 晴海の驚いた様子を見て、洋海が尋ねました。

 「何でもない。」

 晴海はスクラップブックを持って自分の部屋に急ぎました。

 「なんなんだ、アイツは?」
と洋海。

 晴海は自分の部屋でスクラップブックを広げました。

 記事の日付は1993年11月2日。

 (1993年11月2日の記事………。円山陸さんの事故の記事だ。)

 事故の日付は康太が覚えていたので、図書館で当時の新聞を調べようかとも思ってましたが、
(多分、切り抜きがあるんじゃないかと思った。 スクラップブックがあったし。
 星河さんの事故の記事もあったから。)

 「あれ?でも……。」

 陸の事故の少し前にあった、薬物事件の記事は何度探してもありませんでした。

 (そうか、未成年だから…。)

 新聞に事件が報道されなかったのかも……、と晴海は思いました。

 そして改めて、陸の記事を読みました………。

 1993年11月2日、午前3時頃、漁港に停泊していた漁船のロープに引っ掛かっていた円山陸の遺体が、漁に出ようとしていた船主に発見されました。
 その30分ほど前に、すぐ近くの陸橋のガードレールに、原付バイクが衝突したまま放置してあると、通りかかった車の運転手から警察に通報がありました。
 警察の調べでは、陸が何らかの理由で、バイクのハンドル操作を誤り、そのまま陸橋から漁港に転落したのではないかとの事でした。

 (スクラップブックを見ても、特に続報はないな…。)

 このまま普通に交通事故として処理されたんだな、と晴海は思いました。

 記事は昔なので、陸の家の住所まで、記載されていました。

 (おじさんに聞けば、円山さんちの住所も分かると思うけど。)

 だから、別にどうする訳でもないけれど、載っていた住所は何となく覚えておく事にしました。

 (美帆が帰って来たら見せよ。)

 晴海は自分の部屋の本棚にスクラップブックをしまいました。


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