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トランプ新大統領誕生!

就任演説全文(英語)

浜尾朱美さんが死去

2018-10-19 13:51:56 | 日記

キャスターの浜尾朱美さんが死去
「筑紫哲也ニュース23」

 死去した浜尾朱美さん死去した浜尾朱美さん

 TBS系の報道番組「筑紫哲也ニュース23」でニュースキャスターを務めた浜尾朱美(はまお・あけみ、本名千葉朱美=ちば・あけみ)さんが14日早朝、乳がんのため東京都内の病院で死去した。57歳。徳島県出身。

 早稲田大卒。大学在学中に同局アナウンサーの入社試験を受けた際、ドラマのプロデューサーの目に留まり、テレビドラマ「おゆう」で女優デビューした。その後「ニュース23」番組開始の1989年10月から97年9月まで同番組のキャスターを務めた。

 著書にエッセー「もう結婚占いはいらない」などがある。(共同通信)

【2018年09月14日 22時21分】

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「NEWS23」初代サブキャスターの浜尾朱美さん、乳がんで死去…10年に及ぶ闘病生活

2018年9月14日21時21分  スポーツ報知
  • 「筑紫哲也NEWS23」に出演していた頃の浜尾朱美さんと筑紫哲也さん
 

 TBS系「筑紫哲也NEWS23」などで活躍したキャスターでエッセイストの浜尾朱美(はまお・あけみ、本名・千葉朱美)さんが14日早朝、乳がんのため、入院先の都内の病院で死去したことがわかった。57歳だった。TBS広報部によると、10年以上に渡る闘病生活を続けていた。

 浜尾さんは1983年、早大卒業後、TBS系ドラマ「おゆう」のヒロインで女優デビュー。その後、キャスターに転身し、89年10月から放送開始した「筑紫哲也NEWS23」のサブキャスターを8年間務めた。同局の男性社員と結婚し、1男をもうけた。

 エッセイストとしても著書「もう結婚占いはいらない」などを刊行し、コラムを執筆するなど幅広く活躍。競馬や相撲にも造詣が深かった。2012年には京都ノートルダム女子大学の客員教授を務めた。



朝日新聞デジタル

キャスターの浜尾朱美さん死去 「ニュース23」

2018年9月14日21時24分

 浜尾朱美さん(はまお・あけみ=ニュースキャスター、本名千葉朱美〈ちば・あけみ〉)が14日、乳がんで死去、57歳。

 俳優を経て、TBSの報道番組「筑紫哲也ニュース23」で番組開始の89年10月から97年9月までの8年間、キャスターを務めた。エッセイストとしても活躍した。乳がんで10年以上闘病を続けていたという。



浜尾朱美さんが死去 ニュースキャスター

2018/9/14 22:53
日本経済新聞 電子版
 

 浜尾 朱美さん(はまお・あけみ、本名=千葉朱美=ちば・あけみ、ニュースキャスター)9月14日、乳がんのため死去。57歳。

 テレビドラマ「おゆう」で女優デビュー。報道番組「筑紫哲也NEWS23」の初代キャスターを1989年10月から約8年間務めた。「私の競馬」などの著書がある

故浜尾朱美さん(ニュースキャスター)の告別式 9月20日午前9時50分から東京都品川区西五反田5の32の20の桐ケ谷斎場。

 

 


京都新聞 社説 2018年08月28日~08月22日掲載

2018-10-19 13:26:28 | 日記

米長官訪朝中止 一貫性なき非核化交渉

 案の定というべきか、北朝鮮の非核化を巡る交渉が難航気味だ。
 米トランプ政権が、予定していたポンペオ国務長官の訪朝を急きょ中止した。非核化への意志が見えない北朝鮮への懐疑的な見方が米政権内に広がっているためだ。
 6月の米朝首脳会談では、非核化に関する具体的な手順なども十分詰め切れなかった。その甘さがいまだ実質的な交渉に踏み込めない現状につながっている。
 このままでは首脳会談の意味を問われかねない。一致点を探る両国の努力が求められる。
 現時点では米国の焦りがうかがえる。トランプ政権は、金正恩朝鮮労働党委員長が「戦略的決断」を下して核放棄と経済発展の道を選べば1年以内に非核化が実現するとの見通しを示している。
 しかし、北朝鮮は強気だ。李容浩外相は今月上旬、米側が朝鮮戦争の終戦宣言などに取り組まない限り、一方的な核放棄には応じないとの姿勢を鮮明にした。
 北朝鮮は、核実験やミサイル発射はしていないが、国連安保理の専門家は寧辺で原子炉などの核施設が稼働していると報告した。
 一方で首脳会談の共同声明に基づき、朝鮮戦争で行方不明になった米兵の遺骨を返還した。終戦宣言を早期に行うよう促したのではないか。米国を硬軟両面で揺さぶっているとみることもできる。
 米政権内では北朝鮮への対応方針に一貫性がみられない。
 首脳会談後、「最大限の圧力」を言わなくなったトランプ氏に対して、ボルトン大統領補佐官は自らが統括する国家安全保障会議で北朝鮮に関わる中国企業などへの制裁を発動するなど影響力を強めている。ポンペオ氏の訪朝中止も、ボルトン氏らの意向によるとみられている。
 疑問なのは、トランプ氏がポンペオ氏の訪朝は「米中の貿易問題を解決した後」とするなど、北朝鮮の後ろ盾といえる中国との貿易摩擦を非核化交渉と結びつけようとしていることだ。
 核問題と貿易を取引するかのような発想では、トランプ氏の安全保障観に疑問符がつく。これでは関係国の疑念を膨らませ、非核化への道はますます遠くなる。
 拉致問題を抱える日本にも痛手となる。米の外交力を頼れなくなれば、自力で日朝交渉を具体化させるしかない。
 「(拉致問題は)解決済み」と言い張る北朝鮮にどのように譲歩を迫っていくのか。戦略の立て直しが求められる。

[京都新聞 2018年08月28日掲載]



地銀の再編 地域活性化あってこそ

 地域経済の活性化につながる判断か、注目したい。
 公正取引委員会がふくおかフィナンシャルグループ(FFG)と長崎県の最大手、十八銀行の経営統合計画を承認した。
 FFG傘下には長崎県2位の親和銀行がある。合併後の県内シェアは約65%と高水準となるが、公取委は公正な競争環境が維持されると判断した。
 2016年2月の基本合意時点には約70%だった。公取委は融資の金利が上昇しかねないとして認めない方針を表明していた。
 承認に転じたのは、FFGと十八銀が計約1千億円の貸出債権を競合する他の金融機関に譲渡するめどをつけたためだ。貸出金のシェアが低下し、公取委は借り手が不利益を受けることはなくなったと判断した。
 日銀のマイナス金利政策による超低金利の長期化や国債運用難、人口減少などの影響で地方銀行の経営環境は厳しさを増している。
 金融庁は「余裕があるうちに統合を進めるべき」との姿勢で、再編を柱とした経営改革を働き掛けている。しかし、地銀同士の統合はシェアの高さがハードルとなっていた。
 今回、公取委は同一県内の首位と2位の統合を、65%のシェアで承認した。公取委は「競争実態で総合的に判断する」としているが、今後の統合の指標になる可能性がある。詳しい説明が必要ではないか。
 地銀同士が統合すれば、近接する店舗の統廃合などのリストラが進み、それが一時的には増益をもたらす可能性はある。課題は、その後も地域の事情に合わせたきめ細かな融資や地元企業の支援を続けられるかだ。
 貸出債権の譲渡は、融資先に借り換えをしてもらうことだ。どの銀行と取引しているかは、会社の社会的信用にも関わる問題で、借り手が簡単に応じるとは思えない。FFGと十八銀の場合は、融資先の説得に2年もかかった。今後、同じ手法が他でも可能かは不透明だろう。
 京滋の金融機関も経営環境は厳しいが、例えば京都銀行や滋賀銀行は取引先の経営支援や企業の合併・買収(M&A)の仲介、投資信託の販売といった非金利部門にも力を入れている。大手行と同様、店舗の統合やスリム化も進んでいる。
 地銀は地域の経済インフラである。統合で融資が縮小しては再編の意味がなくなる。国はこの点も重視して政策を進めてほしい。

[京都新聞 2018年08月28日掲載]



安倍氏出馬表明 政策論議の機会増やせ

 自民党総裁選(9月7日告示、20日投開票)に安倍晋三首相(党総裁)が連続3選を目指し立候補を正式に表明した。石破茂元幹事長との一騎打ちとなりそうだ。
 事実上の首相選びだ。約5年半の長期政権を担当してきた安倍氏は今後3年間のしっかりした内政、外交政策を示さなくてはならない。
 森友・加計問題や財務省決裁文書改ざん問題など政権不祥事で政治不信を招いた。この総括と対策が何よりも不可欠だ。
 鹿児島県で記者団に出馬表明した安倍氏が強調したのが「新たな国造り」だ。「どう進めていくか骨太の議論をしたい」と述べ、総裁選の争点とする考えを示した。
 その一つに憲法改正があるのは言うまでもない。戦力不保持の9条2項を残したまま、自衛隊を明記する改憲に「大きな責任を持つ」と主張している。
 石破氏は9条改正の優先順位は低い、としている。
 改憲を党是ともする自民党の総裁選で主要テーマには違いない。だが、次の総裁にどんな政策を期待するか聞いた共同通信世論調査では、社会保障や医療・福祉、経済政策、少子化対策が上位に並び、改憲への関心はそう高くない。
 改憲に議論が集中し、国民生活に根差した政策課題や安倍政治の検証という重要な論点がかすんでは困る。国造り論議では幅広く政策課題をぶつけてほしい。
 「正直、公正」な政治姿勢を石破氏は対立軸に据え、首相批判を強めてきたが、安倍氏はどう答えるのか。党や政権の在り方についても徹底した議論を求めたい。
 安倍氏の鹿児島での出馬表明は地方重視の姿勢を示したものだ。国会議員票は大半を早々と固め、優位に立つ。2012年総裁選で石破氏に地方票で負けた経緯もあり、地方行脚を本格化させて地方票でも大勝を狙う戦略といえる。
 今回3選を果たせば安倍氏は首相在職期間が通算で歴代最長となることも視野に入る。
 党内では既に選挙後の内閣改造や党役員人事に関心を示す空気もある。だが、6年ぶりの本格的な政策論争の機会を単なる権力闘争の舞台にしてはならない。
 気になるのは、石破氏陣営が公開討論を求めているのに対し、安倍氏陣営は消極的という。
 「骨太の議論がしたい」との考えは両氏共通だろう。選挙中は討論会や演説会など論戦の場を増やすべきだ。開かれた論争を通じ、日本の向かうべき針路を党員だけでなく、国民に示す必要がある。

[京都新聞 2018年08月27日掲載]



