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この世をさ迷うに違いない

2013-09-26 14:26:08 | 日記
 でも、いざ実際肉体を放置すると、感情だけが先走り、この世をさ迷うに違いない。あわれな風となって。
 牛太郎は、怒りを冷静のうちに閉じ込める。一歩、また一歩と、冷たさもいとわずに足を踏みしめていく。五感で受けるこの世この日このときの調べをさえざえと受け止めて、飛び出そうな感情を抑えつけ、さらには、この怒り、この憎しみ、この悲しみ、この嘆き、この痛み、ばらばらにさせてはならない。
 すべての感覚を充実させ、先走りそうな心と疲弊した体をつなぎ止めなくてはならない。
 揺るぎない信念で。
 たとえ、太郎の状態が目を覆いたいぐらいであっても、揺らいではならない。
 それが現実であり、それが地獄への門戸。
 彼がこれからやろうとしていることは、今までの彼では耐えられない。並の意識では耐えられない。
 そうでもして、それをやろうとするのに理屈はない。
 憎悪。
 太郎の夢を、太郎の幸せを、真っ暗にさせてしまった者への憎悪。
 理屈はない。
 別喜右近大夫とて、罪なき民を何百人とほふってきた。
 そんなものは関係ない。http://www.watchsrank.com
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 憎悪に論理は通用しない。
 登山道は、修羅への道。真新しい雪と同じく、意志に濁りはない。
 太郎は城郭の南丸にいるとのことであった。牛太郎は兵卒に導かれて本丸まで登り、そこをまた通り過ぎていこうとしたが、牛太郎の到着を聞き知った宿屋七左衛門が陣幕をめくって飛び出してきた。
「旦那様――」
 七左衛門は牛太郎の姿を確かめるなり、その場に膝から崩れた。やはり、落涙した。
 牛太郎は踵を返して七左衛門に歩み寄る。
「七左」
 と、彼の頭に革手袋の手を置いた。
「泣くな。男が泣くのは母御が死んだときか、いくさに勝ったときだけだ」
 ううっ、と、嗚咽して、七左衛門は牛太郎の足元にすがりついた。
 玄蕃允が立っていた。見ないうちに髭をたくわえていて、一万五千の大将役の責務がそうさせたのか、目付きから余計なぎらつきは失せていて、顔つきは精悍に引き締まっている。
 雪は弱まっていた。
「玄蕃、あとで話がある」
「ああ」
 牛太郎は背中を返した。
 兵卒とともに再び雪深い山道に入り、南丸へと向かった。
 綿城山の南方からは両白山脈へと続く城下の景色が眺められるが、今は雪に覆われていた。ほとんど、何の光景も確認できなかった。はらはらと降りゆく雪によって、灰にくすんでいた。
 牛太郎は館に入る前に足を止めて、閉ざされた世界をじっと見つめていた。
「寒いな」
 と、初めて、案内役の兵卒に口を開いた。
「はい」
 牛太郎は木戸門をくぐり、館に入った。
 草履を脱ぎ、番兵が用意してきた足袋にはきかえた。太刀を外す。しばらくの間、戦場を共にしてきたその愛刀を見つめる。
 柴田権六郎から頂戴したものである。
 番兵に渡した。
 太郎は館の奥の居室にいるということであった。牛太郎は誘われてそこへ向かう。途中、本多弥八郎が姿を見せた。もともと細かった輪郭が、さらに痩せこけていた。無精髭をまばらに伸ばし、瞼の下はくぼんでいる。瞳は精気を失っている。
 無言で頭を下げていた。
「弥八さん」
 牛太郎は彼の華奢な肩に手を置いた。
「太郎を補佐してくれて感謝します」
 弥八郎の視線が持ち上がる。
「しかし、簗田殿、拙者が、拙者が」
 牛太郎は静かに首を振った。
「うまくいかないときだってある。それが現実だ」
 弥八郎の肩を軽く叩くと、太郎のもとに向かった。
 六畳ほどの小狭な板間であった。板戸が閉め切られており、明かりの頼りは燭台の火のみで薄暗かった。火鉢が焚かれており暖かくはあった。
 太郎はむしろの上に仰向

