男はつらいよ～イワン編

時は遡って雅持の妊娠が分かった時、イワンはタバコをゴミ箱に捨てた。
が、そうは簡単に止められる筈もなく、リビングで悶え続けていた。
「雅持の為、雅持の為、俺達の子供の為」
と、ぶつぶつ言いながらその晩は耐えた。
こういう時は気を紛らわすしかない！そう思ってイワンは輝に電話をかけた。
『今度は何だ?』
「隊長、悪阻が酷い時って、何食わせたらいいんでしょうか？」
『…あ～、つっても俺、3年経ってるからなあ。確か未沙は梅干やトマトばかり食ってたぞ』
「梅干とトマトっすか」
『でも人それぞれで食べたくなるものが違うらしいからな。雅持は？何かこれってもんばかり食べてるって事は無いのか?』
「今のところはなにも…」
『梅干には気をつけろよ。塩分高いから妊娠中毒引き起こす可能性あるからな』
いつそやベンジャミンに言われた事を思い出した。
『あ～そう言えばたんぱく質とカルシウムを中心にって、先生に言われた事があるなあ』
「たんぱく質とカルシウムっすか…隊長、肉はたんぱく質っすか？」
『たんぱく質だけど…肉の匂いに反応しないか？雅持』
「え！なんでわかるんすか?!」
『未沙もそうだったからだよ。っていうかお前、今たんぱく質とは何かって言い方しなかったか？』
「へへへ、何も考えずに食ってましたからねえ」
『…女もな』
「それは昔の話っす！今の俺は雅持の亭主っすから！」
『まあいい、牛乳やチーズや魚とかストックしておけ』
「牛乳、チーズ、魚っすね!あざっす！」
『…まあ、頑張れや。色んな意味で。じゃあな』
と、輝はまたもにべもなく電話を切った。
「色んな意味？タバコの事か？」
その”色んな意味”とは何なのかはその晩の内に知る事となった。
自分も寝ようと寝室に行くと可愛い顔して寝ている雅持がいた。
ベッドに潜りこんでいつもの『夫婦の営み』ってやつをしようとした時である。
「何してんのよ！イワン！」
せっかく眠っていたのに起こされた雅持がイワンの手をつねった。
「いてー！」
「妊娠中にそういう事出来ると思ってんの？信じられない、もう！」
雅持はシーツを持ってベッドの隅に逃げた。
「え?!ダメなの?!」
「だ…ダメじゃないけど、もっと安定期に入ってからで、優しくしないとダメだって先生にも言われてるんだからね！」
そこでイワンは思い出した。
『色んな意味で』ってこの事か?!
「とにかく、先生のお許しが出るまでは禁止！もう、油断も隙もあったもんじゃないわ」
そう言って雅持は改めて横になり、シーツを頭まで被った。
「えーと…それって…半年以上は出来ないって事か？」
OH MY GOD!!と叫びたい気分のイワンであった。
「隊長すげぇっす…改めて尊敬しまっす」
涙目で大人しく雅持の隣で寝るイワンくんでありました。


おしまい