2010年8月。
晴海は居間の開き戸で、何やらごそごそ探してます。
「ちょっと、外で一回埃を払ってよ。」
母、砥代子に文句を言われてます。
「美帆はいつ帰るって?」
テレビを観ていた父、洋海が聞きました。
「夏休みいっぱいって言ってたけど、何日かわかんない。」
晴海が答えます。
「夏休み最後の土日に迎えに行かなきゃいかんかな?」
と洋海。
「一回電話してみる。」
(本当に父さんは美帆には甘い。)
自分には厳しい洋海の態度と比べる晴海です。
「…これかな?埃を払ってくる。」
晴海は1冊のスクラップブックを持って、玄関に向かいました。
「……なんか随分古いもん引きずりだしたな。」
居間で晴海が広げてるスクラップブックを、洋海が覗き込んで言いました。
「これ、いつからここに入れてあったの?」
「全然分からん。というか、何でお前これの事知ってんだ?」
「だいぶ前に他のもの探してて見付けた。」
「ふーん。」
「…これ、父さんの字じゃないよね。」
スクラップブックの書き込みを指差して、晴海が聞きました。
「違う。」
「おばさんの字?」
「んー、多分そうかな?」
「やっぱり……。最初の記事が1991年、おばさん、高校生だよね。」
新聞の1面記事に、書き込み。
(学校の授業で使ったのかな?)
1年ぐらいそんな感じで記事が貼られてましたが、その後はバラバラ。芸能記事や料理のレシピなど、内容も日付もバラバラです。
(なんとなくだけど。)
ページをめくって行って、ふいに手が止まりました。
(やっぱり……。)
「何だ?」
晴海の驚いた様子を見て、洋海が尋ねました。
「何でもない。」
晴海はスクラップブックを持って自分の部屋に急ぎました。
「なんなんだ、アイツは?」
と洋海。
晴海は自分の部屋でスクラップブックを広げました。
記事の日付は1993年11月2日。
(1993年11月2日の記事………。円山陸さんの事故の記事だ。)
事故の日付は康太が覚えていたので、図書館で当時の新聞を調べようかとも思ってましたが、
(多分、切り抜きがあるんじゃないかと思った。 スクラップブックがあったし。
星河さんの事故の記事もあったから。)
「あれ?でも……。」
陸の事故の少し前にあった、薬物事件の記事は何度探してもありませんでした。
(そうか、未成年だから…。)
新聞に事件が報道されなかったのかも……、と晴海は思いました。
そして改めて、陸の記事を読みました………。
1993年11月2日、午前3時頃、漁港に停泊していた漁船のロープに引っ掛かっていた円山陸の遺体が、漁に出ようとしていた船主に発見されました。
その30分ほど前に、すぐ近くの陸橋のガードレールに、原付バイクが衝突したまま放置してあると、通りかかった車の運転手から警察に通報がありました。
警察の調べでは、陸が何らかの理由で、バイクのハンドル操作を誤り、そのまま陸橋から漁港に転落したのではないかとの事でした。
(スクラップブックを見ても、特に続報はないな…。)
このまま普通に交通事故として処理されたんだな、と晴海は思いました。
記事は昔なので、陸の家の住所まで、記載されていました。
(おじさんに聞けば、円山さんちの住所も分かると思うけど。)
だから、別にどうする訳でもないけれど、載っていた住所は何となく覚えておく事にしました。
(美帆が帰って来たら見せよ。)
晴海は自分の部屋の本棚にスクラップブックをしまいました。
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