山崎元の「金融資産運用論」

獨協大学特任教授の山崎元です。このブログは「金融資産運用論」の講義資料や講義の補足などを提供する目的で運営するものです。

【金融資産運用論 5回目d】 理論株価の考え方

2010-10-27 21:29:58 | 講義資料

株価は、将来の配当、ないし利益の割引現在価値の合計だと考えることが出来ます。

この場合、「割引率」の中の「リスク・プレミアム」が特に問題になり、CAPMなどのいわゆるポートフォリオ理論が「○○○価格理論」と称せられるのは、リスク・プレミアムを与えることが出来るからです(注;リスクに見合った、リスク・プレミアムが実現しているはずだ、という考え方になっています)。

個人投資家の場合、成長率一定の場合の利益の割引現在価値として適正株価を求めるモデルを完全に理解し、使いこなせるようにしておくと、必要十分でしょう。
但し、「成長率は一定」という前提なので、ここにどんな数字を代入して考えるか、という点に使い方の工夫が必要です。

尚、説明する前から結論を言ってしまうと、学習のモチベーションが下がるかも知れませんが、ポートフォリオ理論は適正株価を求める上で実用的ではありません。

以下、理論株価の計算式を掲げます。



【秋学期 5回目c】(補足)成長率一定の場合の現在価値合計式の導出

2010-10-27 20:29:02 | 講義資料
成長率が一定で永久に続くキャシュフローの割引現在価値を求める公式の導出プロセスです。高校の教科書に出てくる「等比級数の和」の公式を求め、初項と公比にあてはまるものを代入します。一回割り引かれたキャッシュフローが初項にあたる点を間違えなければ、簡単に求められると思います。



【秋学期 5回目】 割引現在価値の計算の応用

2010-10-27 20:13:48 | 講義資料
将来のキャッシュフローを利回り(割引率)で割り引くと現在価値が求められ、これが現在のあるべき価格であり、一方、将来のキャッシュフローの割引現在価値と現在支払う価格を均衡させる割引率から取引の利回りを求めることができる、という関係は、多くの経済的な意思決定の根幹をなす考え方であり、もちろん、運用・投資にも多くの応用が可能です。
それぞれのケースについて、前回の授業で使用したような割引現在価値のエクセル・ワークシートを作って、数字を動かしてみると、計算の仕組みと数字の「感じ」が良く分かると思います。最初は、エクセルに用意された関数を使うのではなく、素朴なワークシートを自分で作って試してみて下さい。

<債券価格>

債券には様々な種類がありますが、スタンダードなものは将来のキャッシュフローがあらかじめ決まっています(→ "Fixed Income")。
債券の価格を計算する場合、あるいは債券の利回りを求めて、投資としての有利・不利を考える際の計算は、通常、複利ベースで行います。

複利の間隔(頻度)と、利回り表示と割引に使う利回り(通常は年率ベースの利回りを複利の期間で割ったもの)の関係に注意を払う必要はありますが、債券の価格は「将来のクーポンと償還元本の割引現在価値の合計」で求められます。
逆に、将来のクーポンと償還元本について分かっていて、現在の価格を与えた場合に利回りを求めることも出来ます。

(例題) 年1回複利で、クーポンが5%、一回目の利払いは1年後、10年後に元本が全額償還される債券について考えます。

Q1. 利回りを4%とすると、価格は幾らか。
Q2. 利回りを6%とすると、価格は幾らか。
Q3. 現在の価格が110であるとすると、利回りは幾らか。
Q4. 価格が110である場合、単利の利回りは幾らか。

<永久に続くキャッシュフローの現在価値>

割引現在価値の覚えておく価値のある重要な応用として、永久に続くキャッシュフローの割引現在価値の合計値を求める公式があります。
(2)の①は、将来のキャッシュフローが一定額で不変の場合、②は将来のキャッシュフローの成長率(マイナスもあり得る)が一定の場合を求めるもので、何れも、適用される割引率は一定です。
①は②でg=0の場合なので、②の式を覚えて置くといいでしょう。

