アメフット会見 責任逃れでなく説明を
アメリカンフットボールの悪質な反則問題で、関西学院大の選手を負傷させた日本大の選手と、内田正人前監督らが相次いで記者会見した。
会見で双方の主張は食い違いをみせ、真相究明は混迷の度合いを増している。大学として今回の問題をどう受け止めるのか、日大の姿勢が問われる。
焦点となっている危険なタックルについて、会見した20歳の選手は前監督とコーチの指示に従ったと説明した。
「相手をつぶせ」などの指示を「けがをさせろ」と解釈したという。「やらないという選択肢はなかった」と追い込まれた心情について生々しく語った。
これに対し、選手会見の翌日夜に緊急会見を開いた前監督は、タックルは「私からの指示ではない」と否定。プレーは「予想できなかった」と責任転嫁のような発言に終始した。
すでに試合から2週間以上が経過し、責任者による説明が遅すぎた。その上、選手の発言を否定するために急きょ会見を開いたかのような大学側の対応には、首をかしげざるをえない。
問われているのは、なぜこんなプレーが行われたか、ということである。選手を追い込んだのは一体何だったのか。
選手は「やる気が足りない」と実戦練習から外され、「つぶせば(試合に)出してやる」とコーチを通じ伝えられたという。指導の在り方は妥当だったのか。
前監督が語るべきは、そうした根本のことであり、「指示があった」「なかった」というだけの話ではないはずだ。
少子化の影響で学生の確保が多くの大学の課題となっている。スポーツが大学の広告塔となり、本来の在り方をゆがめているとの指摘は以前からある。
問題がさらに深刻化し、過剰な勝利至上主義を招いている可能性がある。アメフット以外にも有力部を抱える日大は真剣に向き合い、再発防止に取り組むべきだ。
折しも、スポーツ庁は全米大学体育協会(NCAA)を参考にした統括組織「日本版NCAA(仮称)」を来春創設する方針だ。
そこでは安全対策などにも取り組むとしているが、「ビジネス化」の側面が強く、さらなるゆがみをもたらさないか心配だ。
大学スポーツは教育の一環で、選手のためのものでなくてはならない。今回の事案を、あるべき姿を取り戻すきっかけにしたい。
[京都新聞 2018年05月25日掲載]
イタリア新政権 欧州揺るがす火種、また
2カ月半続いた政治空白が解消されるとはいえ、欧州統合を揺るがすポピュリズム(大衆迎合主義)の再燃を危ぶまざるを得ない。
3月の総選挙でどの勢力も過半数に達しなかったイタリアで、新興組織「五つ星運動」と右派政党「同盟」の連立協議がまとまり、政権発足へ新首相が指名された。
五つ星運動は反エリート、同盟は反移民を掲げ、総選挙で躍進した。政策的な隔たりは決して小さくないが、欧州連合(EU)に懐疑的な点では共通している。既存体制への国民の不満を取り込み、ポピュリズム色の濃い政権となる可能性が高い。
欧州では昨年3月のオランダ下院選、5月のフランス大統領選でポピュリスト政党が敗北し、その旋風は弱まるかとみられていた。
ところがイタリア総選挙に続いて、今年4月のハンガリーの議会選で反移民を掲げるオルバン首相の右派与党が圧勝。立場の近い東欧諸国の政権や、各国の極右政党が再び勢いづく流れにある。
グローバル化の恩恵が一部の大国に偏り、自分たちは低成長や移民・難民問題を甘受している-との意識は、東欧だけでなくイタリアでも広がる。ユーロ圏3位の経済国とはいえ、ドイツなどとの格差拡大が、人々の反EU感情の根底にあるようだ。
成長を求めるのなら、経済の構造改革へ思い切った踏み込みが必要になる。だが両党が連立協議で合意したのは、不法移民の取り締まり強化のほか、貧困層への最低所得保障、富裕層の減税といった財源の不透明なばらまき策だ。
課題を直視しない、同床異夢の連立という印象が否めない。新首相に政治手腕の未知数な法学者のコンテ氏を推したのも、当面の対立回避のための妥協策だろう。
無責任な公約、その公約が実現しないことによる政治混乱、さらなる大衆迎合-の悪循環に陥らないか気掛かりだ。排外的、保護主義的な世論の行方は、日本にとっても重大な関心事である。
東・中欧の国々と違い、イタリアはEUの前身、欧州共同体(EC)の原加盟国であり、本来なら独仏とともに欧州の統合深化をけん引する役割が期待される国だ。その国が反EUに傾けば、英離脱で結束の揺らいでいるEUをさらに不安定化させかねない。
幸い、五つ星運動は現実路線を模索する動きもみせている。一方のEUにも、イタリアに緊縮財政を厳しく迫るばかりでなく、柔軟な対応が求められよう。
[京都新聞 2018年05月25日掲載]
森友交渉記録 疑問の解明これからだ
「廃棄した」と国会で説明したはずの記録が大量にあった。国民に対する重大な背信行為である。
大阪府豊中市の国有地売却を巡り、財務省が森友学園との交渉記録を国会に提出した。未公表の改ざん前決裁文書も公表した。
国有地を不当に値下げして売却したのではないか、という野党の追及に対し、当時、理財局長を務めていた佐川宣寿前国税庁長官は、一切の記録が残っていないと繰り返し述べていた。
ところが今回、計約3900ページもの文書が出てきた。
佐川氏は「メールのやりとりや面会記録なども残っていない」と念押ししていたが、虚偽答弁だったことになる。
財務省は月内にも改ざんの経緯の検証報告を公表し、幹部を処分する方針だが、これで問題の幕引きを図るのは無理がある。
むしろ、課題がようやく出そろった状況ではないか。
明らかになった記録を国会で検証する必要がある。大幅値引きの背景に、首相夫妻の関与や官僚の忖度(そんたく)があったのではないか。佐川氏はなぜうそをついたのか。疑問は何一つ解明されていない。
交渉記録には、森友学園の籠池泰典前理事長が安倍昭恵首相夫人を通じた国有地の貸付料減額を要望し、当時の夫人付職員が2回にわたって財務省に問い合わせた内容も含まれていた。
職員は「(籠池氏から)優遇を受けられないかと総理夫人に照会があり、当方から問い合わせした」などと電話していた。
改ざん前の決裁文書には「本省相談メモ」とされる資料があり、昭恵氏が森友学園側に「いい土地ですから、前に進めてください」と発言したとの記録もあった。
昭恵氏側による「口利き」と受け止められても仕方がないのではないか。
安倍首相は改ざん直前の昨年2月17日に国会で「私や妻が関係していたならば、首相も国会議員も辞める」と発言していた。首相は今後、どう説明するのだろうか。
公表記録は財務省職員の手控えで、正式文書は佐川氏の答弁に合わせ破棄されたという。
佐川氏は理財局長当時、「法令に基づき破棄した」と述べていたが、実際は組織的な隠蔽(いんぺい)が行われていたといえる。公文書管理のあり方も見直しが急務だ。
佐川氏は大阪地検に告発されたが、立件見送りが伝えられる。真相を究明できるのは、もはや国会しかない。
[京都新聞 2018年05月24日掲載]
日報問題で処分 現場のミスで済まない
陸上自衛隊イラク派遣部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題で、防衛省が経緯の調査結果を国会に報告し、関係職員17人を処分した。
担当者が防衛相の指示や情報公開への認識を欠いていたことが問題で、組織的隠蔽はなかったと結論づけた。「現場のミス」で決着させようとの意図が読み取れる。
真相解明には不十分な内容で、処分も形式的にみえる。再発防止につながるとも思えない。これで問題を終結させてはならない。
日報が陸自研究本部(現・教育訓練研究本部)で見つかったのは昨年3月27日、小野寺五典防衛相への報告は今年3月31日だ。約1年間も組織内に隠されていた。
発見から3日後、同本部にあった情報公開請求の問い合わせに、日報はないと回答していた。
調査結果では、日報の存在は同本部の幹部数人が把握していたが、稲田朋美防衛相(当時)へ報告の必要性はないと認識していたという。当時は、南スーダン平和維持活動(PKO)派遣部隊の日報問題を巡って稲田氏が国会で追及の矢面に立っていた時期だ。危機意識が欠けていたという以上に、なぜ報告不要と判断したのか、疑問が残る。
同本部が陸幕に日報の存在を報告したのは、発見から約9カ月たった今年1月12日、陸幕から統合幕僚監部に伝えられたのは2月27日だった。小野寺防衛相に知らされたのはさらに1カ月後だ。
重要な報告を速やかに省全体で共有しなかった理由は分かりにくい。組織的隠蔽ではないと言い切る根拠も不明だ。
関係者の意思決定や情報の伝達過程などを精査し、具体的な改善策につなげていく必要がある。その役割を担う国会の責任は重い。
ただ、日報の隠蔽というシビリアンコントロール(文民統制)を揺るがす事態を招いたことは、政治の機能不全も浮き彫りにした。
昨年2月、稲田氏は同省がいったん不存在とした日報について再捜索を指示したが、統合幕僚監部の背広組トップに「本当にないのか」とただしただけだったという。
今年4月には幹部自衛官が「国益を損なう」との暴言を野党議員に浴びせたが、小野寺防衛相は当初かばうような発言をし、懲戒処分にもしなかった。
こうした組織統制の甘さが、一連の隠蔽問題の背景にあるとも指摘されている。
実力組織である自衛隊をしっかり統率する責任を、政治の側はあらためて自覚してほしい。
[京都新聞 2018年05月24日掲載]
加計問題新文書 事実なら答弁は虚偽に
安倍晋三首相のこれまでの発言を、覆しかねない新たな文書が現れた。白黒を、はっきりさせなければならない。
学校法人「加計学園」の獣医学部新設を巡り、愛媛県の中村時広知事が、国などとの交渉経緯を記した新文書を国会に提出し、共同通信が入手した。
それによると、2015年2月25日に学園の加計孝太郎理事長が首相と面会し、愛媛県今治市に設置予定の獣医学部では、国際水準の教育を目指すと説明した。首相は「そういう新しい考えはいいね」とコメントしたという。
これまで首相は、獣医学部構想を知ったのは17年1月20日で、関与はないと明言してきた。
新文書の記載が事実なら、首相は虚偽の答弁をしたことになる。国民にうそをついたも同然で、政権の信頼性が大きく揺らごう。
知事によると新文書は、国会の要請を受けて提出された。公的な文書として、その内容を重く受け止めたい。
首相と加計氏との面会は、15年3月に行われた県と学園の打ち合わせ会で学園側が報告した。15分程度で、「いいね」などのやりとりがあった。これを受けて、柳瀬唯夫元首相秘書官から県に改めて資料提出が求められたとする。
県職員が面会した際、柳瀬氏は「獣医学部新設の話は総理案件になっている」と述べたとされており、先に国会の参考人招致で行った答弁とは食い違いがある。
いずれも日付が記されているなど記述は具体的だ。
知事は、一貫して「県側は正直に話してきた」と主張してきた。「県として(獣医学部に)税金約30億円を出す以上、県民に対しクリアにしないといけない」とも強調している。
新文書の信ぴょう性は、かなり高いのではないか。
首相の主な動向をまとめた新聞各紙の「首相動静」に、この面会は記述されていない。学園は「理事長が15年2月に首相とお会いしたことはない」とコメントし、首相も「ご指摘の日に理事長と会ったことはない」と否定した。
それぞれの主張は真っ向から対立しており、どちらかが間違っていることになる。ここは、野党側の求めに応じて知事の参考人招致や加計氏の証人喚問に応じる必要が、与党にもあるだろう。
加計問題が発覚して、約1年が経過した。これ以上、真偽をうやむやにして、国政を前に進められないことを知るべきだ。
[京都新聞 2018年05月23日掲載]
国民投票法 積み残し課題の検討を
改憲手続きを定めた国民投票法の改正案を自民、公明両党が野党に示した。足踏み状態の改憲論議を再起動させる「呼び水」としたい思惑が透けるだけに、拙速を避け慎重な審議を求めたい。
与党の改正案は商業施設への「共通投票所」導入など8項目。主に公選法とのズレを正す規定で異論は少ないだろう。ただ国民投票には、ほかにも手付かずの「宿題」が数多く残っている。
国民投票法は公選法とは制度設計が異なる。活発な議論や自由な発言を促す趣旨から、政策を訴える投票運動の手段や費用などに制限をほとんど設けていない。
例えば選挙は費用に上限を定め、出納責任者に収支報告を義務付ける。国民投票では上限も使途も無制限で、投票の公正さを害する恐れが大きい。選挙で禁止される戸別訪問も国民投票では認められる。仮に選挙と国民投票が同時に実施されれば混乱は必至だ。
最も懸念されているのがテレビなどの広告だ。国民投票前の14日間を除き、誰がどれだけ金額を使っても自由。資金力がある一方の主張だけがメディアを通じて大量に流される懸念を拭えない。
英国のように賛成、反対の団体ともに選挙管理委員会に届け出をさせ、一定の金額内で広告を出せば、回数も制限されて歯止めになる。表現の自由にも配慮して最低限のルールを作る必要がある。
インターネットや会員制交流サイト(SNS)での投票運動も制限はない。虚偽情報の流布が不安視され、対策が欠かせない。
一定の投票率がなければ不成立になる最低投票率についても議論しておきたい。投票率が低くても過半数で国民投票が成立するならば民意を反映した結果と言い難い。投票の正当性を担保するには最低投票率導入も一考に値する。
国民投票法は改憲への公正中立なルールを設けるもので、手続き法とはいえ重要な法律である。与野党とも冷静な論議の中で、課題の解決や懸念の払拭(ふっしょく)に向けて合意形成に努めてもらいたい。
衆院憲法審査会が先週、新幹事選出のため今国会で初めて開かれたものの、実質審議は行われなかった。きょう3カ月ぶりに開催予定の参院憲法審も同様という。
自民党は9条への自衛隊明記など4項目の改憲に前のめりだが、相次ぐ政権不祥事で与野党が対立する中、腰を据えたまともな憲法論議は望めない。まずは憲法審で与野党が冷静に話し合える環境を整えることが先決であろう。
[京都新聞 2018年05月23日掲載]
要介護高齢者 受益と負担抜本議論を
介護が必要な高齢者を社会全体で支える-。そんな前提の仕組みが揺らぎ始めていないだろうか。
団塊世代の全員が75歳以上となる2025年度に65歳以上で介護が必要となる人は現在より142万人増えて約771万人になるとの見通しを厚生労働省が示した。
財源や担い手の不足がいっそう懸念される。介護保険制度のサービスを利用した際の自己負担額をさらに引き上げる案も出ている。
すでに、軽度の人向けのサービスが市区町村事業に移管された。制度が当初想定したサービスはじわじわと切り詰められている。
ただ、安易な自己負担引き上げやサービス縮小は、利用の抑制につながり、かえって家族介護の負担を増やすことになりかねない。
家庭で抱え込むのでなく社会全体でケアするという介護保険制度導入の理念に逆行することになっては本末転倒だ。安定したサービスと受益者の負担について議論し直さなくてはならない。
高齢者の保険料や自己負担額は上昇し続けている。今年4月に改定された65歳以上の介護保険料は全国平均で月5869円と、制度が始まった00年度の2倍に膨れあがった。25年度には約7200円になる見通しだ。年金生活者にとって「限度」とされる月5千円を上回る状態が続いており、老後の安心コストは割高になっている。
