UMUI（６）

眠る。人は眠る。猫も犬も、生きとし生きる生物は眠りの時間がある。
眠いから。夜だから。満腹だから。だるいから。安静にしたいから。
睡眠は成長を促進させる事もある。
眠る。そして脳が睡眠から目覚めようとしている時。
医学的にはレム睡眠と言う。
夢を見るのは、この時間帯なのだそうだ。
夢。理想と現実の間。脳が働き出す瞬間。
この瞬間に、眼に見えない力が働く事がある。
それは予知夢であったり、他人と意識が繋がる事もあると言われる。
ミンメイは今、見えない力によって、見えない世界にいる。

　アキリ　アー　カミガ　アーイーアー　ミチ

---歌？

　オーイーオーイー　アキリ　カーイーカー　カミガ　アーイーアー　ミチ

---誰かいるの？誰が歌っているの？

『ココ　は　ココ。ワタシ　は　ワタシ』

耳からではなく頭の中に直接響いてきた。
昼間に覚えた感覚と一緒だった。
「ふざけないで！ちゃんと答えてよ！」
『…アナタ　の　コトバ　で　イウ　と、”神の中”』
---は？
ミンメイは理解できず、目をぱちくりとさせた。
とは言っても、ミンメイの姿は無く、そういう感覚を自分が感じ取ったと言う方が正しい。
精神感応とでも言うのか、二人（？）は思考で会話している。
---神って…何の神様なの？
『ワタシ　の　ナ　は　ウムイ』
---ウムイ？
その名前を聞いた瞬間、光景がガラッと変わる。
場所はレコーディングスタジオ。メンバーが全員揃っている。
そしてミンメイもマイクの前に立っていた。
これは数日前の出来事。
それを”見ている”のではなく遡って実際に歌っている。
楽しい歌、悲しい歌、淋しい歌、嬉しい歌。
それぞれの思いを込めた言葉に音を乗せて。

そしてまた場面が変わる。
今度は地球。サウス・コースト・シティの野外音楽堂。
ミンメイは歌わない。
「アタシ…今日は歌いたくないんです！」
視界の中に一瞬映るカイフンの顔。
疲れきって、自分も、他人も誰の思いも見えなかった、あの時。

「何故メガロードに乗船されたのですか？」
問いかけてくるベンジャミン。
「貴女の歌声を銀河いっぱいに広めましょう」
優しく励ましてくれる未沙。
「君には歌があるじゃないか」
厳しく現実を突きつける輝。
「なあ、ここのフレーズはこう…でさぁ」
「今、うわずったでしょ」
「1曲お願いしてもいいかな？」
今までに関わった人たちが矢継ぎ早に頭の中を駆け巡る。

「何が…言いたいの？」
色んな感情の波に飲まれそうになりながら”ウムイ”に問う。
「何を言わせたいの?!」
『ワタシ　は　サガシテイル。”ウムイ”　を　ウタエル　ノロ　を』
「答えになってない！」
『アナタ　の　”ウムイ”　が　”ウムイ”　に　ナル」
---私の”ウムイ”？
その時、遠く前を歩く人影が見えた。
「輝っ！」
ミンメイは何故か輝の名を呼び、駆け寄った。
「教えて輝！”ウムイ”って何なの?!」
ミンメイは夢の中の速度で輝の後姿に駆け寄り、肩に手を掛ける。
「輝?!」
輝がゆっくりと振り返る。
だがその人影はもう、輝ではなかった。
ボサボサの髪の毛に大きなメガネ。無精髭となで肩の白衣姿の人物。
---ベンジャミン!?
「大勢の人が死んだ。地形も大きく変えられてしまう程の攻撃で、僕達の棲む所が無くなった」
姿はベンジャミンだが声は輝のままだった。
「だから、私達は星を捨てた。もともと、空間さえもいらない意識体。宇宙で静かに漂っているつもりだった」
「なのに、何故私の前に現れたの？」
「サンラー　マブヤー　ウトゥチャクトゥ　メンターヌハーネハーメーガァトートー…」
ベンジャミンは輝の声で歌を歌いだした。
どこかで聞いた事のあるメロディー。
確かこれは、遠い昔、まだ自分が幼い頃に聴いた…。
「懐かしい歌を聞いて、故郷を知るモノが近くにいると知ったから」
---懐かしい？
「もしかして…アナタは地球にいたの？」
「そう。でも私達の居場所は…必要は無くなってしまった。だから、消えた」
「…」
ミンメイは押し黙ってしまった。
「もう一度、遊びたい。ノロにウムイを歌ってもらいたい」
「私がノロになれと言うの？」
「今は私の声が聞こえるのは貴女だけのようだ。だから、貴女はノロになれる素質がある」
再びミンメイは沈黙する。
しばし間を置いてから「…どうすれば、いいの？」と訊いた。
するとベンジャミンの影は消え、最初の光景に戻る。
『歌えばいい。それだけだ』
また頭の中に直接響く声。
薄れていく意識の中。
ミンメイは『歌って欲しい』という言葉を何度も耳にしていた。

時刻は過ぎ、メガロードのスクリーンが朝日を作り出す。
カーテンの隙間からこぼれる光に反応し、ミンメイは眼をかすかに開けた。
すぐに起き上がる事はできない。
今のはただの夢だったのか、それとも…。



つづく