(例題)マンション価格と株価について考えてみましょう。前者は将来家賃の、後者は将来の企業の利益の割引現在価値を合計したものとして理論価格を考えることが出来ます。

Q5. 割引率を5%として、年間家賃が300万円永久に入り続けるマンションの価格を求めよ。
Q6. 上記で、家賃が年率2%で上昇し続けるなら、マンション価格は幾らか。
Q7. 10月25日の日経平均終値は9377円だった。今期予想ベースのPER(株価収益率)は15.7倍だった(何れも『日本経済新聞』10月26日朝刊による)。長期的な利益成長率を1%(で一定)と想定し、株式に対する要求リターンを6%と想定すると、適正株価は幾らか。
Q8. 上記で、長期的な成長率がゼロ、要求リターンが8%だと適正株価は幾らか。

【秋学期 4日目】 割引現在価値と利回り

2010-10-21 02:18:11 | 講義資料
当ブログに前回のようなエントリーを書いていたら、何と、私自身が自分の問題として、割引現在価値や利回りについて考えなければならない問題が実際に起こった。以下の文章は、ある雑誌の連載に書いた原稿を修正したものだが、状況は先週起こった実話だ。



ある日、筆者の自宅にカタカナ社名の不動産業者の男性二名が訪ねてきた。筆者は都内の賃貸マンションに住んでいる。以下、話を簡単にするために、月額家賃を25万円、年間で3百万円としよう。
業者は以前の家主から筆者が住むマンションを購入した。もっぱら中古のマンションを買って、リフォームして販売するビジネスを手掛けている。
先方は「次の契約更新は難しくなります」と話を切り出した。「しかし、当面この家賃なら不満はないので、しばらく住んでいたいと思っています」と答えたら、部下らしき男性が「住宅購入のメリットについて」と題した「ご提案」の資料を拡げて説明し始めた。

賃借人が居住物件を買うメリットを幾つか挙げている。
第一に「家族の安心」だという。将来、家の稼ぎ手が、稼げなくなった場合でも慣れた家に住み続けられるし、万一亡くなった場合には、団体信用生命保険がローンを返済するので家族が安心だという。
「ああ、これがあるから、世の奥様族は、旦那に家を買わせたがるのですね。買ってしまえば、旦那がどうなっても、家は自分のものになるし」と言うと、妻は隣でにっこり笑っていた。

第二のメリットは、賃貸住宅に住んでいると、払ったお金が「全て他人のお金に」なる損が避けられるということだった。資料でも、「賃貸住宅のロスを知って下さい」、購入した場合は、ローンが終わると「全て自分の財産に」と強調している。
「ここは、家を買いたい気分の人が最後にすがる点ですね。でも、私の場合は、家賃の支払いと家の価格の関係が問題なので、家賃を損だとは思っていません」と答えた。

上司はどんな状況であるのかに気が付いたようだったが、部下の男性はまだメリットを説明する(部下はツライ!)。

曰く、「フラット35」の金利は現在非常に安いし、年収その他の審査が銀行よりも甘い。また、現在、住宅ローン控除があるので、税金が得だという。
「未曾有の低金利でも、運用できない金利で借りるのは損だし、審査が甘いというのは、一国民としては困ったものです」と答えた。

彼らが訴えるメリットはまだあり、築15年目くらいからマンションの価値は下がりにくくなるので今が買い時であるとか、賃借人が買えばリフォーム費用や広告費など販売費用が掛からない分安く買える、と言う。確かに、買うなら値のこなれた中古マンションがいいと思うし、賃借人がそのまま買うなら安く買える理屈だ。