雨が降れば降るほど設楽

2013-09-25 14:31:37 | 日記
 雨が降れば降るほど設楽ヶ原の湿地帯はぬかるみを増していき、織田軍に有利になっていく。が、雨が降っていては火縄銃が使えない。
 この作戦は初めから大きく矛盾している。いや、破綻している。
 おれたちって実はすごい馬鹿なんじゃないのか。牛太郎は居ても立ってもいられなくなり、腰を上げて台所に駆け込むと貞に傘を引っ張り出させてきて、一人、屋敷を飛び出した。
 とても絶望的な気分だった。
そして牛太郎は馬鹿だった

 本多弥八郎は願福寺にいる。
 泥まみれの足で床が汚れていくのもいとわず、牛太郎が弥八郎の居候部屋に押し掛けると、新三がいた。
「な、何やってんだよ、お前」
 息を切らしながら牛太郎が入ろうとすると、「ああっ、足っ!」と、新三はすかさず駆け寄ってきて牛太郎を一度廊下へ追い出し、寺のどこかへ出かけていってしまう。
 牛太郎は手持無沙汰にぜえぜえとしているだけ。
「どうされました。そんなにあわてて」
 弥八郎の膝元と、新三がいたところには書物が置かれてあって、どうやら新三が弥八郎に物を教えてもらっていたらしい。
「武田が高天神城に攻めたって報せが」
 まだ、肩で息を切っている。
 弥八郎は声を驚きで跳ね上げさせ、瞼を大きく見開いた。
「もうですかっ」
「まあ、それもそうなんですが実は重大なことに気付きまして――」
 新三が濡れ手拭いを片手にして、もう片手には湯呑み茶碗を携えて戻ってきて、牛太郎に一方を渡すと、一方の手で主人の足を拭いていく。
「実は火縄銃は雨だと――」
「ちょっと、こっちの足をあげてくださいっ」
 新三に掴まれた右足を上げる。
「雨だと火縄に点火できないということですか?」
「そ、そうです。つまり、梅雨時を狙い目にしていますけど――」
「こっちの足もっ」
 新三に掴まれた左足を上げる。
「梅雨時では火縄銃は役に立たない。大きく矛盾しているのではないかと」
「そ、その通り」
「ふむ」
 と、弥八郎は腕を組んで、じっとうつむいた。新三が丹念に脛やふくらはぎをこする。
「もういいだろっ。お前は本当にもう」
 牛太郎は部屋の中に入り、弥八郎の前に着座した。新三が戸を手に取ってよそよそしく帰ろうとしているので、お前もいろ、と、言って中に入れた。
「いつまでも女々しくしやがって。たかだか連れていかなかったぐらいでよ」
「御約束だって守られていないではないですか」
「約束?」
「ほらっ。おやかた様に湿田の開拓を申し入れる旨ですよっ」
「そんなの、この前、京に行ったときに言ったよ。相国寺で会ったし。まあ、そんな余裕はないから駄目だって言われちゃったけどね」
 新三は恨めしそうに牛太郎を睨みつけると、鼻を背けた。
「もういいです。フン」
 弥八郎は眠ったように目を瞑っている。
「何がもういいですだ。お前、小姓なら小姓らしくちゃんとしろ。さっきだって盗み見していただろ。呼んだって逃げちゃうし。なんであんなコソ泥みたいな真似をしていたんだ。ん?」
「別にたまたま見ていただけです」
「たまたま? ははあ。お前、おれがおたまと話していたから気になって見ていたんだな」
「違いますっ。たまたまですっ」
「フン。エロガキが。どうせ、おれが岐阜を離れている間、おたまに近づいたんだろ。んで、おれがおたまに手を付けないかどうか心配で盗み見してやがったんだ。そうだろ。当たってんだろ。んー?」
「そんなんじゃありませんってばっ。殿がおたまさんに手を付けるだなんて奥方様がいるのですもの、絶対にないではありませんか」
「そ、そりゃ、そうだ」
「ただ――」
「なんだ