食品ロス 京滋から削減広げよう

 まだ食べられるのに捨ててしまう「食品ロス」を削減しようという動きが、京都や滋賀で高まりつつある。先行する民間や他自治体の活動に触発され、京滋の行政も本腰を入れ始めたからだ。
 京都市が先ごろまとめた実証実験の結果では、加工食品の販売期限を賞味(消費)期限切れ直前まで延長すれば、食品の廃棄を1割減らすことができた。家庭や売り場で少し工夫したり、意識を変えるだけで、貴重な資源の無駄遣いを抑制し、困窮家庭への支援などにも活用できる。
 世界的な人口増や食糧不足を踏まえ、国連が2015年に採択した「持続可能な開発のための2030年目標(SDGs)」では、世界で1人当たりの食品廃棄を半減すると掲げる。京滋から削減の実践を広げたい。
 農林水産省の推計では国内の食品ロスは年621万トン。55%が事業系の返品や売れ残りで残りが家庭の食べ残しや廃棄だ。京都府内では計13万~17万トンとみられる。
 府は各界関係者による「食品ロス削減府民会議」を設け、昨年から食材の使い切りを学ぶ料理教室や「食べ残しゼロ推進店舗」の認定拡大などに取り組む。滋賀県は買い物ごみ・食品ロス削減推進協議会を立ち上げ、積極的な飲食店を登録する制度をつくった。
 京都市は実証実験に踏み込む。スーパーなどでは製造日から賞味(消費)期限までの残日数が3分の1を切ると廃棄する商慣行があるが、スーパーの協力で期限切れの当日か1日前まで販売を延ばした。すると廃棄は1割減少し、売り上げは5・7%増えたという。
 また市は、居酒屋の協力で団体客の幹事に声掛けを依頼した。開始後30分と終了後10分は自席で食べようという、長野県松本市発祥の「30・10運動」である。食べ残しは5分の1にまで減った。
 いずれの実験でも効果は明らかだが、課題もある。販売期限の延長では、参加業者から「在庫管理に手間がかかる。人手不足で手が回らない」との声が聞かれた。宴会での声掛けは「雰囲気が壊れ、客離れが起きないか」との懸念も出た。普及には、消費者の理解や行政の支援が欠かせない。
 府内では不要食品を子ども食堂や困窮世帯へ寄付する市民団体「フードバンク」に、スーパーが協力し、店内に不要食品回収箱を置くといった試みも芽生える。事業者や個々の家庭が連携して食品ロスを減らし、未来に限りある資源を引き継ぐ責任を果たしたい。

[京都新聞 2018年08月27日掲載]



原発事故の賠償 リスクの放置は無責任だ

 日本には原発を動かす条件も環境も整っていない。そう考えざるを得ない。
 政府は原発事故に備えた原子力損害賠償法に基づく賠償金を現行の1200億円に据え置く方針を決めた。
 東京電力福島第1原発の事故の賠償金は、今年7月時点で8兆円を超えている。同法で定めた民間保険や政府補償による賠償上限を引き上げる必要性は以前から指摘されていた。
 政府の専門委員会は当然、引き上げで同意する方向だった。しかし、電力会社と政府の双方が引き上げに後ろ向きで、結果的に見送りとなった。
 万が一への備えが不十分なまま、原発の再稼働が進んでいくことになる。「原発のコスト」などの著書で知られる龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)は「無保険で車を運転しているような状態」と指摘する。
 原賠法は、民間保険と政府補償契約で賠償額を充当する仕組みで、賠償額の増額は電力会社の負担になる。
 電力会社は電気代値上げにつながるとして難色を示し、賠償額を増やすなら国が手当てしてほしいと要求した。電力自由化で競争が激化しているうえ、原発再稼働のための安全対策に費用がかかっているためという。
 原発の運転にお金がかかるから、万が一の事故に備えた賠償金を十分用意できない、というわけだ。それなら原発から撤退すればよい。税金をあてにするなど、論外ではないか。
 国も世論の反発を恐れ、財政出動による政府補償の増額を拒んだ。
 電力会社が十分な補償を用意して原発を運転しているかどうかを監督するのが、本来の国の役割ではないのか。「再稼働ありき」だから電力会社の言い分を聞くしかない、というなら極めて無責任である。
 「原発は比較的安価なエネルギー」。国と電力会社はこう繰り返しているが、万が一の事故に十分に備えれば、割が合わないのは明らかだ。
 今月10日、中国電力が建設中の島根原発3号機の新規稼働に向けて原子力委員会に審査を申請した。
 2011年の東日本大震災当時に建設中だった原発が審査を申請するのは2例目になる。
 島根3号機は、事故を起こした福島第1原発と同じ沸騰水型原子炉(改良型)である。
 中国電が3号機の稼働を目指す背景には、電力自由化による競争の激化がある。中国地方には新電力や関西電力が進出している。関電のように原発を再稼働させ、火力発電向け燃料負担を軽減し、増益を狙いたいというわけだ。
 こうした経営方針は、関電や九州電力、四国電力にも共通する。電力会社の表面的な経営改善のために、本来負うべきリスクへの対応が放置されたまま再稼働が進んでいる。
 米国のニューヨーク州は昨年、原発1基の廃止を決めた。都心部から80キロ圏内にあり、事故時の避難や補償が不可能だからだ。福島の教訓を生かした判断である。本来、日本がとるべき道ではないだろうか。

[京都新聞 2018年08月26日掲載]



部活動指導員 役割と位置付け明確に

 多忙な教員の負担軽減だけを目的にするなら、中途半端な存在になってしまいかねない。
 文部科学省が、全国の公立中学校に配置する「部活動指導員」を大幅に増員する方針を決めた。
 来年度政府予算の概算要求に1万2千人を配置する経費13億円を盛り込むという。本年度予算の5億円(4500人)の倍以上だ。
 部活動指導員は、昨年度の学校教育法施行規則改正で学校職員に位置づけられた。クラブの顧問を務めることや、大会など校外への引率もできるようになった。
 外部の指導員を学校に迎えることは、クラブ活動の運営や指導に新たな視点を提供してくれることだろう。指導員の増員を「教員の働き方改革」にとどまらせず、クラブ活動のあり方を考え直す契機とするような工夫を求めたい。
 中教審特別部会は昨年12月、教員の長時間労働の一因になっているクラブ活動の指導について「必ずしも教員が担う必要はない」とする中間報告を出した。
 それをふまえるように、京滋を含めた各地の学校で指導員が活動を始めている。配置された学校では、顧問教諭の時間外勤務が短縮されるなどの効果がみられ、歓迎する声が少なくないという。
 とはいえ、指導員の立場は微妙だ。想定されている職務は、試合などの引率のほか、用具・施設の管理、保護者への連絡、指導計画の作成など幅広い。定期的に研修を受ける必要もある。
 その一方で、待遇は良いとはいえない。京都市の場合、給与は高くても月5万円半ば程度で、指導員だけでは生活できない。放課後の時間帯に学校に来る勤務形態のため、学校の非常勤講師が務める事例が多いといい、将来のなり手不足が懸念されている。
 教員の補助者なのか、クラブ運営の責任者か、位置づけもあいまいだ。今のままでは、学校の下請け役になってしまいかねない。
 大幅増員に合わせ、指導員の役割をもっと明確にする必要があるのではないか。
 学校のクラブ活動を巡っては、行き過ぎた練習や、生徒数の減少で学校単位の活動が難しくなるなどの問題が指摘されている。将来的には学校や学年の枠を超えた地域主体のクラブに移行するなど、多様なあり方が議論されている。
 部活動指導員の存在も、そうした長期的な議論の中に位置づけてはどうだろうか。競技の指導にたけた人材は、きっと大きな存在感を示してくれるに違いない。

[京都新聞 2018年08月25日掲載]



米のCO2規制 緩和は国際潮流に逆行

 トランプ米政権が火力発電所からの二酸化炭素(CO2)排出規制の緩和を発表した。
 オバマ前政権の「クリーン・パワー・プラン」に代わる新ルールで、米国の温暖化対策が大きく後退するのは間違いない。世界第2の温室効果ガス排出国の責任を放棄したとも言える。
 規制緩和は発電所からのCO2排出量削減の数値目標を盛り込まないなど、石炭業界や化石燃料を生産する州に配慮した形だ。規制策定は各州に委ねるが、実効性に疑問符が付く。
 排出削減は太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入ではなく、石炭火力発電所の効率向上で進めるとし、施設改修の条件も緩和する。再生エネなどに置き換える予定だった老朽火力発電所の稼働延長につながりかねない。
 前政権は規制によって発電所からのCO2排出を2030年までに05年比で32%削減する目標を掲げた。温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」で米国が掲げた目標達成に向けた中核政策だった。
 ところが、トランプ氏は昨年6月、パリ協定から離脱する方針を表明し、10月には前政権が強めた規制も撤廃した。温暖化対策の旗振り役を務めたオバマ前大統領のレガシー(政治的遺産)崩しの一環に違いない。
 前政権からの政策転換は一段と鮮明になった。トランプ政権は温暖化対策を単に経済的損失と受け止めるが、むしろ新技術を創出するビジネスと位置付けて前向きに方策を議論すべきではないか。
 北半球の各地で今夏、熱波や干ばつなどが相次ぎ、山火事や熱中症など深刻な被害を招いている。日本も記録的な猛暑と豪雨に見舞われた。それぞれの異常気象を科学的に温暖化の影響だと結び付けるのは早計とはいえ、その進行と無関係ではないだろう。地球環境の悪化は急速に進んでおり、温暖化対策は猶予がない。
 片や日本はどうか。エネルギー基本計画を改定し、再生エネを「主力電源化」するとしたが、火力発電を温存させる。とりわけ温暖化の主因とされる石炭火力が発電全体の約3割を占め、多くの新増設計画もある。パリ協定採択後、多くの国が脱石炭化を急ぐ中、石炭火力技術の輸出を推進する日本の政策は世界の流れに逆行する。
 パリ協定では、全ての国が温室効果ガスの排出削減に取り組む。過去に大量排出し、なおも規制に後ろ向きな米国の姿勢は国際社会の連携を妨げる。日本も他山の石として受け止める必要がある。

[京都新聞 2018年08月25日掲載]



公務員定年延長 官民格差広がらないか

 人事院は、国家公務員の定年を60歳から段階的に65歳まで引き上げるよう求める意見書を国会と内閣に提出した。
 少子高齢化で労働力確保が難しくなる中、意欲と能力のある高齢者が働ける環境をつくるのは官民共通の課題だ。
 しかし、定年延長を採用する民間企業はまだ2割に満たない。大半はいったん定年退職してから継続雇用する制度で対応している。
 こうした実態を踏まえなければならない。民間での定年延長導入の環境が整わないまま、国家公務員だけ先行すれば労働環境の官民格差が広がる恐れもある。
 不公平感を生じさせない方策が前提となる。民間企業の実態を丁寧に調査し、そのモデルとなるような仕組みを目指すべきだ。
 人事院が定年引き上げを求めた背景には、民間の再雇用に当たる再任用職員の増加がある。
 国家公務員は年金支給開始年齢の65歳引き上げに伴い、定年後の採用制度として希望者全員を再任用することが義務化されている。
 本年度の再任用は約1万3千人で、この5年で2倍に増えた。定員を安易に増やせないため再任用の65%は短時間勤務だ。
 給与の大幅減や地位低下によって不満が増し、行政サービスの低下を招きかねない、と人事院は指摘する。
 とはいえ定年後の給与減少は民間も同じだ。これらを理由に公務員だけ定年延長を急ぐことは国民の理解が得られまい。
 検討すべき課題は多い。
 人事院は、60歳超の給与はそれ以前の7割程度に減らすことを提言した。
 これに関し「5~6割に減らしている企業はざら」(厚生労働省関係者)との声がある。働き方改革関連法で企業に義務付けた「同一労働同一賃金」と矛盾することはないのか。仕事の内容が変わらない場合、給与は減らさない方向で制度設計すべきだ。
 60歳に達した管理職を下位のポストに降格させる「役職定年制」の導入を求めたが、定年延長とは関係なく検討してほしい。
 総人件費の膨張を抑えるためには、50代の賃金カーブや退職金の水準の見直しも求められる。
 政府は来年の通常国会での関連法案提出を目指す。実現すれば民間や地方自治体にも波及しそうだ。人事院の意見を機に「人生100年時代」の働き方や定年制度の在り方について官民一体で議論を深める必要がある。

