ベンジャミンの矛盾（後編）

「へい、えいひれの炙りと枝豆に冷奴お待ち！」
「あー、ビールおかわりくださいー」
ベンジャミンはいつのまにか生中を飲み干していた。
「かしこまりましたあ！」
店員が出て行くとまたベンジャミンの攻撃（口撃？）が始まった。
「赤ん坊が泣いた時って萎えませんかあ？」
「なななな、萎えるってセンセ？」
「な～んか水を差されたようで、健人が泣いた瞬間に萎えちゃうんですよねえ、僕。それをまた復活させるのに時間が要りますでしょぉ？」
「復活に…時間…ですか？」
「ちゃんと聞いてますか？大佐！」
「は、はい、聞いています！」
「未来ちゃんが赤ん坊の時は、大佐はどうやって夫婦の営みを行ってきましたかぁ？」
「へい！ビールおかわりお待ち！」
店員は空になったジョッキを下げながら出ていった。
「お、俺の時は…ですねええ、え～と、どうだったかな～？」
「はぐらかさずに教えてください。僕ぁねえ、早く以前のようにミンメイを抱きたいんですよ」
ぶほっ！と、輝はノンアルコールビールを吹いた。
「し、失礼しました。えーと、俺は…そ、そう、待ってましたよ！授乳やオムツ取替えが終わるのを！」
「そんなにモチベーションが保てるんですか。さすが大佐ですねえ」
「いや、その、だって…勃っちゃったもんは、仕方ないでしょ」
輝の言葉の半分は小声である。
「でも奥さんがその気じゃなくなる時だってあるじゃないですか？また最初からやりなおしですよ？」
『あああああああ、冷めちまうのか?!ミンメイ!!』
はっきり言ってあまり聞きたくなかった言葉であった。
「そ、そこんとこはほら、ミンメイとちゃんと話し合って、ですね…」
「何を話し合うんですか？」
「ですね」
輝から引きつった笑顔が取れない。
「それに僕、スロースターターなんですよ…」
「スロー…スターター？？？」
「なかなかイけないんです」
ゴンッ！と、輝は机に頭をぶつけた。
「大佐はどうなんですか？」
「お、俺は…その…未沙が感じてくれれば、それでイッちゃう位で…」
『って、何しゃべってんだ俺！』と自分で自分にツッコミを入れた。
「ふ～ん…もしかして大佐って早漏なんだぁ？」
今の言葉は輝の心にグサアッと突き刺さった。
「そ、早漏でもなんでも奥さんがそれで満足してくれてるんです。いいでしょ、他人の事は。自分はどうなんですか？」
「……僕が鍛えればいいのかなあ？」
「き、鍛えるって…」
「大佐のようにモチベーションを保てるように、です」
「あーーー先生、もう帰りましょう。ミンメイと健人くんが待ってますよ」
「あーーーーー。健人…」
と言って唇を尖らせるベンジャミンを見て輝は気がついた。
「もしかして先生、健人くんに焼餅焼いてる？」
「……?!」
『あ、図星？』
「そんな事は、なーい！」
大きな声で否定するので輝はいたたまれなくなり急いで店を後にした。

ベンジャミンのマンションに着き、ベンジャミンの肩を担いで家まで送った。
「輝！ベンジャミン！どうしたのあなた達！」
「いや、とりあえず、ソファに寝かせていいか？」
「え、ええ」
「お邪魔しまーす…」
初めて入るベンジャミンとミンメイの愛の巣。
インテリアなどはベンジャミンの趣味らしさが見える。
「よいしょ、と」
輝はベンジャミンをソファに降ろした。
「帰りの途中で会ってさ、居酒屋に入ったんだが、先生アルコール弱いのな」
「まあ、そうだったの。ごめんね輝、迷惑かけちゃって」
「俺は別に構わないさ、それよりミンメイ」
「ん？」
「……あー…なんでもない」
輝は視線を逸らして誤魔化した。
そしてさっさと玄関へ行き、靴を履く。
「何よ、そんな言い方されたらすごく気になるじゃない！」
「あー、なんつーか、健人が可愛いのはわかるけど、先生も大事にしろよ」
「してるわよぉ」
「まあ、いいわ。じゃあな」
「あ、輝。ありがとうね」
玄関のドアが閉まり、輝は家路へと急ぐ。

「ただいま」
「おかえりなさい」
「おかえりなさい！パパ！」
「おー未来、いい子にしてたか？」
「いやあねえ、パパ。未来はもう小学生だよ」
「そーだったな、ははは」
「今日はねえ、美輝に絵本読んであげたんだよ！」
「お、偉いなあ未来。いいこ、いいこ！」
頭をなでられて未来はご満悦だ。
未沙はひとり、ポツンと取り残されている。
未沙は、未来と美輝に軽い焼餅を焼いていた。

結論。
類は友を呼ぶ。


おしまい