「そちら様も資金を早く回転させたいでしょう。問題は値段以外にありません」と私が言うと、近所の取引事例を数例説明した後に、6千万円という価格を呈示して来た。

これは、賃借人が買うメリットが反映されていない価格だなと気付いたが、価格がこれだけ高いと交渉の必要もないから、指摘するには及ばない。

「グロスの利回りで5%ですか。価格がこれだけ高いと迷いません。今だと、REIT(不動産投資信託)でも、総資産利回りでこの近辺のものがありますね。これなら、リスクが小さくて、流動性が高い分、REITの方がうんと有利です。話になりません」と言うと、上司の男性は諦めたようだった。

彼は、「一つ教えて下さい。住宅ローンの金利で借りると、収支はプラスになりますが、これは、どう考えたらいいのでしょうか」と質問に話題を切り替えた。
「それは、ベストでない運用の損に、低金利とはいえローン条件の損が重なるだけです。この辺の話は、授業で学生に説明しているので、良かったら獨協大学に聴講に来ませんか」と言ってみた。



この際、割引現在価値について考える事例として、今年(購入から1年後に入金するとする)は300万円の家賃が得られるマンションの価値を分析する。以下のようなケースについて、現在価値・利回りなどについて考えてみて欲しい。

(1)家賃が20年間同額(年間300万円)入り、その後は家賃もなく、マンションの残存価値はゼロだとする。割引率が5%なら、マンションの割引現在価値はいくらか。

(2)上記のケースで、家賃収入があるのは10年であるケースと30年であるケース(何れも、年額家賃は300万円)なら、マンションの割引現在価値はいくらか。

(3)(1)のケース(家賃300万円×20年、残存価値ゼロ)で、割引率が3%、7%なら、マンションの割引現在価値は、それぞれいくらか。

(4)(1)のケースで、20年後にマンションが2000万円(=残存価値)で売れると仮定すると、このマンションの割引現在価値はいくらか(割引率は5%)。

(5)(4)のケースを想定して、このマンションを今5000万円で買えるとすると、この5000万円の資金に関して複利の利回りはいくらか。

(6)(1)のケースで、年間300万円の家賃が永遠に続くとしたら、このマンションの割引現在価値はいくらか。

(7)(1)のケースで、家賃が2年目から2%ずっと上昇し続けるとすると、このマンションの現在価値(割引率5%のもとでの)はいくらか。

(8)(1)のケースで、物価が毎年2%上昇するのだとすると(しかし、家賃は一定だと想定する)、このマンションの「実質価値ベースの」現在価値はいくらか。

(9)(1)のケースで、マンションを買い取る際の全額が6千万円だとして、この全額が利率2%のローンで調達可能だとする。ローンの割引率は1%としよう。

(10)結局、私(=山崎)はどうしたらいいと思うか。


【秋学期3回目】割引現在価値の考え方

2010-10-13 21:44:49 | 講義資料
 3日目は、2日目で積み残した金融商品の説明と、「投資」と「投機」のちがい、加えて(時間があれば)、「割引現在価値」の考え方について、ご説明しようと思います。
 割引現在価値については、入門的な解説を、『読売オンライン』の連載で書いたので、以下の記事をご一読いただければと思います。
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/trend/yamazakidojo/20100930-OYT8T00420.htm
「資産の適正価格知るのに欠かせぬ割引現在価値」(2010年9月30日)

 応用の利く例として、割引率を与えたときのマンションの適正価格(割引現在価値)と、(現在)購入額・(将来)家賃収入・(将来)売却額が分かった場合の投資利回り(内部収益率)を求めるケースを考えます。
 割引現在価値と内部収益率は、債券、株式、プロジェクト、不動産など、あらゆる投資を考え、意思決定を行う場合の基本になる「考え方」ですし、「意思決定のツール」でもあります。根本的な考え方として、後は、「リスク」の扱い方を覚えたら、大体OKでしょう。
 是非、ご自身でも、エクセルでワークシートを作ってみて、割引率と現在価値の変化の具合をさまざまな数字で試してみて下さい。
 尚、春学期の教材(4月22日付)も見ていただけると、幸いです。