自己負担額も、00年度の一律1割が、15年度からは一定以上の所得者が2割に増額。高所得者は8月から3割となる。財務省は2割負担を原則とするよう求めており負担増への圧力は強まる一方だ。
サービス供給面では弊害も出始めている。市区町村に移管された訪問介護と通所介護(デイサービス)では、地元の介護事業者の人手不足や大手事業者の撤退で運営難に陥る自治体が増えている。自治体の財政事情で移管前より報酬が減ることが背景にあるという。
介護保険から切り離しても、軽度の症状の進行を防げなくなれば介護費用の抑制にはつながらない。逆に病院通いが増え、社会保障全体の財政健全化は遠ざかることになるのではないか。
介護にかかる総費用は、00年度の3兆6千億円が本年度予算では11兆1千億円となった。今後も増加することは避けられない。
負担増とサービス縮小ばかりを論じていても問題解決にはならない。国などの公費負担のあり方に加え、高齢者の健康づくりや医療との連携など新たな視点で制度改革に踏み込む必要がある。
[京都新聞 2018年05月22日掲載]
是枝監督の受賞 高く評価された普遍性
カンヌ映画祭で、是枝裕和監督の「万引き家族」が最高賞「パルムドール」を受賞した。
同映画祭で、日本映画が最高賞を受賞したのは、今村昌平監督の「うなぎ」(1997年)以来21年ぶり、5作目になる。
同映画祭では過去に、是枝監督の2作品が主要な賞を受けている。最高賞に達したことをたたえたい。
是枝監督は主に家族を題材に、社会の光と影を、独特のタッチで描いてきた。
今回の受賞作「万引き家族」も、都市の片隅にひっそりと暮らす一家を通じて、家族のあり方や貧困問題などを問うている。
世界に通じる普遍性が評価されたといえよう。
「万引き家族」は、女優の樹木希林さんが演じる「おばあちゃん」の年金を頼りに、子どもたちに万引きをさせて暮らす一家を描く。別の家族に虐待された少女や、父親の不安定雇用などを絡め、日本社会の今を浮かび上がらせた。
是枝監督はテレビドキュメンタリーの制作会社出身で、見る人に問題を投げかける描写が特徴だ。
育児放棄にあった子どもを描いた「誰も知らない」(2004年)や、新生児の取り違えをテーマにした「そして父になる」(13年)などは、現実の事件報道を機に作られた。
「万引き家族」も、親の死亡後に年金を受け続けた不正受給事件が契機になった。
不正受給した人を断罪する報道や、東日本大震災以降の「絆や家族の語られ方」に違和感を抱いたという。
こうした問題意識が映画にどう反映されているのか。6月8日からの公開で、注目を集めそうだ。
今回の受賞を機に、日本映画の現状についても考えたい。
日本映画は、興行成績は洋画ときっ抗しているが、漫画や小説と連携した娯楽作品が多い。
大手のシネコンは増えたが、中小の配給会社は減少し、独立系の映画館は減っている。是枝監督の「誰も知らない」の配給会社も、既に倒産した。
製作委員会方式が主流になり、監督より製作者の声が強くなる傾向もある。映画の多様性が失われかねない状況だ。
これに対し、インターネットを使って広く資金を募るなど、新たな取り組みも始まった。昨年からロングランを続ける「この世界の片隅に」も2千人超から初期費用を集めた。参考になろう。
評価の高い作品を全国で見ることができる仕組みを整えたい。
[京都新聞 2018年05月22日掲載]
終盤国会 うみを出し切れるのか
会期末まで残り1カ月を切った国会で、与野党の対決姿勢が強まっている。委員長の職権を使った強気の国会運営で法案審議を加速させる与党に対し、野党は閣僚の不信任決議案の提出などでブレーキをかける構えだ。
心配なのは、日程をめぐる駆け引きが激化する中で、肝心な点がおろそかになることだ。法案の中身の徹底審議、そして一連の不祥事の真相解明である。
先週、環太平洋連携協定(TPP)の承認案が、野党を押し切る形で衆院本会議に緊急上程され、与党などの賛成多数で可決された。今月11日に委員会審議が始まってわずか1週間。法案の内容は米国離脱前とほぼ同じとはいえ、最初の法案も国内農家や消費者の懸念を置き去りにしたまま、強引に採決した経緯がある。審議を短縮していい理由にはならない。
政府・与党はトランプ米政権の通商圧力をかわす「盾」にする狙いから、TPPの承認案と関連法案の成立、11カ国での協定発効を急ぐ。働き方改革関連法案についても、日本維新の会と修正合意を経て週内に衆院を通過させる構えだ。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備法案の今国会での成立も描く。
一方、「数の力」で劣る野党の対抗手段は限られる。与党主導の国会運営を足止めし、時間切れによる廃案を狙う。茂木敏充経済再生担当相の不信任決議案を提出してTPP関連法案の審議中断に持ち込んだのに続き、働き方法案に絡んで加藤勝信厚生労働相の不信任案も検討している。
論点未消化のまま審議を切り上げる、不信任案の連発で審議を空転させる-。そのどちらも、国民が本来望むところではない。とりわけ、働き方改革の焦点である「高度プロフェッショナル制度」とカジノ解禁には、人々の関心と批判的な目が向けられているだけに、論戦が中途半端に終われば政治不信は増すだろう。
国会日程が窮屈になったそもそもの原因は、森友学園や加計学園、自衛隊日報をめぐる問題で公文書の改ざん、隠蔽(いんぺい)、答弁矛盾が噴き出し、審議の前提が崩壊したことにある。回復の責任は第一に、政府と与党にある。
「うみを出し切る」と安倍晋三首相は約束した。国民の信頼を取り戻せるかは、今国会中の取り組みにかかっている。
不祥事の究明は後回し、与党の看板政策に関わる法案成立はゴリ押し-という姿勢は許されない。
[京都新聞 2018年05月21日掲載]
滋賀の自立支援 子どもの未来見守って
虐待や親の病気、経済的貧困などの事情を抱えて施設や里親のもとで暮らす子どもたちの自立を支援しようと、滋賀県内の福祉関係団体でつくる「滋賀の縁(えにし)創造実践センター」が始めた就労体験事業が4年目を迎えた。
協力企業が倍増するなど地域に支援の輪が広がっている。子どもたちの職業観の形成につながり、自立に向けた足掛かりにもなっている。今後も職種を広げる計画といい、取り組みがさらに充実するよう見守りたい。
施設で暮らす子どもたちの多くは、高校卒業とともに退所する。県児童福祉入所施設協議会調査研究部会によると、9割が社会へ出て自立の道を歩むという。
ただ、進学を希望しても学費や生活費をなかなか工面できないなど困難に直面する事例が多い。
返済義務のない奨学金は狭き門で、学費と生活費を借金して進学するのは厳しい。
未成年の賃貸契約には保護者の同意が必要で、家族の支援を受けられない退所者のために施設長が連帯保証人になるケースも少なくないという。
就職した後も苦労は多い。同部会の調査によると、自立後1年以内に転職するか無職になる子どもが半数に上っている。
施設を退所した子どもの51・9%が、人との関係性の築きにくさや生きづらさを抱えていることも分かっている。
自立の土台は施設に在籍しているうちに築き始めなければならない。養育者以外の大人とのいい出会いをつくっていくことが、後に社会で生きる力につながる。
就労体験は、そんな信念から始まった。同センターの呼び掛けに応じた企業は当初66社だったが、現在は130社を超えた。中高生延べ120人、小学生同59人が夏休みや春休みに仕事を体験した。
「微力でも何か応援したい。ふらっとでも来てもらいたい」という経営者の言葉が、子どもたちや施設職員を勇気づけている。
企業側にも理解が広がり、就労体験をした企業に就職するケースも出てきたという。
同部会は、これまで施設ごとに取り組んできた支援事例の共有化や、困ったときの相談先、関係機関などを子どもごとにまとめた自立支援マップ作りに取り組んでいる。就労体験先の企業の名前もそこに上がるかもしれない。
さまざまな事情を抱えた子どもたちに関わることを「縁」ととらえ、長い目で寄り添ってほしい。
[京都新聞 2018年05月21日掲載]
新元号公表 1ヵ月前で準備は整うか
2019年5月1日の新天皇即位に伴い、「平成」に代わる新たな元号が用いられるようになる。これを事前に、いつ公表するかは結構、大問題だ。
公文書や各種システムなどに元号表記がある場合、切り替え作業をするので、一定の期間を確保する必要がある。
一方で、あまりに早く公表しては、平成時代の終焉(しゅうえん)を、ことさら急ぐことになりかねない。天皇陛下と新天皇の二重権威状態が、比較的長く続くことへの懸念も、少なからずありそうだ。
政府は、公表時期を改元の1カ月前と想定して、準備を始める方針を決めた。
決めたからには、国民生活への影響を最小限にとどめるため、万全を期さねばなるまい。
1カ月前の公表は、先日開かれた関係府省庁連絡会議で申し合わせた。
各府省庁が情報システムの実態調査をしたところ、最低限1カ月程度の改修期間が必要だと分かったからだ。
今後は、国の機関だけでなく、地方自治体や民間企業にも周知し、準備を要請することになるだろう。
新元号の公表時期が注目されるようになったのは、昨年暮れに代替わりの期日が決定してからである。
通例なら、天皇逝去後、新天皇が即位して、元号を発表する運びとなるが、現憲法下で初めてとなる退位では、改元時期があらかじめ確定しているので、事前公表が可能になった。
しかし、その時期の方針決定までには、曲折があったことが知られている。
当初は、十分な周知期間が要るとの共通認識から、今年の半ばごろが望ましいとの意見が優勢だった。
ところが、陛下の在位30年記念式典が来年2月24日に開催されることになり、「新元号の発表後に、お祝いをするのは、ちぐはぐだ」との声が上がる。このため、公表は式典以降とする方向が固まっていった。
代替わりを巡る日程を考慮した結果とはいえ、改元への準備期間が大幅に短縮されたのは、残念ではある。
新天皇即位と改元は、混乱なく迎えたいところだが、公表を1カ月前とした場合、年金や介護などのシステムで一部の改修が間に合わず、「平成」を継続して用いるという。
「平成の表記でも有効」などと付記しておけば問題ないともされるが、見た目がよくないとの指摘は予想されよう。
地方自治体では、住民登録や納税、社会福祉関連などで業務の電子化が進んでおり、新元号導入による変更点の確認作業は膨大になるとみられている。
契約書をはじめとして、和暦を使う機会の多い金融業界も、対応を迫られる。支払期日が平成で記された手形や小切手の修正方法を、業界を挙げて検討せざるを得ない。カレンダー業界では、20年版に新元号を盛り込めるのか、危ぶむ向きもある。
いずれも、予期せぬエラーや見落としが心配だ。静かな環境のもとでの代替わりとするためにも、混乱を未然に防ぐ対応を願いたい。
[京都新聞 2018年05月20日掲載]
iPS心筋移植 安全優先し効用実証を
iPS細胞(人工多能性幹細胞)による再生医療の本格的な実用化への試金石となりそうだ。
iPS細胞から作った「心筋シート」を重症心不全患者に移植する臨床研究を厚生労働省が了承した。澤芳樹大阪大教授らのチームが本年度内にも着手する。
日本人の死因第2位で、患者数が多い心臓病に対するiPS細胞による世界初の治療となる。生命に直結する臓器だけに安全性を最優先し、慎重、着実に新たな治療法を実証してもらいたい。
山中伸弥京都大教授らが作製に成功したiPS細胞は、さまざまな細胞に変化する。再生医療の切り札とされ、既に目の疾患で臨床研究が進んでいる。
計画では、虚血性心筋症が原因で重症心不全となった3人の患者が対象になる。京大が備蓄する拒絶反応が起きにくいiPS細胞を心筋細胞に変化させ、直径数センチの薄い膜状の心筋シートに加工し、患者の心臓に直接貼る。移植した心筋細胞から出るタンパク質によって心臓が血液を送り出す機能などの改善が見込めるという。
チームは患者自身の太ももの筋肉細胞から作製した細胞シートを開発しているが、心筋シートの方が高い効果が期待できるとみている。重い心不全の治療法の新たな選択肢になりそうだ。
心臓疾患で移植を待つ患者は国内に650人以上いるが、臓器提供を待ちながら亡くなるケースが多い。心筋シートによる治療が移植までの橋渡しとなれば、患者にとっては希望の光と言えよう。
とはいえ開胸手術が必要で、患者の負担は少なくない。また他人の細胞を使うことによる拒絶反応が懸念される。移植する細胞の数も1億個程度と桁違いに多く、心筋細胞になっていない細胞が残っていればがん化したり、不整脈につながるリスクもある。
難易度は高く予期せぬ事態が起きる可能性も大きく、実施には慎重さが欠かせない。iPS細胞への期待に応え、後に続く治療を円滑に進めるためにも阪大には信頼性の高い研究を求めたい。
iPS細胞を使った再生医療は高額な費用がかかる。備蓄のiPS細胞を使うことで、品質を確保しながら、どの程度コストを抑えられるかの検証も欠かせない。
iPS細胞はパーキンソン病や脊椎損傷などの病理解明や治療で応用範囲は広い。一方で実用化に向けクリアすべき課題は数多い。拙速、過大な期待は避けつつも臨床研究の進展を見守りたい。
[京都新聞 2018年05月19日掲載]
強制不妊提訴 国の不作為が問われる
旧優生保護法下で障害などを理由に不妊手術を強制されたとして、北海道、宮城県、東京都の70代の男女3人が、国に損害賠償を求める訴訟を札幌、仙台、東京の各地裁に起こした。
今年1月に全国初の訴訟を起こした宮城県の60代女性に続く提訴で、子を産むかどうかの自己決定権を奪われ、憲法に定められた基本的人権を踏みにじられたなどと訴えている。
国はこれまで「当時は適法だった」としてきたが、人の命に優劣をつけ、選別してきた人権侵害が許されてよいはずがない。裁判の結果にかかわらず、被害の現実と正面から向き合い、早期に被害者全員の救済を図るべきだ。
「不良な子孫の出生防止」を目的に1948年に施行された旧優生保護法は、96年に障害者差別に当たる条文が削除され、母体保護法に改定された。
98年に国連の委員会は被害者補償の法的措置をとるよう勧告したが、国は20年も放置してきた。なぜ被害救済の措置をとらなかったのか。国の「不作為」が問われるのは当然である。
厚生労働省に残る統計では、1万6475人が強制不妊手術を受け、京滋では少なくとも377人が対象となった。ほかに同意の上で受けたとされる人も9000人近くおり、やむなく同意させられた場合も多いとみられる。
被害者の高齢化は進んでいる。国会では与野党の議員らが被害者救済法案を議員立法で作成するため議論を始め、国も実態調査を進めている。27日に結成される全国被害弁護団も、救済の早期実現に向け被害者の受け皿としての役割を強化する方針だ。
ただ手術記録の残っていない被害者は約8割を占める。記録のあるなしで救済の有無が分かれることがあってはならず、被害事実をどう認定するかが課題になる。
同様の手術はスウェーデンやドイツでもあったが、両国は裁判を経ずに謝罪し、被害認定をしやすくして救済に踏み出した。そうした経験だけでなく、手術痕など4条件を満たせば手術の事実を認めている宮城県の例なども救済の参考になろう。
優生保護法は過去のものとなったが、差別を生む優生思想が社会から消えたわけではない。自由や人権、民主主義をうたった戦後、強制不妊という人権侵害がなぜ半世紀近くも維持されたのか。悲劇を繰り返さないために、裁判ではその解明も必要だ
