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ぼっちな食卓──限界家族と「個」の風景

岩村暢子,2023,ぼっちな食卓──限界家族と「個」の風景,中央公論新社.(5.14.24)

 足かけ20年、三度にわたるパネル調査の結果ににもとづき、家族の食生活のあり方から、とめどなく個人化する家族のありようを描き出す。

 目黒依子さんが『個人化する家族』を著したのが1987年のことだった。
 高度経済成長期、私生活中心主義、マイホーム主義の定着により、家族の地域社会における孤立の問題が浮上したが、バブル経済期のあたりから、家族内部での個人化が注目されるようになった。

 「一緒にいてもスマホ」、家族がお互いに無関心を装い、お互いに関与しない、干渉しない、食事は各自が勝手に調達して食べる。
 現実は、「個食」のその先へと進んでいる。

 夫婦や親子の間柄でさえ、関わり合うことのわずらわしさを避けるのは、究極のミーイズムなりナルシシズムなりの先鋭化と言えるだろうが、その行き着く先が関係性の破綻であることは、この調査の結果が雄弁に物語っている。

 「共食」はケアをともなうが、「個食」にはそれがない。

 「共食」では、自分以外の人の好みや体調を気にかけて用意したり、自分以外の人に合わせて好みではないものも食べたりする。そうして誰もが、意図せぬうちに個々の好みや癖、習慣さえ超えて、結果として個々の健康を守り維持する内容になっていたのではないだろうかいわば「共食」は、他者の存在による(他者を思いやることによる)健康な食生活の安全装置のようだ。
(p.137)

 過干渉はよろしくないとしても、お互いに関与しないという関係性は遅かれ早かれ破綻する。(当たり前だ。)
 不思議なのは、そもそも関係性を破綻させるような間柄、家族をなぜつくったのだろうということだ。
 だったら、結婚なんかしなければいいのに、子どもなんかつくらなければいいのに、と思ってしまう。

 10年後に円満だった家は、親子・夫婦間の大小様々な諍いを含めて、日常的に「家族が真剣に、深く、関わり合ってきた」家ばかり。決して、「自律的であること」や「個々の自由(勝手)の尊重」を語って、互いに「干渉しない」「詮索しない」ことを是としてきた家族ではない。食卓の躾、手伝いや家事協力、子どものアルバイトや深夜帰宅・外泊なども含めて、本気で話し合ってきた親子(夫婦)である。
 子どもの躾には、むしろ口うるさかったり厳しかったりする家ばかりで、自由に使える小遣いが他家より少なめなのも特徴だ。それにもかかわらず、アルバイトをしている子が少なく、していてもアルバイト収入は少ないから自由に遊べるお金もあまりない。子どもから見たら決して「良い」状況とは言えない。どうやら、親子の信頼には「口うるさく言うか、言わぬか」が大事なのではなく、どんな心から言うかが大事なのであろう。
(p.243)

 本書で例示されている、寒々とした食卓の風景は、ミーイズムとナルシシズムの果てに現出している悲惨と絶望を映し出している。

親も子も自分の好きな食べ物だけを用意する。朝昼晩の三食でなく、好きな時間に食べる。食卓に集まらず、好きな場所で食事をとる。「個人の自由」を最も大切な価値として突き詰めたとき、家族はどうなっていくのか――。少子化、児童虐待、ひきこもりなどの問題にも深くかかわる「個」が極大化した社会の現実を、20年に及ぶ綿密な食卓調査が映し出す。

目次
序文にかえて――同じ家庭の10年後、20年後を追跡してみたら・・・
第1部 あの家の子どもたち――かつての姿とその後の姿
1 子どもが邪魔
2 ベビーチェアの中から始まる「孤食」
3 家に帰らない子、子どもを待たない親
4 自由とお金と無干渉
5 三男は私のペット
6 させてあげる「お手伝い」とその結果
第2部 やがて「破綻する夫婦」「孤立する祖父母」とその特徴
7 10年後、5組に1組の夫婦が破綻
8 破綻する夫婦と10年前の共通点
9 子ども夫婦の破綻を招く「実家の支援」
10 ダイニングテーブルに表れる家族の変化――「独りベッド飯」の夫たち
11 同居老人より怖い「同居老人」の孤立と孤独
12 祖父母世代は、まるで異星人
13 あなたの親は私の他人――夫婦別「実家分担」
第3部 「食と健康」をめぐる「通説」とシビアな「現実」
14 健康障害は9割が伏せられる?
15 健康管理は「自己責任」
16 「共食」と「健康障害」の意外な関係
第4部 「個」を尊重する家庭食とその影響
17家族共食を蝕むブラック部活とブラック企業
18 家庭料理の変化と個化する家族
19 同じ釜の飯より「個」の尊重
20 食器に表れる家族の変化
21 「子どもの意思の尊重」という子ども放置
22 「リクエスト食」育ちの子どもたち――その後の姿
第5部 誰もが「自分」は譲れない
23 人に口出しされたくない
24お教室の変化――みんな「教える人」指向
25「私一人の時間」が欲しい
26「自分時間」を生きる家族たち
27「私」中心の呼称変化
第6部 個化する家族――その後の明暗
28 家庭の空洞化と「外ごと化」する家庭機能
29 正論と現実のはざまに
30 崩れなかった円満家庭とは
調査概要
あとがき


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