短三和音な日々

割と暇なゾイダー、滝上の不定期な日記。リンクフリーです

預言者の回顧録 第一節第三話 老砲兵の意地 後編

2008-06-06 23:31:29 | ゾイドSS
 轟音が響く。空気そのものが振動し、伝播する。
 戦場。
(……まさか、また帰ってくるたあな)
 マルダーのコクピット、気密性の高いそこにいても、ひしひしと感じる。
 50年近く忘れていた、思い出そうとしなかった感覚。
「お前さんも思っちゃいなかっただろ?」
 口に出して、マルダーに問う。
 後の歴史書に記される「ヴァーヌ戦線」の中で、フーバーは重砲隊を率いて戦っていた。
 突撃志向の強いガイロス帝国陸軍において、砲兵隊は臆病者の集団と考える輩は少なくない。
 しかし、フーバーはそれでいいと考える。人間臆病な位が丁度いい。実際、自分がこうして生き残っていられるのは臆病だったからである。
 だが、戦場の女神は気まぐれだ。

 布陣の左翼、キャノリーモルガが二機、吹っ飛んだ。
「何っ!」
 敵がいる。だがどこに?
 四半秒思考を流す間に、また一機、モルガが撃破される。
(……高速機、それもステルスか)
 おそらく光学迷彩。それも、ヘルキャットの物を上回る。
 弾種を選択、まさか使うとは思わなかった「広範囲ペイント弾」を装填。
「……行けよ!」
 ミサイルハッチを半開きにして、真上に撃つ。一瞬の間をおいて、上空から大量の塗料がぶちまけられた。敵の姿が露になる。狐型の中型機。おそらく後方撹乱の任務に就いた機体だろう。
「そこか!」
 加速ビームランチャーが連射力に物を言わせ、姿を見せた敵に浴びせられる。だが、当たらない。
「ちっ、速え」
 おまけに光学迷彩がすぐに復活した。エネルギースクリーンに自機の周囲の映像を移すタイプなので、塗料がかかった「瞬間」は無効化できても、すぐにスクリーンに隠されてしまうのだ。
「下がれ! 無駄に死ぬだけだぞ!」
 同士討ちを恐れ、下手に撃てない重砲隊に指示を飛ばす。飛ばしがてら、次の策を考える。余裕を見せているのか、追撃はまだない。
(ペイントが駄目なら……)
 フーバーは、撃破されたモルガに加速ビームの照準を合わせた。乗員の脱出は確認している。
(すまん……!)
 撃つ。搭載された弾薬に引火、モルガが激しく炎上する。
 追い討ちをかけるがごとく、榴弾をマルチミサイルランチャーから発射。爆発的な勢いで、戦場は炎に包まれた。
「……見えたぜ!」
 それがフーバーの狙いだった。炎により発生する熱、それによって引き起こされる大気の揺らぎ。光学迷彩のスクリーンも、それによって大きく揺らいだ。
 マルダーの左ハッチが開く。中口径電磁砲。当たれば、敵の動きを止められる。
 同時に、加速ビーム砲も火を噴く。こちらはエサだ。相手を電磁砲の射界に誘導するための。
「そこだ!!」
 電磁砲が発射される。一発目、僅かに逸れた。だが二発目は命中。敵の足が止まる。
「こいつで……とどめ!」
 最後の一撃、ミサイルランチャーから対ゾイド徹甲ミサイルが撃ち出される。
 高速機の装甲は、脆い。弾頭が敵機に突き刺さった。

「……さすがです、曹長」
 見ると、一機のモルガが戻って来ていた。
「何をしてる。下がれと……」
 不意に、フーバーの総毛が逆立った。
 撃破したはずの敵機、既に丸見えとなっている濃紺の狐型ゾイドの背中、バルカン砲と思しき武装が、こちらに狙いをつけていた。
 ――奴の武装はまだ生きている!!
 発砲される寸前、フーバーはマルダーを横向きに、モルガへの射線を遮った。
 一瞬遅れて、徹甲レーザーの雨、それも横殴りの強烈な一撃が、マルダーを、フーバーを襲う。
「そ……、曹長!!」
「いいから逃げろ! 俺に構うな……!!」
 装甲がひしゃげてゆく。しかし貫かれはしない。
「行け!!」
 フーバーの声に押されるように、モルガが走る。
 時間にして数秒、マルダーは射撃に耐えた。その数秒で、モルガは逃げ切ることが出来た。敵の残りエネルギーが少なく、射撃がすぐに止んだからだ。
 だが、
「……ここらが、年貢の納め時か」
 その代償は、フーバーと、そしてマルダーの命。
 装甲は撃ち抜かれ、搭載していた弾薬に引火、射撃が止んで一瞬後、歴戦の砲兵を乗せたマルダーは、爆散した。

 フーバー・シュタインベルグ、ヴァーヌ平野で戦死。二階級特進により、中尉に任官。
 歴史に記されるのは、たったこれだけの文章。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