女性の議会進出 多様な声届ける道開け
女性の議員を増やし、活躍を促す「政治分野の男女共同参画推進法」が成立した。
超党派の議員立法で、国会の全会一致で可決した重みがある。すべての政党が自覚し、法の理念をどう実行に移すか、各党の本気度が問われる。
国や地方の議会選挙で、投票率の低下傾向が続いている。多様な有権者の思いはどうせ反映されない、といった冷めた意識がまん延していけば、民主主義の根幹を危うくする。
社会の半数を占める女性が、政治の場では少数にとどまっているいびつさをなくすことは、大きな意義を持つ。民主主義の進化に向けた一歩であり、多様な人たちの政治参画にも道を開くはずだ。
新法は、国会や地方議会の議員選挙で、候補者数を「できる限り男女均等」にするよう政党に促している。候補者数の目標設定に努めることも規定する。
あくまで理念法で、罰則はなく、努力義務にとどめている。女性に議席や候補者を割り当てる「クオータ制」でないため、実効性には疑問符が付く。
だからこそ、各党の取り組みがカギを握ることになる。それぞれ党内事情や議員の意識差はあろうが、ここは議会史上を画する改革のときと覚悟すべきだ。
来年春の統一地方選、夏の参院選で各党はどんな対応を示すのか。有権者は数値で見極めたい。
2017年の女性国会議員の比率を各国比較でみると恥ずかしくなる。列国議会同盟によると日本は10・1%、193カ国中158位と先進国7カ国で最低だ。
女性の社会進出がめざましい世界の流れに、日本は取り残されていることの反映にも見える。欧米で女性のセクハラ告発が高まる中で、日本では官僚や政治家のセクハラ発言が横行する昨今だ。
新法は議会で男女均等となる環境整備をうたっている。女性が育児や家事を負担している現状を踏まえ、付帯決議で男女を問わず家庭生活と議員活動の両立支援を求めている。
女性議員を増やしていく過程で、議会が変わっていくのではないか。たとえば男性中心で深夜に及ぶ審議が当たり前だったのが見直され、子連れにも配慮した議会になれば、生活者である有権者が近づきやすくなる。
女性議員を増やすための人材育成も掲げられている。
ようやくできた法だが、育てないと意味がない。政党や議員がしっかり努力しているか、有権者の見定めが大切になってくる。
[京都新聞 2018年05月18日掲載]
日大アメフット 危険プレー繰り返すな
何度見ても、負傷した選手の痛みが生々しく伝わってくる危険なプレーである。スポーツマンらしからぬ卑劣な行為に、怒りを募らせる人が多いのではないか。
アメリカンフットボールの日本大と関西学院大の定期戦で、日大選手が行った。なぜ、このようなことが生じたのか、日大の責任者は明らかにしてほしい。
問題のプレーがあったのは、試合開始早々だった。
関学大のクオーターバック(QB)がボールを投げ終わって力を抜いているところに、日大の守備選手が背後からタックルした。
QBは転倒し、腰の靱帯(じんたい)を損傷するけがをした。
無防備な選手への「ひどいパーソナルファウル」という反則である。競技団体によって、日大の当該選手は対外試合出場禁止処分、内田正人監督は厳重注意処分となった。ペナルティーが科されるのは、当然のことだろう。
関学大の抗議に対する回答で日大は「心より謝罪する」としたものの、「意図的な乱暴行為を選手に教えることはない」と主張した。これは素直に受け取れない。
アメフットは、組織的な作戦が勝敗を左右する競技であり、各選手は指令を受けて、動いているからだ。内田監督が、試合前に相手QBを負傷させる趣旨の命令をしていた、との話もある。
こうした点を踏まえたうえで、当該の危険プレーがなぜ起きたのかを、日大は説明しなければならないはずだ。
関学大が「疑問、疑念を解消できておらず、誠意ある回答とは判断しかねる」としたのは、うなずける。
日大の監督ら責任者が、負傷した選手に直接、謝罪することも必要だ。
日大は24日までに関学に再回答するそうだが、具体的な説明とともに、実効性のある再発防止策を打ち出してもらいたい。
危険プレーを受けて、関学大が定期戦を行わないことに言及している。法政大、東京大、立教大、明治大、成蹊大は、予定されていた日大との試合を中止した。
楽しみにしていたファンにとっては、残念なことだろう。
日本アメリカンフットボール協会は、スポーツ庁に出向いて経緯などを報告。ホームページに、危険なプレーの防止を求める文書も掲載した。アメフットの競技関係者・団体すべてが、危険プレーを繰り返さないよう、さらに努力を積み重ねるべきだ。
[京都新聞 2018年05月18日掲載]
スルガ銀融資 不正行為の全容解明を
高収益を上げ、地方銀行の「優等生」とも言われてきたスルガ銀行で、ずさんな融資がまん延していたことが明らかになった。
経営破綻した「スマートデイズ」(東京)が手がけた女性向けシェアハウスの物件所有者の大半に購入資金を融資していた。その際、提出された書類の預金残高などが改ざんされ、多くの行員が改ざんを認識していたという。
コンプライアンス(法令順守)や顧客保護意識の欠如が指摘されるのは言うまでもない。
公表された社内調査の結果によると、融資総額は2018年3月末時点で2035億円、顧客は1258人に上る。
営業部門の幹部が審査部をどう喝するなど圧力をかけ、審査機能が十分に発揮できていなかった。「増収増益の全社的プレッシャー」があったという。
大半の貸し出しはスルガ銀の横浜東口支店に集中しており、本店の役員にも融資の報告が上がっていたとの情報もある。
厳格さが求められる銀行の融資審査で、バブル期を思わせるような不正行為が常態化していたことに驚かされる。
かつての教訓がなぜ生かされなかったのか。問題の全容を解明し、責任の所在を明らかにしてほしい。
金融庁の監督責任も問われなくてはならない。
問題が表面化したきっかけは、全国の地方銀行が扱いを広げたアパートローンに対し、供給過剰だとして金融庁が健全でないとの見方を強めたことだった。
しかし、スルガ銀を「特異なビジネスモデルで継続して高収益を上げている」(森信親長官)と高く評価してきたのも当の金融庁である。
人口減と地域経済の伸び悩み、さらには低金利で、地方銀行の経営環境は厳しさを増している。金融庁は地銀側に新たな収益源の確保を求めてきた。
長引く低金利政策が銀行経営をゆがめ、モラル低下を招いている可能性がある。他にも不正行為はないか目を光らせるべきだ。
安定した老後を夢見た物件所有者は借金の山に苦しんでいる。支援する弁護団は有印私文書偽造の疑いで刑事告発する方針だ。
投資側にリスク認識が求められるのはもちろんだが、先行き不透明な時代に、老後の不安をくすぐるような営業活動が広がっていないか懸念される。うまい話はないと改めて肝に銘じたい。
[京都新聞 2018年05月17日掲載]
働き方改革法案 信頼性が揺らいでいる
法案の根幹が揺らいでいる。一から出直すべきではないか。
働き方改革関連法案をめぐる労働時間調査に異常値が見つかった問題で、厚生労働省は調査対象のうち約2500事業所のデータを削除し、再調査結果を公表した。
調査対象は1万1575事業所で、2割のデータが削除された。
安倍晋三政権が今国会の最重要法案と位置づける働き方改革関連法案は、この調査を基礎資料として労働政策審議会で議論し、国会に提出された。法案の信頼性が損なわれたといえないか。
問題の「2013年度労働時間等総合実態調査」では今年3月、裁量労働制で働く人のデータについて異常値が多数見つかり、厚労省が再調査していた。
安倍首相は「裁量制で働く人の方が一般労働者よりも労働時間が短いとのデータがある」と国会で答弁していたが、異常値に基づいていたため、撤回に追い込まれた。関連法案から裁量労働制の対象業務を拡大する部分も撤回した。
今回、公表された再調査結果では、撤回ずみの裁量労働制で働く人のデータに加え、一般的な労働者が働く事業所についても、「1日の残業が24時間を超える」といった異常値が見つかり、これらを併せて削除した。
なぜこんな事態になったのか。
調査は、各地の労働基準監督官が企業を訪問して行った。厚労省は、調査票の記入方法を徹底していなかった、と説明している。
一方、調査にあたった監督官らからは、事前準備や説明、実際の調査時間が明らかに不足していた、という声があがっている。
加藤勝信厚労相は「9千超の事業所を調査し、統計上も有意だ」と説明するが、問題は本当に削除分だけだったのだろうか。
そもそも、労働時間については独立行政法人の労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査がある。
JILPTの調査では、裁量制に満足している人にも、業務量の増加などの問題点を指摘する声があった。
労政審は、急ごしらえの調査ではなくJILPTの調査を基に議論すべきだった。
働き方改革法案を巡っては「高度プロフェッショナル制度」の審議が始まり、与党は会期内の成立を目指している。
一方で、過労死遺族らからは「究極の裁量労働制」との批判がある。
看板政策とはいえ、根拠も議論も不十分なままではないか。成立ありきは許されない。
[京都新聞 2018年05月17日掲載]
新潟女児殺害 通学路の「死角」なくせ
奪われた小さな命は戻ってこない。
新潟市の小学2年の女児(7)が殺害された事件で、近所の男(23)が死体遺棄などの容疑で逮捕されたが、遺族の悲しみを思うと言葉もない。
線路に遺体を遺棄するむごい事件だ。男は容疑を認めているが、殺害についてはこれからの調べとなる。動機や手口など事件の全容を解明することで、再発防止につなげなければならない。
女児は学校から下校中に1人になり、もう少しで帰宅という時に連れ去られたとみられる。
通学路の安全にいま一度目を向ける必要がある。
登下校中に児童が犯罪に巻き込まれる事件は後を絶たない。2004年~05年には奈良、広島、栃木で、いずれも小1女児が男に連れ去られ、殺害される事件が相次いだことを思い起こす。
13歳未満の子どもが被害者になる犯罪は02年以降、減少傾向にあるが、それでも16年中の殺人は74件、強制わいせつ893件、略取誘拐も106件に上る。
警視庁管内の調査だが、子どもへの犯罪の前兆となり得る声掛け事案は、45・9%が登下校中に発生し、新潟の女児と同じ小学2年から5年が多く狙われている。こうした前兆を地域の防犯に生かすようにしたい。
子どもたちに身の危険をどう教えたらいいのか。家族は心配だろう。警察庁がホームページで人気漫画「名探偵コナン」を使い、事件を防ぐ合言葉「つみきおに」を広めている。
「ついていかない」「みんなと、いつもいっしょ」「きちんと知らせる」「おおごえで助けを呼ぶ」「にげる」。子どもと一緒に防犯を考えてはどうだろう。
文部科学省の15年調査では、通学路の安全点検を小学校の99・3%が実施、保護者や住民による見守り活動を幼稚園・小学校の84・7%が取り組んでいる。通学路の安全マップも小・中学校の47・0%が作っている。
学校には安全計画の策定が義務付けられているが、不断の検証と改善が欠かせない。人通りや照明など地域の環境を、学校と地域、保護者、子どもたちで何度も点検し、変化に合わせて実践的に見直すことが大切だ。
新潟の事件では、女児が1人になった場所に見守りがなく、「死角」となったことが悔やまれる。地域だけでは限界がある。社会全体で死角をなくす方策を見いだし、子どもたちを守りたい。
[京都新聞 2018年05月16日掲載]
加計問題 うやむやでは終われぬ
真相をうやむやにしたまま、国会会期末まで乗り切るつもりなのだろうか。
「加計学園」の獣医学部新設問題を巡る安倍晋三首相の国会答弁を聞いていると、そうとしか思えない。「丁寧な説明」や「うみを出し切る」といった国民への約束はどうなったのか。
柳瀬唯夫元首相秘書官は、首相の別荘での出会いをきっかけに官邸で学園関係者と2015年に3回面会し、国家戦略特区の話をしたことを先週の参考人質疑で認めた。
獣医学部新設に関し、民間と面会したケースはほかになく、今治市や愛媛県とともに新設を目指した新潟市、京都府とも面会はしていない。厚遇ぶりは明らかだ。
面会の報告を首相にしていないと述べた答弁についても、国家戦略特区という安倍政権の看板政策なのに、一言も報告を上げないのは不自然との見方が元官僚らからも出ている。
加えて、柳瀬氏が「本件は、首相案件」と述べたとされる愛媛県文書の内容を否定したことについては、中村時広知事が「全ての真実を語っていない」などと批判している。
だが首相は、14日の衆参予算委員会集中審議で柳瀬氏の答弁を擁護し、面会や報告の件を問題にせず、愛媛県文書との矛盾が指摘されても「誠実に答弁した」などとかわし続けた。
これでは「加計ありき」の疑惑は払拭できないどころか、「うみ」がたまるだけではないか。
共同通信の世論調査では、柳瀬氏の国会での説明に対し「納得できない」が75%に達した。
なのに首相は、言葉とは裏腹に一貫して真相解明に消極的だ。野党が中村知事や学園の加計孝太郎理事長の国会招致を求めても「国会が決めること」と突き放し、指導力を発揮しようとしない。
そもそも首相の関与が疑われるのは、加計氏と長年の友人であるからだ。自民党国対筋からは集中審議後、「新事実は出なかった」と幕引きを図る声が出ているが、疑惑を残したまま終わるわけにいかない。
首相は、新設された獣医学部の入試倍率が20倍に上ったと強調し、「若い人たちの希望をふさいでいたゆがめられた行政を正した」と開き直りともとれる発言を重ねた。
だが問題は、獣医学部新設の決定過程が公平、公正に行われたかの一点にある。はぐらかしてはならない。
[京都新聞 2018年05月16日掲載]
京大立て看板 景観考えるきっかけに
京都市の屋外広告物条例に違反するとして京都大は13日、学生が設置している吉田キャンパス周辺の立て看板を撤去した。
一部の学生は「表現の自由を奪う」などと反発。午後には撤去に抗議する看板が設置された。
市は新景観政策の一環で屋外広告物条例を改正し、2007年から規制を強めた。屋外広告物とは「常時または一定の期間継続して屋外で公衆に表示されるもの」で、商業広告以外の営利を目的としないものも含まれる。
全国的な企業の看板が、京都では落ち着いたデザインになっていることはよく知られている。
市は立て看板についても、法令違反を是正するよう京大に指導してきた。京大は設置を学内の指定場所に限定する新ルールをつくって今月から適用した。
門川大作市長は「大学だけを例外とするわけにはいかない」と説明する。
市民の共有財産である景観を守るという条例の趣旨に照らすと、学生の立て看板であっても特別扱いできないというのはその通りだろう。
一方で今回の問題は、大学文化の一つとも言われる立て看板を通じて景観とは何か、京都らしさとは、といったことを改めて問い掛けているようにも思える。
立て看板は学生運動が盛んだった1960年代には登場したという。多くの大学では見られなくなり、京大らしい「名物」としても存在感が高まった。
いうまでもなく京都は学生のまちでもある。一般的な商業看板とは違う歴史的、文化的な側面があるともされる立て看板に「目くじらを立てなくても」と考える市民もいるだろう。
気になるのは、大学当局の対応が一方的に見えることだ。話し合いを求める学生の要求に応じなかったのは、学生の自治への配慮に欠けたのではないか。