[京都新聞 2018年08月24日掲載]



アナン氏死去 国連改革受け継ぎたい

 元国連事務総長のコフィ・アナン氏が死去した。
 各国の首脳らから追悼と功績をたたえる声が相次いだ。「多くの点でアナン氏こそが国連だった」。グテレス現事務総長はそんな声明を発表した。
 事務総長を務めた1997~2006年は、米中枢同時テロやイラク戦争があり、冷戦後の世界が激動する時代だった。アナン氏は国連が果たすべき役割を問い、機能強化を目指した。
 一般の国連職員から初めてトップに上り詰めた「たたき上げ」であり、黒人初の事務総長でもあった。貧困撲滅、人権や女性の地位向上など、平和と安全保障以外にも積極的に関与した。
 アフリカ出身の国連トップとして、貧困問題を何とかしたいとの思いは強かったのだろう。
 途上国支援を柱とした「国連ミレニアム開発目標」を推進した。これが、現在の「持続可能な開発目標(SDGs)」につながっていることは見逃せない。
 安全保障理事会の改革も訴えた。「今日の世界全体を反映していない」と、日本が求める常任理事国入りを側面から支援した。
 「世界の警察」たる米国の単独主義から、多国間による意思決定枠組みへと潮流を変えたいという思いに突き動かされていた。
 地球温暖化防止のための京都議定書採択など多国間外交の成果が残る。最も輝かしかったのは、ノーベル平和賞だろう。「国際テロやエイズという新たな試練に立ち向かった」として国連と共に個人として受賞した。
 イラク戦争は防げなかったが、多国籍軍による戦争に踏み切ったブッシュ米政権を「国連憲章違反」と厳しく断じ、国際社会の声を代弁した。
 退任前には、国連の対イラク人道支援事業を巡る汚職疑惑への長男の関与が取り沙汰された。晩節を汚した感は否めない。それでも、国連の地位強化に尽力した功績は大きいといえよう。
 アナン氏が事務総長を務めたころから10年余りが過ぎた。いま米国が再び単独行動主義に突き進み、多国間主義が揺らいでいる。
 トランプ政権は国連教育科学文化機関(ユネスコ)や、アナン氏が設立に貢献した国連人権理事会からの離脱を決めた。
 国連の役割を問い直すべきだ-。多くの追悼の言葉には、そんな思いも込められているのではないか。アナン氏が進めようとした改革を受け継いでほしい。

[京都新聞 2018年08月24日掲載]



マグロ漁獲証明 管理厳格化に欠かせぬ

 乱獲で資源が減少している太平洋クロマグロについて、日本や主なマグロ漁獲国が国際的な漁獲証明制度を導入し、管理を厳格化する見通しとなった。
 漁獲証明制度は、漁獲量や漁法、漁獲者、出荷先などを記録する仕組みで、正確な水揚げ量を把握して違法な漁獲や取引を防ぎ、資源回復につなげる狙いがある。
 地中海の大西洋クロマグロや南半球のミナミマグロについては既に導入され、資源回復につながっている。漁業者の理解を得て早期に導入を図りたい。
 すしネタで人気の太平洋クロマグロは、日本に流通するクロマグロの6割を占める。乱獲で2010年に親魚の量がピーク時の1割未満に減ったことから、日本など中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)に加盟する関係国は15年から漁獲量を制限している。
 30キロ以上の大型魚は02~04年の平均、30キロ未満の小型魚は半減とする規制で、その後、資源回復の国際目標を達成する確率が75%超なら枠拡大を検討でき、逆に60%を下回れば枠を減らすルールも加えた。
 最新の資源評価では、漁獲制限の効果が出て緩やかに回復しており、24年までに親魚を約4万3千トンに戻す国際目標はほぼ達成できる見通しとなっている。日本の漁獲量も6月末までの前漁期が規制枠に収まったため、政府はWCPFCで15%の枠拡大を議論するよう提案している。ただ水産資源としてはまだ低水準で、各国の支持を得られるかどうかは不透明だ。
 日本は欧米に比べて、水産物のトレーサビリティー(生産流通履歴)の取り組みが遅れており、資源管理の甘さが指摘されている。
 漁獲量は漁協が水産庁に報告することになっているが、未報告や無許可操業の事例があり、小さなマグロの養殖業者への出荷や漁協を通さない市場への直接出荷など販路も多様化している。
 資源回復には不正な漁獲や流通を阻止し、水揚げ量の正確な把握を進める必要があり、漁獲証明制度の導入が有効な手段となる。
 制度の詳細は9月に福岡市で開かれるWCPFCの関係者会合で検討される。導入に向けては、数量管理の方法など漁獲国間で制度や運用を統一する必要がある。加えて、水揚げの詳細な報告が求められるなど漁業関係者の事務負担が増えるが、厳格な管理なしに資源回復も漁獲拡大も難しい。漁業現場の協力を得られるよう、政府には丁寧な説明を求めたい。

[京都新聞 2018年08月23日掲載]



伊の高架橋崩落 厳しい警告は日本にも

 43人が亡くなったイタリア北部ジェノバの高架橋崩落事故。あすで発生から10日になるが、欧米の国々はニュースで大きく伝えている。
 イタリアと同じ課題を抱え、恐れていたことが起きたと深刻に受け止めているからだ。もちろん、日本もよそごとではない。
 イタリア政府は、橋の点検や補修が不十分だったとして、管理会社の責任を追及する構えだ。崩落した高速道路の高架橋は1967年建設。同じ頃に多くの橋や道路が造られており、老朽化で崩落の危険があるのは3万カ所に上る。
 地元の専門家から高架橋の設計・構造の問題が指摘され、警告も出ていた。財源難があったにせよ、崩落を防げなかった責任は、問題を放置してきた政治や行政にもある。どの国でも同じことだ。
 「最後の警告」を、日本の国土交通省審議会が発している。2014年に出した「提言」の中で、「今すぐ本格的なメンテナンスにかじを切れ」と危機感をあらわにした。
 警告は以前から繰り返し出されていたのに、12年に起きた中央自動車道笹子トンネル天井板落下事故で9人が犠牲になった。
 笹子事故の損害賠償裁判で、一審判決は点検水準が低すぎると踏み込み、抜本的な強化を求めた。道路法改正や政・省令などで、点検方法を「遠望目視」から「近接目視」に改めるなど対策は取られたが、十分と言えるのか。
 全国約73万の橋のうち7割以上が市町村道にあり、建設から50年経過した橋は2割超、10年後には半数近くになる。すでに老朽化で通行規制になった橋が2500を超えている。
 さらに深刻なのは、橋の保全に携わる土木技師がいない町が約3割、村で約6割もあることだ。これを補うために、都道府県が点検・診断の発注事務を一括して実施している。活用数は増えているものの16年度で3割強にとどまる。
 橋の点検は16年度までの3年間で5割超を実施、危険性の高い橋の2割は撤去・廃止された。しかし、予防措置が必要とされた橋の修繕はほとんど進んでいない。
 高度成長から半世紀。道路や橋は老朽化に加えて、これまでにない災害に見舞われている。限られた財源の中で将来を見通し、生活に欠かせないインフラを選別し、直しながら守っていく。そのための予算と人材育成にもっと目を向ける必要がある。警告をしっかりと受け止めないといけない。

[京都新聞 2018年08月23日掲載]



バスケ選手買春 代表の自覚なさ過ぎる

 きわめて軽率な行動で残念だ。
 インドネシアのジャカルタで開催されているアジア大会のバスケットボール男子日本代表選手4人が、ジャカルタ市内で買春行為に及んでいた。
 4選手は「競技を離れた場でも社会の模範となる行動を心がける」という規範に違反したとして、日本選手団から代表認定を取り消され、帰国した。
 4人のうち2人はBリーグの京都ハンナリーズと滋賀レイクスターズに所属している。
 日本バスケットボール協会の説明によると、4選手は16日にあったカタール戦後に選手村から日本選手団の公式ウエアを着て外出した。日本食店で食事や飲酒をした後、店の外で4~5人の女性に話し掛けられ、近くのホテルに女性を伴って入った。4人は女性に1人約9千円を払ったという。
 記者会見で4選手は「国旗が書かれた服装でする行為ではなかった」などと反省の弁を述べ謝罪した。
 買春は違法行為である。外国で安易に関われば、人身売買組織などとのトラブルに巻き込まれる危険性もある。
 ましてや4人は代表選手として公費で派遣されていた。公式ウエアで歓楽街を訪れるとは、自覚と思慮を欠いていたと言わざるを得ない。猛省してほしい。
 スポーツ界では、2020年の東京五輪に向けてコンプライアンス(法令順守)の向上が最重要課題になっている。競技団体が選手の自覚を促す取り組みを続けているが、不祥事の絶えないのが実情だ。
 アジア大会では、日本選手団の山下泰裕団長が競技団体に規律ある行動の徹底を呼び掛けたばかりだった。バスケット協会は選手にしっかり伝えたのだろうか。
 スポーツ庁の鈴木大地長官は、国が競技団体に直接指導する必要性について言及した。
 競技団体は選手強化や助成金の窓口としての役割があるが、国に対しては「自治」を保っている。
 だが、東京五輪に向け公的資金が従来以上に投入される中、不祥事が続けば、国として放置できなくなろう。
 鈴木長官は「団体によっては、いい方向に向かわないこともある」と指摘した。
 スポーツは国に管理され強くなるものではない。選手出身でそれを理解している鈴木長官がこう言わざるを得ない事態に、競技団体は危機感を持つ必要がある。

[京都新聞 2018年08月22日掲載]



ゲノム編集 規制緩和して大丈夫か

 生物の遺伝子を改変して、効率的に活用する「ゲノム編集」技術の規制方針の大筋について、環境省の検討会がまとめた。
 対象となる生物が、本来は持たない遺伝子を外から組み込む場合には、法律に基づく手続きが必要とする一方で、もともと存在する遺伝子に変異を生じさせ、機能を失わせるだけなら、規制の対象外になるとした。
 この技術による農水産物の開発を、さらに促進する規制緩和だといえよう。
 ゲノム編集は近年、簡便な方法である「クリスパー・キャス9」が開発され、急速に利活用が増えている。
 日本では、収量の多いイネや、従来より肉の多いマダイの商品化が進む。
 このため、遺伝子を組み換えた生物が意図せずに拡散し、環境に悪影響を及ぼすことを防ぐ国際的な枠組み「カルタヘナ法」の対象となるのか、早急な検討が求められていた。
 今回の規制方針は、これに応えたものである。
 もともとある遺伝子が改変されることは、自然界や品種改良の過程でも起こりうるため、遺伝子組み換えと同等の規制は必要ないと判断した。
 一面だけみると、そうなのかもしれない。とはいえ、生態系に対する影響がまったくないとまでは、言い切れまい。
 消費者団体などからは、組み換えと同じように遺伝子を改変しているのに、どうして規制から外すのか、といった素朴な疑問が投げ掛けられている。
 より詳しい説明と、食品としての安全性に関する実証的な研究が、要請されよう。
 カルタヘナ法の対象から外れると、生態系への影響を評価したうえで、国の承認を得るなどの規制を受けなくて済む。
 遺伝子組み換えとは同じではないとされれば、「世間に受け入れられやすくなる」ともいう。
 だが、これらは開発者側にとって都合のよいことでしかない。
 米国では、外来遺伝子を入れずに改変したマッシュルームなどが規制対象外となった。
 その一方で、ニュージーランドは、ゲノム編集の使用を規制対象とした。欧州連合(EU)では先月、対象にすべきとの司法判断が下された。
 各国の対応はまちまちである。これらの動向に、目を凝らすことも大切だ。

