私が会社づとめをしているときのことです。数十年前の私が三十代前半のことでした。私の職場のフロアは、通常の会社のように事務デスクが三つ、四つが向かい合わせで並ぶ、よくある一般的な配置です。
それは私の位置から二つ机の島を超えたところで起こりました。具体的なことは忘れましたが、同僚の一人が病気になって入院したのです。会社というところの事務系の職場には、妙に村社会的なところがあり、結婚式も葬式も、村的な習慣やしきたりがあり、これを無視すると、村八分のようなことにもなります。
ですから、だれかが入院すれば、義理でお通夜に行くように、その人との関係がどうであれ、一度はお見舞いに行く方が無難なので、私も関係ないのにとは思うことがありますが、義理的に行ってきました。
と、それから何週間か経過したころ、また、すぐ隣の人が入院しました。もちろん何の病気だったか忘れました。胃潰瘍とか、そういうストレス性の病気だったろうと思います。このときも、お見舞いにいきました。
それからまた、数週間か一か月か、またまた隣の人が、入院したのです。
あれまと思うほど見事に、一人ずつ、机の順番にそって、入院する人がつぎつぎと出てきたのです。伝染病ではありません。入院の理由はさまざまなのですが、一週間とか二週間とか入院するのです。
じつは私はこのとき、この現象をながめながら、正直、入院する人が羨ましくなってきました。なぜかというと、入院すると、関係ない人も含めて、同僚や上司などが見舞いに来てくれて、いろいろと気づかってくれたからです。
普段、ふつうに仕事をしていたら、だれも人の面倒を見ることもないし、関心も寄せることはありません。しかし、一度入院という形ができると、人々の関心やら視線を一気に自分で受けることができるのです。病気で苦しむのはいやですが、人の関心を得るのはまんざらでもないと、そう思うようになりました。
そう思うようになってからも、入院する人はどんどん私の机の島のほうに伝播してきました。そしてついに、私のすぐそばまでやって来たのです。
これはじつに悪い言葉の意味ですが、オカルト的な現象でした。間に何人か飛び越えはしましたが、確実に入院者は時間の経過とともに私の席に向かってやってきたのです。
そしてある日私は腹部に異常な痛みを覚えました。お腹の右半分に分厚い腫れ物が浮きだしていました。数日後、その腫れ物に水泡ができ、プツプツと不気味に火山が噴火したようになりました。皮膚科に行くと、ヘルペス・帯状疱疹でした。これは経口感染する伝染病です。どこで感染したか、思いだしてみて、ある建築現場の取材で飲んだお茶じゃないかと推測はしました。なぜなら、そのお茶を入れてくれた女性に、そんな感じの症状を感じたからです。いずれにしても、私の感染した病気は、入院してもおかしくない病気だったのです。
「この病気は、通院でも治らないわけではないが、入院して点滴をして徹底的に治療したほうが良いですよ」と、医者からすすめられました。
このとき、私はギクリとしました。ついに入院する番が、私にめぐってきたのだと。私は入院することに憧れを抱いていたのですから。
私は心の底で、自分の願望、思っていたことが、実現しかかっていることに驚きました。「思いは実現する」というマーフィーの法則が、自分の体験として証明されたのです。
それは一種の喜びでした。しかしまたそれは、恐怖でもありました。
なぜなら、入院の順番が転々と私のところまで回ってきたのは、まるで悪霊が、転々と順番にドミノ倒しのように私のところにまでやって来たと言うことなのですから。
それは私の位置から二つ机の島を超えたところで起こりました。具体的なことは忘れましたが、同僚の一人が病気になって入院したのです。会社というところの事務系の職場には、妙に村社会的なところがあり、結婚式も葬式も、村的な習慣やしきたりがあり、これを無視すると、村八分のようなことにもなります。
ですから、だれかが入院すれば、義理でお通夜に行くように、その人との関係がどうであれ、一度はお見舞いに行く方が無難なので、私も関係ないのにとは思うことがありますが、義理的に行ってきました。
と、それから何週間か経過したころ、また、すぐ隣の人が入院しました。もちろん何の病気だったか忘れました。胃潰瘍とか、そういうストレス性の病気だったろうと思います。このときも、お見舞いにいきました。
それからまた、数週間か一か月か、またまた隣の人が、入院したのです。
あれまと思うほど見事に、一人ずつ、机の順番にそって、入院する人がつぎつぎと出てきたのです。伝染病ではありません。入院の理由はさまざまなのですが、一週間とか二週間とか入院するのです。
じつは私はこのとき、この現象をながめながら、正直、入院する人が羨ましくなってきました。なぜかというと、入院すると、関係ない人も含めて、同僚や上司などが見舞いに来てくれて、いろいろと気づかってくれたからです。
普段、ふつうに仕事をしていたら、だれも人の面倒を見ることもないし、関心も寄せることはありません。しかし、一度入院という形ができると、人々の関心やら視線を一気に自分で受けることができるのです。病気で苦しむのはいやですが、人の関心を得るのはまんざらでもないと、そう思うようになりました。
そう思うようになってからも、入院する人はどんどん私の机の島のほうに伝播してきました。そしてついに、私のすぐそばまでやって来たのです。
これはじつに悪い言葉の意味ですが、オカルト的な現象でした。間に何人か飛び越えはしましたが、確実に入院者は時間の経過とともに私の席に向かってやってきたのです。
そしてある日私は腹部に異常な痛みを覚えました。お腹の右半分に分厚い腫れ物が浮きだしていました。数日後、その腫れ物に水泡ができ、プツプツと不気味に火山が噴火したようになりました。皮膚科に行くと、ヘルペス・帯状疱疹でした。これは経口感染する伝染病です。どこで感染したか、思いだしてみて、ある建築現場の取材で飲んだお茶じゃないかと推測はしました。なぜなら、そのお茶を入れてくれた女性に、そんな感じの症状を感じたからです。いずれにしても、私の感染した病気は、入院してもおかしくない病気だったのです。
「この病気は、通院でも治らないわけではないが、入院して点滴をして徹底的に治療したほうが良いですよ」と、医者からすすめられました。
このとき、私はギクリとしました。ついに入院する番が、私にめぐってきたのだと。私は入院することに憧れを抱いていたのですから。
私は心の底で、自分の願望、思っていたことが、実現しかかっていることに驚きました。「思いは実現する」というマーフィーの法則が、自分の体験として証明されたのです。
それは一種の喜びでした。しかしまたそれは、恐怖でもありました。
なぜなら、入院の順番が転々と私のところまで回ってきたのは、まるで悪霊が、転々と順番にドミノ倒しのように私のところにまでやって来たと言うことなのですから。