今回の撤去も、即時撤去を求める通告書は貼られていたが日曜の早朝に突然実施された。教育機関としては課題について学生側とオープンに議論することが求められる。
規制がある一方で「良い景観とは何か」は人それぞれの価値観にも左右される。現在の京都の景観をどう評価するかについても、さまざまな意見があるはずだ。
京大の看板問題はこうしたことを考える一つの契機となる。学生の問題提起を受けて、私たちのまちの景観について議論を活発化させたい。
[京都新聞 2018年05月15日掲載]
米大使館移転 中東を不安定にする愚
中東和平交渉の仲介者としての、米国の信用を自ら損ねる行為だ。イラン核合意からの離脱に続き、身勝手な国際秩序破壊と言わざるを得ない。
トランプ米政権が、在イスラエル大使館を商都テルアビブからエルサレムへ移した。歴代政権が言及しつつも棚上げにしてきたエルサレムの首都認定、大使館移転を実行したことで、東エルサレムを将来の独立国家の首都と位置付けるパレスチナと、米・イスラエルとの亀裂は決定的だ。
トランプ大統領は、停滞している和平交渉を動かす狙いから、新たな仲介案を提起するとしている。だが先にエルサレムの帰属問題に手をつければ、どんな新提案を示そうとパレスチナが態度を硬化させるのは明白である。
パレスチナ自治政府のアッバス議長はすでに、米国による一切の仲介の拒否を表明し、多国間の枠組みづくりを国連に要請している。一方のイスラエルには米国抜きの和平交渉に応じる気はなく、展望は全く開けない。
国をもたないパレスチナ人の国家を将来樹立し、イスラエルとの「2国家共存」を目指すとしたオスロ合意(1993年)を米国が一方的に揺るがす。合意を支持する国際社会からの非難は当然だ。
大統領就任以来、トランプ氏は環太平洋連携協定(TPP)、パリ協定、イラン核合意と次々に国際協調からの離脱を宣言してきた。長年にわたる複雑な中東対立の根幹に火をつけかねない点で、今回はより深刻だ。しかも、ここでもトランプ氏の念頭にあるのが外交戦略より自らの選挙対策とみられることに暗然とさせられる。
イスラエル建国宣言70年の日に合わせた大使館移転は、米国内の親イスラエル派へのアピールを計算してのことだろう。目先の利益優先の行動はトランプ氏の繰り返す「米国第一」ではなく、「自分第一」と言うべきものだ。
与党共和党の支持者が移転強行を一様に歓迎しているわけではなく、実際に政権浮揚につながるかは見通せない。和平が遠のくことで中東から希望が失われ、憎しみと暴力が世界に拡散するリスクの方がはるかに大きいだろう。
トランプ政権は、中東において対イランで連携するサウジアラビアなどが、米国批判のトーンを抑えることを見込んでいるふしもある。北朝鮮と向き合う日本政府も6月の米朝首脳会談を控え、及び腰のようだ。だが、言うべきことは言う関係こそが重要だ。
[京都新聞 2018年05月15日掲載]
原発4基再稼働 多重事故への備えない
安全性や避難体制が確立されないまま、原発の再稼働を続けていいのだろうか。
関西電力大飯原発4号機が再稼働した。
福井県内では昨年、関電高浜3、4号機、今年3月には大飯3号機がそれぞれ再稼働した。これで、近接する4基の原発が同時に動いている状態になった。
原子力規制委員会の審査に合格し、福井県知事の同意も得てのことだが、事故時の避難計画は、両原発が同時に事故を起こすことを想定していない。
両原発は14キロしか離れていない。関電は美浜原発3号機など他の3基の再稼働も目指す。京都府や滋賀県の住民にとっては、重大な問題だ。
京都府の西脇隆俊知事は関電に安全対策の徹底を求め、滋賀県の三日月大造知事は再稼働反対の姿勢を明確にした。
東京電力福島第1原発の事故の後、国は原子力災害対策指針などで避難する手順を決めた。
重大事故が起きれば、周辺住民は放射能汚染の検査を受け、府県境を越えて避難する。
大飯原発の場合、広域避難計画に基づき、30キロ圏内の住民15万8千人が避難経路の途中で検査を受ける。京都や滋賀の住民も含まれる。
まず車を検査し、基準を超えた場合は人も検査し、必要なら除染作業も行うが、混乱なく進むとは限らない。入念に行えば避難が遅れ、不十分なら避難先とのトラブルが起きかねない。
天候にも影響される。福井県内では今年2月、国道8号で1000台を超える車が豪雪で3日間にわたって立ち往生した。国道8号は避難経路の一つである。
政府は、同時事故を想定した防災訓練を今夏に実施し、避難計画の実効性を検証するという。なぜ、それまで待てないのだろうか。仮に避難計画の実効性に問題があれば、運転を取りやめるのか。理解に苦しむ対応だ。
再稼働に伴い、使用済み核燃料も積み上がる。関電の原発の敷地内にある貯蔵プールは約10年で満杯になる。関電は中間貯蔵施設の候補地を福井県外で探しており、今年中に明らかにする方針だが、難しいとの指摘もある。
日本原電は東海第2原発について、立地の東海村だけでなく、周辺5市からも同意を得る協定を結んだ。関電も、安定稼働を目指すなら同様の対応を取るべきではないか。
[京都新聞 2018年05月14日掲載]
京のホテル まちの空洞化が心配だ
訪日外国人観光客の増加を受け、京都市の中心部で急激なホテル開発が進んでいる。開業ラッシュに加え、新規建設の計画も相次ぐ。市内のホテル客室数は2017年からの4年間で57%増の見通しだ。東京、大阪など全国主要8都市で飛び抜けた伸び率となる。
京都経済に一定の活気を与える半面、このまま進めば供給過剰になる恐れを指摘する声が上がり始めた。空前のホテルブームが地価の高騰を招いており、若者がまちなかに住めず、京都市外に流出していることも判明。まちの空洞化への懸念は強まっている。工事や利用客による騒音など、住民生活を乱すトラブルも後を絶たない。
市は一昨年、宿泊施設の拡充・誘致方針を定めて積極的な取り組みを進めてきたが、そろそろ立ち止まって検証する時に来ているのではないか。市にとって観光産業が重要なことは当然としても、余りに急な開発は古都に似つかわしくなく、将来のまちづくりに禍根を残しかねない。何より市民の暮らしに影響が大きすぎる。
6月に施行される住宅宿泊事業法で解禁となる民泊の動向も踏まえ、ホテルの現状と計画を精査した上で、柔軟に市方針を再検討することを求めたい。
京都新聞が昨年12月に独自集計したところ、15年度末からの5年間で少なくとも市内の宿泊施設の客室数は4割増、約1万2千室増える見通しと分かった。市は東京五輪が開かれる20年までの5年間で「新たに1万室が必要」として拡充・誘致方針を策定したが、オーバーするとの試算である。
それでも市は「まだ外国人の富裕層向けが足りない」と強気の姿勢をみせるが、今年に入っても外国や東京の資本が次々と新規ホテル計画を発表していることから、議会与党や経済界などからも「京都の風情が変わるほどの急増は好ましくない」「五輪後に供給過剰になり、撤退するのではないか」との声が強まってきた。
懸念を調査が裏付ける。民間調査では、競争の激化で市内ホテルの収益率の伸びに陰りが出ている。市が昨年末、子育て世代の30代を対象に年間の転出入状況を調査したところ、地価の高い市内を避け、周辺自治体に約1200人の転出超過となっていた。
一方、京都市以外の府内市町村ではホテルの立地がほとんど進んでいない。市は府と連携して一極集中の観光・宿泊を分散するなど、新たな京都観光の創出に向け、度量と指導力を示してほしい。
[京都新聞 2018年05月14日掲載]
コンパクトな街 自治体の手腕が問われる
「コンパクトシティー」という言葉がよく聞かれるようになった。まちづくり政策として国が推進し、地方自治体の取り組みが活発化している。
市街地中心部に住宅や病院、商業施設、市庁舎などを集約する政策だ。急激に進む人口減少や少子高齢化が背景にある。
戦後、モータリゼーションに伴い、大型店が道路沿いに進出。郊外開発で住宅地が広がる一方、中心市街地や駅前商店街の空洞化が進んだ。
人口減によって財政難に直面する自治体は、ごみの収集や雪国での除雪などの経費負担がのしかかる。将来、存続が危ぶまれる「消滅可能性都市」が増えるといわれる。
これらを解決する政策として注目されるようになった。まちをコンパクト化し、高齢者の生活維持や行政コスト削減を図ろうというわけだ。
国は2014年に都市再生特別措置法を改正。「立地適正化計画」を策定した自治体は、国から支援を受けられる。
今年3月には国土交通省と内閣府が32市町をコンパクトシティーのモデル都市に選んだ。交付金などで重点支援する。
京滋でも多くの自治体で、この考えに沿った取り組みが広がっている。
舞鶴市はこのほど、まちの将来像を示す都市計画マスタープランを新たに策定した。東、西舞鶴駅を中心とした地域を「まちなかにぎわいゾーン」とし、中心市街地2カ所に商業、公共施設や病院を集約させる。
建設の是非を巡って昨年11月に住民投票が実施された野洲市の駅前市立病院計画も、この流れを踏まえた施策という。
京都新聞社加盟の日本世論調査会の調査(14年9月)によると、コンパクトシティーの取り組みを進めることに肯定的な意見が55・6%と否定的の37・4%を上回った。
しかし、理念としては賛成できても、既存の居住地域も含めた「まちの集約」を実現することは容易ではない。
住み慣れた地域を離れたくない人も多いだろうし、点在する農村集落などをコンパクト化するのは実際には困難だ。何より憲法には「居住移転の自由」が保障されている。
区域を絞って集約を進めることになるのではないか。その際に中心部以外の利便性が低下し、住民の間に不公平感が生まれる可能性もある。
先行事例として注目される富山市は公設民営でLRT(新型路面電車)を導入し、中心部への居住推進のため共同住宅の建設補助などを実施した。
一方、青森市は官民が連携して建築した駅前複合施設の経営悪化が深刻になり、市長が引責辞任している。
コンパクト化を掲げても郊外開発が続く例は多い。助成制度で国が誘導するだけでは限界があり、地域の特性を踏まえた自治体の手腕が問われる。
実効性を慎重に見極めた、息の長い取り組みが求められる。その大前提として、まちづくりへの住民の関心をいかに高め、意見を集約していくかが重要になるのではないか。
[京都新聞 2018年05月13日掲載]
米朝会談開催へ 段階的非核化に要注意
世界の安全保障に関わる史上初の米朝首脳会談が、来月12日にシンガポールで開かれることになった。トランプ米大統領が、明らかにした。
米国は北朝鮮に、「完全かつ検証可能で、不可逆的な非核化」を強く求めている。日本など関係国や東アジアだけでなく、世界の願いでもある。
その実現に向けた会談の実施が、確たるものになってきた。何としても成果を挙げてもらいたいと、誰しも思っているだろう。
トランプ氏は3月に金正恩朝鮮労働党委員長との会談に応じる意向を表明したものの、北朝鮮の動向によっては開かれない可能性もあると含みを持たせていた。
その後、事態があまり進展せず、米朝間の水面下の交渉が難航しているとの見方も出ていた。
開催日と場所が決まったのは、会談での合意の方向性に、一定のめどが付いたからではないか。
発表前に北朝鮮は、拘束していた米国人3人を解放した。米側の要求に応え、会談実現への本気度を示したといえよう。
この調子で、両者は歩み寄りを続けてほしい。
開催地のシンガポールは、米朝双方と国交があり、過去に非公式な交渉も行われたという。中立性は担保されそうで、会談の舞台としてふさわしい。
来月12日という日程にも着目したい。8、9日の先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)の直後である。米国は、各国の要請を受けて北朝鮮との話し合いに臨む姿勢を示す機会とすべきだ。
サミット期間中には、日米首脳会談が行われる可能性もある。安倍晋三首相は、大量破壊兵器の廃棄とともに、日本人拉致被害者の帰還を北朝鮮に求めるよう、トランプ氏に働き掛けるはずだ。
米朝会談で、拉致問題の解決に向けても、何らかの進展がみられることを願いたい。
果たして、「完全かつ検証可能で、不可逆的な非核化」は、期限を設定したうえで、達成されるのだろうか。
北朝鮮は、過去に何度も合意を無視して核・ミサイル開発を続けてきた。金氏は先日の文在寅韓国大統領との南北首脳会談で、「核のない朝鮮半島」を目指すとしたが、米国の要求を丸のみするとは考え難い。
体制の保証と経済制裁の緩和を求め、時間稼ぎともいえる「段階的な非核化」を持ち出してくるとの予想もある。だが、これを安易に認めてはならない。
[京都新聞 2018年05月12日掲載]
マレーシア 政権交代の意義大きい
マレーシア下院選で、元首相のマハティール氏率いる野党連合が汚職撲滅や消費税廃止を訴えて勝利し、1957年の独立以来、初めての政権交代が実現した。
マハティール氏の知名度とカリスマ性を生かし、ナジブ政権の強権体質や公金流用疑惑に対する国民の不満を吸い寄せた形だ。
マハティール氏は2003年まで22年間、首相を務め、工業化を進めて東南アジアでいち早く経済発展を成し遂げた実績を持つ。
だが、今回は健康が不安視される92歳での再登板である。寄り合い所帯の新政権をまとめ、多民族融和や国民の所得向上といった課題に応えていけるのか、未知数の部分が多い。
日本とも結びつきが強い国であり、混乱を避け、民主化の道を着実に進めてほしい。
マレーシアは近年4%超の成長を続けているが、ナジブ政権が15年に導入した6%の消費税で生活が苦しくなったと訴える国民は多い。加えてナジブ氏の政府系ファンドからの不正流用疑惑が浮上、国民の不信感が高まっていた。
ナジブ氏は、フェイク(偽)ニュースを発信した個人や団体に罰金や懲役を科す法律を施行して政権批判の封じ込めを図り、与党に有利となるよう選挙区の区割り変更まで強行した。
それでも野党側は、与党の支持基盤だった多数派のマレー系住民の票まで取り込んで過半数を獲得した。ナジブ政権への国民の反発がいかに強かったかを物語る。
ナジブ氏への批判から野党に転じて選挙に臨んだマハティール氏は、かつて「国内治安法」を使って野党指導者らを逮捕し、言論や集会を厳しく制限するなど強権的なやり方を進めた経緯がある。同様の手法を繰り返すなら、国民の期待は一気にしぼみかねない。
就任後初の記者会見では、ナジブ政権時代の政策を見直し「抑圧的で不公平な法律は廃止する」と明言した。
政権寄りと言われる司法や選挙管理委員会の改革なども含めて、国民の不満解消をどう進めていくかが問われよう。
東南アジアでは、軍政の言論統制や独裁色を強める政権による野党弾圧など民主化に逆行する動きが加速している。そんな中、60年以上無風だったマレーシアで政権交代が起き、圧政の下でも国民が政府を自らの手で選べる自信を得た意義は小さくない。
流れが変わる契機となることを期待したい。
[京都新聞 2018年05月12日掲載]
アメフット会見 2018年05月25日
イタリア新政権
森友交渉記録
日報問題で処分
加計問題新文書
国民投票法
要介護高齢者
是枝監督の受賞
終盤国会
滋賀の自立支援
新元号公表
iPS心筋移植
強制不妊提訴
女性の議会進出
日大アメフット
スルガ銀融資
働き方改革法案
新潟女児殺害
加計問題
京大立て看板
米大使館移転
原発4基再稼働
京のホテル