[京都新聞 2018年08月22日掲載]


京都新聞 社説 2018年08月21日~08月15日掲載

2018-10-19 13:19:08 | 日記

容疑者逃走 管理態勢の見直し急げ

 大阪府警富田林署に勾留中の容疑者が弁護士との接見後に逃走するという、あってはならない事件が起きた。
 府警は連日3千~4千人態勢で捜索を続けたが1週間を過ぎても有力な手掛かりがなく、住民に不安が広がった。
 ずさんな管理態勢が明らかになり、捜査関係者は「大失態」と話した。警察全体が重く受け止め、再発防止に努めるべきだ。
 容疑者は窃盗や強制性交容疑などで逮捕、勾留されていた。接見室で弁護士との面会を終えた後、接見室のアクリル板を蹴破り、逃走したとみられる。
 部屋には扉を開けるとブザーが鳴る装置を設置していたが、署は「接見終了時に弁護士が声掛けするので不要」などとして、1年以上前から電池を抜いていた。
 2007年に栃木県警の警察署で接見後に1人になった容疑者が自殺し、警察庁が接見終了を把握できる仕組みの導入を指示した。
 大阪府警は全署にブザーを導入したが、富田林署は別の容疑者からうるさいとクレームを受け、抜いた可能性があるという。
 アクリル板はねじで固定せず、月1回の点検は目視にとどまっていた。夜間や土日は接見室の隣室を無人にしていた。
 容疑者が「接見が終了したと自分が伝えるので、署員に言わなくていい」と話していたため、弁護士からの声掛けはなかった。
 逃走後の対応にも問題があったと言わざるを得ない。
 面会は午後8時ごろに終了したが、署員が誰もいないのに気付いたのは9時45分ごろだった。
 報道各社に事件の概要を説明したあと、メール配信サービスで住民に警戒を呼び掛けたのは発覚から約9時間後だった。さらに防災無線で注意喚起するよう富田林市に要請したのは約16時間後と大幅に遅れた。
 「不安を助長しないように事実確認を優先した」と署は説明するが、ただちに情報を伝えるべきではなかったか。
 一方で、重要な権利は保障されなくてはならない。刑事訴訟法39条では、容疑者や被告の権利として「接見交通権」が認められている。警察官らの立ち会いなしに弁護士と面会でき、時間に制限もないとされている。
 そのためにも、面会の終了を把握し、逃亡などを防ぐ万全の措置が求められる。
 同様の事件が起きないよう、全国の警察署は早急に管理態勢を整えてほしい。

[京都新聞 2018年08月21日掲載]



福島原発浄化水 「残留物」の徹底点検を

 政府や東京電力への不信感がまたしても増幅しかねない。
 福島第1原発で汚染水を浄化した後に残る放射性物質トリチウムを含んだ水に、法令基準を上回るヨウ素129など他の放射性物質が残留していることが分かった。
 政府は、トリチウムは人体への影響が小さいなどとして、希釈して海洋放出する処分を有力な選択肢としている。東電もこれまで「トリチウム以外は除去できている」と強調してきた。残留する放射性物質があるなら、海洋放出の前提に疑問符がついたことになる。
 希釈により残留する放射性物質も基準値以下に薄まるとみられるが、風評被害を懸念する地元漁業者は簡単に納得できないだろう。
 本当に害はないのか、安全性をどう担保するか。これまで以上に丁寧な説明が必要だ。
 東電によると、残留していたヨウ素129は半減期が約1570万年で、1リットル当たり最大62・2ベクレル(基準は同9ベクレル)検出された。
 福島第1原発では事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷やすための注水を続けており、デブリに触れた水が増加している。浄化水は現時点で約92万トン、タンクは約680基に達し、あと2~3年で保管する敷地がなくなるという。
 トリチウムは他の原発では薄めて海に放出しているが、福島第1原発では風評被害を考慮してタンクに保管している。
 政府は、これらのタンクを撤去し、原発内にある使用済み核燃料を保管する設備やデブリ取り出しの作業エリアを設ける予定で、浄化水の海洋放出や地下埋設など五つの案からの絞り込みに向けた議論を続けている。月末には地元などで公聴会も開くというが、理解を得るのは簡単ではなかろう。
 大きな問題として、これまでトリチウム以外の放射性物質の存在がほとんど知らされていなかったことがある。トリチウム以外は除去できているはずの水に、なぜ放射性物質が残っていたのか。納得できる根拠を示してほしい。
 過去には、除去装置の性能が安定していなかった時期もあり、現在より放射性物質の濃度が高かった可能性もあるとみられる。しかし東電は、約680あるタンクごとの濃度は「調べていない」としている。風評被害を避けるには、徹底した点検が必要ではないか。
 地元の理解が得られないまま海洋放出などの処分を進めるべきではない。廃炉に向けた今後の作業を円滑に進めるためにも、誠意ある慎重な対応が不可欠だ。

[京都新聞 2018年08月21日掲載]



米トルコ対立 日欧仲介で和解促進を

 米国とトルコの経済問題で済みそうにない。注視が必要だ。
 米国とトルコの関係が悪化している。米によるトルコ製鉄鋼の関税引き上げを機に、経済制裁の応酬になりつつある。
 トルコの通貨リラは急落し、今月に入って一時、年初来で4割以上の通貨価値を失った。
 アルゼンチンやインドなど、ほかの新興国の通貨安も引き起こしている。トルコ向け融資が多い欧州の銀行への影響も懸念される。影響は世界的な株価の乱高下や、最近の円高にも表れている。
 米国が利上げ局面に入り、世界の投資資金が新興国から米国に流出し始めていたうえ、権力集中を強めるトルコのエルドアン大統領が、中央銀行の独立性に疑問を抱かせる発言を続けていることも、背景にはあった。
 直接的なきっかけは、トルコによる米国人牧師の拘束だ。牧師は、2016年のクーデター未遂事件に深く関与したとエルドアン政権がみているイスラム指導者ギュレン師と関係があるとされる。
 これに対しトランプ米大統領はトルコの鉄鋼に課す追加関税を2倍に引き上げる方針を表明するとともに、トルコの2閣僚に制裁を科した。一方、トルコも乗用車やアルコールなど米国製品に追加関税を課す対抗措置を打ち出した。
 トルコ国内は物価高などで市民生活に影響が出ている。だがトランプ氏は「トルコリラは急落中」とツイッターに書き込んだ。トルコ国民の生活をもてあそぶかのような発言は極めて不用意で、反米感情の増大につながりかねない。
 牧師はクーデター未遂事件の直後に拘束された。トランプ政権が今ごろ解放を求め始めたのは、秋の中間選挙を前に、牧師が所属するキリスト教右派へアピールする狙いがあるとされる。
 選挙のためなら、外交の積み上げもほごにする。イラン核合意からの脱退や米大使館のエルサレム移転と同様の構図である。
 トルコは北大西洋条約機構(NATO)の加盟国で米国の同盟国だが、エルドアン大統領は「新たな同盟国を探す」とまで言い出した。ロシアとは最新鋭の武器供与契約を締結し、関係を深めつつある。
 トランプ氏とエルドアン氏は権力志向が強く、固い支持基盤を強く意識した政権運営をするという点で共通している。お互い一歩も引けないのは、そのためだろう。両国と共通の利益がある日本や欧州は、早急に仲介に乗り出す必要があるのではないか。

[京都新聞 2018年08月20日掲載]



豊洲の安全宣言 継続的な監視欠かせぬ

 築地市場(東京都中央区)から移転する豊洲市場(江東区)について小池百合子東京都知事が「都民や市場関係者に、豊洲市場は安全であり、安心して利用していただけると伝えたい」と安全宣言した。農相の認可を受け、10月11日に開場する見通しだ。
 建物下の盛り土が行われず、有害物質の検出もあって、市場の移転は当初の予定から2年近くずれ込むことになった。信頼回復のためには、これからも安全性を確認する作業を欠かしてはならない。
 豊洲の敷地は東京ガスの工場跡地で、土壌汚染対策を検討した都の専門家会議は敷地全体で土壌を入れ替え、その上に盛り土をするよう提言していた。ところが、小池知事が2016年8月に移転延期を表明した直後、都が盛り土をせずに地下空間としていたことが発覚した。
 さらに問題となったのは、敷地内の地下水から飲み水の環境基準の100倍を超える有害物質ベンゼンが検出されたことだ。生鮮食品を扱う市場関係者から不安視する声が上がったのは当然といえよう。
 都は専門家会議の提言に基づいて昨年12月から、揮発性の有害物質の侵入を防ぐため、地下空間の床をコンクリートで覆い、換気設備を設けるなどの追加対策工事を進めてきた。先月には専門家会議が「安全性が確保されたことを確認した」との評価を公表し、これを受けて小池知事が宣言した形だ。
 しかし、会議座長の平田健正放送大和歌山学習センター所長がベンゼンの検出について「最終的には基準を下回ると信じているが、5年10年で考えていく必要がある」と指摘しているように、長期的な視点で豊洲の地下水や空気をしっかりと監視していくことがきわめて重要だ。
 豊洲市場へは築地市場と同様に全国各地から水産物や農産物が出荷され、国内外の観光客が多く訪れるスポットとしても注目されている。新たな風評被害を生み出さないために、監視結果は広く情報開示してほしい。
 移転の延期に伴い、築地跡地を通って都心と臨海部を結ぶ東京五輪のアクセス道路は工事が遅れ、このままでは混雑に拍車がかかる事態が懸念される。豊洲で整備予定の観光拠点「千客万来施設」は着工が20年の五輪後となった。小池知事はこれらの影響についても説明を尽くし、必要な対策を講じてもらいたい。

[京都新聞 2018年08月20日掲載]



たばこの損失 「卒煙」促す施策の強化を

 たばこの害による総損失額は年間2兆500億円に上ることが厚生労働省研究班の推計で明らかになった。喫煙に起因した経済損失が国家予算の約2%にも相当するとは驚きだ。
 2020年東京五輪・パラリンピックに向けて先月、改正健康増進法が成立し、他人のたばこの煙を吸わされる受動喫煙をなくす対策は不十分ながらも強化される。だが社会全体に大きな損失をもたらす喫煙そのものに対する施策が不可欠ではないか。
 たばこが原因で国内では年間100万人以上が肺がんや脳卒中、歯周病、認知症などを発症し、喫煙者本人の死亡は10万人を超す。受動喫煙でも推計約1万5千人が亡くなっている。
 研究班が2015年度の統計資料を基に分析した結果、たばこによる喫煙者自身の医療費は1兆2600億円に上り、受動喫煙でも3300億円の医療費を要し、歯の治療費に1千億円かかった。喫煙による健康被害で必要になった介護費用は2600億円、たばこの不始末で起きた火災の消防費用が980億円だったことも判明した。
 たとえば政府が進める幼児教育・保育の無償化などを柱とする「人づくり革命」と称する政策パッケージには約2兆円が投じられる。それに匹敵する巨額の損失を喫煙が招いているとすれば看過できない。
 20年4月に全面施行される改正健康増進法は受動喫煙防止が主眼だが、自民党議員らの抵抗で規制に大きな穴があき、世界に誇れる対策とは言い難い。まして直接     「卒煙」促す施策の強化を喫煙への対策は置き去りと言っても過言でない。
 16年国民健康・栄養調査によると、習慣的に喫煙している人の割合は18・3%。喫煙率は男女ともに減少傾向とはいえ、欧米諸国と比べると日本の喫煙率は依然として高い。ただ、同じ調査で喫煙者の27・7%が禁煙を希望し、30・6%がたばこの本数を減らしたいと回答した。過半数が「卒煙」への意思を示しているとも読み取れる。
 禁煙は自分一人では難しい。禁煙外来での治療は効果的とされ、保険診療も受けられる。補助薬や周りのサポートといった手を借りてもいい。灰皿を処分するなど環境づくりも大切だ。
 日本の禁煙対策は世界で「最低レベル」と批判されている。
 たばこの包装に健康被害を警告する表示は、たばこ規制枠組み条約で定められ、喫煙率を押し下げる効果がある。生々しい疾病画像などを印刷させる諸外国に比べ、日本の警告は生ぬるい。包装一つをとっても世界の潮流とかけ離れている。
 欧米などより割安なたばこの値上げも禁煙施策として有効だろう。値上げにより年間2兆1200億円(16年度)に上るたばこ税の減収が懸念されるとはいえ、喫煙による経済損失がほぼ同額であることは無視できまい。
 五輪を機に動きだした「脱たばこ」の機運を受動喫煙対策にとどめず、国民の健康を増進する禁煙の強化につなげたい。喫煙者には酷かもしれないが、一人一人が健康被害や経済損失、家族の負担といったリスクを抱えていることを自覚することが「卒煙」への第一歩となる。

