キリンの首の長さを受けもっているのは、頚椎ひとつひとつの伸長であると教えられた。頚椎とは、椎骨の一部で頭部を支えている骨のことである。首から尻へとつながる脊椎骨の最上部からかぞえて7番目までの骨が頚椎、いわゆる首の骨である。ナマケモノなど若干の例外を除き、ほとんどの場合、哺乳類の頚椎はこのように7つの骨で構成されているという。
人間もしかり、あの長い首をもつキリンでさえ例外ではない。キリンは頚椎の数を増やしたのではなく、7つある頚椎のそれぞれを長く伸ばすことで、あの長い首をいまに実現しているというのである。
キリンが頚椎数を維持しながら長頚化に至ったのはなぜか。かつて「高いところにある木の葉を食べるため」と聞いたことがある。本当にそうだろうか。キリンの首が長いのは、キリン自身に首を長くしたいとする意志があったのだろうか。
古代アフリカの草原に棲息していた彼らの祖先が高い木を見上げ、あそこにある葉っぱを食べたいなと思った、ただそれだけのことで彼らは自らの遺伝子をコントロールできたのか。そこには幾世代にもわたる強い意志の継承があったにちがいないのだが、その間、彼らを支配しつづけてきた動機とはいかなるものだったのか。
しかし、ここではただ進化の結果としての Before/Afterと考えたほうがよいのかもしれない。まずは突然変異によって首の長いキリンが生まれた。ただ、それだけのことではなかったのか。周囲には首の短いキリンもいて、それぞれが子孫を残していく。その結果、首の長いキリンのほうがより多くの木の葉を食べることができるようになり、生存への確率が高くなる。
世代に世代をつらね、変化に変化を重ねるうち、次第に首の長いキリンが優位に立つ。こう考えた方がより「自然」の本質に近いのではないか。キリンが高い枝の葉を食べるためにみずから首を伸ばしたわけではないのだ。
キリンを見るたびにその首の美しさに魅了されるのは、この地球上でもっとも背の高い動物となるまでの長い時間、そこにはどのようなドラマがあったのかを思うからである。
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