コンパクトな街
米朝会談開催へ
マレーシア 2018年05月12日
アメリカンフットボールの悪質な反則問題で、関西学院大の選手を負傷させた日本大の選手と、内田正人前監督らが相次いで記者会見した。
会見で双方の主張は食い違いをみせ、真相究明は混迷の度合いを増している。大学として今回の問題をどう受け止めるのか、日大の姿勢が問われる。
焦点となっている危険なタックルについて、会見した20歳の選手は前監督とコーチの指示に従ったと説明した。
「相手をつぶせ」などの指示を「けがをさせろ」と解釈したという。「やらないという選択肢はなかった」と追い込まれた心情について生々しく語った。
これに対し、選手会見の翌日夜に緊急会見を開いた前監督は、タックルは「私からの指示ではない」と否定。プレーは「予想できなかった」と責任転嫁のような発言に終始した。
すでに試合から2週間以上が経過し、責任者による説明が遅すぎた。その上、選手の発言を否定するために急きょ会見を開いたかのような大学側の対応には、首をかしげざるをえない。
問われているのは、なぜこんなプレーが行われたか、ということである。選手を追い込んだのは一体何だったのか。
選手は「やる気が足りない」と実戦練習から外され、「つぶせば(試合に)出してやる」とコーチを通じ伝えられたという。指導の在り方は妥当だったのか。
前監督が語るべきは、そうした根本のことであり、「指示があった」「なかった」というだけの話ではないはずだ。
少子化の影響で学生の確保が多くの大学の課題となっている。スポーツが大学の広告塔となり、本来の在り方をゆがめているとの指摘は以前からある。
問題がさらに深刻化し、過剰な勝利至上主義を招いている可能性がある。アメフット以外にも有力部を抱える日大は真剣に向き合い、再発防止に取り組むべきだ。
折しも、スポーツ庁は全米大学体育協会(NCAA)を参考にした統括組織「日本版NCAA(仮称)」を来春創設する方針だ。
そこでは安全対策などにも取り組むとしているが、「ビジネス化」の側面が強く、さらなるゆがみをもたらさないか心配だ。
大学スポーツは教育の一環で、選手のためのものでなくてはならない。今回の事案を、あるべき姿を取り戻すきっかけにしたい。
[京都新聞 2018年05月25日掲載]
イタリア新政権 欧州揺るがす火種、また
2カ月半続いた政治空白が解消されるとはいえ、欧州統合を揺るがすポピュリズム(大衆迎合主義)の再燃を危ぶまざるを得ない。
3月の総選挙でどの勢力も過半数に達しなかったイタリアで、新興組織「五つ星運動」と右派政党「同盟」の連立協議がまとまり、政権発足へ新首相が指名された。
五つ星運動は反エリート、同盟は反移民を掲げ、総選挙で躍進した。政策的な隔たりは決して小さくないが、欧州連合(EU)に懐疑的な点では共通している。既存体制への国民の不満を取り込み、ポピュリズム色の濃い政権となる可能性が高い。
欧州では昨年3月のオランダ下院選、5月のフランス大統領選でポピュリスト政党が敗北し、その旋風は弱まるかとみられていた。
ところがイタリア総選挙に続いて、今年4月のハンガリーの議会選で反移民を掲げるオルバン首相の右派与党が圧勝。立場の近い東欧諸国の政権や、各国の極右政党が再び勢いづく流れにある。
グローバル化の恩恵が一部の大国に偏り、自分たちは低成長や移民・難民問題を甘受している-との意識は、東欧だけでなくイタリアでも広がる。ユーロ圏3位の経済国とはいえ、ドイツなどとの格差拡大が、人々の反EU感情の根底にあるようだ。
成長を求めるのなら、経済の構造改革へ思い切った踏み込みが必要になる。だが両党が連立協議で合意したのは、不法移民の取り締まり強化のほか、貧困層への最低所得保障、富裕層の減税といった財源の不透明なばらまき策だ。
課題を直視しない、同床異夢の連立という印象が否めない。新首相に政治手腕の未知数な法学者のコンテ氏を推したのも、当面の対立回避のための妥協策だろう。
無責任な公約、その公約が実現しないことによる政治混乱、さらなる大衆迎合-の悪循環に陥らないか気掛かりだ。排外的、保護主義的な世論の行方は、日本にとっても重大な関心事である。
東・中欧の国々と違い、イタリアはEUの前身、欧州共同体(EC)の原加盟国であり、本来なら独仏とともに欧州の統合深化をけん引する役割が期待される国だ。その国が反EUに傾けば、英離脱で結束の揺らいでいるEUをさらに不安定化させかねない。
幸い、五つ星運動は現実路線を模索する動きもみせている。一方のEUにも、イタリアに緊縮財政を厳しく迫るばかりでなく、柔軟な対応が求められよう。
[京都新聞 2018年05月25日掲載]
森友交渉記録 疑問の解明これからだ
「廃棄した」と国会で説明したはずの記録が大量にあった。国民に対する重大な背信行為である。
大阪府豊中市の国有地売却を巡り、財務省が森友学園との交渉記録を国会に提出した。未公表の改ざん前決裁文書も公表した。
国有地を不当に値下げして売却したのではないか、という野党の追及に対し、当時、理財局長を務めていた佐川宣寿前国税庁長官は、一切の記録が残っていないと繰り返し述べていた。
ところが今回、計約3900ページもの文書が出てきた。
佐川氏は「メールのやりとりや面会記録なども残っていない」と念押ししていたが、虚偽答弁だったことになる。
財務省は月内にも改ざんの経緯の検証報告を公表し、幹部を処分する方針だが、これで問題の幕引きを図るのは無理がある。
むしろ、課題がようやく出そろった状況ではないか。
明らかになった記録を国会で検証する必要がある。大幅値引きの背景に、首相夫妻の関与や官僚の忖度(そんたく)があったのではないか。佐川氏はなぜうそをついたのか。疑問は何一つ解明されていない。
交渉記録には、森友学園の籠池泰典前理事長が安倍昭恵首相夫人を通じた国有地の貸付料減額を要望し、当時の夫人付職員が2回にわたって財務省に問い合わせた内容も含まれていた。
職員は「(籠池氏から)優遇を受けられないかと総理夫人に照会があり、当方から問い合わせした」などと電話していた。
改ざん前の決裁文書には「本省相談メモ」とされる資料があり、昭恵氏が森友学園側に「いい土地ですから、前に進めてください」と発言したとの記録もあった。
昭恵氏側による「口利き」と受け止められても仕方がないのではないか。
安倍首相は改ざん直前の昨年2月17日に国会で「私や妻が関係していたならば、首相も国会議員も辞める」と発言していた。首相は今後、どう説明するのだろうか。
公表記録は財務省職員の手控えで、正式文書は佐川氏の答弁に合わせ破棄されたという。
佐川氏は理財局長当時、「法令に基づき破棄した」と述べていたが、実際は組織的な隠蔽(いんぺい)が行われていたといえる。公文書管理のあり方も見直しが急務だ。
佐川氏は大阪地検に告発されたが、立件見送りが伝えられる。真相を究明できるのは、もはや国会しかない。
[京都新聞 2018年05月24日掲載]
日報問題で処分 現場のミスで済まない
陸上自衛隊イラク派遣部隊の日報隠蔽(いんぺい)問題で、防衛省が経緯の調査結果を国会に報告し、関係職員17人を処分した。
担当者が防衛相の指示や情報公開への認識を欠いていたことが問題で、組織的隠蔽はなかったと結論づけた。「現場のミス」で決着させようとの意図が読み取れる。
真相解明には不十分な内容で、処分も形式的にみえる。再発防止につながるとも思えない。これで問題を終結させてはならない。
日報が陸自研究本部(現・教育訓練研究本部)で見つかったのは昨年3月27日、小野寺五典防衛相への報告は今年3月31日だ。約1年間も組織内に隠されていた。
発見から3日後、同本部にあった情報公開請求の問い合わせに、日報はないと回答していた。
調査結果では、日報の存在は同本部の幹部数人が把握していたが、稲田朋美防衛相(当時)へ報告の必要性はないと認識していたという。当時は、南スーダン平和維持活動(PKO)派遣部隊の日報問題を巡って稲田氏が国会で追及の矢面に立っていた時期だ。危機意識が欠けていたという以上に、なぜ報告不要と判断したのか、疑問が残る。
同本部が陸幕に日報の存在を報告したのは、発見から約9カ月たった今年1月12日、陸幕から統合幕僚監部に伝えられたのは2月27日だった。小野寺防衛相に知らされたのはさらに1カ月後だ。
重要な報告を速やかに省全体で共有しなかった理由は分かりにくい。組織的隠蔽ではないと言い切る根拠も不明だ。
関係者の意思決定や情報の伝達過程などを精査し、具体的な改善策につなげていく必要がある。その役割を担う国会の責任は重い。
ただ、日報の隠蔽というシビリアンコントロール(文民統制)を揺るがす事態を招いたことは、政治の機能不全も浮き彫りにした。
昨年2月、稲田氏は同省がいったん不存在とした日報について再捜索を指示したが、統合幕僚監部の背広組トップに「本当にないのか」とただしただけだったという。
今年4月には幹部自衛官が「国益を損なう」との暴言を野党議員に浴びせたが、小野寺防衛相は当初かばうような発言をし、懲戒処分にもしなかった。
こうした組織統制の甘さが、一連の隠蔽問題の背景にあるとも指摘されている。
実力組織である自衛隊をしっかり統率する責任を、政治の側はあらためて自覚してほしい。
[京都新聞 2018年05月24日掲載]
加計問題新文書 事実なら答弁は虚偽に
安倍晋三首相のこれまでの発言を、覆しかねない新たな文書が現れた。白黒を、はっきりさせなければならない。
学校法人「加計学園」の獣医学部新設を巡り、愛媛県の中村時広知事が、国などとの交渉経緯を記した新文書を国会に提出し、共同通信が入手した。
それによると、2015年2月25日に学園の加計孝太郎理事長が首相と面会し、愛媛県今治市に設置予定の獣医学部では、国際水準の教育を目指すと説明した。首相は「そういう新しい考えはいいね」とコメントしたという。
これまで首相は、獣医学部構想を知ったのは17年1月20日で、関与はないと明言してきた。
新文書の記載が事実なら、首相は虚偽の答弁をしたことになる。国民にうそをついたも同然で、政権の信頼性が大きく揺らごう。
知事によると新文書は、国会の要請を受けて提出された。公的な文書として、その内容を重く受け止めたい。
首相と加計氏との面会は、15年3月に行われた県と学園の打ち合わせ会で学園側が報告した。15分程度で、「いいね」などのやりとりがあった。これを受けて、柳瀬唯夫元首相秘書官から県に改めて資料提出が求められたとする。
県職員が面会した際、柳瀬氏は「獣医学部新設の話は総理案件になっている」と述べたとされており、先に国会の参考人招致で行った答弁とは食い違いがある。
いずれも日付が記されているなど記述は具体的だ。
知事は、一貫して「県側は正直に話してきた」と主張してきた。「県として(獣医学部に)税金約30億円を出す以上、県民に対しクリアにしないといけない」とも強調している。
新文書の信ぴょう性は、かなり高いのではないか。
首相の主な動向をまとめた新聞各紙の「首相動静」に、この面会は記述されていない。学園は「理事長が15年2月に首相とお会いしたことはない」とコメントし、首相も「ご指摘の日に理事長と会ったことはない」と否定した。
それぞれの主張は真っ向から対立しており、どちらかが間違っていることになる。ここは、野党側の求めに応じて知事の参考人招致や加計氏の証人喚問に応じる必要が、与党にもあるだろう。
加計問題が発覚して、約1年が経過した。これ以上、真偽をうやむやにして、国政を前に進められないことを知るべきだ。
[京都新聞 2018年05月23日掲載]
国民投票法 積み残し課題の検討を
改憲手続きを定めた国民投票法の改正案を自民、公明両党が野党に示した。足踏み状態の改憲論議を再起動させる「呼び水」としたい思惑が透けるだけに、拙速を避け慎重な審議を求めたい。
与党の改正案は商業施設への「共通投票所」導入など8項目。主に公選法とのズレを正す規定で異論は少ないだろう。ただ国民投票には、ほかにも手付かずの「宿題」が数多く残っている。
国民投票法は公選法とは制度設計が異なる。活発な議論や自由な発言を促す趣旨から、政策を訴える投票運動の手段や費用などに制限をほとんど設けていない。
例えば選挙は費用に上限を定め、出納責任者に収支報告を義務付ける。国民投票では上限も使途も無制限で、投票の公正さを害する恐れが大きい。選挙で禁止される戸別訪問も国民投票では認められる。仮に選挙と国民投票が同時に実施されれば混乱は必至だ。
最も懸念されているのがテレビなどの広告だ。国民投票前の14日間を除き、誰がどれだけ金額を使っても自由。資金力がある一方の主張だけがメディアを通じて大量に流される懸念を拭えない。
英国のように賛成、反対の団体ともに選挙管理委員会に届け出をさせ、一定の金額内で広告を出せば、回数も制限されて歯止めになる。表現の自由にも配慮して最低限のルールを作る必要がある。
インターネットや会員制交流サイト(SNS)での投票運動も制限はない。虚偽情報の流布が不安視され、対策が欠かせない。
一定の投票率がなければ不成立になる最低投票率についても議論しておきたい。投票率が低くても過半数で国民投票が成立するならば民意を反映した結果と言い難い。投票の正当性を担保するには最低投票率導入も一考に値する。
国民投票法は改憲への公正中立なルールを設けるもので、手続き法とはいえ重要な法律である。与野党とも冷静な論議の中で、課題の解決や懸念の払拭(ふっしょく)に向けて合意形成に努めてもらいたい。
衆院憲法審査会が先週、新幹事選出のため今国会で初めて開かれたものの、実質審議は行われなかった。きょう3カ月ぶりに開催予定の参院憲法審も同様という。
自民党は9条への自衛隊明記など4項目の改憲に前のめりだが、相次ぐ政権不祥事で与野党が対立する中、腰を据えたまともな憲法論議は望めない。まずは憲法審で与野党が冷静に話し合える環境を整えることが先決であろう。
[京都新聞 2018年05月23日掲載]
要介護高齢者 受益と負担抜本議論を
介護が必要な高齢者を社会全体で支える-。そんな前提の仕組みが揺らぎ始めていないだろうか。
団塊世代の全員が75歳以上となる2025年度に65歳以上で介護が必要となる人は現在より142万人増えて約771万人になるとの見通しを厚生労働省が示した。
財源や担い手の不足がいっそう懸念される。介護保険制度のサービスを利用した際の自己負担額をさらに引き上げる案も出ている。
すでに、軽度の人向けのサービスが市区町村事業に移管された。制度が当初想定したサービスはじわじわと切り詰められている。
ただ、安易な自己負担引き上げやサービス縮小は、利用の抑制につながり、かえって家族介護の負担を増やすことになりかねない。
家庭で抱え込むのでなく社会全体でケアするという介護保険制度導入の理念に逆行することになっては本末転倒だ。安定したサービスと受益者の負担について議論し直さなくてはならない。
高齢者の保険料や自己負担額は上昇し続けている。今年4月に改定された65歳以上の介護保険料は全国平均で月5869円と、制度が始まった00年度の2倍に膨れあがった。25年度には約7200円になる見通しだ。年金生活者にとって「限度」とされる月5千円を上回る状態が続いており、老後の安心コストは割高になっている。
自己負担額も、00年度の一律1割が、15年度からは一定以上の所得者が2割に増額。高所得者は8月から3割となる。財務省は2割負担を原則とするよう求めており負担増への圧力は強まる一方だ。
