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トランスジェンダーQ&A──素朴な疑問が浮かんだら

高井ゆと里・周司あきら,2024,トランスジェンダーQ&A──素朴な疑問が浮かんだら,青弓社.(7.12.24)

 Q&A方式で、トランスジェンダーに関するあらゆる疑問に答える。

 トランスジェンダー当事者が生きやすい社会は、レズビアン、ゲイ、バイ、アセクシャル、アロマンティック、クィア、クエスチョニング、そしてシスジェンダー、ヘテロセクシャル当事者にとっても生きやすい社会だ。

 そして最後に、一つ大切なことをいっておこう。トランスの人のジェンダーアイデンティティを尊重するのは大切だし、ジェンダーアイデンティティが尊重される社会の実現は、トランスコミュニティにとっての大切な目標だ。でも、それはトランスの人たちがこの社会に求めている変化を表現するにはあまりにも舌足らずだ。トランスの人たちが求めていることは、意味のない文脈で性別が重視されないこと、社会にはびこる男女の決め付けや押し付けがなくなること、ルッキズムがなくなること、労働者の権利と安全が守られること、本人にとって望ましい医療がきちんと誰にでも提供されること、個人のプライバシーが守られること、書類の記載で差別をされないことなど、多岐にわたっている。こうした多様な社会変革の要求があることを、ぜひ忘れないでほしい。同時に、これらの社会変革は、トランスジェンダーの人たちだけが求めていることでは決してない。すべての人にとって大切なことだ。
(p.129)

 トランスジェンダー当事者のジェンダーアイデンティティを尊重すると、女風呂や女性トイレなど、女性専用スペースに、「からだは男のまま」の「トランス女性」が侵入し、ときには、女性がその「トランス女性」に暴行される怖れがある──これは、トランスヘイトを吐き散らかす者の常套句であるが、これがいかに荒唐無稽な偏見なのか、高井さんたちは明確に回答する。

Q17-2 トランスジェンダーの人たちも公衆浴場を利用するの?
 まず、当たり前だけれど、トランスジェンダーの人たちも、清潔でいたいとか、疲れを癒やしたり湯を楽しんだりしたい、という希望をもちうる。公衆浴場を利用する目的をもつことがあるんだね。でも、現在の公衆浴場の設計や運用では、残念ながらその目的を果たすことは難しくなることが多い。ほかの人たちに裸体をさらしながら利用することになっているからだ。そこで、トランスの人たちの状況は多様だという前提を踏まえながら、いくつかに場合分けして考えてみよう。
 まず、トランスジェンダーのなかには、まだ社会的にも身体的にも性別移行をしていない人がいる。この人がトランス女性だとすると、身体の特徴としては男性にありがちな外性器や筋肉のつき方であるのに対して、ジェンダーアイデンティティは女性なわけだから、男性用の浴場は利用できない・利用したくないと考えるケースが多いと考えられる。異性であるはずの人(それも赤の他人)に裸体を見られたくないという感覚は、ほとんどの人に理解してもらえると思う。そしてこの場合、女性用のお風呂を利用するという選択肢も存在しない。社会生活を男性として送っている以上、浴場の入り口で止められるし、更衣室に入った時点でトラブルが起きるのは確実なわけだから、本人もそんなこと願うべくもない。
 ほかにも、社会的には完全に性別を移行しているけれど、身体の特徴がシスジェンダーの人たちとは少し違っているという人も、トランスの人にはいる。そうした場合も、公衆浴場の利用は困難になる。やはりトランス女性を例にとると、たとえ社会生活上は女性として生きているとしても、脱衣したときの身体の特徴が局所的に男性的だと判断される状態で女性用のお風呂を利用するというのは現実には難しい。お風呂を利用するのは、清潔でいたい、疲れを癒やしたいという目的があるからなのに、身体の形状のことで人から指さされたりトラブルになったりしてしまったら、そうした目的を達成することができなくなってしまうからね。もちろん、男性用のお風呂を使うこともできない。現に女性として生きているのだから、入り口で止められたり、更衣室から追い出されたりしてそれで終わりだろう。本人としても、そんなチャレンジをする動機やメリットは一切ない。
 トランスの人にとっての公衆浴場は、いってしまえば「パスの最奥地」だ。「生活上の性別」が、本来扱われるべきジェンダーアイデンティティに沿った性別の側で安定して、なおかつ、何らかの医学的措置を受けて「身体の性的特徴」が変わって、裸になってもその性別として自然に認識されるところまでたどりついてようやく、公衆浴場を利用するかどうかという選択肢が浮上する。公衆浴場は脱衣がメインの空間だから、着衣状態でかまわないトイレ以上に「その空間にいてもいい性別としてパスできていること」が求められる。だから、現実にはごく一部のトランスの人しか、自分のジェンダーアイデンティティと生活実態の両衆浴場を利用できていないんだよ。(後略)
(pp.146-147)

 たしかに、「自称女」の「偽トランス女性」が女装して女風呂に入る事案は、稀ながら発生している。

 しかし、それは、トランスジェンダー当事者が引き起こしているわけではなく、シスジェンダー、ヘテロセクシュアルの変質者の男が行う性犯罪に過ぎない。

 高校生でも楽に読み通せる平易な内容、文体であり、万人にお薦めできる一冊だ。


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