はじわじわと落ち着いてきた。力が入らないというふうに地面に腰を落としたままで、そのうち彼はぽつりといった。
「俺、約束しちまった」
「約束って、どんな」
「大和に帰る気かと尋ねられて、まだわからないと答えたら、出雲にくればどうだといわれた。出雲に血の色は無用。力がすべてだって。そう決めた時は、知っていることを洗いざらい教えれば、住む場所を与えるって」
尋ねた高比古へ答えると、佩羽矢は寂しげに笑った。
「怖くて、俺、つい『はい』っていっちまったんだけど……いったら、妙にすっきりした。一番うさんくさいと思ってた大和に、決別する用意ができた気がした」
そこまでいうと佩羽矢は、地べたから高比古を振り仰いだ。高比古の静かな目を見上げる佩羽矢の目には、涙がにじんでいた。
「だって、あんただっていってたじゃないかよ。俺の親は、もう死んでんだろ?」
高比古は首を横に振った。
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「大事なことだ。自分で認めたいと思える時まで、認めなければいいよ」
「いや、わかってるんだよ。実は、うすうすそうじゃないかと思ってたんだ。そういう血はもってんだよ」
佩羽矢がぽつりぽつりと始めたのは、彼の身の上話だった。
「これでも俺は、術者一族の裔(すえ)なんだ。あんたみたいに自在に霊威を示す力はないけど、勘はよく当たるから、里では占師(うらし)の一族っていわれていて――」
力が抜けきったふうにだらりと垂れていた腕をわずかに動かして、佩羽矢は手の甲で目もとをぬぐった。それから彼は高比古を見上げたが、その時の佩羽矢の顔は、吹雪(ふぶき)に洗われた後の雪原のようにすがすがしく見えていた。
「俺、火悉海(ほつみ)様のいうとおりにするよ。隼人の聖地って場所まで、真偽をたしかめにいく。俺の親は、本当にもう殺されているのかどうか――。そこで真実を知ったら、大国主に従うと約束する」
佩羽矢がしたのは、決意だ。彼の故郷を裏切るという――。
「わかった」ニューエラ 札幌
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重大なものを受け止めるように、高比古は丁寧にうなずいた。それを見届けると、佩羽矢は儚い微笑を浮かべる。それから彼は、ゆっくりと立ち上がった。
背を伸ばしてすっくと立つと、佩羽矢の立ち姿にはなかなかの華があった。
だから、狭霧はまじまじと佩羽矢を見つめてしまった。これまで狭霧が見た彼は、どちらかといえばやられっぱなしのところばかりだった。そのせいで、姿勢よく立つ佩羽矢の姿はなんとなく目に奇妙だったのだ。
彼が身にまとうのは大和風の衣装だ。華美な文様がほとんどない白の服は、出雲服とすこし似ていた。
実は、髪型もそうだった。大和の人も、出雲と同じく角髪(みずら)に結う慣わしがあるらしく、結い方や髪飾りのつくりが異なるものの、佩羽矢の大和風の髪は高比古のするものに近かった。すくなくとも隼人の人や、越や宗像(むなかた)、狭霧が出会ったほかの国の人々と比べると。それに――。
(あれ……?)
暗いものを振り切ったかのようにすっくと立つ佩羽矢と、彼に並んで腕組みをしてたたずむ高比古を見ているうちに、狭霧はやたらと妙な気分になった。
錯覚をしたり、幻をみたりした気になって、ごしごしと目をこすったくらいだ。
(高比古と佩羽矢さんって、似てる……?)
二人の背格好はほとんど同じだった。似たような肩幅、ほどよく筋肉のついた細身の身体、手足の長さも、二人はほとんど変わりない。それに顔も、どことなく似かよっていた。
ふしぎなものに見入るように狭霧はじっと二人を見つめてしまったが、やがて、本人たちも違和感を覚え始めたらしい。
ほとんど同じ高さにある高比古の顔をしげしげと
「俺、約束しちまった」
「約束って、どんな」
「大和に帰る気かと尋ねられて、まだわからないと答えたら、出雲にくればどうだといわれた。出雲に血の色は無用。力がすべてだって。そう決めた時は、知っていることを洗いざらい教えれば、住む場所を与えるって」
尋ねた高比古へ答えると、佩羽矢は寂しげに笑った。
「怖くて、俺、つい『はい』っていっちまったんだけど……いったら、妙にすっきりした。一番うさんくさいと思ってた大和に、決別する用意ができた気がした」
そこまでいうと佩羽矢は、地べたから高比古を振り仰いだ。高比古の静かな目を見上げる佩羽矢の目には、涙がにじんでいた。
「だって、あんただっていってたじゃないかよ。俺の親は、もう死んでんだろ?」
高比古は首を横に振った。
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「いや、わかってるんだよ。実は、うすうすそうじゃないかと思ってたんだ。そういう血はもってんだよ」
佩羽矢がぽつりぽつりと始めたのは、彼の身の上話だった。
「これでも俺は、術者一族の裔(すえ)なんだ。あんたみたいに自在に霊威を示す力はないけど、勘はよく当たるから、里では占師(うらし)の一族っていわれていて――」
力が抜けきったふうにだらりと垂れていた腕をわずかに動かして、佩羽矢は手の甲で目もとをぬぐった。それから彼は高比古を見上げたが、その時の佩羽矢の顔は、吹雪(ふぶき)に洗われた後の雪原のようにすがすがしく見えていた。
「俺、火悉海(ほつみ)様のいうとおりにするよ。隼人の聖地って場所まで、真偽をたしかめにいく。俺の親は、本当にもう殺されているのかどうか――。そこで真実を知ったら、大国主に従うと約束する」
佩羽矢がしたのは、決意だ。彼の故郷を裏切るという――。
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背を伸ばしてすっくと立つと、佩羽矢の立ち姿にはなかなかの華があった。
だから、狭霧はまじまじと佩羽矢を見つめてしまった。これまで狭霧が見た彼は、どちらかといえばやられっぱなしのところばかりだった。そのせいで、姿勢よく立つ佩羽矢の姿はなんとなく目に奇妙だったのだ。
彼が身にまとうのは大和風の衣装だ。華美な文様がほとんどない白の服は、出雲服とすこし似ていた。
実は、髪型もそうだった。大和の人も、出雲と同じく角髪(みずら)に結う慣わしがあるらしく、結い方や髪飾りのつくりが異なるものの、佩羽矢の大和風の髪は高比古のするものに近かった。すくなくとも隼人の人や、越や宗像(むなかた)、狭霧が出会ったほかの国の人々と比べると。それに――。
(あれ……?)
暗いものを振り切ったかのようにすっくと立つ佩羽矢と、彼に並んで腕組みをしてたたずむ高比古を見ているうちに、狭霧はやたらと妙な気分になった。
錯覚をしたり、幻をみたりした気になって、ごしごしと目をこすったくらいだ。
(高比古と佩羽矢さんって、似てる……?)
二人の背格好はほとんど同じだった。似たような肩幅、ほどよく筋肉のついた細身の身体、手足の長さも、二人はほとんど変わりない。それに顔も、どことなく似かよっていた。
ふしぎなものに見入るように狭霧はじっと二人を見つめてしまったが、やがて、本人たちも違和感を覚え始めたらしい。
ほとんど同じ高さにある高比古の顔をしげしげと