[京都新聞 2018年08月19日掲載]



障害者雇用 「旗振り役」があきれる

 障害者雇用の旗振り役がこれでは、あきれてものも言えない。
 中央省庁が義務付けられた障害者雇用の割合を、42年間も水増しし、目標を達成したように見せかけていたことが明らかになった。
 民間企業に障害者の雇用を促し、目標に達しなかったら罰則に近い形で納付金を課し、企業名公表にも踏み込む。だからこそ、省庁は障害者雇用の手本を示さなければいけないのに、だ。
 こんなことでは企業に協力を求めても説得力がない。所管の厚生労働省は水増しの事実を認め、調査を本格化するとしている。全省庁の実態をつかみ、長年続いた原因を解明し、早期に公表しなければ、信頼は戻らない。
 障害者雇用促進法に基づく制度によって、一定の割合で障害者を雇うよう義務付けられていて、国や自治体は企業より高い2・5%に設定されている。今年3月の改定までは2・3%で、国の33行政機関の平均雇用率は2・49%と法定割合を上回っていた。
 ところが、国土交通省など10近い主要省庁で、障害者手帳の交付に至らないなど対象外の職員を合算することが常態化していた。対象外を除けば雇用率が1%未満になる省庁も多いとみられる。
 1976年に身体障害者の雇用が義務化された当初から行われていたといい、これまでチェックされなかったのは、なぜか。各省庁は毎年6月に障害者雇用数を厚労省に報告する義務があるが、内容の真偽を確認する仕組みになっていない。身内に甘いと批判されても仕方あるまい。
 制度は差別を禁止し、障害者の就労機会を広げるのが目的。対象を知的障害、精神障害に拡大し、雇用率を段階的に引き上げてきた。安倍晋三政権は「一億総活躍社会」の実現を掲げるが、足元から水を差された格好だろう。
 国会対応や突発の仕事、長い拘束時間、業務の外部化などで、障害者の働く場確保に苦慮するというが、それは理由にならない。むしろ、省庁が率先して不合理な働き方を改め、障害者が働く場を多く設けるようにすべきだろう。
 民間企業に雇用されている障害者は、昨年6月時点で約49万6千人、雇用率は1・97%と、いずれも過去最高を更新した。しかし、法定の目標達成にはまだ遠い。
 障害者雇用の課題は多く、中小企業へのサポートを含めて議論する必要がある。旗振り役の本気度は疑わしくなったが、社会全体で取り組むべきことだ。

[京都新聞 2018年08月18日掲載]



取り調べ映像 証拠になるか議論要る

 自白の取り調べ映像を頼りに犯罪事実を認定するのは「危険」―。こう警鐘を鳴らした判決だ。
 栃木小1女児殺害事件の控訴審で、東京高裁は、映像を基に被告を有罪とした一審宇都宮地裁判決を破棄した。その上で状況証拠から改めて一審と同じ無期懲役を言い渡した。
 一審では、捜査段階での自白場面など被告の映像が7時間以上再生された。有力な証拠がない中、裁判員らが自白の信用性を認めた。映像が有罪判断の大きな根拠になった。
 だが高裁判決は、調書の任意性を判断する補助証拠として採用された映像から直接、犯人を推定した一審判決は違法と結論づけた。
 裁判員裁判の結論は最大限尊重すべきだが、自白にはその内容が真実か多角的な検証が不可欠だ。
 高裁は、映像で自白の信用性を見極めることは「主観に左右され、印象に基づく判断となる可能性がある」と一審判決を批判した。
 冷静な判断を妨げる恐れがあり、裁判官も含め心証形成に大きな影響を受けるとの指摘は重く受け止めなくてはならない。
 今回の判決は検察の立証活動に疑問を投げ掛けたといえる。
 可視化(録音・録画)は密室での虚偽の自白強要など不当な取り調べを防ぐ目的で導入された。
 長年消極的だった検察は最近、自白した映像を実質証拠と位置づけ、「武器」として積極的に活用する動きを強めている。
 だが、法廷での映像は捜査側が切り取った一部だ。あくまで証拠の一つであり、有罪の立証が映像だけに左右されてはならない。
 自白頼みの立証が冤罪(えんざい)を生んできたことを検察は肝に銘じ、供述を客観的に裏付ける証拠収集や供述・証拠との整合性に留意した立証に努めるべきだ。これが映像の積極活用の前提となる。
 裁判官の間では、安易な映像再生に「法廷がただの上映会になってしまう」など慎重論も根強い。
 全国の地裁でこの2年間にあった刑事裁判で検察側が証拠申請して認められた取り調べ映像は約5割ある。映像の扱いを巡るルールが明確化されておらず、裁判官の対応も分かれている。
 来年6月までに裁判員裁判対象事件などで取り調べの全過程の録画・録音が義務付けられる。映像を手掛かりに裁判員が判断を迫られる事例の増加も想定される。客観的かつ冷静に判断できるよう、撮影や再生の方法についての在り方を幅広く議論し、基準づくりの検討も始める必要がある。

[京都新聞 2018年08月18日掲載]



アイヌ新法 先住民族の権利明記を

 アイヌ民族の生活や教育の向上を支援する新たな法案を、政府が来年の通常国会に提出する。
 日本の法律で初めてアイヌを「先住民族」と明記する方向だ。
 これまで文化振興に限ってきたアイヌ政策を修正する。先住民としての権利を認め、同化政策で生まれた経済格差の解消や民族教育を受ける権利を具体的に保障する。
 生活支援を含めた新法の必要性は2009年の有識者懇談会が政府に提言しており、それが動きだす。「ようやく」という感は否めない。確実に成立させ政策を実施する必要がある。
 同時に、国内の一部にある「日本は単一民族国家」といった認識を改め、多様性を認め合う契機にしたい。
 国連では07年に「先住民族権利宣言」が採択されている。先住民族の自決権や土地、資源に対する権利を幅広く認める一方、関係各国に権利保障のための立法措置を求めている。
 宣言には日本も賛成した。これを受けて翌08年には衆参両院で「アイヌ民族を先住民族とすることを認める決議」が採択され、政府も先住民族と認める官房長官談話を出した。
 だが、具体的な政策は1997年のアイヌ文化振興法に基づくものに限られていた。アイヌ語の教育や民族文化、技術の継承などは一定の成果を上げているが、北海道の調査では、アイヌの世帯収入や進学率の低さなど、さまざまな格差が残っているという。
 狩猟や漁業で生活していたアイヌは同化政策で農業への転換を迫られた。だが、与えられたのは多くが農業に不向きなやせた土地だった。日本語の強制は独自の文化の衰退を招いた。北海道アイヌ協会の記録には、今に続く問題の歴史的経緯が明記されている。
 政府がこの間、文化振興にとどまった背景には、「特別扱い」という批判を恐れたことがある。土地や資源の権利回復が具体的に浮上することも懸念された。
 だが、97年まで続いた旧北海道土人保護法による同化政策が生んだ矛盾を解消し、アイヌの血を引く人の誇りと尊厳を取り戻す責任は国にある。新法では歴史的経緯にも触れるべきだ。
 国は2020年4月に北海道白老町にアイヌ文化振興の拠点施設を開設する。アイヌへの理解と民族共生のための情報発信や教育の拠点になる。新法の整備と合わせ、アイヌ政策の柱となることを期待したい。

[京都新聞 2018年08月17日掲載]



日米新貿易協議 多国間の枠組みを貫け

 トランプ米政権が保護主義的な通商政策を強める中、日米両政府の新たな閣僚級貿易協議の初会合が開かれ、結論を日米首脳会談が想定される9月の会合以降に持ち越した。
 自由貿易協定(FTA)を念頭に2国間交渉を求める米国に対し、日本は多国間の自由貿易を重視する姿勢で臨んだが、折り合えず立場の違いを確認したにとどまった。
 米国は鉄鋼、アルミニウムに続いて輸入車への追加関税を検討しており、今後、発動をちらつかせて2国間交渉を迫ってくる可能性がある。2国間交渉は国力の強い方が有利になり、自動車や農産物の分野で一方的に譲歩を迫られる恐れがある。将来に禍根を残す安易な妥協はするべきではない。
 もちろん米国が貿易赤字削減を目指すこと自体は否定できない。だが、輸入制限をちらつかせ、例外を認める見返りとして米産品の輸入拡大を強いる手法は、国際ルールに基づく自由貿易の在り方をゆがめる。
 そもそも、日本の自動車関税はゼロで、米国の2・5%より既に低い。にもかかわらず追加関税で脅すのは身勝手すぎないか。日本は初会合で対象から外すよう求めたが、色よい返事は得られなかった模様だ。
 国際社会は、世界貿易機関(WTO)を通じて多国間の公正な自由貿易体制の構築を目指してきたが、トランプ政権は保護主義色を強めてごり押しで貿易赤字削減を進めようとしている。とりわけ中国とは「貿易戦争」が激化しており、世界経済に悪影響を及ぼしている。
 保護主義的な政策は貿易相手国の報復関税を招き、農産物の輸出が不利になるなど米国内にもしわ寄せが出ている。環太平洋連携協定(TPP)復帰を含めて通商政策の再考を促す声も米国内にはあるが、11月の中間選挙に向けて支持層にアピールしたいトランプ氏は聞く耳を持たないという。
 今回の貿易協議は、日本にとって国益がかかる重要な交渉だが、自由貿易体制の維持・発展につなげるという点からも冷静な対応が問われる。世界の貿易に影を落とすような決着をしないよう米国に粘り強く働き掛ける必要がある。
 日本はTPPや欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)を主導してきた。その目的は自由貿易圏を広げて米国の攻勢をかわすと同時に、再び米国を多国間の枠組みに引き込むことにあったはずだ。その姿勢を貫くべきである。

[京都新聞 2018年08月17日掲載]