馬鹿がいるか

2013-09-24 11:45:18 | 日記
楽しい青春のひとときであったのかもしれない。
 牛太郎は足のおもむくままに、昔、住んでいた界隈へと進んだ。
「あっ」
 かつての住まいはなくなっていた。あの、つぎはぎだらけのぼろぼろの家は、跡かたもなく消えており、生い茂ったほうき草だけがゆるやかな風にたなびいている。
「まあな、旦那は今では岐阜の屋敷に奥方も孫もいるってことだろ。それだけやってきたってことだろ」
 栗之介が柄にもなく慰めてくるが、牛太郎はすすきを指先に触り、月の光をまぶした穂をいつまでも眺めた。
語り継がれるひよっこ
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 三河守は牛太郎以下九之坪勢を浜松城内に留めさせようとしていたが、徳川諸将に責め立てられた肩身の狭さもあって、牛太郎は城下の寺を借り受けることとした。
 牛太郎は書斎に入ると、ただちに書状をしたためる。上総介宛てだ。
 三河武者が不満を増大させているから、せめてもの軍勢を派遣してくれ。たとえ、このいくさを凌いだとしても、徳川が織田に向ける意識が軽薄となってしまう。という内容である。
「天下に名だたる三河勢も、武田騎馬隊の前ではひよっこだな」
「ひよっこは貴様だろうが。よくも言えたものだな」
 なぜ、玄蕃允と勝蔵はこの部屋にいるのだろうか。呼んでもいない。筆をすすめる牛太郎の背後で飽きずに言い争っている。
「しかし、どうするのだ、オヤジ殿。武田の本隊が浜松城まで迫ったさい、我らはたった五十の兵で加勢するつもりなのか」
「ははっ、臆しているのか、玄蕃」
「よく言うわ。お主はいくさ場に出たことがないからな。いくさのなんたるを知らない小僧っ子は気が楽であろう」
「もういい。黙れ」
 牛太郎は玄蕃允に書状を突き出し、
「あとで早馬を出しておけ。それと、お前ら、どうしてここにいるんだ。ここは溜まり場じゃねえぞ」
「いざというときのことを決めておかなければならないだろ」
「戦術を立てておかなければなりますまい」
 それぞれが言うと、玄蕃允と勝蔵は睨み合い、フン、と、鼻先を背ける。
 清州での大喧嘩のあとも、懲りずに悪態を放ち合っているが、どうやら、勝蔵が酒さえ飲まなければ大ごとにはならないことに気付き、牛太郎は勝蔵に禁酒を課した。人気通販サイト
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 勝蔵は十五の小僧のくせにのんべえらしい。
「だいたい、進軍の途中で酒を飲む馬鹿がいるか」
 と、沓掛でたしなめた。
「木下藤吉郎は二日酔いで信長様の前に姿を出して、ぼこぼこにされたんだぞ。せめて、いくさのときぐらいはやめろ」
 以来、夜はおとなしくなっている。勝蔵はわりかし素直で、その辺りは幼いころと変わっていない。
 とはいえ、それこそオヤジ代わりだと頭が痛い。
 息子の左衛門太郎は、彼が八歳のころから小姓、のちに養子として傍に置いているが、太郎がどれだけ出来の良い子供か。
 左衛門太郎は養父の牛太郎のあまりの情けなさに耐えかねて出しゃばる傾向があり、一時は牛太郎もその生意気さに腹を立てたりもしたが、この荒くれ者たちと比べてみると可愛いものだったようだ。
「だいたい、オヤジ殿はおやかた様に何を命じられて浜松までやって来たのだ。まさか、加勢をするためじゃないだろう」
「おいおい、玄蕃」
 勝蔵は笑った。
「貴様、浜松に入って以来、ずっとその調子だな。貴様はどうやら勝ち戦に乗じることしかできぬつまらぬ将なのだな」
「勝ち戦に跨ってきたのはどっちか。お主のような七光りに言われたくないわ」
「もうやめろ。うるさい。とっとと自分の部屋に帰れ」
 牛太郎はうんざりして寝転がり、背中を向けたが、玄蕃允も勝蔵も、今後どうするのか、作戦を立てないのか、と、食い下がってくる。
「今後も作戦もあるか。決めるのは家康殿だ」
 そういうことで