【2010年秋学期 2日目】

2010-10-06 00:04:54 | 講義資料
 今週は、金融資産の運用対象になる主な金融商品の概要を説明します。

 最近、政治ジャーナリストの上杉隆氏の「上杉隆の40字で答えなさい」という本を読んだことに影響されて、それぞれのカテゴリーの要点を40字以内で気楽にまとめてみました。「正式な定義」が気になる方は、参考書やネットの解説記事を参照して下さい。

 授業では、カテゴリーの説明と時間の許す限り関連用語の説明をしますが、一度に全部覚えるのはたぶん無理なので、授業中は「考え方」に集中して聞いて下さい。個々の用語の意味については、必要なときにまた調べると用が足りるでしょう。
 アインシュタイン曰く、「わしは、調べればいいことは、覚えないことにしておる!」

 大まかなカテゴリー及び個々の商品について、大まかな仕組みと運用対象としての性質を説明することが目的ですが、たとえば、一般に販売されていて、よく売れている商品でもダメなものはダメだと、授業ではハッキリ言うので、ご興味のある方はよく聞いていて下さい。

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(1)株式

 「有限責任の出資証券。会社の利益と資産の権利書。リスクを取るが、口も出す」

(関連用語)
 配当、キャピタルゲイン、上場、IPO、 セカンダリーマーケット、純利益、普通株、優先株、一株利益(EPS)、PER、PBR(株価純資産倍率)

(2)債券

 「決まったキャッシュ・フローの受取権利書。金利が上がると、価格が下がる」
 “fixed income”
(関連用語)
 クーポン、元本、割引債、変動金利債、利回り、店頭取引、国債、社債、劣後債、スプレッド、信用格付け、デフォルト、仕組み債

(3)預金

「わずかな利息と引き替えに、自分のお金を銀行に預ける勇気ある取引」

(関連用語)
普通預金、定期預金、当座預金、決済、預金保険、外貨預金、仕組み預金、郵便貯金(定額貯金)

(4)生命保険

(関連用語)
 保険金、保険料、純保険料、付加保険料、終身保険、定期保険、年金保険、医療保険、変額保険、利差・費差・死差(生保の三利源)

(5)年金

 「老後に備える、心配の多い節税貯蓄。本来は長生きリスクへの保険」

(関連用語)
 国民年金、厚生年金、共済年金、基礎年金、確定給付年金(DB)、確定拠出年金(DC)、企業年金、一階・二階・三階、予定利率

(6)投資信託

「小口でも分散投資ができるが、運用能力には多くを期待できない、投資の仕組み」

(関連用語)
 受託銀行、運用指図、分配金、基準価額、信託報酬、代行手数料、銀行窓販、オープン、スポット、インデックス・ファンド、ETF(いい・手数料の・ファンド)、REIT

(7)外国為替

「外貨建ての支払い手段を売買するギャンブル。世界最大のカジノでプレイする」

(関連用語)
為替レート、スポット、フォワード、スワップ、金利裁定、TTS/TTB、Bid-Ask、外貨預金、FX(外国為替証拠金取引)

(8)デリバティブ

 「ヘッジ用に開発され、投機のために愛され、ごまかしにも活用される仕組み」

(関連用語)
原資産、先物、オプション、コール/プット、仕組み○○、裁定取引、レバレッジ、証拠金、カウンター・パーティー・リスク

(A)投資

 「リスクを取った生産活動への資本提供。期待回収率100%超のギャンブル」

(関連用語)
「ハイリスク・ハイリターン」、リスク・プレミアム、長期投資、「貯蓄から、投資へ」、バブル

(B)投機

 「参加者同士が、お互いの見通しの違いに賭けるリスキーなゼロサム・ゲーム」

(関連用語)
ギャンブル、商品先物取引、金、外国為替