サービス供給面では弊害も出始めている。市区町村に移管された訪問介護と通所介護(デイサービス)では、地元の介護事業者の人手不足や大手事業者の撤退で運営難に陥る自治体が増えている。自治体の財政事情で移管前より報酬が減ることが背景にあるという。
介護保険から切り離しても、軽度の症状の進行を防げなくなれば介護費用の抑制にはつながらない。逆に病院通いが増え、社会保障全体の財政健全化は遠ざかることになるのではないか。
介護にかかる総費用は、00年度の3兆6千億円が本年度予算では11兆1千億円となった。今後も増加することは避けられない。
負担増とサービス縮小ばかりを論じていても問題解決にはならない。国などの公費負担のあり方に加え、高齢者の健康づくりや医療との連携など新たな視点で制度改革に踏み込む必要がある。
[京都新聞 2018年05月22日掲載]
是枝監督の受賞 高く評価された普遍性
カンヌ映画祭で、是枝裕和監督の「万引き家族」が最高賞「パルムドール」を受賞した。
同映画祭で、日本映画が最高賞を受賞したのは、今村昌平監督の「うなぎ」(1997年)以来21年ぶり、5作目になる。
同映画祭では過去に、是枝監督の2作品が主要な賞を受けている。最高賞に達したことをたたえたい。
是枝監督は主に家族を題材に、社会の光と影を、独特のタッチで描いてきた。
今回の受賞作「万引き家族」も、都市の片隅にひっそりと暮らす一家を通じて、家族のあり方や貧困問題などを問うている。
世界に通じる普遍性が評価されたといえよう。
「万引き家族」は、女優の樹木希林さんが演じる「おばあちゃん」の年金を頼りに、子どもたちに万引きをさせて暮らす一家を描く。別の家族に虐待された少女や、父親の不安定雇用などを絡め、日本社会の今を浮かび上がらせた。
是枝監督はテレビドキュメンタリーの制作会社出身で、見る人に問題を投げかける描写が特徴だ。
育児放棄にあった子どもを描いた「誰も知らない」(2004年)や、新生児の取り違えをテーマにした「そして父になる」(13年)などは、現実の事件報道を機に作られた。
「万引き家族」も、親の死亡後に年金を受け続けた不正受給事件が契機になった。
不正受給した人を断罪する報道や、東日本大震災以降の「絆や家族の語られ方」に違和感を抱いたという。
こうした問題意識が映画にどう反映されているのか。6月8日からの公開で、注目を集めそうだ。
今回の受賞を機に、日本映画の現状についても考えたい。
日本映画は、興行成績は洋画ときっ抗しているが、漫画や小説と連携した娯楽作品が多い。
大手のシネコンは増えたが、中小の配給会社は減少し、独立系の映画館は減っている。是枝監督の「誰も知らない」の配給会社も、既に倒産した。
製作委員会方式が主流になり、監督より製作者の声が強くなる傾向もある。映画の多様性が失われかねない状況だ。
これに対し、インターネットを使って広く資金を募るなど、新たな取り組みも始まった。昨年からロングランを続ける「この世界の片隅に」も2千人超から初期費用を集めた。参考になろう。
評価の高い作品を全国で見ることができる仕組みを整えたい。
[京都新聞 2018年05月22日掲載]
終盤国会 うみを出し切れるのか
会期末まで残り1カ月を切った国会で、与野党の対決姿勢が強まっている。委員長の職権を使った強気の国会運営で法案審議を加速させる与党に対し、野党は閣僚の不信任決議案の提出などでブレーキをかける構えだ。
心配なのは、日程をめぐる駆け引きが激化する中で、肝心な点がおろそかになることだ。法案の中身の徹底審議、そして一連の不祥事の真相解明である。
先週、環太平洋連携協定(TPP)の承認案が、野党を押し切る形で衆院本会議に緊急上程され、与党などの賛成多数で可決された。今月11日に委員会審議が始まってわずか1週間。法案の内容は米国離脱前とほぼ同じとはいえ、最初の法案も国内農家や消費者の懸念を置き去りにしたまま、強引に採決した経緯がある。審議を短縮していい理由にはならない。
政府・与党はトランプ米政権の通商圧力をかわす「盾」にする狙いから、TPPの承認案と関連法案の成立、11カ国での協定発効を急ぐ。働き方改革関連法案についても、日本維新の会と修正合意を経て週内に衆院を通過させる構えだ。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備法案の今国会での成立も描く。
一方、「数の力」で劣る野党の対抗手段は限られる。与党主導の国会運営を足止めし、時間切れによる廃案を狙う。茂木敏充経済再生担当相の不信任決議案を提出してTPP関連法案の審議中断に持ち込んだのに続き、働き方法案に絡んで加藤勝信厚生労働相の不信任案も検討している。
論点未消化のまま審議を切り上げる、不信任案の連発で審議を空転させる-。そのどちらも、国民が本来望むところではない。とりわけ、働き方改革の焦点である「高度プロフェッショナル制度」とカジノ解禁には、人々の関心と批判的な目が向けられているだけに、論戦が中途半端に終われば政治不信は増すだろう。
国会日程が窮屈になったそもそもの原因は、森友学園や加計学園、自衛隊日報をめぐる問題で公文書の改ざん、隠蔽(いんぺい)、答弁矛盾が噴き出し、審議の前提が崩壊したことにある。回復の責任は第一に、政府と与党にある。
「うみを出し切る」と安倍晋三首相は約束した。国民の信頼を取り戻せるかは、今国会中の取り組みにかかっている。
不祥事の究明は後回し、与党の看板政策に関わる法案成立はゴリ押し-という姿勢は許されない。
[京都新聞 2018年05月21日掲載]
滋賀の自立支援 子どもの未来見守って
虐待や親の病気、経済的貧困などの事情を抱えて施設や里親のもとで暮らす子どもたちの自立を支援しようと、滋賀県内の福祉関係団体でつくる「滋賀の縁(えにし)創造実践センター」が始めた就労体験事業が4年目を迎えた。
協力企業が倍増するなど地域に支援の輪が広がっている。子どもたちの職業観の形成につながり、自立に向けた足掛かりにもなっている。今後も職種を広げる計画といい、取り組みがさらに充実するよう見守りたい。
施設で暮らす子どもたちの多くは、高校卒業とともに退所する。県児童福祉入所施設協議会調査研究部会によると、9割が社会へ出て自立の道を歩むという。
ただ、進学を希望しても学費や生活費をなかなか工面できないなど困難に直面する事例が多い。
返済義務のない奨学金は狭き門で、学費と生活費を借金して進学するのは厳しい。
未成年の賃貸契約には保護者の同意が必要で、家族の支援を受けられない退所者のために施設長が連帯保証人になるケースも少なくないという。
就職した後も苦労は多い。同部会の調査によると、自立後1年以内に転職するか無職になる子どもが半数に上っている。
施設を退所した子どもの51・9%が、人との関係性の築きにくさや生きづらさを抱えていることも分かっている。
自立の土台は施設に在籍しているうちに築き始めなければならない。養育者以外の大人とのいい出会いをつくっていくことが、後に社会で生きる力につながる。
就労体験は、そんな信念から始まった。同センターの呼び掛けに応じた企業は当初66社だったが、現在は130社を超えた。中高生延べ120人、小学生同59人が夏休みや春休みに仕事を体験した。
「微力でも何か応援したい。ふらっとでも来てもらいたい」という経営者の言葉が、子どもたちや施設職員を勇気づけている。
企業側にも理解が広がり、就労体験をした企業に就職するケースも出てきたという。
同部会は、これまで施設ごとに取り組んできた支援事例の共有化や、困ったときの相談先、関係機関などを子どもごとにまとめた自立支援マップ作りに取り組んでいる。就労体験先の企業の名前もそこに上がるかもしれない。
さまざまな事情を抱えた子どもたちに関わることを「縁」ととらえ、長い目で寄り添ってほしい。
[京都新聞 2018年05月21日掲載]
新元号公表 1ヵ月前で準備は整うか
2019年5月1日の新天皇即位に伴い、「平成」に代わる新たな元号が用いられるようになる。これを事前に、いつ公表するかは結構、大問題だ。
公文書や各種システムなどに元号表記がある場合、切り替え作業をするので、一定の期間を確保する必要がある。
一方で、あまりに早く公表しては、平成時代の終焉(しゅうえん)を、ことさら急ぐことになりかねない。天皇陛下と新天皇の二重権威状態が、比較的長く続くことへの懸念も、少なからずありそうだ。
政府は、公表時期を改元の1カ月前と想定して、準備を始める方針を決めた。
決めたからには、国民生活への影響を最小限にとどめるため、万全を期さねばなるまい。
1カ月前の公表は、先日開かれた関係府省庁連絡会議で申し合わせた。
各府省庁が情報システムの実態調査をしたところ、最低限1カ月程度の改修期間が必要だと分かったからだ。
今後は、国の機関だけでなく、地方自治体や民間企業にも周知し、準備を要請することになるだろう。
新元号の公表時期が注目されるようになったのは、昨年暮れに代替わりの期日が決定してからである。
通例なら、天皇逝去後、新天皇が即位して、元号を発表する運びとなるが、現憲法下で初めてとなる退位では、改元時期があらかじめ確定しているので、事前公表が可能になった。
しかし、その時期の方針決定までには、曲折があったことが知られている。
当初は、十分な周知期間が要るとの共通認識から、今年の半ばごろが望ましいとの意見が優勢だった。
ところが、陛下の在位30年記念式典が来年2月24日に開催されることになり、「新元号の発表後に、お祝いをするのは、ちぐはぐだ」との声が上がる。このため、公表は式典以降とする方向が固まっていった。
代替わりを巡る日程を考慮した結果とはいえ、改元への準備期間が大幅に短縮されたのは、残念ではある。
新天皇即位と改元は、混乱なく迎えたいところだが、公表を1カ月前とした場合、年金や介護などのシステムで一部の改修が間に合わず、「平成」を継続して用いるという。
「平成の表記でも有効」などと付記しておけば問題ないともされるが、見た目がよくないとの指摘は予想されよう。
地方自治体では、住民登録や納税、社会福祉関連などで業務の電子化が進んでおり、新元号導入による変更点の確認作業は膨大になるとみられている。
契約書をはじめとして、和暦を使う機会の多い金融業界も、対応を迫られる。支払期日が平成で記された手形や小切手の修正方法を、業界を挙げて検討せざるを得ない。カレンダー業界では、20年版に新元号を盛り込めるのか、危ぶむ向きもある。
いずれも、予期せぬエラーや見落としが心配だ。静かな環境のもとでの代替わりとするためにも、混乱を未然に防ぐ対応を願いたい。
[京都新聞 2018年05月20日掲載]
iPS心筋移植 安全優先し効用実証を
iPS細胞(人工多能性幹細胞)による再生医療の本格的な実用化への試金石となりそうだ。
iPS細胞から作った「心筋シート」を重症心不全患者に移植する臨床研究を厚生労働省が了承した。澤芳樹大阪大教授らのチームが本年度内にも着手する。
日本人の死因第2位で、患者数が多い心臓病に対するiPS細胞による世界初の治療となる。生命に直結する臓器だけに安全性を最優先し、慎重、着実に新たな治療法を実証してもらいたい。
山中伸弥京都大教授らが作製に成功したiPS細胞は、さまざまな細胞に変化する。再生医療の切り札とされ、既に目の疾患で臨床研究が進んでいる。
計画では、虚血性心筋症が原因で重症心不全となった3人の患者が対象になる。京大が備蓄する拒絶反応が起きにくいiPS細胞を心筋細胞に変化させ、直径数センチの薄い膜状の心筋シートに加工し、患者の心臓に直接貼る。移植した心筋細胞から出るタンパク質によって心臓が血液を送り出す機能などの改善が見込めるという。
チームは患者自身の太ももの筋肉細胞から作製した細胞シートを開発しているが、心筋シートの方が高い効果が期待できるとみている。重い心不全の治療法の新たな選択肢になりそうだ。
心臓疾患で移植を待つ患者は国内に650人以上いるが、臓器提供を待ちながら亡くなるケースが多い。心筋シートによる治療が移植までの橋渡しとなれば、患者にとっては希望の光と言えよう。
とはいえ開胸手術が必要で、患者の負担は少なくない。また他人の細胞を使うことによる拒絶反応が懸念される。移植する細胞の数も1億個程度と桁違いに多く、心筋細胞になっていない細胞が残っていればがん化したり、不整脈につながるリスクもある。
難易度は高く予期せぬ事態が起きる可能性も大きく、実施には慎重さが欠かせない。iPS細胞への期待に応え、後に続く治療を円滑に進めるためにも阪大には信頼性の高い研究を求めたい。
iPS細胞を使った再生医療は高額な費用がかかる。備蓄のiPS細胞を使うことで、品質を確保しながら、どの程度コストを抑えられるかの検証も欠かせない。
iPS細胞はパーキンソン病や脊椎損傷などの病理解明や治療で応用範囲は広い。一方で実用化に向けクリアすべき課題は数多い。拙速、過大な期待は避けつつも臨床研究の進展を見守りたい。
[京都新聞 2018年05月19日掲載]
強制不妊提訴 国の不作為が問われる
旧優生保護法下で障害などを理由に不妊手術を強制されたとして、北海道、宮城県、東京都の70代の男女3人が、国に損害賠償を求める訴訟を札幌、仙台、東京の各地裁に起こした。
今年1月に全国初の訴訟を起こした宮城県の60代女性に続く提訴で、子を産むかどうかの自己決定権を奪われ、憲法に定められた基本的人権を踏みにじられたなどと訴えている。
国はこれまで「当時は適法だった」としてきたが、人の命に優劣をつけ、選別してきた人権侵害が許されてよいはずがない。裁判の結果にかかわらず、被害の現実と正面から向き合い、早期に被害者全員の救済を図るべきだ。
「不良な子孫の出生防止」を目的に1948年に施行された旧優生保護法は、96年に障害者差別に当たる条文が削除され、母体保護法に改定された。
98年に国連の委員会は被害者補償の法的措置をとるよう勧告したが、国は20年も放置してきた。なぜ被害救済の措置をとらなかったのか。国の「不作為」が問われるのは当然である。
厚生労働省に残る統計では、1万6475人が強制不妊手術を受け、京滋では少なくとも377人が対象となった。ほかに同意の上で受けたとされる人も9000人近くおり、やむなく同意させられた場合も多いとみられる。
被害者の高齢化は進んでいる。国会では与野党の議員らが被害者救済法案を議員立法で作成するため議論を始め、国も実態調査を進めている。27日に結成される全国被害弁護団も、救済の早期実現に向け被害者の受け皿としての役割を強化する方針だ。
ただ手術記録の残っていない被害者は約8割を占める。記録のあるなしで救済の有無が分かれることがあってはならず、被害事実をどう認定するかが課題になる。
同様の手術はスウェーデンやドイツでもあったが、両国は裁判を経ずに謝罪し、被害認定をしやすくして救済に踏み出した。そうした経験だけでなく、手術痕など4条件を満たせば手術の事実を認めている宮城県の例なども救済の参考になろう。
優生保護法は過去のものとなったが、差別を生む優生思想が社会から消えたわけではない。自由や人権、民主主義をうたった戦後、強制不妊という人権侵害がなぜ半世紀近くも維持されたのか。悲劇を繰り返さないために、裁判ではその解明も必要だ
女性の議会進出 多様な声届ける道開け
