ある人間が単なる瞬間の寄せ集めのなかにしか存在しないというのは、
たしかに大きな弱点なのかもしれない。
だが同時に、大きな力でもある。
ある瞬間の記憶というのは、そのあとに起こったことを何も知らされていないからである。
記憶が記録したこの瞬間はまだ続いているし、まだ生きている。
その瞬間に姿をあらわした人間もともに生きているのだ。
こうした細分化は死んだ女をよみがえらせるだけではなくて、
その女の数を増やしてゆく。
---プルースト「消え去ったアルベルチーヌ」高遠弘美訳、より改変
たしかに大きな弱点なのかもしれない。
だが同時に、大きな力でもある。
ある瞬間の記憶というのは、そのあとに起こったことを何も知らされていないからである。
記憶が記録したこの瞬間はまだ続いているし、まだ生きている。
その瞬間に姿をあらわした人間もともに生きているのだ。
こうした細分化は死んだ女をよみがえらせるだけではなくて、
その女の数を増やしてゆく。
---プルースト「消え去ったアルベルチーヌ」高遠弘美訳、より改変