相反する二つの想いに翻弄されるように

2013-09-23 14:53:24 | 日記
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微笑を浮かべる

2013-09-22 16:06:14 | 日記
はじわじわと落ち着いてきた。力が入らないというふうに地面に腰を落としたままで、そのうち彼はぽつりといった。

「俺、約束しちまった」

「約束って、どんな」

「大和に帰る気かと尋ねられて、まだわからないと答えたら、出雲にくればどうだといわれた。出雲に血の色は無用。力がすべてだって。そう決めた時は、知っていることを洗いざらい教えれば、住む場所を与えるって」

 尋ねた高比古へ答えると、佩羽矢は寂しげに笑った。

「怖くて、俺、つい『はい』っていっちまったんだけど……いったら、妙にすっきりした。一番うさんくさいと思ってた大和に、決別する用意ができた気がした」

 そこまでいうと佩羽矢は、地べたから高比古を振り仰いだ。高比古の静かな目を見上げる佩羽矢の目には、涙がにじんでいた。

「だって、あんただっていってたじゃないかよ。俺の親は、もう死んでんだろ?」

 高比古は首を横に振った。
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「大事なことだ。自分で認めたいと思える時まで、認めなければいいよ」

「いや、わかってるんだよ。実は、うすうすそうじゃないかと思ってたんだ。そういう血はもってんだよ」

 佩羽矢がぽつりぽつりと始めたのは、彼の身の上話だった。

「これでも俺は、術者一族の裔(すえ)なんだ。あんたみたいに自在に霊威を示す力はないけど、勘はよく当たるから、里では占師(うらし)の一族っていわれていて――」

 力が抜けきったふうにだらりと垂れていた腕をわずかに動かして、佩羽矢は手の甲で目もとをぬぐった。それから彼は高比古を見上げたが、その時の佩羽矢の顔は、吹雪(ふぶき)に洗われた後の雪原のようにすがすがしく見えていた。

「俺、火悉海(ほつみ)様のいうとおりにするよ。隼人の聖地って場所まで、真偽をたしかめにいく。俺の親は、本当にもう殺されているのかどうか――。そこで真実を知ったら、大国主に従うと約束する」

 佩羽矢がしたのは、決意だ。彼の故郷を裏切るという――。

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 重大なものを受け止めるように、高比古は丁寧にうなずいた。それを見届けると、佩羽矢は儚い微笑を浮かべる。それから彼は、ゆっくりと立ち上がった。

 背を伸ばしてすっくと立つと、佩羽矢の立ち姿にはなかなかの華があった。

 だから、狭霧はまじまじと佩羽矢を見つめてしまった。これまで狭霧が見た彼は、どちらかといえばやられっぱなしのところばかりだった。そのせいで、姿勢よく立つ佩羽矢の姿はなんとなく目に奇妙だったのだ。

 彼が身にまとうのは大和風の衣装だ。華美な文様がほとんどない白の服は、出雲服とすこし似ていた。

 実は、髪型もそうだった。大和の人も、出雲と同じく角髪(みずら)に結う慣わしがあるらしく、結い方や髪飾りのつくりが異なるものの、佩羽矢の大和風の髪は高比古のするものに近かった。すくなくとも隼人の人や、越や宗像(むなかた)、狭霧が出会ったほかの国の人々と比べると。それに――。

(あれ……?)

 暗いものを振り切ったかのようにすっくと立つ佩羽矢と、彼に並んで腕組みをしてたたずむ高比古を見ているうちに、狭霧はやたらと妙な気分になった。

 錯覚をしたり、幻をみたりした気になって、ごしごしと目をこすったくらいだ。

(高比古と佩羽矢さんって、似てる……?)

 二人の背格好はほとんど同じだった。似たような肩幅、ほどよく筋肉のついた細身の身体、手足の長さも、二人はほとんど変わりない。それに顔も、どことなく似かよっていた。

 ふしぎなものに見入るように狭霧はじっと二人を見つめてしまったが、やがて、本人たちも違和感を覚え始めたらしい。

 ほとんど同じ高さにある高比古の顔をしげしげと