保育無償化 自治体懸念に耳傾けよ

 政府が来年10月に実施予定の幼児教育・保育無償化について、賛成する自治体は半数未満にとどまっていることが共同通信の主要都市調査で分かった。
 81市区が回答し、うち60%は認可保育所などに入れない待機児童が無償化の影響で増えると予想している。人手不足で「現場の疲弊や保育の質低下につながる」といった懸念の声も上がった。
 幼児教育・保育無償化は昨年の衆院選の直前、安倍晋三首相が突然打ち出した。選挙後、「人づくり革命」と称する2兆円の政策パッケージに盛り込まれた。
 政府が5月に決めた方針は、世帯年収を問わず3~5歳児の幼稚園や認可保育施設の利用を無償化。認可外施設でも一定額を上限に補助するといった内容だ。
 「政権の人気取り」との批判もあるが、無償化の方向性は理解できる。2月の全国世論調査では賛成派が71%にのぼった。
 一方で、待機児童解消を求める保護者らの反発も見逃せない。高所得層ほど恩恵は大きく、教育格差が拡大する恐れもある。
 今回の調査で、実務を担う自治体にも賛同が広がっていない状況が浮き彫りになった。
 もともと無償化自体には賛成の自治体が多かったが、政府の進め方に対し「待機児童の解消と順番が逆」「保育士の確保などほかに財源を使うべき」といった異論が出ているという。
 京都市は「どちらかといえば賛成」としながらも「無料になればこれまでより長い時間、子どもを預ける保護者が増え、結果的に保育士を増員しなくてはならなくなる」と懸念を示している。
 最優先すべきは、やはり保育士の増員や待機児童の解消だ。
 準備期間が短い点にも苦言が集中した。無償化の財源を巡る国と地方の負担割合は定まっていない。実施の先送りを求める意見が相次いだのも、もっともだろう。
 財源には消費税率引き上げによる増収分の一部を充て、本来の使途である借金返済は先送りされる。だが、財政再建との兼ね合いが十分議論されたとは言い難い。
 4月現在の待機児童数については83市区が回答し、前年同期から21%減少した。京都を含む33市がゼロだったが、20市で増えており、なお解消には遠い。
 保護者も自治体も懸念を示す中、巨額を投じて無償化を最優先することが効果的なのか。自民党総裁選でも重要な争点として、しっかり議論してほしい。

[京都新聞 2018年08月16日掲載]



戦争体験の記録 後世へ保存活用考えて

 大津市の市民グループ「いまきいとき隊」は、大正・昭和の暮らしとともに、庶民それぞれの戦争体験をインタビューし映像に残す活動を続けている。
 8月15日の「玉音放送」をめぐり、「これで死ぬ心配しないでいい」「何を言っているのか分からなかった」「自害した同期がいる」とさまざまな思いが語られている。
 2004年から活動を始め、これまで約70人の体験談を収録、ビデオテープは200時間近くに及ぶ。映像は、体験者の顔や声の表情が直接伝わり、言葉で表せないものを感じ取れる利点がある。
 隊のメンバー福井美知子さんは「とにかくいま撮っておかないと」と話す。体験者の高齢化が進むからだ。その上で、映像を残していく難しさが頭をよぎるという。
 アナログ時代のビデオテープは劣化が進み、かびの心配もある。デジタル化すればいいのだが、費用がかかる。せっかくの記録を後世に継承するため、どう保存するのか。同じような課題を草の根で活動する人たちは抱えていよう。
 歴史的文書の保存はもちろん重要だが、庶民が生きた記録も時代の実相を知るのに欠かせない。市民活動と連携し、社会全体で記録を残し伝えるよう考えたい。
 戦争体験者の取材映像をデジタル化するために、インターネットのクラウドファンディングで資金を集めた民間プロジェクトもある。社会に広く発信していくことが、これから大切になる。
 地域の公的機関でも取り組みが見られる。滋賀県平和祈念館(東近江市)では、市民からの戦争資料提供や体験談の聞き取りに取り組み、その数は約2千件に上る。体験インタビューの映像はホームページで視聴できる。
 戦後長く口を閉ざしてきた体験者が、高齢となって語り始めた。放置された戦争資料が発掘され、貴重な遺品が出てきている。市民による調査や聞き取りも活発だ。
 こうした市民の動きを、公的機関は受け入れ連携したい。その際、収集と保存、公開を明確にすることが肝要と専門家は指摘する。保存環境は適切か、専門職員は十分か、など不安なところもあり、国はサポートしてほしい。
 資料館のほか大学、研究機関などで収集、保存しているところもあるが、広く公開されないと意味がない。ネットワークを構築し、検索で活用が進めば関心が広がる。新しい時代に合った、戦争体験の継承のあり方を考える時ではないだろうか。

[京都新聞 2018年08月16日掲載]



終戦の日 反省と鎮魂どう引き継ぐか

 終戦の日を契機に、今年に入って亡くなった方々のお名前を、思いつくまま挙げてみよう。
 1月は元官房長官で京都ゆかりの野中広務さん。2月は俳人の金子兜太さん、そして先月は演出家の浅利慶太さん。
 いずれも発信力が強く、戦争のことを語っていた。
 順番は前後するが、98歳で亡くなった金子さんはあの夏、兵士だった。
 海軍主計中尉として赴任した南洋のトラック島で、部隊が孤立。食べるものがなく、仲間は非業の死を遂げた。
 <水脈(みお)の果て炎天の墓碑を置きて去る>との句を残す。引き揚げ後は、平和運動にも注力した。
 92歳の野中さんは、大戦末期の沖縄戦で散った特攻隊員と、ほぼ同世代である。応召した高知県で終戦を迎えた。
 自衛隊の海外派遣など政治の節目に「戦争を知らんから、そんなことができるのだ」と訴えた。
 85歳の浅利さんは2人より若く、空襲と疎開を経験した世代である。天皇陛下と同じ、1933(昭和8)年に生まれた。

 風化と形骸化が心配
 戦時中を生きた人たちが、次々といなくなっている。そのことを身に染みて実感する。
 そして来年、陛下は退位され、政府主催の全国戦没者追悼式でこれまで通りに、お言葉を述べることもないだろう。
 戦争の記憶は風化し、徐々に語り継がれなくなっていくのではないか。終戦の日、反省と鎮魂の思いを込めた厳粛な行事も、形骸化してしまわないか。それはよくないと、誰もが考えよう。
 陛下は昨年の追悼式で、「深い反省とともに、戦争の惨禍が繰り返されないことを切に願う」と述べられた。
 「深い反省」との文言は3年連続で盛り込まれた。まずは、引き継いでおくべきものであろう。
 「ものぐさ精神分析」などの著作で知られる岸田秀さんも、昭和8年生まれである。
 40年以上前の「日本近代を精神分析する」との評論で、幕末のペリー来航時に日本国民は本音は攘夷(じょうい)なのに開国を選択し、矛盾する心情を抱えたとする。
 その後の米英に対する宣戦布告は、まさしくその発露であり、国民自身における分裂状態への反省を欠くならば、再び同じ失敗を犯す危険があろう、とした。
 あくまで分析ではあるが、史実と戦時中の空気を踏まえており、今日でも説得力を持つ。
 国会の勢力分野が、憲法改正を発議できる状況となっている。前のめりとされる姿勢を取り続ける向きもある。改めて、頭に置いておきたい指摘といえよう。
 陛下は、終戦の日と広島、長崎への原爆投下日、沖縄慰霊の日を「忘れてはならない四つの日」として毎年黙とうをささげ、被災地や太平洋の激戦地に赴いて、すべての犠牲者を悼んできた。
 これもまた、平成が終わり、次の時代になったとしても、引き継ぐべきものだ。

 哀悼われわれの手で
 浅利さんは、海外のミュージカルの翻訳、上演に取り組む一方で、オリジナル作品も発表した。代表作は、「南十字星」「異国の丘」「李香蘭」という昭和の歴史3部作で、いずれも戦争をテーマにしている。
 パンフレットに、こうある。念頭に置いたのは、戦争の深い傷が日本の社会から忘れ去られようとしていることである。死んでいった圧倒的な数の兵たち、市民たちはみなわれわれの兄姉、父母の世代である。平和は、あの人たちの悲しみの果てにもたらされた。哀悼と挽歌(ばんか)は、われわれの手で奏でなければならない。
 観劇した若い人にどう伝わっているのか、知りたいところだ。
 昨年の追悼式には、対象となる約310万人の遺族約5千人が参列した。このうち、犠牲者の妻は過去最少の6人だった。
 最高齢は101歳で、戦死した夫を「いい人だった」と話す。陸軍の上司からの手紙に、銃撃された後、手りゅう弾で自決したとあった、と明かした。
 一方で、孫ら戦後生まれの参列者が、4分の1を占めるようになった。最年少の6歳が悼んでいたのは、顔を合わせたこともない曽祖父であった。

 演繹は事実ゆがめる
 世代間のギャップを、埋めていく必要があろう。
 浅利さんは、あの戦争を総括するには、まだ時代が早いという意見に耳を傾ける、としていた。
 75年生まれ、気鋭の政治学者である中島岳志さんは近著「保守と大東亜戦争」で、戦中派の保守論客は超国家主義的な考えとは相いれず、戦争には極めて懐疑的な見方を示していた、と述べる。新たな視点となるのかもしれない。
 論客の一人、名作「ビルマの竪琴(たてごと)」を書いた竹山道雄さんは、主義主張に伴い既定の前提から発する「上からの演繹(えんえき)」は、論理によって事実をゆがめる、と主張したと紹介されている。世代を超えて物事を引き継ぐには、謙虚な姿勢で事実を積み重ね、まっとうな判断をするしかないだろう。

[京都新聞 2018年08月15日掲載]


京都新聞 社説 2018年08月14日~08月07日掲載

2018-10-19 13:08:38 | 日記

防災ヘリ墜落 安全対策の導入が急務

 群馬県の防災ヘリコプターが同県の山中に墜落し、消防隊員ら搭乗者9人全員が死亡する痛ましい事故が起きた。
 防災ヘリは登山道「ぐんま県境稜線(りょうせん)トレイル」のルートを上空から確認していた。尾根をなぞるように飛行していたが、ルートを引き返すように急旋回。その後墜落したとみられる。
 墜落現場近くでは爆音を響かせ低空飛行する様子も目撃された。墜落2分前に速度を上下させるなどの異常飛行をしていた記録が残っており、運輸安全委員会が事故の原因究明を進めている。
 防災ヘリの墜落事故は各地で相次いでいる。安全対策の早急な見直しを求めたい。
 搭乗者は山岳救助のエキスパートぞろいだったという。所属先の消防本部にとって一度に仲間を失うのは大変な痛手だろう。
 運航会社は昨年11月にも4人が死亡するヘリ墜落事故を起こし、整備規定を守っていないと国から改善命令を受けていた。
 同社の管理体制が問われるのは当然だ。原因調査に協力し、問題点を明らかにしてほしい。
 事故原因の究明には、飛行状況克明に残すフライトレコーダー(飛行記録装置)が欠かせない。だが設置義務があるのは最大離陸重量が7トンを超える場合で、全国の消防防災ヘリでの搭載は22・7%にすぎないという。
 万一の場合の操縦士の代役や周辺監視の役割を担うよう国が進める「ダブルパイロット制」の導入も、一部にとどまっている。
 こうした安全対策は今年3月、総務省消防庁の有識者検討会がまとめたが、いずれも導入費用など財政面がネックになっている。
 国は安全対策の提言で終わらず、実際に導入が進むよう支援策を示すべきではないか。
 今回の事故では群馬県が、衛星利用測位システム(GPS)を用いた位置情報の通信がヘリから途絶えたことに約40分間気付かなかったことも明らかになった。
 職員の監視体制の規則などは作られていなかったが、必要だろう。
 山岳遭難や自然災害の現場で活動する防災ヘリは市民には頼りになる存在である。業務に危険が伴うのはやむを得ないが、基本的な運航の安全性確保が後回しになっているとしたら問題だ。
 33年前の日航ジャンボ機墜落事故も同じ群馬県の山中で、あの大惨事を思い出す人も多いのではないか。空の悲劇が繰り返されてはならない。

[京都新聞 2018年08月14日掲載]



危険ブロック塀 被害防止へ撤去進めよ

 安全性に問題があるブロック塀への対策が急がれる。
 文部科学省が全国の国公私立の幼稚園や小中高校などに行った調査で、ブロック塀がある学校の3分の2に当たる1万2652校に問題のある塀が存在し、うち2割の2512校は、撤去や周囲への立ち入り禁止など応急の安全対策を取っていないことが分かった。
 6月の大阪府北部地震で小学校のブロック塀が倒壊し女児が死亡した事故では、学校のブロック塀が耐震化の死角になっていたことが浮き彫りになった。
 街中のあちこちで見かけるブロック塀は、倒れれば人命に損傷を与えるほか通行の妨げにもなる。危険性を認識し、撤去や補修などの対策を急がなくてはならない。
 調査によると、高さ制限を超えていたり塀を支える控え壁がなかったりするなど建築基準法施行令に適合しないものが多かったほか、劣化や損傷も目立ったという。
 安全性に問題があるとされた幼稚園や学校は、京都で389校、滋賀で86校あった。このうち安全対策が終わっていないのは、京都では約4割に当たる169校、滋賀でも2割の17校だった。
 ブロック塀は、1978年の宮城県沖地震で犠牲者が出たことから構造強化策などがとられた。しかし、校舎耐震化促進のための文科省の全国調査でも対象になっていないなど、盲点になっていたことは否めない。
 校舎の地震対策を進める際にブロック塀の安全性も検討項目に加え、危険の芽をつむ必要がある。
 民有地の対策も不可欠だ。大阪府北部地震の後、京都府内の複数の自治体が行った調査では、通学路に面する道路に現行の安全基準を満たしていないブロック塀が相当数あることが分かった。
 多くは民家の所有物というが、撤去には費用がかかるため危険性が分かっていてもそのままになっているのが現状だ。
 長岡京市にはブロック塀を生け垣に付け替える際に助成する制度があるほか、守山市も民有地の危険なブロック塀の撤去・改修への助成を決めている。着実な減災につなげるためにも、こうした助成制度の導入や拡充を多くの自治体に求めたい。
 住民も無関心では済まない。施工から15~20年が経過するとブロック塀は劣化する可能性があるという。被害を拡大しないためにも、自宅敷地内の塀の現状をチェックし専門家や自治体に相談するなど、危険防止に敏感でありたい。

[京都新聞 2018年08月14日掲載]



日中関係40年 平和友好条約に立ち返れ

 恒久的な関係発展をうたった日中平和友好条約の締結からきょうで40年になる。
 両国の関係は2012年の尖閣諸島国有化をきっかけに険悪化していたが、今年に入って修復の方向が鮮明になってきた。尖閣諸島の領有や歴史認識など乗り越えるべき課題は多いが、節目を機に関係改善の流れを確実なものにしなければならない。
 日中間で関係改善の兆しが見え始めたのは、安倍晋三首相が中国の現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」への協力を表明した昨年6月ごろからだ。
 今年5月には、中国の李克強首相が中国首相として7年ぶりに訪日し、日中関係が「正常な軌道に戻った」と表明、安倍首相に訪中を要請した。
 中国が協調路線へとかじを切ったのは、保護主義色を強めるトランプ米政権との間で貿易摩擦が激化する中、貿易や投資の面で日本との連携を強化したい思惑があるからだ。
 日本にとっても、国力で上回るようになった中国に対し、欧米諸国などと包囲網を目指す強硬路線より、融和路線に軸足を移す方がメリットが大きいとの判断がある。
 安倍首相は対中協調路線を固めるため、10月訪中と習近平国家主席の来日に向け、北朝鮮問題や経済面での緊密な連携を目指す考えだ。貿易などで中国と対立する米国を説得しつつ、協調関係をどう築いて行くか、外交手腕が問われよう。
 だが、日中間には不信感が根強く残っているのも事実だ。
 中国は、尖閣諸島周辺で中国海警局の船による日本領海侵入を繰り返し、領土領海を巡って日本に譲歩しない姿勢を変えていない。今年1月には海軍の潜水艦が接続水域に進入した。
 日中両政府は6月、自衛隊と中国軍の偶発的な衝突を避けるため防衛当局間の「海空連絡メカニズム」の運用を始めた。10年越しの懸案を前へ進めた点は評価できるが、尖閣諸島を対象範囲に含むかどうかを棚上げにするなど曖昧さを残している。無用な緊張を避けるには相互の信頼醸成に努め、実効性を高めていくしかない。
 08年に日中間で合意した東シナ海のガス田共同開発も交渉が中断したままだ。この間、中国は一方的に開発を進めており、共同開発に向けた交渉を早期に再開する必要がある。
 中国は日中平和友好条約の調印とともに改革・開放路線に転じ、10年に国内総生産(GDP)で日本を追い抜いた。右肩上がりの経済力と軍事力を背景に覇権主義的な動きを強め、近隣諸国との間に摩擦や相互不信を引き起こしてきたのは事実だ。大国の責任と自制が求められるのは当然である。
 平和友好条約は、主権・領土の相互尊重や覇権への反対、両国民の交流などを明記する。日中が互恵と共生の関係を再構築していくには、まず双方が条約の原点に立ち返ることだ。
 領土や歴史認識でむやみに対立を深めず、経済協力や民間交流を活発にし、対話を通じて互いに理解と信頼を築いていく。その意思の共有があってこそ日中の新時代は開けるはずだ。

[京都新聞 2018年08月12日掲載]



石破氏総裁選へ 活発に政策論議深めよ

 9月の自民党総裁選への立候補を元幹事長の石破茂氏が表明した。野田聖子総務相は出馬困難とみられ、3選を目指す安倍晋三首相(総裁)との一騎打ちとなる公算が大きい。
 選挙の構図が事実上、固まった。日本の将来を見据えた活発な政策論議を求めたい。
 前回は無投票だったため6年ぶりの総裁選であり、自民党が政権を奪還した第2次安倍内閣発足後初めてとなる。
 与党第1党として長期政権の功罪を検証し、安倍氏が手掛けてきた政策を問い直す絶好の機会となる。
 人口減、少子高齢化が進む中で持続可能な経済、財政、社会保障をどう実現するのか課題は山積している。「アベノミクス」の是非と今後の経済運営、地方再生、原発エネルギー政策など国論を二分するテーマも大きな争点だ。
 官邸主導の「安倍1強」体制が長く続く。党内に多様で活発な議論が失われたと言われて久しい。
 森友、加計問題など相次ぐ不祥事や政治手法について安倍氏にはさまざまな批判がある。
 出馬会見で、石破氏は「正直、公正」な政治姿勢を対立軸に据え、論戦に挑む方針を示した。
 「政治・行政の信頼回復100日プラン」実行をはじめ内閣人事局の見直し提起や安心・安全を確保しながらの原発の割合削減、憲法改正などを訴える構えだ。
 政策や政治姿勢の違いを示し、安倍氏との対決姿勢を鮮明にしたといえる。
 この時期の出馬表明は竹下派参院側の支援が決まったことで優勢の安倍氏に先手を打ち、世論を喚起する狙いがある。
 次の総裁に誰がふさわしいか自民党支持層に聞いた直近の共同通信世論調査では安倍氏が石破氏をリードした。国会議員票は既に約7割を押さえたという。追う石破氏は地方票(党員・党友票)や無派閥議員票の取り込みを目指す。
 今回の総裁選から地方票は国会議員票と同数となり、重みが増している。2極対決だと決選投票を待たずに1回目の合計票で決まる。このため、結果を大きく左右する地方票の行方が注目される。
 安倍氏は今月下旬に正式に立候補を表明するとみられる。総裁選に向けての攻防が今後、激化しそうだ。
 事実上、次の首相を決める選挙である。党員だけでなく、多くの国民が注視している。政策をぶつけ、議論を深める総裁選にしてほしい。

[京都新聞 2018年08月11日掲載]



不適切検査 揺らぐ車づくりの信頼

 細かな数字の優劣で品質を競い合う自動車の燃費データの検査が、ずさんな方法で行われていた。その落差に驚かされる。
 スズキとマツダ、ヤマハ発動機の3社が、新車の燃費や排ガス測定で国の定めたルールを無視して不適切な検査を行っていた。
 特にスズキは、抜き取り検査した四輪車約1万3千台の約半数が検査条件を満たしていないのに有効なものとして処理していた。
 燃費データばかりか、車づくりそのものへの信頼性を大きく揺るがしかねない行為だ。
 問題の検査は、燃費や排ガスが基準内かどうかを確認するため、ローラー付きの測定器の上で一定の走行パターンで車を走らせる。
 燃費測定方法の一つであるJC08モードの場合、20分の測定時間で加速と減速を繰り返す。基準に対しプラスマイナス2キロ以内の速度で走り、許容される逸脱時間は1回当たり同1秒か合計2秒までとされている。
 だがスズキでは、時速が規定の範囲を外れるとブザーが鳴る仕組みだったが、検査を中断せずに有効としていた。合計の逸脱時間も最大で約240秒となった事例があった。燃費試験に詳しい管理職も置いていなかった。
 マツダは検査条件を逸脱した場合に自動的に無効とするシステムがなく、ヤマハ発動機は規定違反の教育を徹底していなかった。
 いずれも必要な人材の配置や設備投資が十分なされていなかった。消費者の目を引く先端技術に力を入れる一方で、外から見えにくい検査では現場任せのおおまかなやり方が黙認されていた。
 製品のチェック機能をあまりに軽視していないだろうか。
 3社はチェック体制を厳しくし再発防止に努める姿勢を示している。だが、自動車業界は慢性的に人手が足りず、従業員の入れ替わりも頻繁なのが実情だ。
 再発防止に向けた取り組みを現場に浸透させるため、検査の目的や作業手順をしっかり根付かせていく仕組みづくりが求められる。
 自動車メーカーを巡っては、昨年以降だけでも、燃費などの検査データ改ざんや無資格の従業員が完成車の検査に携わったりするなどの問題が相次いで発覚した。
 電気自動車や自動運転など先端技術の進展で、業界を取り巻く環境は大きく変わりつつある。検査段階での不祥事は、商品としての車の価値を損ないかねない。
 業界全体の課題ととらえ、徹底した業務の見直しが必要だ。

[京都新聞 2018年08月11日掲載]



翁長知事死去 沖縄の思いを代弁した

 「新基地は造らせない。あらゆる方法を駆使し全力で取り組む」と、先月下旬に決意を語ったばかりではなかったか。
 沖縄県で米軍普天間飛行場(宜野湾市)を県内の名護市辺野古に移設することに、強く反対していた翁長雄志知事が亡くなった。
 4月に膵がんと分かり、病とも闘っていた。
 移設を巡って、現地の埋め立て承認を撤回する方針を表明しており、政府が辺野古沖に土砂の投入を予定する今月17日までに、手続きを済ますはずだった。
 承認撤回は、移設阻止に向けた最後のカードともいわれていた。これを切ることを、目前にしての死去である。
 まさに、壮絶な最期であったといえよう。
 政府の移設方針に反対していたが、もともとは保守系の政治家であった。県議、自民党県連幹事長、那覇市長などを務めた。
 2013年、輸送機オスプレイの配備取りやめと、普天間飛行場の県内移設断念を、安倍晋三首相に訴えたのを契機に、政府と対立した。
 翌年の県知事選では移設反対を掲げ、埋め立てを承認した現職に大差をつけて初当選した。
 「沖縄の人々は自己決定権や人権をないがしろにされている」などの発言で、保革の立場を超えた政治勢力「オール沖縄」を束ねた功績は大きいと評価される。
 埋め立ての承認などに関する国との法廷闘争では、最高裁に県の取り消し処分を違法とされた。工事が再開され、手詰まり感も出ていた。
 だが、すでに病魔に冒されていた今年6月の沖縄戦犠牲者を悼む「慰霊の日」には、「私の決意は県民とともあり、みじんも揺らがない」と声を振り絞った。沖縄に息づく「不屈の精神」を、代弁する存在でもあった。
 11月に予定されていた県知事選は、翁長氏の死去に伴い9月中に実施される見通しとなった。
 自民党は宜野湾市長の佐喜真淳氏に立候補を要請し、先月末の受諾後、準備を進めている。
 翁長氏はこれまで、再選に向けた意向を明らかにしてこなかったが、体調さえ許せば、選挙に臨んだとみられる。今後、その遺志を受け継いだ移設反対派の候補が擁立されるだろう。
 激しい選挙戦が予想されるが、ここは冷静な判断ができる環境のもとで、県民の意思が示されるようにしてもらいたい。

