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雨が降れば降るほど設楽

2013-09-25 14:31:37 | 日記
 雨が降れば降るほど設楽ヶ原の湿地帯はぬかるみを増していき、織田軍に有利になっていく。が、雨が降っていては火縄銃が使えない。
 この作戦は初めから大きく矛盾している。いや、破綻している。
 おれたちって実はすごい馬鹿なんじゃないのか。牛太郎は居ても立ってもいられなくなり、腰を上げて台所に駆け込むと貞に傘を引っ張り出させてきて、一人、屋敷を飛び出した。
 とても絶望的な気分だった。
そして牛太郎は馬鹿だった

 本多弥八郎は願福寺にいる。
 泥まみれの足で床が汚れていくのもいとわず、牛太郎が弥八郎の居候部屋に押し掛けると、新三がいた。
「な、何やってんだよ、お前」
 息を切らしながら牛太郎が入ろうとすると、「ああっ、足っ!」と、新三はすかさず駆け寄ってきて牛太郎を一度廊下へ追い出し、寺のどこかへ出かけていってしまう。
 牛太郎は手持無沙汰にぜえぜえとしているだけ。
「どうされました。そんなにあわてて」
 弥八郎の膝元と、新三がいたところには書物が置かれてあって、どうやら新三が弥八郎に物を教えてもらっていたらしい。
「武田が高天神城に攻めたって報せが」
 まだ、肩で息を切っている。
 弥八郎は声を驚きで跳ね上げさせ、瞼を大きく見開いた。
「もうですかっ」
「まあ、それもそうなんですが実は重大なことに気付きまして――」
 新三が濡れ手拭いを片手にして、もう片手には湯呑み茶碗を携えて戻ってきて、牛太郎に一方を渡すと、一方の手で主人の足を拭いていく。
「実は火縄銃は雨だと――」
「ちょっと、こっちの足をあげてくださいっ」
 新三に掴まれた右足を上げる。
「雨だと火縄に点火できないということですか?」
「そ、そうです。つまり、梅雨時を狙い目にしていますけど――」
「こっちの足もっ」
 新三に掴まれた左足を上げる。
「梅雨時では火縄銃は役に立たない。大きく矛盾しているのではないかと」
「そ、その通り」
「ふむ」
 と、弥八郎は腕を組んで、じっとうつむいた。新三が丹念に脛やふくらはぎをこする。
「もういいだろっ。お前は本当にもう」
 牛太郎は部屋の中に入り、弥八郎の前に着座した。新三が戸を手に取ってよそよそしく帰ろうとしているので、お前もいろ、と、言って中に入れた。
「いつまでも女々しくしやがって。たかだか連れていかなかったぐらいでよ」
「御約束だって守られていないではないですか」
「約束?」
「ほらっ。おやかた様に湿田の開拓を申し入れる旨ですよっ」
「そんなの、この前、京に行ったときに言ったよ。相国寺で会ったし。まあ、そんな余裕はないから駄目だって言われちゃったけどね」
 新三は恨めしそうに牛太郎を睨みつけると、鼻を背けた。
「もういいです。フン」
 弥八郎は眠ったように目を瞑っている。
「何がもういいですだ。お前、小姓なら小姓らしくちゃんとしろ。さっきだって盗み見していただろ。呼んだって逃げちゃうし。なんであんなコソ泥みたいな真似をしていたんだ。ん?」
「別にたまたま見ていただけです」
「たまたま? ははあ。お前、おれがおたまと話していたから気になって見ていたんだな」
「違いますっ。たまたまですっ」
「フン。エロガキが。どうせ、おれが岐阜を離れている間、おたまに近づいたんだろ。んで、おれがおたまに手を付けないかどうか心配で盗み見してやがったんだ。そうだろ。当たってんだろ。んー?」
「そんなんじゃありませんってばっ。殿がおたまさんに手を付けるだなんて奥方様がいるのですもの、絶対にないではありませんか」
「そ、そりゃ、そうだ」
「ただ――」
「なんだ