女性の議員を増やし、活躍を促す「政治分野の男女共同参画推進法」が成立した。
超党派の議員立法で、国会の全会一致で可決した重みがある。すべての政党が自覚し、法の理念をどう実行に移すか、各党の本気度が問われる。
国や地方の議会選挙で、投票率の低下傾向が続いている。多様な有権者の思いはどうせ反映されない、といった冷めた意識がまん延していけば、民主主義の根幹を危うくする。
社会の半数を占める女性が、政治の場では少数にとどまっているいびつさをなくすことは、大きな意義を持つ。民主主義の進化に向けた一歩であり、多様な人たちの政治参画にも道を開くはずだ。
新法は、国会や地方議会の議員選挙で、候補者数を「できる限り男女均等」にするよう政党に促している。候補者数の目標設定に努めることも規定する。
あくまで理念法で、罰則はなく、努力義務にとどめている。女性に議席や候補者を割り当てる「クオータ制」でないため、実効性には疑問符が付く。
だからこそ、各党の取り組みがカギを握ることになる。それぞれ党内事情や議員の意識差はあろうが、ここは議会史上を画する改革のときと覚悟すべきだ。
来年春の統一地方選、夏の参院選で各党はどんな対応を示すのか。有権者は数値で見極めたい。
2017年の女性国会議員の比率を各国比較でみると恥ずかしくなる。列国議会同盟によると日本は10・1%、193カ国中158位と先進国7カ国で最低だ。
女性の社会進出がめざましい世界の流れに、日本は取り残されていることの反映にも見える。欧米で女性のセクハラ告発が高まる中で、日本では官僚や政治家のセクハラ発言が横行する昨今だ。
新法は議会で男女均等となる環境整備をうたっている。女性が育児や家事を負担している現状を踏まえ、付帯決議で男女を問わず家庭生活と議員活動の両立支援を求めている。
女性議員を増やしていく過程で、議会が変わっていくのではないか。たとえば男性中心で深夜に及ぶ審議が当たり前だったのが見直され、子連れにも配慮した議会になれば、生活者である有権者が近づきやすくなる。
女性議員を増やすための人材育成も掲げられている。
ようやくできた法だが、育てないと意味がない。政党や議員がしっかり努力しているか、有権者の見定めが大切になってくる。
[京都新聞 2018年05月18日掲載]
日大アメフット 危険プレー繰り返すな
何度見ても、負傷した選手の痛みが生々しく伝わってくる危険なプレーである。スポーツマンらしからぬ卑劣な行為に、怒りを募らせる人が多いのではないか。
アメリカンフットボールの日本大と関西学院大の定期戦で、日大選手が行った。なぜ、このようなことが生じたのか、日大の責任者は明らかにしてほしい。
問題のプレーがあったのは、試合開始早々だった。
関学大のクオーターバック(QB)がボールを投げ終わって力を抜いているところに、日大の守備選手が背後からタックルした。
QBは転倒し、腰の靱帯(じんたい)を損傷するけがをした。
無防備な選手への「ひどいパーソナルファウル」という反則である。競技団体によって、日大の当該選手は対外試合出場禁止処分、内田正人監督は厳重注意処分となった。ペナルティーが科されるのは、当然のことだろう。
関学大の抗議に対する回答で日大は「心より謝罪する」としたものの、「意図的な乱暴行為を選手に教えることはない」と主張した。これは素直に受け取れない。
アメフットは、組織的な作戦が勝敗を左右する競技であり、各選手は指令を受けて、動いているからだ。内田監督が、試合前に相手QBを負傷させる趣旨の命令をしていた、との話もある。
こうした点を踏まえたうえで、当該の危険プレーがなぜ起きたのかを、日大は説明しなければならないはずだ。
関学大が「疑問、疑念を解消できておらず、誠意ある回答とは判断しかねる」としたのは、うなずける。
日大の監督ら責任者が、負傷した選手に直接、謝罪することも必要だ。
日大は24日までに関学に再回答するそうだが、具体的な説明とともに、実効性のある再発防止策を打ち出してもらいたい。
危険プレーを受けて、関学大が定期戦を行わないことに言及している。法政大、東京大、立教大、明治大、成蹊大は、予定されていた日大との試合を中止した。
楽しみにしていたファンにとっては、残念なことだろう。
日本アメリカンフットボール協会は、スポーツ庁に出向いて経緯などを報告。ホームページに、危険なプレーの防止を求める文書も掲載した。アメフットの競技関係者・団体すべてが、危険プレーを繰り返さないよう、さらに努力を積み重ねるべきだ。
[京都新聞 2018年05月18日掲載]
スルガ銀融資 不正行為の全容解明を
高収益を上げ、地方銀行の「優等生」とも言われてきたスルガ銀行で、ずさんな融資がまん延していたことが明らかになった。
経営破綻した「スマートデイズ」(東京)が手がけた女性向けシェアハウスの物件所有者の大半に購入資金を融資していた。その際、提出された書類の預金残高などが改ざんされ、多くの行員が改ざんを認識していたという。
コンプライアンス(法令順守)や顧客保護意識の欠如が指摘されるのは言うまでもない。
公表された社内調査の結果によると、融資総額は2018年3月末時点で2035億円、顧客は1258人に上る。
営業部門の幹部が審査部をどう喝するなど圧力をかけ、審査機能が十分に発揮できていなかった。「増収増益の全社的プレッシャー」があったという。
大半の貸し出しはスルガ銀の横浜東口支店に集中しており、本店の役員にも融資の報告が上がっていたとの情報もある。
厳格さが求められる銀行の融資審査で、バブル期を思わせるような不正行為が常態化していたことに驚かされる。
かつての教訓がなぜ生かされなかったのか。問題の全容を解明し、責任の所在を明らかにしてほしい。
金融庁の監督責任も問われなくてはならない。
問題が表面化したきっかけは、全国の地方銀行が扱いを広げたアパートローンに対し、供給過剰だとして金融庁が健全でないとの見方を強めたことだった。
しかし、スルガ銀を「特異なビジネスモデルで継続して高収益を上げている」(森信親長官)と高く評価してきたのも当の金融庁である。
人口減と地域経済の伸び悩み、さらには低金利で、地方銀行の経営環境は厳しさを増している。金融庁は地銀側に新たな収益源の確保を求めてきた。
長引く低金利政策が銀行経営をゆがめ、モラル低下を招いている可能性がある。他にも不正行為はないか目を光らせるべきだ。
安定した老後を夢見た物件所有者は借金の山に苦しんでいる。支援する弁護団は有印私文書偽造の疑いで刑事告発する方針だ。
投資側にリスク認識が求められるのはもちろんだが、先行き不透明な時代に、老後の不安をくすぐるような営業活動が広がっていないか懸念される。うまい話はないと改めて肝に銘じたい。
[京都新聞 2018年05月17日掲載]
働き方改革法案 信頼性が揺らいでいる
法案の根幹が揺らいでいる。一から出直すべきではないか。
働き方改革関連法案をめぐる労働時間調査に異常値が見つかった問題で、厚生労働省は調査対象のうち約2500事業所のデータを削除し、再調査結果を公表した。
調査対象は1万1575事業所で、2割のデータが削除された。
安倍晋三政権が今国会の最重要法案と位置づける働き方改革関連法案は、この調査を基礎資料として労働政策審議会で議論し、国会に提出された。法案の信頼性が損なわれたといえないか。
問題の「2013年度労働時間等総合実態調査」では今年3月、裁量労働制で働く人のデータについて異常値が多数見つかり、厚労省が再調査していた。
安倍首相は「裁量制で働く人の方が一般労働者よりも労働時間が短いとのデータがある」と国会で答弁していたが、異常値に基づいていたため、撤回に追い込まれた。関連法案から裁量労働制の対象業務を拡大する部分も撤回した。
今回、公表された再調査結果では、撤回ずみの裁量労働制で働く人のデータに加え、一般的な労働者が働く事業所についても、「1日の残業が24時間を超える」といった異常値が見つかり、これらを併せて削除した。
なぜこんな事態になったのか。
調査は、各地の労働基準監督官が企業を訪問して行った。厚労省は、調査票の記入方法を徹底していなかった、と説明している。
一方、調査にあたった監督官らからは、事前準備や説明、実際の調査時間が明らかに不足していた、という声があがっている。
加藤勝信厚労相は「9千超の事業所を調査し、統計上も有意だ」と説明するが、問題は本当に削除分だけだったのだろうか。
そもそも、労働時間については独立行政法人の労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査がある。
JILPTの調査では、裁量制に満足している人にも、業務量の増加などの問題点を指摘する声があった。
労政審は、急ごしらえの調査ではなくJILPTの調査を基に議論すべきだった。
働き方改革法案を巡っては「高度プロフェッショナル制度」の審議が始まり、与党は会期内の成立を目指している。
一方で、過労死遺族らからは「究極の裁量労働制」との批判がある。
看板政策とはいえ、根拠も議論も不十分なままではないか。成立ありきは許されない。
[京都新聞 2018年05月17日掲載]
新潟女児殺害 通学路の「死角」なくせ
奪われた小さな命は戻ってこない。
新潟市の小学2年の女児(7)が殺害された事件で、近所の男(23)が死体遺棄などの容疑で逮捕されたが、遺族の悲しみを思うと言葉もない。
線路に遺体を遺棄するむごい事件だ。男は容疑を認めているが、殺害についてはこれからの調べとなる。動機や手口など事件の全容を解明することで、再発防止につなげなければならない。
女児は学校から下校中に1人になり、もう少しで帰宅という時に連れ去られたとみられる。
通学路の安全にいま一度目を向ける必要がある。
登下校中に児童が犯罪に巻き込まれる事件は後を絶たない。2004年~05年には奈良、広島、栃木で、いずれも小1女児が男に連れ去られ、殺害される事件が相次いだことを思い起こす。
13歳未満の子どもが被害者になる犯罪は02年以降、減少傾向にあるが、それでも16年中の殺人は74件、強制わいせつ893件、略取誘拐も106件に上る。
警視庁管内の調査だが、子どもへの犯罪の前兆となり得る声掛け事案は、45・9%が登下校中に発生し、新潟の女児と同じ小学2年から5年が多く狙われている。こうした前兆を地域の防犯に生かすようにしたい。
子どもたちに身の危険をどう教えたらいいのか。家族は心配だろう。警察庁がホームページで人気漫画「名探偵コナン」を使い、事件を防ぐ合言葉「つみきおに」を広めている。
「ついていかない」「みんなと、いつもいっしょ」「きちんと知らせる」「おおごえで助けを呼ぶ」「にげる」。子どもと一緒に防犯を考えてはどうだろう。
文部科学省の15年調査では、通学路の安全点検を小学校の99・3%が実施、保護者や住民による見守り活動を幼稚園・小学校の84・7%が取り組んでいる。通学路の安全マップも小・中学校の47・0%が作っている。
学校には安全計画の策定が義務付けられているが、不断の検証と改善が欠かせない。人通りや照明など地域の環境を、学校と地域、保護者、子どもたちで何度も点検し、変化に合わせて実践的に見直すことが大切だ。
新潟の事件では、女児が1人になった場所に見守りがなく、「死角」となったことが悔やまれる。地域だけでは限界がある。社会全体で死角をなくす方策を見いだし、子どもたちを守りたい。
[京都新聞 2018年05月16日掲載]
加計問題 うやむやでは終われぬ
真相をうやむやにしたまま、国会会期末まで乗り切るつもりなのだろうか。
「加計学園」の獣医学部新設問題を巡る安倍晋三首相の国会答弁を聞いていると、そうとしか思えない。「丁寧な説明」や「うみを出し切る」といった国民への約束はどうなったのか。
柳瀬唯夫元首相秘書官は、首相の別荘での出会いをきっかけに官邸で学園関係者と2015年に3回面会し、国家戦略特区の話をしたことを先週の参考人質疑で認めた。
獣医学部新設に関し、民間と面会したケースはほかになく、今治市や愛媛県とともに新設を目指した新潟市、京都府とも面会はしていない。厚遇ぶりは明らかだ。
面会の報告を首相にしていないと述べた答弁についても、国家戦略特区という安倍政権の看板政策なのに、一言も報告を上げないのは不自然との見方が元官僚らからも出ている。
加えて、柳瀬氏が「本件は、首相案件」と述べたとされる愛媛県文書の内容を否定したことについては、中村時広知事が「全ての真実を語っていない」などと批判している。
だが首相は、14日の衆参予算委員会集中審議で柳瀬氏の答弁を擁護し、面会や報告の件を問題にせず、愛媛県文書との矛盾が指摘されても「誠実に答弁した」などとかわし続けた。
これでは「加計ありき」の疑惑は払拭できないどころか、「うみ」がたまるだけではないか。
共同通信の世論調査では、柳瀬氏の国会での説明に対し「納得できない」が75%に達した。
なのに首相は、言葉とは裏腹に一貫して真相解明に消極的だ。野党が中村知事や学園の加計孝太郎理事長の国会招致を求めても「国会が決めること」と突き放し、指導力を発揮しようとしない。
そもそも首相の関与が疑われるのは、加計氏と長年の友人であるからだ。自民党国対筋からは集中審議後、「新事実は出なかった」と幕引きを図る声が出ているが、疑惑を残したまま終わるわけにいかない。
首相は、新設された獣医学部の入試倍率が20倍に上ったと強調し、「若い人たちの希望をふさいでいたゆがめられた行政を正した」と開き直りともとれる発言を重ねた。
だが問題は、獣医学部新設の決定過程が公平、公正に行われたかの一点にある。はぐらかしてはならない。
[京都新聞 2018年05月16日掲載]
京大立て看板 景観考えるきっかけに
京都市の屋外広告物条例に違反するとして京都大は13日、学生が設置している吉田キャンパス周辺の立て看板を撤去した。
一部の学生は「表現の自由を奪う」などと反発。午後には撤去に抗議する看板が設置された。
市は新景観政策の一環で屋外広告物条例を改正し、2007年から規制を強めた。屋外広告物とは「常時または一定の期間継続して屋外で公衆に表示されるもの」で、商業広告以外の営利を目的としないものも含まれる。
全国的な企業の看板が、京都では落ち着いたデザインになっていることはよく知られている。
市は立て看板についても、法令違反を是正するよう京大に指導してきた。京大は設置を学内の指定場所に限定する新ルールをつくって今月から適用した。
門川大作市長は「大学だけを例外とするわけにはいかない」と説明する。
市民の共有財産である景観を守るという条例の趣旨に照らすと、学生の立て看板であっても特別扱いできないというのはその通りだろう。
一方で今回の問題は、大学文化の一つとも言われる立て看板を通じて景観とは何か、京都らしさとは、といったことを改めて問い掛けているようにも思える。
立て看板は学生運動が盛んだった1960年代には登場したという。多くの大学では見られなくなり、京大らしい「名物」としても存在感が高まった。
いうまでもなく京都は学生のまちでもある。一般的な商業看板とは違う歴史的、文化的な側面があるともされる立て看板に「目くじらを立てなくても」と考える市民もいるだろう。
気になるのは、大学当局の対応が一方的に見えることだ。話し合いを求める学生の要求に応じなかったのは、学生の自治への配慮に欠けたのではないか。
今回の撤去も、即時撤去を求める通告書は貼られていたが日曜の早朝に突然実施された。教育機関としては課題について学生側とオープンに議論することが求められる。
規制がある一方で「良い景観とは何か」は人それぞれの価値観にも左右される。現在の京都の景観をどう評価するかについても、さまざまな意見があるはずだ。
京大の看板問題はこうしたことを考える一つの契機となる。学生の問題提起を受けて、私たちのまちの景観について議論を活発化させたい。
[京都新聞 2018年05月15日掲載]
米大使館移転 中東を不安定にする愚
中東和平交渉の仲介者としての、米国の信用を自ら損ねる行為だ。イラン核合意からの離脱に続き、身勝手な国際秩序破壊と言わざるを得ない。
トランプ米政権が、在イスラエル大使館を商都テルアビブからエルサレムへ移した。歴代政権が言及しつつも棚上げにしてきたエルサレムの首都認定、大使館移転を実行したことで、東エルサレムを将来の独立国家の首都と位置付けるパレスチナと、米・イスラエルとの亀裂は決定的だ。
トランプ大統領は、停滞している和平交渉を動かす狙いから、新たな仲介案を提起するとしている。だが先にエルサレムの帰属問題に手をつければ、どんな新提案を示そうとパレスチナが態度を硬化させるのは明白である。
パレスチナ自治政府のアッバス議長はすでに、米国による一切の仲介の拒否を表明し、多国間の枠組みづくりを国連に要請している。一方のイスラエルには米国抜きの和平交渉に応じる気はなく、展望は全く開けない。
国をもたないパレスチナ人の国家を将来樹立し、イスラエルとの「2国家共存」を目指すとしたオスロ合意(1993年)を米国が一方的に揺るがす。合意を支持する国際社会からの非難は当然だ。
大統領就任以来、トランプ氏は環太平洋連携協定(TPP)、パリ協定、イラン核合意と次々に国際協調からの離脱を宣言してきた。長年にわたる複雑な中東対立の根幹に火をつけかねない点で、今回はより深刻だ。しかも、ここでもトランプ氏の念頭にあるのが外交戦略より自らの選挙対策とみられることに暗然とさせられる。
イスラエル建国宣言70年の日に合わせた大使館移転は、米国内の親イスラエル派へのアピールを計算してのことだろう。目先の利益優先の行動はトランプ氏の繰り返す「米国第一」ではなく、「自分第一」と言うべきものだ。
与党共和党の支持者が移転強行を一様に歓迎しているわけではなく、実際に政権浮揚につながるかは見通せない。和平が遠のくことで中東から希望が失われ、憎しみと暴力が世界に拡散するリスクの方がはるかに大きいだろう。
トランプ政権は、中東において対イランで連携するサウジアラビアなどが、米国批判のトーンを抑えることを見込んでいるふしもある。北朝鮮と向き合う日本政府も6月の米朝首脳会談を控え、及び腰のようだ。だが、言うべきことは言う関係こそが重要だ。
[京都新聞 2018年05月15日掲載]
原発4基再稼働 多重事故への備えない
安全性や避難体制が確立されないまま、原発の再稼働を続けていいのだろうか。
関西電力大飯原発4号機が再稼働した。
福井県内では昨年、関電高浜3、4号機、今年3月には大飯3号機がそれぞれ再稼働した。これで、近接する4基の原発が同時に動いている状態になった。
原子力規制委員会の審査に合格し、福井県知事の同意も得てのことだが、事故時の避難計画は、両原発が同時に事故を起こすことを想定していない。
両原発は14キロしか離れていない。関電は美浜原発3号機など他の3基の再稼働も目指す。京都府や滋賀県の住民にとっては、重大な問題だ。
京都府の西脇隆俊知事は関電に安全対策の徹底を求め、滋賀県の三日月大造知事は再稼働反対の姿勢を明確にした。
東京電力福島第1原発の事故の後、国は原子力災害対策指針などで避難する手順を決めた。
重大事故が起きれば、周辺住民は放射能汚染の検査を受け、府県境を越えて避難する。
大飯原発の場合、広域避難計画に基づき、30キロ圏内の住民15万8千人が避難経路の途中で検査を受ける。京都や滋賀の住民も含まれる。
まず車を検査し、基準を超えた場合は人も検査し、必要なら除染作業も行うが、混乱なく進むとは限らない。入念に行えば避難が遅れ、不十分なら避難先とのトラブルが起きかねない。
天候にも影響される。福井県内では今年2月、国道8号で1000台を超える車が豪雪で3日間にわたって立ち往生した。国道8号は避難経路の一つである。
政府は、同時事故を想定した防災訓練を今夏に実施し、避難計画の実効性を検証するという。なぜ、それまで待てないのだろうか。仮に避難計画の実効性に問題があれば、運転を取りやめるのか。理解に苦しむ対応だ。
再稼働に伴い、使用済み核燃料も積み上がる。関電の原発の敷地内にある貯蔵プールは約10年で満杯になる。関電は中間貯蔵施設の候補地を福井県外で探しており、今年中に明らかにする方針だが、難しいとの指摘もある。
日本原電は東海第2原発について、立地の東海村だけでなく、周辺5市からも同意を得る協定を結んだ。関電も、安定稼働を目指すなら同様の対応を取るべきではないか。
[京都新聞 2018年05月14日掲載]
京のホテル まちの空洞化が心配だ
訪日外国人観光客の増加を受け、京都市の中心部で急激なホテル開発が進んでいる。開業ラッシュに加え、新規建設の計画も相次ぐ。市内のホテル客室数は2017年からの4年間で57%増の見通しだ。東京、大阪など全国主要8都市で飛び抜けた伸び率となる。
京都経済に一定の活気を与える半面、このまま進めば供給過剰になる恐れを指摘する声が上がり始めた。空前のホテルブームが地価の高騰を招いており、若者がまちなかに住めず、京都市外に流出していることも判明。まちの空洞化への懸念は強まっている。工事や利用客による騒音など、住民生活を乱すトラブルも後を絶たない。
市は一昨年、宿泊施設の拡充・誘致方針を定めて積極的な取り組みを進めてきたが、そろそろ立ち止まって検証する時に来ているのではないか。市にとって観光産業が重要なことは当然としても、余りに急な開発は古都に似つかわしくなく、将来のまちづくりに禍根を残しかねない。何より市民の暮らしに影響が大きすぎる。
6月に施行される住宅宿泊事業法で解禁となる民泊の動向も踏まえ、ホテルの現状と計画を精査した上で、柔軟に市方針を再検討することを求めたい。
京都新聞が昨年12月に独自集計したところ、15年度末からの5年間で少なくとも市内の宿泊施設の客室数は4割増、約1万2千室増える見通しと分かった。市は東京五輪が開かれる20年までの5年間で「新たに1万室が必要」として拡充・誘致方針を策定したが、オーバーするとの試算である。
それでも市は「まだ外国人の富裕層向けが足りない」と強気の姿勢をみせるが、今年に入っても外国や東京の資本が次々と新規ホテル計画を発表していることから、議会与党や経済界などからも「京都の風情が変わるほどの急増は好ましくない」「五輪後に供給過剰になり、撤退するのではないか」との声が強まってきた。
懸念を調査が裏付ける。民間調査では、競争の激化で市内ホテルの収益率の伸びに陰りが出ている。市が昨年末、子育て世代の30代を対象に年間の転出入状況を調査したところ、地価の高い市内を避け、周辺自治体に約1200人の転出超過となっていた。
一方、京都市以外の府内市町村ではホテルの立地がほとんど進んでいない。市は府と連携して一極集中の観光・宿泊を分散するなど、新たな京都観光の創出に向け、度量と指導力を示してほしい。
[京都新聞 2018年05月14日掲載]
コンパクトな街 自治体の手腕が問われる
「コンパクトシティー」という言葉がよく聞かれるようになった。まちづくり政策として国が推進し、地方自治体の取り組みが活発化している。
市街地中心部に住宅や病院、商業施設、市庁舎などを集約する政策だ。急激に進む人口減少や少子高齢化が背景にある。
戦後、モータリゼーションに伴い、大型店が道路沿いに進出。郊外開発で住宅地が広がる一方、中心市街地や駅前商店街の空洞化が進んだ。
人口減によって財政難に直面する自治体は、ごみの収集や雪国での除雪などの経費負担がのしかかる。将来、存続が危ぶまれる「消滅可能性都市」が増えるといわれる。
これらを解決する政策として注目されるようになった。まちをコンパクト化し、高齢者の生活維持や行政コスト削減を図ろうというわけだ。
国は2014年に都市再生特別措置法を改正。「立地適正化計画」を策定した自治体は、国から支援を受けられる。
今年3月には国土交通省と内閣府が32市町をコンパクトシティーのモデル都市に選んだ。交付金などで重点支援する。
京滋でも多くの自治体で、この考えに沿った取り組みが広がっている。
舞鶴市はこのほど、まちの将来像を示す都市計画マスタープランを新たに策定した。東、西舞鶴駅を中心とした地域を「まちなかにぎわいゾーン」とし、中心市街地2カ所に商業、公共施設や病院を集約させる。
建設の是非を巡って昨年11月に住民投票が実施された野洲市の駅前市立病院計画も、この流れを踏まえた施策という。
京都新聞社加盟の日本世論調査会の調査(14年9月)によると、コンパクトシティーの取り組みを進めることに肯定的な意見が55・6%と否定的の37・4%を上回った。
しかし、理念としては賛成できても、既存の居住地域も含めた「まちの集約」を実現することは容易ではない。
住み慣れた地域を離れたくない人も多いだろうし、点在する農村集落などをコンパクト化するのは実際には困難だ。何より憲法には「居住移転の自由」が保障されている。
区域を絞って集約を進めることになるのではないか。その際に中心部以外の利便性が低下し、住民の間に不公平感が生まれる可能性もある。
先行事例として注目される富山市は公設民営でLRT(新型路面電車)を導入し、中心部への居住推進のため共同住宅の建設補助などを実施した。
一方、青森市は官民が連携して建築した駅前複合施設の経営悪化が深刻になり、市長が引責辞任している。
コンパクト化を掲げても郊外開発が続く例は多い。助成制度で国が誘導するだけでは限界があり、地域の特性を踏まえた自治体の手腕が問われる。
実効性を慎重に見極めた、息の長い取り組みが求められる。その大前提として、まちづくりへの住民の関心をいかに高め、意見を集約していくかが重要になるのではないか。
[京都新聞 2018年05月13日掲載]
米朝会談開催へ 段階的非核化に要注意
世界の安全保障に関わる史上初の米朝首脳会談が、来月12日にシンガポールで開かれることになった。トランプ米大統領が、明らかにした。
米国は北朝鮮に、「完全かつ検証可能で、不可逆的な非核化」を強く求めている。日本など関係国や東アジアだけでなく、世界の願いでもある。
その実現に向けた会談の実施が、確たるものになってきた。何としても成果を挙げてもらいたいと、誰しも思っているだろう。
トランプ氏は3月に金正恩朝鮮労働党委員長との会談に応じる意向を表明したものの、北朝鮮の動向によっては開かれない可能性もあると含みを持たせていた。
その後、事態があまり進展せず、米朝間の水面下の交渉が難航しているとの見方も出ていた。
開催日と場所が決まったのは、会談での合意の方向性に、一定のめどが付いたからではないか。
発表前に北朝鮮は、拘束していた米国人3人を解放した。米側の要求に応え、会談実現への本気度を示したといえよう。
この調子で、両者は歩み寄りを続けてほしい。
開催地のシンガポールは、米朝双方と国交があり、過去に非公式な交渉も行われたという。中立性は担保されそうで、会談の舞台としてふさわしい。
来月12日という日程にも着目したい。8、9日の先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)の直後である。米国は、各国の要請を受けて北朝鮮との話し合いに臨む姿勢を示す機会とすべきだ。
サミット期間中には、日米首脳会談が行われる可能性もある。安倍晋三首相は、大量破壊兵器の廃棄とともに、日本人拉致被害者の帰還を北朝鮮に求めるよう、トランプ氏に働き掛けるはずだ。
米朝会談で、拉致問題の解決に向けても、何らかの進展がみられることを願いたい。
果たして、「完全かつ検証可能で、不可逆的な非核化」は、期限を設定したうえで、達成されるのだろうか。
北朝鮮は、過去に何度も合意を無視して核・ミサイル開発を続けてきた。金氏は先日の文在寅韓国大統領との南北首脳会談で、「核のない朝鮮半島」を目指すとしたが、米国の要求を丸のみするとは考え難い。
体制の保証と経済制裁の緩和を求め、時間稼ぎともいえる「段階的な非核化」を持ち出してくるとの予想もある。だが、これを安易に認めてはならない。
[京都新聞 2018年05月12日掲載]
マレーシア 政権交代の意義大きい
マレーシア下院選で、元首相のマハティール氏率いる野党連合が汚職撲滅や消費税廃止を訴えて勝利し、1957年の独立以来、初めての政権交代が実現した。
マハティール氏の知名度とカリスマ性を生かし、ナジブ政権の強権体質や公金流用疑惑に対する国民の不満を吸い寄せた形だ。
マハティール氏は2003年まで22年間、首相を務め、工業化を進めて東南アジアでいち早く経済発展を成し遂げた実績を持つ。
だが、今回は健康が不安視される92歳での再登板である。寄り合い所帯の新政権をまとめ、多民族融和や国民の所得向上といった課題に応えていけるのか、未知数の部分が多い。
日本とも結びつきが強い国であり、混乱を避け、民主化の道を着実に進めてほしい。
マレーシアは近年4%超の成長を続けているが、ナジブ政権が15年に導入した6%の消費税で生活が苦しくなったと訴える国民は多い。加えてナジブ氏の政府系ファンドからの不正流用疑惑が浮上、国民の不信感が高まっていた。
ナジブ氏は、フェイク(偽)ニュースを発信した個人や団体に罰金や懲役を科す法律を施行して政権批判の封じ込めを図り、与党に有利となるよう選挙区の区割り変更まで強行した。
それでも野党側は、与党の支持基盤だった多数派のマレー系住民の票まで取り込んで過半数を獲得した。ナジブ政権への国民の反発がいかに強かったかを物語る。
ナジブ氏への批判から野党に転じて選挙に臨んだマハティール氏は、かつて「国内治安法」を使って野党指導者らを逮捕し、言論や集会を厳しく制限するなど強権的なやり方を進めた経緯がある。同様の手法を繰り返すなら、国民の期待は一気にしぼみかねない。
就任後初の記者会見では、ナジブ政権時代の政策を見直し「抑圧的で不公平な法律は廃止する」と明言した。
政権寄りと言われる司法や選挙管理委員会の改革なども含めて、国民の不満解消をどう進めていくかが問われよう。
東南アジアでは、軍政の言論統制や独裁色を強める政権による野党弾圧など民主化に逆行する動きが加速している。そんな中、60年以上無風だったマレーシアで政権交代が起き、圧政の下でも国民が政府を自らの手で選べる自信を得た意義は小さくない。
流れが変わる契機となることを期待したい。
[京都新聞 2018年05月12日掲載]
アメフット会見 2018年05月25日
イタリア新政権
森友交渉記録
日報問題で処分
加計問題新文書
国民投票法
要介護高齢者
是枝監督の受賞
終盤国会
滋賀の自立支援
新元号公表
iPS心筋移植
強制不妊提訴
女性の議会進出
日大アメフット
スルガ銀融資
働き方改革法案
新潟女児殺害
加計問題
京大立て看板
米大使館移転
原発4基再稼働
京のホテル
コンパクトな街
米朝会談開催へ
マレーシア 2018年05月12日