SPEED OF LOVE

頭が痛い。
色々考えすぎて、疲れてしまった。
何もする気が起きない。
輝は足を投げ出し、ベッドに背をもたれ掛けさせて未沙の帰りをただじっと待っていた。
手にはメモが握られている。
---帰ってくるだろうか？
迷子の子供のようだった。
センターに保護されて「大丈夫。ママはすぐ来るよ」と言われても安心できず、じっとドアを見つめている。
---真っ先に敵と戦わなくちゃならない護衛航空部隊の隊長がなんてザマだ。
せせら笑い、自分のひ弱さを責めた。
もうすぐ太陽が真上に昇る。
---未沙…。
静けさに耐えるように目を閉じた、その時。
玄関のドアを開ける音がし、「ただいま」という女性の声が聞こえた。
その声に反応した輝は目を見開き、ベッドから背を離し、上半身をドアの方へよじらせた。
「ただいま。突然家を空けてごめんね。お昼はもう食べたかしら？」
薄暗かった部屋の中が一気に明るくなった。
未沙は昨日と変わらぬ笑顔で帰ってきた。
問いに答えず、輝が驚いた表情を見せているので、未沙はどうしたのかと思い、隣に膝をつくように腰を降ろし、顔を覗き込んだ。
「どうしたの？」
いつもと変わらぬ、優しい声。
「…帰ってこないんじゃないかと思った」
「やあねぇ！どうして？変な事言わないでよ」
「うん。…俺、なんだか変なんだ…」
そのまま倒れるように未沙の肩に顔を埋め、抱き締めた。
---どうして…。
「どうしてお前は、そんなに優しいんだ？」
こんな、どうしようもない俺に、どうして笑いかけてくれるんだ。
「…理由なんか無いわよ」
静かにつぶやいて、輝の頭をそっと撫でた。
「だって俺、酷い事したのに…」
「私が嫌いでした事じゃないでしょ？」
うん、と肩に顔を埋めたまま頷いた。
「たまには甘えたっていいのよ」
「俺…いつも甘えてばかりだ」
「そうじゃなくて…」
未沙にはなんとなくわかっていた。
いつもと違う行為をするのは、何かがあったという事。
輝の不安、焦燥、嘆き…耐え切れなくて叫びたかったのだろう。
それを上手く表現出来なくて躯で訴えてきたのだと。
辛い。苦しい。怖い。痛い。助けてくれ！
輝は未沙の胎内で叫んでいた。
「私を支える事ばかり考えないでいいのよ」
時には弱さを見せてもいいのだ、と。
「赦してあげる」
おこがましい言い方かもしれないけど。
「例え世界中の人が貴方を非難しようとも、私は貴方を赦してあげる」
世界中の人が敵になっても、私は貴方の味方でいる。
忘れないで。
私は誰よりも貴方を愛しているのよ。
貴方は決して独りじゃない。
貴方を独りにしたりしない。