今、半分空の上にいるから

小説と散文。作者の許可なく作品の複製、転載、使用をする事は禁止します。

殺人は眠り続ける 小説編その13

2014-11-03 16:01:12 | 殺人は眠り続ける(完結)

 岡山家の続き―――。

 晴海は仏壇に手を合わせました。仏間には康太の祖父母の写真の横に、宮子の写真が飾られてます。

 「お母さんにお供えありがとうって伝えてね。」
康太が晴海に言いました。

 「はい。」

 晴海は立ち上がりました。

 「じゃあ、これで帰ります。お盆にお墓参りに来ます。」

 「ありがとう。」

 駅まで美帆が晴海を送ります。

 「お前いつまでこっちいるの?」
晴海が尋ねます。

 「15日。その後で、お父さんと九州に行く。」

 「え?いつまで?」

 「夏休み終わるまで。」

 「いいなあ。旅行みたいで。」

 「お義母さんいないから、家事しに行くんだけど?」

 「特に遊べないわけね…。」

 もう4時は回ってるのに、日射しが照り付けて暑い夏の午後です。

 「ここで少し話そ。」

 通り道の公園の木陰に、美帆が誘います。

 「なんだよ。」

 「お父さんとお母さんの事。」

 「?」

 木陰のベンチに二人は座りました。

 「お父さんね、再婚したけど、死んだお母さんの事、まだ忘れたわけじゃないと思う。」

 「そりゃ亡くなって、まだ5年ぐらいだから…。」

 「晴海は私がお母さんに似てるって言ったでしょ?」

 「うん。でもおじさんにも似てるよ。」

 「なんとなく私がそのまま亡くなったお母さんの代わりに、お父さんと一緒にいるみたいなとこがあるんだ。で、文代さんも別にそれを変にも思わず、そのまま。」

 「文代さん、おばさんの友達だったからかな?」

 「まあ、私はお父さんの事好きだから、いいんだけど。でも…、いいのかな?これで?」

 「お前んち、今結構別々に生活してるから、いいんじゃないの?たまに会うお父さんにベタベタしても。文代さんも小さな赤ちゃんの世話で大変だし。」

 「…そんな軽い感じでいいの?」

 「知らないけど。」

 「適当すぎ。…私、お水買うけど、なんか飲む?」

 「ああ、お茶買う。」

 「まだ、時間ある?」

 「大丈夫だよ。」

 二人はもう少し話す事にしました。



 2005年、美帆が11歳の時、とうとうお母さんが長期間入院する事になりました。

 「今回はちょっと長くなるかも…。」

 美帆は、しばらくの間、おじさんの家に、お世話になる事になりました。
 お父さんの実家は、当時まだ独身だった弟と妹がいたし、吉田家は晴海もいるから、その方がいいという事になった様です。

 ある平日の夕方、おじさんとお母さんのお見舞いに行きました。 その日は、病室で、仕事帰りのお父さんがお母さんに付き添っていました。
 お母さんはもう夕食の片付けが終わって、ベッドを起こして座ってました。

 お見舞いが済んで、おじさんと帰る途中、エレベーターの前で、美帆は忘れ物に気が付きました。

 「おじさん、急いで取ってくるから、待ってて。」

 美帆はお母さんの病室に引き返しました……。



 「……で?」
晴海が聞きます。

 「病室に入ったらさ、お母さんのベッド、もうカーテンが引いてあって。 覗いたら、中で、お父さんがお母さんの事抱きしめて泣いてて…。」

 「……。」

 「そのまま、そっと帰ったんだけど。お父さん、お母さんの事好きなんだって思ったんだけど。
 …なんか、それが今でもトラウマで。」

 「は?」

 「いや、親のそういう姿を見るのは結構…。」

 晴海は呆れて言いました。
「…お前なんでそういう面倒くさい事いうの?お父さん、お母さんの事愛してて、感動的だったでいいじゃん。」

 「…じゃあ、あんた自分の親だったら?」

 「うーん。父さんは母さんの事を愛してるんだと思って感動……。
 ……キツいな。」

 「でしょ?」

 「うちの親父の方がビジュアル的にもキツい。」

 「今でも、時々お父さんといるとその時の事思い出す。DNA鑑定なんて、何とも思わなかったんだけどな。」

 「ああ、そうだ。DNA鑑定のがなんかキツい気がするけど。」

 「あれはお母さんに遺言みたいに言われたから、しょうがなく。お父さんもお母さんに言われなきゃ、このままずっと検査する気なかったみたいだし。結局親子だったし。」

 「ふーん。でも、話聞いてなんとなく俺はお前の事が分かったよ。」

 「何?」

 「一言で言うとファザコン。」

 「何それ!?」

 キーッと怒っている美帆を眺めながら、晴海は言いました。
「そろそろ行こ。」

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 殺人は眠り続ける 小説編そ... | トップ | 殺人は眠り続ける 小説編そ... »

コメントを投稿

殺人は眠り続ける(完結) 」カテゴリの最新記事