SHINGOROKU

日常のさまざまな風景…その中に…色々なモノを背負いながら…色々な自分がいて…我が心の風景、今ここに記す。新たな出逢い!?

ある風景①

2006-05-12 22:00:05 | Weblog
そのお店は、常連客の集うカウンターだけのスナック。その夜は暇で一人で飲みに来ているお客が2人だけ。カウンター内のボーイと静かな雰囲気の中、静かな会話が続いていた。やがて常連の中年男性が一人の女性を連れて来店。この男性はかなり酔っていた。そしてお酒を注文すると、カラオケは無いのに「歌いたい!」と言う。ボーイは周りのお客を気遣って困ったが、とりあえず1曲だけという事になった。アカペラで大声あげて歌う男性。それも歌はヘタクソ。当然お店はシラけた雰囲気。歌い終わると「もう1曲!」と言い出す始末。そして結局2曲目へと…その酔っ払い男性は「こいつの事、大好きなんだよ!こいつのためにもう1曲歌いたい!俺の好きなこの店で歌いたいんだ!」などと言いながら、更に3曲目、4曲目へと歌は続いた。ボーイと他の2人のお客はただ聞くだけの状況。やがて歌が6曲目、7曲目あたりになった頃、そのお客とボーイは一緒に手拍子を打っていた。そして隣の女性は静かにうつむいたまま、目頭を赤くしていた。その男性の不器用ではあるが一生懸命の想いが、他のお客にもボーイにも、そして彼女にも熱く伝わってきたのだ。2人が帰った後、残ったお客の一人が言った。「いい店だよね。」翌年、ボーイの元に一通の年賀状が届いた。そこには2人の結婚披露宴の写真が載っていた。そしてひと言添えてあった。「あの時のヘタクソな歌がきっかけでした。ありがとう。」