岡山家の続き―――。
晴海は仏壇に手を合わせました。仏間には康太の祖父母の写真の横に、宮子の写真が飾られてます。
「お母さんにお供えありがとうって伝えてね。」
康太が晴海に言いました。
「はい。」
晴海は立ち上がりました。
「じゃあ、これで帰ります。お盆にお墓参りに来ます。」
「ありがとう。」
駅まで美帆が晴海を送ります。
「お前いつまでこっちいるの?」
晴海が尋ねます。
「15日。その後で、お父さんと九州に行く。」
「え?いつまで?」
「夏休み終わるまで。」
「いいなあ。旅行みたいで。」
「お義母さんいないから、家事しに行くんだけど?」
「特に遊べないわけね…。」
もう4時は回ってるのに、日射しが照り付けて暑い夏の午後です。
「ここで少し話そ。」
通り道の公園の木陰に、美帆が誘います。
「なんだよ。」
「お父さんとお母さんの事。」
「?」
木陰のベンチに二人は座りました。
「お父さんね、再婚したけど、死んだお母さんの事、まだ忘れたわけじゃないと思う。」
「そりゃ亡くなって、まだ5年ぐらいだから…。」
「晴海は私がお母さんに似てるって言ったでしょ?」
「うん。でもおじさんにも似てるよ。」
「なんとなく私がそのまま亡くなったお母さんの代わりに、お父さんと一緒にいるみたいなとこがあるんだ。で、文代さんも別にそれを変にも思わず、そのまま。」
「文代さん、おばさんの友達だったからかな?」
「まあ、私はお父さんの事好きだから、いいんだけど。でも…、いいのかな?これで?」
「お前んち、今結構別々に生活してるから、いいんじゃないの?たまに会うお父さんにベタベタしても。文代さんも小さな赤ちゃんの世話で大変だし。」
「…そんな軽い感じでいいの?」
「知らないけど。」
「適当すぎ。…私、お水買うけど、なんか飲む?」
「ああ、お茶買う。」
「まだ、時間ある?」
「大丈夫だよ。」
二人はもう少し話す事にしました。
2005年、美帆が11歳の時、とうとうお母さんが長期間入院する事になりました。
「今回はちょっと長くなるかも…。」
美帆は、しばらくの間、おじさんの家に、お世話になる事になりました。
お父さんの実家は、当時まだ独身だった弟と妹がいたし、吉田家は晴海もいるから、その方がいいという事になった様です。
ある平日の夕方、おじさんとお母さんのお見舞いに行きました。 その日は、病室で、仕事帰りのお父さんがお母さんに付き添っていました。
お母さんはもう夕食の片付けが終わって、ベッドを起こして座ってました。
お見舞いが済んで、おじさんと帰る途中、エレベーターの前で、美帆は忘れ物に気が付きました。
「おじさん、急いで取ってくるから、待ってて。」
美帆はお母さんの病室に引き返しました……。
「……で?」
晴海が聞きます。
「病室に入ったらさ、お母さんのベッド、もうカーテンが引いてあって。 覗いたら、中で、お父さんがお母さんの事抱きしめて泣いてて…。」
「……。」
「そのまま、そっと帰ったんだけど。お父さん、お母さんの事好きなんだって思ったんだけど。
…なんか、それが今でもトラウマで。」
「は?」
「いや、親のそういう姿を見るのは結構…。」
晴海は呆れて言いました。
「…お前なんでそういう面倒くさい事いうの?お父さん、お母さんの事愛してて、感動的だったでいいじゃん。」
「…じゃあ、あんた自分の親だったら?」
「うーん。父さんは母さんの事を愛してるんだと思って感動……。
……キツいな。」
「でしょ?」
「うちの親父の方がビジュアル的にもキツい。」
「今でも、時々お父さんといるとその時の事思い出す。DNA鑑定なんて、何とも思わなかったんだけどな。」
「ああ、そうだ。DNA鑑定のがなんかキツい気がするけど。」
「あれはお母さんに遺言みたいに言われたから、しょうがなく。お父さんもお母さんに言われなきゃ、このままずっと検査する気なかったみたいだし。結局親子だったし。」
「ふーん。でも、話聞いてなんとなく俺はお前の事が分かったよ。」
「何?」
「一言で言うとファザコン。」
「何それ!?」
キーッと怒っている美帆を眺めながら、晴海は言いました。
「そろそろ行こ。」
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