Fallen leaves

心に浮かんだよしなしごとを。

年老いて

2019-03-10 22:53:03 | ポエム



年老いて鏡を失くし顔もいらなくなり

自分の名さえ忘れる時が来たとしても

それだけを思い出すにちがいない

あのやわらかな感触の芝草山は

姿のやさしい母のようだから

抱かれるような思いで目に浮べるだろう。


しかもあの山はふところ深く火をかかえ

ふんわりした肌の下の肉体を

頑固に岩石でかためている

八方を脾睨する目を持っている。

それなのに

さりげなく七色の虹を遊ばせる山なのだ。


霊妙不可思議なあの山の虹を見ると

大宇宙に溶けこんでしまった魂までも

魅せられて寄って来るのかと思う。



沢木隆子 詩誌「ハンイ」より






.
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする