トランプ新大統領誕生!

就任演説全文(英語)

トランプ就任演説は「超絶暗い世界観」の塊だ

2017-01-26 00:02:56 | 日記
田中 道昭 :立教大学ビジネススクール教授 2017年01月24日

民主主義という言葉は1度も出てこず

1月20日に誕生したドナルド・トランプ米国第45代大統領。その就任演説については、事前から関心が高く、筆者も前回の記事(http://toyokeizai.net/articles/-/153100)で、政治マーケティングの観点からトランプ就任演説の内容を予測した。先行論考で指摘した5つの注目ポイントは実際の演説のなかでどのように登場したのか。

今回は、トランプが昨年11月9日に行った勝利演説、オバマ前大統領が1月10日に行った退任演説、そのほかこれまでの重要な事実などに基づき、1月20日の就任演説を政治マーケティングの観点から分析したい。

さて、先の記事で挙げた5つの注目ポイントとは以下のものである。

1. 分断された有権者を「一致団結」させる
2. ビッグで人を鼓舞するような「現実的なビジョン」を示す
3. 重要な利害関係者に「メッセージ」を送る
4. 自らが重要視する「価値観」を明確にする
5. 「セルフブランディング」を進化させる

極めて明快な「対立構造」

分断された有権者を「一致団結」させる

前回の記事では、「米国や米国民で誰が利害関係者となり、その利害関係者とどのような対立構造を描くのかが最重要ポイントである」と述べた。選挙戦中は企図して分断をさらに拡大させるような言動を繰り返してきたトランプは、演説の中で一致団結をどのように語ったのか。

実際の就任演説でも、トランプはこのポイントに最も多くの時間を費やした。分断の演説の構成上も、「一致団結」が演説のミッションであるような展開だった。演説全体の中でこのテーマに費やした時間は約3割という分析もなされている。

トランプが演説の中で描いた対立構造は、「ワシントン対国民」、「エスタブリシュメント対国民」などと極めて明快だった。ただし、演説の構造としては、これらの対立構造はすでに「過去のもの」であり、「今ここから」は自分が率いていく米国では問題が解消されていくという主張であった。

ここでトランプは、「アメリカの殺伐」(“American Carnage”、殺戮(さつりく)のあとの惨状)という過激な表現を使った。「母親と子どもたちは貧困にあえぎ、国中に、さびついた工場が墓石のように散らばっています。教育は金がかかり、若く輝かしい生徒たちは知識を得られていません。そして犯罪やギャング、薬物があまりに多くの命を奪い、可能性を奪っています。このアメリカの殺戮は、今、ここで、終わります」。

このように過去は「殺伐」の状況であったが、これからは明るい未来が訪れるという比喩として使ったのだ。大統領の就任演説において、過去・現在・未来のストーリー展開、暗い過去から明るい未来へのストーリー展開は常套手段だが、今回はあまりにも過激だった。「独裁者」が使う「黙示録的な悲惨な状況から困難を克服していくストーリー」のようなダークなイメージのあるものだった。

米国民はそこまで過激な歴史観はない

実際に、米国メディアの反応を見ると、「米国民はそこまでの過激な歴史観や世界観はもっておらず、現在以降のことを言っているわけではないのにあまりにも暗い」、「トランプに反対票を投じた有権者の共感は低い」といったような批判を浴びる部分となったようだ。この表現をタイトルとした記事も少なくなかった。

ビッグで人を鼓舞するような「現実的なビジョン」を示す

先の記事では、「できるだけ壮大なビジョンであると同時に、多くの国民も自ら参加したいと思えるような現実的なものになっているか」が重要になると指摘した。分断された国民を結束させていくには、対立構造を描くよりも、「共通のビジョン」を国民が持つことの方が効果的だからである。

実際に就任演説でトランプは、「私たちは大きく考え、大きな夢を見るべきです」と語ったほか、「ニュー・ミレニアム」(新世紀)というビジョンを示すような言葉も使った。しかし、その内容としては、「宇宙の謎を解き明かし、地球から病をなくし、明日のエネルギー、産業、技術をさらに発展させる」という抽象的な表現にとどまった。

「私たちは大きく考え、大きな夢を見るべきです」と自らが語っている米国大統領の「夢」としては、「ビッグで人を鼓舞する」と「現実的である」という両面において失望感は大きかったのではないだろうか。

重要な利害関係者に「メッセージ」を送る

「トランプはケネディの主張をさらに強力に推し進めて、世界に対してより大きなビジョンを示すとともに、それに加わっていくには、より重い責任や費用を共有していくことが求められることを述べるのではないか」と言及した。

このポイントについては、先に述べたように、残念ながらトランプは具体的なビジョンを提示することはなかった。海外へのメッセージとしては、これからは米国第1主義であり、各国も自国の利益を優先するべきであり、米国はその成果を出すことで模範となるという趣旨のことを述べている。

重要な利害関係者という意味では、トランプは今回、「アメリカの殺伐」や「忘れさられてきた人たち」という表現を使い、選挙戦からのコア支持層を主な対象とする言及が多かった。一方、反対票を投じた国民に直接的に訴えるような言及はほとんどなかった。

勝利演説の際に語った、「すべての米国人の大統領になる」(”President for All Americans”)という明快な表現は皆無だった。就任演説の構成としても、この明快さを打ち出すことができなかったことが、トランプの苦境を感じさせるものになったような気がしたのは、筆者だけではあるまい。

「アメリカの殺伐」と表現されたオバマは?

 自らが重要視する「価値観」を明確にする

 この点については、「強さ、本音、正直、変化といった価値観は、シェアードバリューとして多用されるキーワードになるだろう」と述べた。実際にこれらの言葉は、キーワードとして多用されたが、ここで注目したいのは、1月10日に行われたオバマ前大統領の退任演説との比較である。

 オバマは、そこで民主主義という言葉を20回も使い、その重要性を強調。さらにはトランプを意識して民主主義の継続性に懸念を表明した。一方、トランプの就任演説では民主主義という言葉は一度も使われなかった。また米国が伝統的な価値観として重視してきた人権の尊重などの価値観も演説では登場しなかった。

 自らの2期8年を「アメリカの殺伐」と表現され、民主主義の強調も「無視」された格好になったオバマはどのような思いでトランプの演説を聞いていたのだろう。演説直後にトランプはオバマと(握手を交わすのではなく)お互いの肩をたたき合ったが、その際にオバマの表情がこわばっているように筆者には見えた。 
 「セルフブランディング」を進化させる

 前回の記事では、「多彩な表現やレトリックを駆使して、自分が実直な人物であることを印象づけることを狙ってくるだろう」と言及した。実際に、トランプは次のように述べている。「私たちは心を開いて語り合い、意見が合わないことについては率直に議論をし、しかし、つねに団結することを追い求めなければなりません」。

 これまで暴言を吐き続けてきたことを、本音、率直、正直ということで正当化しようとしてきたトランプにおいては、やはりこの点は重要だったのだ。人自身が「商品」となるセルフブランディングにおいては、実は最も重要となるのは、その人物の人間観・世界観・歴史観であるとされている。

「赤い血を流す」「根絶」も過激だった

 この観点から見ると、トランプは少なくとも反対票を投じた有権者層に対して、セルフブランディングを「後退」させてしまったものと評価されるだろう。それは、トランプが比喩として用いた「アメリカの殺伐」という世界観があまりにもダークで、これは彼自身が持つ世界観であると認識された可能性が高いからである。

 トランプは、この表現以外にも、今回、「私たちは同じ愛国者の赤い血を流し」の「血を流す」という表現、「イスラム過激主義を地球から完全に根絶します」の「根絶」の表現が過激過ぎると指摘する向きも米国内では多い。

 トランプ自身が今回の演説のなかで「神」に言及したように、米国でも言葉は言霊である。ネガティブなエネルギーをもつ言葉は、自ら企図したこととは異なる結果をもたらすこともあることは教訓にしたい。ただし、筆者は、実際にトランプがこのような黙示録的な世界観をもっている人物とは思っていない。

 もっとも、変化を印象づけるメタファー(隠喩)として、過去と未来の大きな対比を演説のなかで描きたかったトランプは、未来におけるビジョンが明快に打ち出せなかったことから、過去をよりダークにすることで大きな対比を描こうと考えたのではないかと思われる。 

 筆者は、これまでもトランプの重要な言動については、米メディアでどのように報じられているのかを注目してきた。従来は、主要メディアがトランプに批判的な一方で、そのほかのメディアの反応は賛否両論という構図だった。ところが今回の就任演説については、少なくとも極めて高く評価する記事を発見するのは困難だった。

 勝利演説では自ら「すべてのアメリカ国民の大統領」(”President for All Americans”)と宣言しながら、その後の政権移行期間中にそのキャスティングを演じ切れなかったツケがここで回ってきた印象である。

 「政権移行期間中の次期大統領としての好感度」が40%と、近年の大統領では極めて低評価を受けてきたなかで、米国の大統領就任演説という「晴れ舞台」において、予備選挙期間中にとどめておくべき表現を使わざるを得なかったことに筆者はトランプの余裕のなさを感じた。

トランプにハネムーン期間はない

 米国では就任100日間は、新大統領には「紳士協定」として批判を遠慮しておくという慣習がある。もっとも、演説後のメディアでの反応を見ると、「トランプにはこのハネムーン期間は与えられない」とする厳しい意見も少なくない。

米国の議会3大誌の1つである『ロールコール』誌は演説後に、「トランプの就任演説が歴史に残るものになるかどうかはまだわからない。ただ明白なのは、このタイミングが米国の大きなターニングポイントになるということだ」と伝えている。

トランプは、2年後の中間選挙までに、雇用創出や成長率の上昇などの成果を出すしかない状況にさらに追い込まれた。コアな支持層であるほど成果には敏感だろう。トランプ政権が早期に米国内で成果を上げ、そのうえで海外とも価値を共創することにも専念するようになることを期待したい。




トランプ就任演説の注目ポイントはここだ!

田中 道昭 :立教大学ビジネススクール教授 2017年01月19日

政治マーケティングの観点から内容を予想

 いよいよ1月20日にドナルド・トランプが米国大統領に就任する。就任演説でエキセントリックな大統領として、大統領選中に繰り返し述べてきた米国第一主義や分断の主張を繰り返すのか。それとも選挙直後の勝利演説の際に、敗北したヒラリー・クリントンに対して労をねぎらう配慮を見せたように、正統派の大統領として歴史に残るような「名演説」を行うのか。今年のみならず、今後のトランプ政権の4年間を占ううえで、大いに注目されるイベントとなる。

 トランプの就任演説については、米国で最も代表的な議会誌である『ザ・ヒル』誌が昨年12月27日、「大きな夢をもつことがメインテーマになる」と、トランプ大統領就任式委員会メンバーからのコメントとして伝えている。選挙期間中スピーチライターを務め、政策担当の大統領補佐官としてトランプ政権にも参画することが決まっているスティーブン・ミラーが、今回の草稿も担当するとも報じられている。

 さらには、トランプ本人が、今でも世界的にその就任演説が語り継がれているジョン・F・ケネディや、偉大なコミュニケーターとして知られるロナルド・レーガンの就任演説からインスピレーションを得て下書きするとの報道もある。

 就任演説は、トランプにとっても極めて重要なものである。「競争性×最上志向×自我」の資質で形成されていると分析されるトランプは、歴史に残るだけではなく、歴代大統領の中でも最高だったと語り継がれるような演説を目指しているのではないか。そこで今回は、トランプ陣営も選挙戦中から活用してきた米国のマーケティング専門領域である、「政治マーケティング」の視点から、就任演説の内容を予想してみたい。

就任演説はなぜ大切なのか

 米大統領選における政治マーケティングは、自党候補者と戦う予備選、他党候補者と戦う一般選挙、そして大統領就任後の政権運営期間、の3つに大別される。

 1つ目の予備選の最大の目的は、自党の候補としての指名を獲得することだ。この期間においては、1対多数の戦いになるのと同時に、現職大統領との比較が重要となる。実際に共和党候補者のほとんどが、オバマ大統領を厳しく批判したが、これは政治マーケティングにおいては定石的な戦略だったのである。特にトランプはオバマとの間で「強いvs.弱い」という明確な対立軸を有権者に浸透させるのに成功し、この段階から無党派層の注目も集めていた。

 また、このタイミングで最も重要なのは、一般選挙でもコア支持層となるような熱烈な支持者層を獲得することだ。トランプの場合、あえて戦略的に「メキシコとの壁」などの過激な「政策」を打ち出すことで支持者開拓を狙ったと、当時の選挙アドバイザーが発言している。正式に出馬表明する前の段階でトランプ陣営は、コア支持層設定や、より効果的な自らのポジショニング設定のための試行錯誤も兼ねて、あえていろいろと過激な発言を繰り返した。それを集会やツイッターなどの反応から分析し、企図して過激発言を行ったとされている。

 2つ目のタイミングとなる一般選挙においては、自党の支持者だけでなく、無党派層、さらには他党の支持者からも票を得て、大統領選挙に勝利することが最大の目的となる。このタイミングでは、共和党と民主党の候補者による一騎打ちの戦いとなるため、ライバルとの対立軸を明快に示し、より多くの支持者の心をつかむことが重要である。ただし、この時期に不可欠なのは、ビッグデータ分析などに基づいて、対象とする有権者層の選択と集中を行い、接近戦を勝ち抜く冷徹な政治マーケティングの戦略だ。

 今回のトランプ陣営の場合、「現状に怒りや不満を抱くサイレントマジョリティ」の典型例である白人労働者層をメインターゲットに絞ることで、実際には同じような感情を抱いていた共和党地盤である白人層全般、男性層、さらには無党派層が多いとされる中間所得層の取り込みを図ったわけだ。

政権運営が始まったとたん変わること

 そして、1月20日に行われる大統領就任式は、政権運営時期における最初のイベントとなる。そこで行われる演説は、政治マーケティング的観点からすると、政策運営マーケティングでの最初の「キャンペーン」という位置づけになる。予備選挙の目的は自党内で指名を受けることであり、一般選挙の目的は大統領選挙での勝利であった。それでは大統領就任後の政権運営における最大の目的は何になるのだろうか。

 有権者を主なターゲットとしてきた選挙期間とは大きく異なり、政権運営期間においては、ターゲットとなる利害関係者や対象者がさらに増え、複雑かつ多岐にわたることが特徴だ。国民、政党、議会はもとより、最高裁、官僚組織、圧力団体、ロビイストなどに加えて、外国政府を含む国際政治マーケティングの視点も不可欠となってくる。おもには選挙綱領や選挙公約などが重要となり、支持率や米ギャラップ社の「現職政権期における国の方向性に対する満足度の推移」といった世論調査の結果が、「マーケティングが成功したかどうか=重要業績評価指標(KPI)」となる。

 米国の政治マーケティングでは、大統領の支持率に大きな影響を与える要因として、経済状況、内政、外交や安全保障、そして大統領自身のリーダーシップのあり方などが挙げられている。トランプが選挙中に「有権者との契約」として発表した選挙公約や、当選後に発表した就任後100日間計画の内容を上記の要因から分析してみると、経済については雇用創出、内政においては移民政策、外交や安全保障および戦争やテロへの対応については「強いアメリカ」を重視してくるものと予測される。

 それではトランプ大統領就任演説の内容を政治マーケティングの視点から予測していこう。ここでは、演説で注目すべき5つのポイントに絞って、それぞれについて解説していく。

 1.分断された有権者を「一致団結」させる

 米大統領選では共和党と民主党との間で接近戦となることが多いため、就任演説で大統領に求められる最大のミッションは、分断された有権者をいかに国民として一致団結するよう仕向けられるかである。とりわけトランプは選挙戦中、米国の分断をさらに拡大させるような言動を繰り返してきただけに、歴代大統領が試みたミッションに取り組むかは興味深いところだ。

 もっともトランプは、選挙戦の重要なタイミングに応じてマーケティングの対象を柔軟に変化させてきた実績がある。就任演説では、大統領として求められる利害関係者すべてを対象に語ることは確実だろう。とはいえ、米国の分断を意図的に行うことを選挙戦略の中核としてきたトランプが、それを成し遂げるのは容易ではない。米国や米国民で誰が利害関係者となり、その利害関係者とどのような対立構造を描くのか――今回の就任演説で最も重要なポイントとなる。

ケネディ以来、米国人が夢見ていることは

 2.ビッグで人を鼓舞するような「現実的なビジョン」を示す

 就任演説では、自らの政策の詳細を語るのではなく、4年間において米国をどのような国にしていくのかというビジョンを示すことが求められる。ここで重要なのは、できるだけ壮大なビジョンであると同時に、多くの国民が自らも参加したいと思えるよう現実的なものになっているかである。『ザ・ヒル』によれば、トランプの演説では「大きな夢をもつことがメインテーマになる」と伝えられている。

 米国政治において重要な概念となっており、トランプが参考にするとされているケネディが引用した”a city on the hill“(丘の上の都市:米国における理想の国家像)を引用し、どのような偉大な国にしていくのか具体的に述べることも期待されている。ビッグかつ現実的なビジョンを提示することは、分断された国民をひとつにするのに効果的な施策とされる。トランプの「大きな夢」とは、はたして何だろうか。

 3.重要な利害関係者に「メッセージ」を送る

 大統領候補から大統領に変わった瞬間から、その人物には国際政治マーケティングの視点も求められるようになる。同盟国をはじめとする諸外国の協力を得ることが、国内の支持率を左右することになるからだ。歴代の大統領が世界に向けてのメッセージを就任演説に盛り込んだように、トランプにとってもこの点は重要になるはずだ。

 ケネディも就任演説の中で、「世界の市民の皆さん、米国があなた方のために何をしてくれるのか問うのではなく、人類の自由のためにわれわれと一緒に何ができるのかを問うてほしい」 と訴え、自由は協力して守られるべきものであることを主張した。トランプはケネディの主張をさらに強力に推し進めて、世界に対してより大きなビジョンを示すとともに、そのビジョンに加わっていくためには、より重い責任や費用を共有していくことが求められることを述べるのではないか。

 4.自らが重要視する「価値観」を明確にする

 就任演説では国民をひとつにしていくためにも、自らが最も重要だと思う価値観を示すことが求められる。とりわけこのイベントでは、利害関係者に対して「Shared Value(シェアードバリュー=価値観の共有)」を示すことは非常に重要である。トランプは選挙期間中、ライバルとの間で、「強いvs.弱い」「本音・正直vs.偽善」「変化vs.現状維持」といった対立軸を描くのに成功してきた。

 したがって、強さ、本音・正直、変化といった価値観は、シェアードバリューとして多用されるキーワードになるだろう。また「有権者との契約」の中などでも多用している法の支配や、法に基づいた公平性を繰り返し強調することで、「正しさ」も重要な決まり文句として打ち出してくるのではないだろうか。

強さや変化、正直さを強調するか

 5.「セルフブランディング」を進化させる

 トランプの大統領としてのセルフブランディングはすでに明確である。上述のとおり、強い、変化をもたらす、本音・正直などである。もしトランプが自らの就任演説を歴史的なものにしようと考えているのであれば、これまでの暴言とのバランスをとるためにも、演説の中で、honestly(正直に), truthfully(本当のところ), frankly(率直に言って), boldly(大胆に言って), candidly(ありのままに)など、多彩な表現や首句反復・並列・対比・隠喩などのレトリックを駆使して、自分が実直な人物であることを印象づけることを狙ってくるだろう。

 こうしたキャラクターを見事に演じ切り、これらの価値観やリーダーとしてのあり方を伝えていくためにも、就任演説では服装から始まって、話し方、ジェスチャー、トーン、リズム、表現に至るまで、強さ・変化・実直さを意識と潜在意識に書き込んでいくことに腐心するはずだ。それを実現するために、就任演説の場面においても、「ファーストドーター」であるイヴァンカを筆頭としたファミリーも大きな役割を演じることになるのではないだろうか。

 最後に、トランプは、大統領選挙の結果が判明した直後の勝利演説の最後に、「2年、3年、4年、そして8年の間、国民のみなさんが私たちのために協力したいと言ってくれることを望んでいる」と、すでに事実上の「2期8年宣言」を行っている。トランプが実際に再選を果たすには、政権運営マーケティングにおいて複雑かつ多岐にわたる利害関係者を対象に政治を実行していくことが欠かせない。

 就任演説はその後の大統領の行動や成果を評価する大きな指標となる。国際社会をさらに分断するようなエキセントリックな大統領ではなく、歴史に名を残すような正統派の大統領としての就任演説を期待したいものだ。

習近平が新年に掲げた貧困撲滅と党改革はどこまで本気か

2017-01-23 20:04:11 | 日記
DOL特別レポート 2017年1月20日

成立5年目を迎える習近平政権。毛沢東時代の「人民に奉仕する」というよき伝統を復活すべく、反腐敗運動で腐敗に手を染めた党員・幹部を次々と排除し、党内の引き締めを行い、国内の改革でも一定の成果をおさめた習総書記は、昨年10月に開かれた中国共産党第18期中央委員会第六回全体会議(以下、第18期六中全会と略)で「核心」の地位に就いて二期目に突入しようとしている。

 今後の中国共産党はどこへ向かうのか。それを見る手掛かりのひとつとして昨年12月31日に習総書記が全国民に向けて発表した新年のメッセージがある。ここではそのメッセージから今年の習政権を展望してみたい。

「中国の夢」は実現が近い?
技術革新と国民生活の向上を強調

 習総書記が発表したメッセージは1000字余りの短いものであり、そこにはその年の成果と今年の展望について述べられている。

 メッセージで挙げられている2016年の成果は、供給側の構造改革が重要な一歩を踏み出したことや司法改革の深化、軍隊・国防改革で大きな成果をあげたこと、党内の「政治生態(政治環境)」の浄化といった成果のほかに、暗黒物質粒子探査衛星である「悟空」号が軌道上を1年間飛行、神舟11号と天宮2号が銀河を遊弋(ゆうよく)したことや、多くの貧困地域の子どもたちの進学条件が改善されたこと、多くの大衆が自分のかかりつけ医をもつようになったこと、長く戸籍のなかった一部の人の戸籍が登録されたことなど、宇宙開発と国民生活の向上に資する政策面での成果の言及が多かった。

 ここに挙げた成果をみると、中国が技術面で先進国のレベルに近づきつつある一方で、人々の暮らしも豊かな国になりつつあり、習総書記が就任直後に語った、国家の富強、民族の興隆、人民の幸福を目指す「中国の夢」の実現にまた一歩近づいていることをアピールしているように思える。

 日本メディアも報道しているように、今年のメッセージでは2016年の成果として「領土主権と海洋権益を守った」ことを挙げ、「誰がこの問題で文句をつけようとも、中国人民は絶対に承知しない」と述べている。その部分だけを見ると、中国は強硬外交をするのかと思ってしまうがそうではない。領土問題や歴史問題は中国の「原則問題」で、絶対に譲れない問題である。これがらみの事件が起こったら、中国が厳しい態度をとる。新年のメッセージにこういう強い文言が加わったのは、「原則問題」がらみの問題の発生を警戒しているためだと考えられる。

 中国は急に大国になったため、大国としての振る舞いに慣れていないようにも見受けられたが、昨年後半からは世界の政治・経済体制に貢献するという動きになっており、今後は国際協調的な外交を前面に出していくだろう。メッセージで習総書記は「中国人民は自分の生活がよくなるよう希望するだけでなく、各国人民の生活がよくなるよう希望している」と述べ、さらに「国際社会が手を取り合い、人類運命共同体の理念を掲げて、われわれのこの星を一層平和で繁栄したものに建設するよう心から希望している」とも述べており、ウィン・ウィンを基礎にした経済外交、世界の平和のために貢献する外交を展開することを示唆している。

 今年の新年メッセージで多く述べられていたのが貧困への取り組みである。これは中国共産党にとって大きな課題である。

「小康社会」の実現に向け
貧困撲滅で国民の信頼を得る

 メッセージで習総書記は、「小康(ややゆとりのある生活水準)の途上では一人も置き去りにできない」、「私が最も気にかけているのは、困難な人々である。食事はどうか、住居はどうか、よい新年、よい春節を迎えられるか。私は一部の大衆が就職、子女教育、医療、住宅などの面でなお困難を抱えていることも知っている。これらの問題をたえず解決していくことは、党と政府の逃れられない責任だ」と述べた。中国は昨年全国の貧困人口を1000万人減らしたが、現在も農村の貧困人口は5575万人に上り、貧困撲滅の取り組みの難しさを示している。

 もともと共産党は、多くの人々の利益を代表する党であり、とくに弱者に配慮した政策は中国共産党にとって最も重要な政策である。

 なぜ貧困対策の加速を強調するのか。理由は三つある。

 一つ目の理由は、これまでの政策の「負の遺産」の処理が必要であることだ。

 毛沢東時代は、伝統的な社会主義思想の影響を受けて、平等な分配であった。だが、インセンティブが働かないため人々のやる気を削ぎ、結果として悪平等社会となった。鄧小平小平時代に始まった改革開放は、市場競争によって人々を豊かにしたが、結果として貧富の格差を拡大させた。その後の政権は、改革開放の「負の遺産」を処理すべく格差是正を唱えたが、目立った結果を残せなかった。共産党の「良き伝統」の復活を目指す習政権にとって改革開放の「負の遺産」の処理は重要である。

二つ目の理由は、狭隘なナショナリズムの抑制の必要性からである。

 反日デモなどが起きたとき、「あんなことをしたのは現体制に不満を持っている貧乏人だ」とよく言われる。不平等の拡大は、改革の恩恵を受けることができなかった人々の不満を増大させる。それが外に向かい、狭隘なナショナリズムを生み出す温床にもなりうる。これまでは貧しい人々の不満を「愛国」の名の下に外へ向けさせる傾向があったが、世界の政治・経済の舞台で中国の存在が無視できなくなっている現在、そのようなやり方は国家イメージを損なうため、賢明な策とはいえない。

 三つ目の理由は、「二つの100周年」のうちの「一つ目の100周年」の達成が困難になったら、中国共産党の求心力にも影響を及ぼすためである。

 中国共産党は、同党成立100周年までに、衣食住に困らず経済的に比較的満たされた“小康社会”を築き上げ、さらに中華人民共和国成立100周年までに富強・民主・文明・調和の社会主義現代化国家を築くという目標を立てているが、一つ目の100周年である2020年まであとわずかしか残されておらず、貧困を撲滅できなければ、その目標の達成は困難であり、中国共産党は人々の支持を得られなくなる。

 貧困対策のほかには、国民の直接的利益にかかわる課題にも取り組むことも重要である。なぜなら、現在は以前と比べて国民の教育レベルも高くなり、また情報量も多くなっているため、中国共産党は世論を無視できなくなってるからだ。例えば、最近、中国、とくに北京とその周辺地域の大気汚染が深刻だが、「汚染がここまでひどくなったのは、共産党政権が無策だからだ」と考える中国人は少なくない。大気汚染は人々の健康にかかわる問題であり、これを解決しなければ習政権は国民の支持を失ってしまう恐れがある。

「自己犠牲」の党員像を示し
党自体の改革を本格化

 習総書記の新年メッセージは反腐敗運動をさらに続けていくことも示唆している。

 中国は、国会に相当する人民代表大会よりも政権党である共産党のほうが権限が強く、政策決定にあたっては党の路線が反映される。習政権になってからは、経済分野でも党の発言力が増してきており、党の役割をより発揮させようという方向にあり、「特権階級化」した党の体質では政策立案だけでなく、その実行にも影響する。

 胡錦濤時代は「和諧社会(調和のとれた社会)」の理念を打ち出したが、党を根本から改革することができず、自ら提起した改革が大きな成果を残せなかったため、「不作為の10年」といわれた。そのため、「共産党は口ではいいことをいうが、何もできない」という人が出てくる。江沢民時代も胡錦濤時代も反腐敗についての言及があるが、結局のところ「一過性のキャンペーン」に終わってしまい、党の体質改善には至らなかった。だが、習政権は「反腐敗には終わりがない」と一貫して厳しい姿勢を崩しておらず、党の体質改善に対する本気度は高いといえる。

それを示したのが、昨年10月に開かれた第18期六中全会で採択された「新情勢下での党内政治生活に関する若干の準則」(以下、準則と略)である。準則は「中国のことをしっかり行うカギは党にある」というフレーズから始まり、主に次のようなことを述べている。

・共産党の理論であるマルクス主義を学ぶこと
・党の規律と規則を遵守すること
・政策や理論面などで党と一致を保つこと
・民主集中制の原則を守ること
・大衆と密接な関係を持つこと
・個人的利益を追求せず公の利益に奉仕すること
・党内に派閥をつくったり、親分・子分の関係などをつくらないこと
・コネなどでの人材登用をしないこと、などである。

 上に挙げた党員・幹部像は自分が社会主義建設の推進役だという信念を持ち、公のために自分を犠牲にする「自己犠牲」の精神をもっている伝統的な共産主義者像だ。こうしたことが今回の全体会議で取り上げられたということは、現在の中国共産党の体質を改善することはもとより、「ポスト習近平」になっても党内がゆるまないようにするため、現在進められている反腐敗、党建設強化の路線を制度化するためであろう。

 準則は、習総書記が演説などで述べた反腐敗や厳しい党内統治に関する言葉が多く使われており、「習路線の制度化」とみてよい。

「反腐敗には終わりがない」
「摘発」から「監督」に注力

 今後は制度化された習路線をより定着させていくだろう。現在、習政権は党の規律と規則に背いた者は、どんな者でも処罰するという「聖域なき摘発」を行っており、側近幹部や取り締まる側の者であっても党規約や規律に反すれば、罰せられる姿勢を全面に出している。

 これまでは「摘発」がクローズアップされていたが、今後は「監督」の強化に力を入れていくのではないかと筆者は考える。それには党内の組織はもちろんのこと、世論などの監督も必要である。昨年は党の組織である中国共産主義青年団(共青団)の改革が提起され、さらに1月8日に閉幕した中央規律検査委員会第七回全体会議で、国家監察体制の整備も提起されて反腐敗をめぐる制度づくりが一段と進み、相互監督の基礎が徐々に築かれつつある。ただ、世論による監督については、批判の自由をどこまで認めるか、それを拡大させるかというのは問題だが、今後避けて通ることはできない問題だ。

 ただ、党内に長年はびこっていた習慣、党員・幹部の意識を変えるのは容易なことではない。また、習政権が提起している共産党員像は、自らが思想的に目覚めて共産主義運動に従事するというものであり、上から指示されるものではない。現在習政権が行っている党改革は非常に困難をともなう。ゆえに「反腐敗には終わりがない」のだ。二期目の改革をスムーズに実行する基盤づくりとして、今年も政策の立案・実施の中核的存在である党の引き締めはさらに続くだろう。

(中国ウォッチャー 吉田陽介)

http://diamond.jp/articles/-/114873?page=1~4

コラム:トランプ時代の闇、行方を担うCIA新長官(マイク・ポンペオ)

2017-01-22 14:23:40 | 日記
Tim Weiner

[18日 ロイター] - マイク・ポンペオ氏には若干の同情を禁じえない。笑顔を絶やさないが舌鋒鋭いカンザス州選出の下院議員は、1月11日に上院の承認公聴会を無難に切り抜け、トランプ新政権のCIA長官に就任する。

しかし同時に彼は、ロシアのスパイと大統領選との関係をめぐる上院公聴会でも重要な証人の役目を担うことになるだろう。

トランプ氏は、情報機関の上層部をナチスに例えた。「恥ずかしいことではないか。最終的に虚偽でありデマだと判明した情報が漏れるのを情報機関が放置していたというのは、恥ずかしい。不名誉なことだと思う。ナチスドイツならそういうことをやっただろうし、実際にやっていたのだが」

11日に行われた騒々しい記者会見での激しい言葉遣いからは、ロシアのプーチン大統領が米大統領選で演じた役割に関する情報機関からの報告に対して、トランプ氏がどれほど怒っているかが伝わってきた。この件は、ソ連が原子爆弾に関する機密情報を盗んで以来、最もよくできたスパイ事件である。

トランプ氏のツイートに現れているように、彼の怒りを増しているのは、米政界に出回っている「不都合な」文書は情報機関当局者がリークしたものだと彼が信じているためである。これはまた別の怒りに火を点じかねない。スパイ組織方面にこの情報をもたらしたのは、12月に例の文書をコミーFBI長官に渡したジョン・マケイン上院議員なのだ。

上院情報特別委員会の公聴会は品の良い場所であり、ポンペオ氏に対するぶしつけな質問は手控えられた。

「ポンペオ議員、あなたは次期大統領がCIAをナチス呼ばわりしたことについて、CIAでどのように説明するのか」(できるわけがない)

「プーチン氏がトランプ候補を応援していたという分析に対して、トランプ氏がCIAは嘘つきだと言ったらどうするのか」(本当のことを言わざるをえない)

「トランプ氏がCIAに対して外国の指導者を倒すよう命じたら、どうするのか」(他の大統領はCIAに暗殺を命じ、試みたが失敗に終わった)

秘密工作で失敗をやらかすか、最高司令官たる大統領の思い込みを否定するような冷静な分析を示せば、たいていの大統領はCIAに対して腹を立てた。

それでも、CIAをナチスの突撃隊になぞらえる大統領などいなかった。当選以来トランプ氏が見せているような軽蔑をCIAに示した大統領はいない。CIAが言うことなど聞きたくないとトランプ氏が思っているのでもないかぎり、およそ理解できないほどの軽侮である。

筆者は30年にわたって米国の情報機関について取材してきた。CIA界隈では、このナチス発言はよく思われないだろう。ポンペオ氏の新たな舞台が恵まれたものであることを祈る。

CIA70年の歴史で、これまで21人が長官として連邦議会で承認されてきた。後に第43代ブッシュ大統領やオバマ大統領のもとで国防長官を務めたロバート・ゲーツ氏のように、戦争や危機の時代においても冷静な態度を見せた長官もいる。

しかし、レーガン政権でCIA長官を務めたウィリアム・J・ケイシー氏のように、大失敗に終わる秘密工作に固執する、危険で欺瞞的な人物もいた(イラン・コントラ事件を参照されたい)。

ゲーツ氏やオバマ政権におけるジョン・ブレナン氏のように、CIA長官が成功した例では、大統領が聞く耳を持っていた。大統領はきわめて重大な事案についてCIA長官の意見に耳を傾けた。1発の銃声もなしに冷戦を終わらせる、イランの核開発に関する合意を結ぶ、などである。いずれもホワイトハウスにおいて国家安全保障担当の側近として働き、毎日(そして多くの夜)、最高司令官である大統領と身近に接していた。

クリントン政権の最初のCIA長官であるジェームズ・ウールジー氏のように失敗した例では、大統領に軽蔑されていた。大統領は、このような長官を遠ざけていた。クリントン大統領はウールジー長官に年1回しか会わなかった。24年を経た今、ウールジー氏は「チーム・トランプ」を側面から支援しているが、新政権にはポストを見いだせないままだ。

ポンペオ氏は頭の回転が速い。ウェストポイントの陸軍士官学校でも同期随一の秀才が、理念的な論争において後手を踏むことはめったにない。承認公聴会において、彼は賢明にも、拷問に相当する尋問手段の復活を否定し、イランとの合意条件を支持するつもりだと述べた。

とはいえ、新たに国家安全保障担当の大統領補佐官に就任するマイク・フリン退役陸軍中将を出し抜くためには、ポンペオ氏は賢明であると同時に狡猾になる必要があろう。トランプ氏と充実した時間を過ごすためには、フリン氏という門番の目を盗まなければならない。

フリン氏は2014年、国防情報局長を正当な理由により解任されている。フリン氏は戦争やテロについて「フリン式の事実」(虚偽とも言える)を押しつけていると見られ、側近らの信頼を失っていた。

その後、フリン氏はモスクワでプーチン氏と夕食を共にし、ロシアの宣伝機関であるRTから金品を受けとった。陸軍情報部で33年間の経験を積んだ将校には似合わぬ狂信的な、情熱を込めた話し方をすることもある。陰謀論者で、CIAが彼を敵視していると信じているようである。

トランプ氏が、CIAのスパイたちに対する怒りをかき立てる材料を探すならば、フリン氏こそ、それにふさわしい人材である。

歴代の大統領は、なぜCIAとうまくやっていけなかったのか。多くの大統領は、「情報機関はあらゆる問題を解決できる、あるいは何一つろくなことはやらないという思い込みを抱いて就任し、その後、正反対の見解へと引っ張られていく」と語るのは、リチャード・J・カー元CIA副長官。「それから、いったんは腰を据えるが、また一方の極端から他方へと揺れ動く」

トルーマン大統領は、冷戦の最初期、CIAの秘密主義に恐怖感を抱いた。アイゼンハワー大統領は、ソ連に関する予測能力という点でCIAに落胆した。ケネディ、ジョンソン、ニクソンの各大統領は、ベトナム戦争に勝利する方法を起案できなかったとして、CIAに責任転嫁した。

レーガン大統領は、イラン・コントラ事件のスキャンダルで危うく評判を失墜させるところだった。ジョージ・W・ブッシュ大統領は、イラク戦争の展開についてCIAが「当てずっぽうに推測している」と発言し、CIAに21世紀に入って最悪の評価を与えた。

本当に危険なのは、大統領が、CIAの考えが単に自分の想定とは合致しないからという理由で耳を傾けない場合である。

2010年に「ティーパーティー(茶会)」一派として下院議員に当選したポンペオ氏は、その気になればイデオロギー的な立場も取れる。その典型的な例が、「ベンガジの悲劇」の責任をヒラリー・クリントン氏に押しつけようというポンペオ氏によるキャンペーンだ。政治的な発言に、福音主義キリスト教徒としての信仰が反映されていることがある。

しかし彼は、宗教的な熱狂や十字軍気取りがCIA職員に歓迎されないこと、またラングレーのCIA本部を率いるという自身の職務にもふさわしくないことを承知している。

もちろん、大統領がイデオロギーに動かされることはある。だが、情報機関の活動にとって、イデオロギーは禁物だ。情報機関は、情報を、それも秘密の情報を分析・解析することだ。要するに「事実」、運が良ければ「現地検証を経た事実」である。「ポスト真実」の哲学において、イデオロギーはその根本となる原理である。つまり、「私の考えは決まっている。事実で混乱させるな。この執務室から出ていけ」ということだ。

そのようにして、戦争は始まる。誤った情報活動という刺激でイデオロギーという起爆装置を起動させれば、勝てない戦争を始めることになる。ピッグス湾、ベトナム、そしてイラクといった具合に。

無所属のアンガス・キング上院議員(メーン州選出)は、12日の承認公聴会での長々しいやり取りについて語った。CIAの過去の顕著な失敗についてポンペオ氏に問いただしたのは、キング議員だけだった。

大統領に悪いニュースを告げること、大統領が聞きたがらない内容を進言することを約束するか。「約束する」とポンペオ氏は応じている。プーチン氏とトランプ氏の関係について精査するか。ポンペオ氏は、「それがわれわれをどこに導くかにかかわらず、事実を追及することを約束する」と答えた。

CIAにおけるポンペオ氏の最初の任務の1つは、マケイン氏などの有力上院議員からの問い合わせに応じることだ。彼らは潜在的な破壊力を秘めたこの問題を解決するために、CIAの力を利用したいと考えるだろう。マケイン氏のほか、同じような考え方を持つ数名の共和党議員は、「プーチン氏の支持を受けたロシアの情報作戦が、トランプ氏当選を支えた」というCIAの結論について公聴会を開催すると公約している。

これによって、ホワイトハウス、連邦議会、CIAはどこか非常に暗い闇の世界へと導かれる可能性が高い。ピッグス湾事件、ベトナム戦争、そしてわれわれをイラクでの戦争へと誘った、硬直したイデオロギーと腐った情報活動という大惨事について、苦痛に満ちた長年の分析を経て、ようやく米国民がその存在を知った、闇の世界である。

トランプ大統領の時代に、闇の世界はどこまで暗くなるのか。それを左右するのは、例えばポンペオ氏といった人物次第なのである。




*筆者はピュリツァー賞を受賞した著述家。著書に “Legacy of Ashes: The History of the CIA”(「CIA秘録─その誕生から今日まで」)など。


*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

トランプ新大統領がTPP脱退表明、「米国第一主義」推進へ

2017-01-22 14:11:02 | 日記
[ワシントン 20日 ロイター] - ドナルド・トランプ氏は20日、米連邦議事堂で開かれた式典で宣誓し、正式に第45代米大統領に就任した。就任演説では、国内外で「米国第一主義」の政策を推進すると表明した。

トランプ大統領は、米国民に対し「今この時はあなたがたのものだ」とし、「ワシントンからあなたがたに権力を取り戻す」と述べた。

その上で「きょうから新たなビジョンがこの地を統治する。これからは米国第一主義だけだ」とし、雇用の国外流出で苦しい立場に追い込まれた中間層の底上げを目指すとした。

米国はこれまで国内企業を犠牲にして外国企業を豊かにし、他国軍に資金援助する一方で米軍を疲弊させ、海外での巨額支出で米国内のインフラ老朽化を招いたと指摘。

「中間層の富は奪われ、全世界へと再分配された」とし、こうした状況に終止符を打ち、「通商、税制、移民、外交に関するすべての決定は、米国の労働者と家庭に恩恵を与えるものにする」と言明した。米国製品を買い、米国民を雇うという2つのルールが政策の原則となるとした。

トランプ新政権は就任式直後、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を表明。北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉へのコミットメントも明らかにし、カナダとメキシコが米労働者への公正な取り決めを拒むようであれば、NAFTAからの離脱も辞さない構えを示した。

またオバマ政権時代の気候行動計画を含む環境問題をめぐる構想を撤廃する方針を表明。米国の石油・ガス生産増加に向けた取り組みが、「道路や学校、橋などの公共インフラを修復するための」歳入拡大に寄与するとした。

外交政策は、イスラム国(IS)など「イスラム過激派テログループ」打倒を最優先の目標とすると表明した。

ただ、首都ワシントン周辺では、トランプ氏の大統領就任に反対する大規模な抗議活動が行われ、一部ではデモ参加者が暴徒化。深く分断された米国の現実を浮き彫りにした。

一部は警察と衝突。石や瓶を投げつけるデモ参加者に対し、警官は催涙ガスや衝撃手りゅう弾で応戦した。市内のある場所では、警察車両の窓に物が投げつけられたり、バンク・オブ・アメリカの支店やマクドナルド店舗の窓が破壊されたりした。

警察によると、少なくとも217人が逮捕され、警察官6人が負傷した。

市内各地で起きた抗議活動は、就任式が行われた連邦議会議事堂からホワイトハウスに至るパレードの通り道であるペンシルベニア通りからわずか数ブロック程度しか離れていない。さまざまなデモ隊が、「トランプは大統領ではない」「人種差別主義者を再び震え上がらせろ」といった反トランプのスローガンを叫びながら抗議した。

「トランプは上から止められるのではない。人々が立ち上がり、下から止められるのだ」と、サンフランシスコ出身の元教師の男性(69)は語った。「国籍や宗教や肌の色を問わず、私たちはこの国にいる皆の権利を擁護し、人として尊重する。この男は誰にも敬意を払わない」

一方、煙がくすぶるごみ箱が積まれた近くで、友人たちと心配そうに立っていたトランプ支持者の男子学生(21)は、「デモが起きると思っていたが、暴力的なものになるとは予想していなかった」と述べた。

抗議活動はロサンゼルスのほか、東京、ロンドンなどの海外都市でも行われた。一方、関係改善を期待するロシア国民はトランプ氏の大統領就任を祝福した。


[ワシントン 20日 ロイター] - トランプ新米政権は20日、オバマ政権時代の気候行動計画を含む環境問題をめぐる構想を撤廃する方針を示した。

ドナルド・トランプ氏はこの日、米連邦議事堂で開かれた式典で宣誓し、正式に第45代大統領に就任。ホワイトハウスのウェブサイトに掲載された文書は「トランプ大統領は気候行動計画などの有害で不要な政策を撤廃することにコミットしている。こうした規制を排除することで賃金は向こう7年間で300億ドルを超えて増加し、米国の労働者に恩恵をもたらす」としている。

トランプ新大統領誕生! 就任演説全文(英語)

2017-01-22 14:03:39 | 日記
【トランプ新大統領の就任演説全文(英語)】

 Chief Justice Roberts, President Carter, President Clinton, President Bush, President Obama, fellow Americans, and people of the world: thank you.

 We, the citizens of America, are now joined in a great national effort to rebuild our country and to restore its promise for all of our people.

 Together, we will determine the course of America and the world for years to come.

 We will face challenges. We will confront hardships. But we will get the job done.

 Every four years, we gather on these steps to carry out the orderly and peaceful transfer of power, and we are grateful to President Obama and First Lady Michelle Obama for their gracious aid throughout this transition. They have been magnificent.

 Today’s ceremony, however, has very special meaning. Because today we are not merely transferring power from one Administration to another, or from one party to another – but we are transferring power from Washington, D.C. and giving it back to you, the American People.

 For too long, a small group in our nation’s Capital has reaped the rewards of government while the people have borne the cost.

 Washington flourished – but the people did not share in its wealth.

 Politicians prospered – but the jobs left, and the factories closed.

 The establishment protected itself, but not the citizens of our country.

 Their victories have not been your victories; their triumphs have not been your triumphs; and while they celebrated in our nation’s Capital, there was little to celebrate for struggling families all across our land.

 That all changes – starting right here, and right now, because this moment is your moment: it belongs to you.

 It belongs to everyone gathered here today and everyone watching all across America.

 This is your day. This is your celebration.

 And this, the United States of America, is your country.

 What truly matters is not which party controls our government, but whether our government is controlled by the people.

 January 20th 2017, will be remembered as the day the people became the rulers of this nation again.

 The forgotten men and women of our country will be forgotten no longer.

 Everyone is listening to you now.

 You came by the tens of millions to become part of a historic movement the likes of which the world has never seen before.

At the center of this movement is a crucial conviction: that a nation exists to serve its citizens.

 Americans want great schools for their children, safe neighborhoods for their families, and good jobs for themselves.

 These are the just and reasonable demands of a righteous public.

 But for too many of our citizens, a different reality exists: Mothers and children trapped in poverty in our inner cities; rusted-out factories scattered like tombstones across the landscape of our nation; an education system, flush with cash, but which leaves our young and beautiful students deprived of knowledge; and the crime and gangs and drugs that have stolen too many lives and robbed our country of so much unrealized potential.

 This American carnage stops right here and stops right now.

 We are one nation – and their pain is our pain. Their dreams are our dreams; and their success will be our success. We share one heart, one home, and one glorious destiny.

 The oath of office I take today is an oath of allegiance to all Americans.

 For many decades, we’ve enriched foreign industry at the expense of American industry;

 Subsidized the armies of other countries while allowing for the very sad depletion of our military;

 We've defended other nation’s borders while refusing to defend our own;

 And spent trillions of dollars overseas while America's infrastructure has fallen into disrepair and decay.

 We’ve made other countries rich while the wealth, strength, and confidence of our country has disappeared over the horizon.

 One by one, the factories shuttered and left our shores, with not even a thought about the millions upon millions of American workers left behind.

The wealth of our middle class has been ripped from their homes and then redistributed across the entire world.

 But that is the past. And now we are looking only to the future.

 We assembled here today are issuing a new decree to be heard in every city, in every foreign capital, and in every hall of power.

 From this day forward, a new vision will govern our land.

 From this moment on, it’s going to be America First.

 Every decision on trade, on taxes, on immigration, on foreign affairs, will be made to benefit American workers and American families.

 We must protect our borders from the ravages of other countries making our products, stealing our companies, and destroying our jobs. Protection will lead to great prosperity and strength.

 I will fight for you with every breath in my body – and I will never, ever let you down.

 America will start winning again, winning like never before.

 We will bring back our jobs. We will bring back our borders. We will bring back our wealth. And we will bring back our dreams.

 We will build new roads, and highways, and bridges, and airports, and tunnels, and railways all across our wonderful nation.

 We will get our people off of welfare and back to work – rebuilding our country with American hands and American labor.

 We will follow two simple rules: Buy American and Hire American.

 We will seek friendship and goodwill with the nations of the world – but we do so with the understanding that it is the right of all nations to put their own interests first.

We do not seek to impose our way of life on anyone, but rather to let it shine as an example for everyone to follow.

 We will reinforce old alliances and form new ones – and unite the civilized world against Radical Islamic Terrorism, which we will eradicate completely from the face of the Earth.

 At the bedrock of our politics will be a total allegiance to the United States of America, and through our loyalty to our country, we will rediscover our loyalty to each other.

 When you open your heart to patriotism, there is no room for prejudice.

 The Bible tells us, “how good and pleasant it is when God’s people live together in unity.”

 We must speak our minds openly, debate our disagreements honestly, but always pursue solidarity.

 When America is united, America is totally unstoppable.

 There should be no fear – we are protected, and we will always be protected.

 We will be protected by the great men and women of our military and law enforcement and, most importantly, we are protected by God.

 Finally, we must think big and dream even bigger.

 In America, we understand that a nation is only living as long as it is striving.

 We will no longer accept politicians who are all talk and no action – constantly complaining but never doing anything about it.

 The time for empty talk is over.

 Now arrives the hour of action.

 Do not let anyone tell you it cannot be done. No challenge can match the heart and fight and spirit of America.

We will not fail. Our country will thrive and prosper again.

 We stand at the birth of a new millennium, ready to unlock the mysteries of space, to free the Earth from the miseries of disease, and to harness the energies, industries and technologies of tomorrow.

 A new national pride will stir our souls, lift our sights, and heal our divisions.

 It is time to remember that old wisdom our soldiers will never forget: that whether we are black or brown or white, we all bleed the same red blood of patriots, we all enjoy the same glorious freedoms, and we all salute the same great American Flag.

 And whether a child is born in the urban sprawl of Detroit or the windswept plains of Nebraska, they look up at the same night sky, they fill their heart with the same dreams, and they are infused with the breath of life by the same almighty Creator.

 So to all Americans, in every city near and far, small and large, from mountain to mountain, and from ocean to ocean, hear these words:

 You will never be ignored again.

 Your voice, your hopes, and your dreams, will define our American destiny. And your courage and goodness and love will forever guide us along the way.

 Together, We Will Make America Strong Again.

 We Will Make America Wealthy Again.

 We Will Make America Proud Again.

 We Will Make America Safe Again.

 And, Yes, Together, We Will Make America Great Again. Thank you, God Bless You, And God Bless America.