リチャード・ベア(浅尾敦則訳),2008,17人のわたし──ある多重人格女性の記録,エクスナレッジ.(5.25.24)
本書は、解離性同一性障がい──自己が17の人格に分裂したカレン・オーバーヒルが、精神科医、リチャード・ベアの献身的診療により、自己の統合に至るまでの記録をとりまとめたものである。
同様のノンフィクションとしては、ダニエル・キイスの『24人のビリー・ミリガン』が思い浮かぶが、ベアの詳細な診療記録をもとに書かれている分、本作はそれよりもはるかにリアルで迫真性にみちている。
オーバーヒルの人格分裂の原因となったのは、祖父と実父等による性虐待だ。
とくに実父による性虐待は、他に類例のない残虐なものだった。
実父は、複数の男から金銭を受け取り娘のオーバーヒルを何度も何度も陵辱させた。
子どもは、虐待の苦痛に耐えられないとき、交代人格をつくり出し、その人格に苦痛を引き受けさせることで、生き延びようとする。
それが、解離性同一性障がい生成の機序である。
本書の後半部分で、17の人格が、一つ一つ「カレン」に統合されていくくだりは、感動的でさえある。
それは、扁桃体に刻み込まれた苦痛と恐怖の感情の記憶が、海馬に刻み込まれたエピソード記憶──抑圧された記憶と適切につながり、「カレン」の人格が統合されていくプロセスであった。
本書は、究極のトラウマ克服のドラマであり、読む者に、自らの忌まわしい過去の記憶に向き合う勇気を与えてくれる。
児童虐待、性的暴行、カルト的儀式、自傷願望…精神科医のセラピーにより、凄惨な体験とその痛みを引き受けていた17人格の存在が明らかに。10余年にわたり人格の統合作業を続け、一人の完全な人間として再出発するまでの衝撃の記録。
目次
第1部 生きながらえて
出だしのつまずき
ジェットコースター
失われる時間 ほか
第2部 カレンの中の人格たち
クレアからの手紙
自己紹介
クリスマス・プレゼント ほか
第3部 統合
ホールドンの提案
クレア
サンディとマイルズ ほか