[京都新聞 2018年08月10日掲載]



プルトニウム 実効性に乏しい新指針

 核燃料サイクルの行き詰まりを認める時ではないか。
 日本が保有するプルトニウムの削減に向けた新たな指針を国の原子力委員会が示した。
 2021年度に完成する青森県六ケ所村の核燃料再処理工場で製造するプルトニウムは、通常の原発で使用する量に限定する。その上で、稼働できる原発で優先的にプルトニウムを使い、保有量を減らすという。
 日本は17年末時点で47・3トンのプルトニウムを保有している。前年から0・4トン増えた。原爆6千個にも相当する量で、国際社会は厳しい目を向けている。新指針はこうした状況を踏まえ、まとめられた。
 しかし政府は原発の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して再処理し、再び原発で使う「全量再処理」の方針を維持している。
 プルトニウムを製造しながら、保有量を減らすことが本当にできるのか。机上の空論ではないか。
 六ケ所村の再処理工場は、年間最大8トンものプルトニウムを製造できる。政府はプルトニウムとウランの混合燃料を通常の原発で使うプルサーマルを推進する方針だが、原発1基が消費するプルトニウムは年間0・4トン程度にすぎない。それも現在稼働しているのは4基だけだ。
 菅義偉官房長官は「プルサーマルの一層の推進」を明言しているが、そもそも、プルサーマルが可能な原発は建設中も含めて10基にとどまる。プルトニウム削減を原発再稼働の理由にするなら、地元の反発を招くだけだろう。
 こうした現状に照らせば、新指針の下では、再処理工場は完成前から稼働予定が立たないことになりはしないか。
 日本保有のプルトニウムのうち、約37トンは英仏に有償で預けられている。新指針はこれについて電力会社間の協力で消費するよう提案した。
 例えば東京電力の保有分を関西電力の原発で使うイメージだが、地元の理解や安全性の問題から電力会社は一様に後ろ向きだ。英仏から日本に運ぶのも現実的ではない。
 現状では新指針の実効性は極めて乏しい。ではどうするか。海外保有分からでも廃棄物として処理するべきだ。
 電力会社の負担方法など、研究は必要だが、現状でも実質的な損失が積み上がるばかりだ。
 核燃サイクルの断念が前提となるが、もはや他に道はないのではないか。

[京都新聞 2018年08月10日掲載]



山根会長辞任 抜本的な改革が必要だ

 日本ボクシング連盟の不正疑惑で、山根明会長が一連の騒動の責任をとり、辞任を表明した。
 助成金流用への関与に加え、暴力団組長との交友を認める言動などトップとしての資質が問われ、アマボクシング界だけでなく、スポーツ界全体のイメージを大きく損ねた。会長辞任は当然だ。
 連盟には不正疑惑の徹底究明とともに、組織運営の在り方の抜本的な見直しが早急に求められる。
 今回の不正疑惑は、都道府県連盟の幹部や元選手ら333人が告発状をスポーツ庁や日本オリンピック委員会(JOC)などに提出したことを発端に表面化した。
 連盟は、日本スポーツ振興センターから五輪強化選手個人に支給される助成金の不正流用については事実関係を認めた。
 対象外の2選手への分配は「会長の親心」と弁明したが、個人的判断で公金を勝手に目的外使用していいはずがない。当該選手への口止めの隠蔽(いんぺい)工作も判明した。
 告発内容で看過できないのは「奈良判定」と呼ばれる審判の不正判定疑惑だ。奈良県連盟会長を務めた山根氏が同県の選手に有利な判定を要求したという。
 告発者側には多くの証言者がいる。事実なら、スポーツ競技で最低限守らなければならない公平性が損なわれただけでなく、懸命に努力する選手たちの信頼を裏切る許されない行為だ。
 一連の不正疑惑の背景にあったのが山根氏の強権的な組織運営だ。連盟トップとなってからは新たに「終身会長」ポストをつくり就任。意見できる人は誰もおらず、ガバナンス(組織統治)体制が機能不全に陥っていた。
 全国大会を開催する地方組織に飲食などの「おもてなしリスト」が引き継がれていたとの証言もある。過剰接待の強要や試合用品の不透明な販売など告発内容の大半を山根氏は否定したが、第三者による徹底的な検証が不可欠だ。
 スポーツ庁は選手が安心して競技に専念できるよう連盟を支え、真相解明へ指導力を発揮すべきだ。
 トップへの権力集中、旧態依然とした上意下達の体質など連盟不正疑惑の構図は、日本大アメフット部の悪質反則問題や女子レスリングのパワハラ問題とも共通する。
 2年後に東京五輪を控え、各競技で選手強化が進められている。一連の事態を機に、スポーツ界は自らの足元を点検し直す必要がある。所管する関係機関も危機感をもって臨み、選手第一の環境づくりを進めたい。

[京都新聞 2018年08月09日掲載]



サマータイム 導入の利点が見えない

 国民生活への影響を第一に考えるべきだろう。
 安倍晋三首相は、国全体の時間を夏の間だけ早めるサマータイム(夏時間)制度の導入の可否を検討するよう自民党に指示した。
 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の要請を受けてのことだ。五輪に合わせ、日本標準時間を2時間早める案が浮上しているといい、午前7時スタートの男女マラソンは実質的に同5時へ前倒しできるという。
 今年のような酷暑を考えれば、マラソンや競歩などの屋外競技は涼しい時間帯に実施したいとの思いは分からなくもない。
 だが、それなら競技開始時刻をさらに繰り上げれば良いのではないか。サマータイム導入には切り替え時の混乱や、健康への懸念も指摘されている。五輪選手の体調も大事だが、大多数の国民を納得させられるメリットが示せなければ理解は得られまい。
 サマータイムは戦後の一時期に実施されたが、労働時間増加などの理由で長続きしなかった。その後、何度も導入が試みられたが慎重論も根強く、実現していない。
 大きな理由の一つが、国内の航空・鉄道のダイヤや産業機械の時刻変更に膨大なコストがかかることだ。1999年に導入が検討された際、機器改修の費用は1千億円と試算された。民間へのコスト転嫁は妥当といえるのだろうか。
 省エネに逆行するとの指摘もある。2006年に実施した米国インディアナ州では、家庭の電力消費が1~4%増加した。活動時間が長くなったことで、冷房の使用が増えたとみられるという。
 森会長は導入理由に「地球環境保護に取り組む観点」を掲げるが、猛暑の日本ではむしろ「増エネ」になる可能性も考えられる。
 健康面からも疑問の声が上がっている。日本睡眠学会は11年、体内時計の不適応や睡眠不足につながり、作業能率の低下や事故の増加につながるとの懸念を示した。
 サービス残業が常態化している現状では、労働時間が2時間前倒しされるだけ、との見方もある。
 こうしたマイナス面は、以前から繰り返し指摘されてきた。課題の検証もなく安易に導入を提案する姿勢からは、五輪のためなら社会のコスト増を招いても許されるという無神経さも感じられる。
 サマータイムを導入しても気温は下がらない。五輪の暑さ対策にはなお知恵を絞るべきだ。それをせずして国民生活に負担をかけるなら本末転倒というしかない。

[京都新聞 2018年08月09日掲載]



米のイラン制裁  発動の再考求めるべき

 

 米国のトランプ政権が対イラン制裁の一部を発動した。
 対象は自動車部品や鉄鋼原料、貴金属などで、米ドル取引を禁止する。日本など第三国の企業や金融機関も違反すれば巨額の罰金対象になる。
 イランの主要産業である自動車や鉄鋼などが大きな打撃を受けるとみられ、世界経済と中東情勢に与える影響も懸念される。
 米国はさらに、イラン経済の心臓ともいえる石油部門への制裁発動を11月に予定している。
 核合意は現在も米以外の関係国とイランによってかろうじて維持されているが、これを力ずくでも崩壊させたい米の狙いが透けて見える。横暴が過ぎる。米政権には再考を促したい。
 イランは秘密裏の核開発が発覚し米欧による経済制裁を受けていたが、2015年に核開発の制限を受け入れる代わりに制裁を解除することで合意した。
 一方、トランプ政権は今年5月、核規制に期限があるなどの「欠陥」を理由に合意から離脱した。制裁発動は、11月の米中間選挙を前に、米国内の自らの支持基盤を強く意識したものといえる。支持者向けに、オバマ政権時代の「遺産」を否定する意味もある。
 だが、国際原子力機関はイランへの査察を続け、最新の報告でも核合意は守られているとしている。米の主張は根拠を欠いている。
 トランプ政権は石油禁輸では例外を認めないという。イランに原油調達の5・5%を依存する日本への影響は大きく、日本政府は米国に例外扱いを求めている。
 日本は、イラン核合意を現在も支持している。一方で、トランプ政権の離脱や今回の禁輸要求を強くは批判していない。
 北朝鮮の核・ミサイル問題で米国に頼らねばならない事情はある。だが、イラン産の石油まで買うな、というのは筋が違わないか。
 すでにガソリン価格は値上がりしている。多くの国民は納得できないのではないか。安倍晋三首相は制裁発動の再考を求めるべきだ。 トランプ氏はイランのロウハニ大統領に無条件での会談を呼び掛けた。核合意の無効化を狙ったものだが、かえってイランの対米不信を高めるのではないか。
 イラン産石油の最大輸入国である中国は人民元決済を増やし、禁輸措置は取らないとみられる。EUも欧州企業への制裁を無効化する措置を発動する。制裁が米国の思惑通りに動くかは不透明だ。日本も冷静に対処する必要がある。

[京都新聞 2018年08月08日掲載]



引っ越し代過大 信頼裏切る不正行為だ

 引っ越し代が高いと感じても、大手の業者などから請求されれば払ってしまうものである。
 そうした信頼を裏切るかのように、ヤマトホールディングス(HD)の子会社が、代金を過大に請求していたことが分かり、国土交通省が貨物自動車運送事業法に基づく立ち入り検査を検討している。
 すでに国交省は、この件に関して詳しく調査し、今月中をめどに報告するよう、ヤマト側に求めてはいる。だが、業者任せにせず、検査によって実態を把握し、全容を解明した方がよかろう。
 過大請求は、企業の転勤者らの引っ越しを手掛ける子会社ヤマトホームコンビニエンス(東京)で行われた。先月、元支店長が記者会見で明らかにした。
 ヤマトHDも、データを保管している2016年5月から今年6月末までに、128事業所のうち123カ所であり、受注件数の約4割に相当する2640社分、計約4万8千件、総額約17億円に及んだ、と認めた。
 過去5年間にさかのぼると、約31億円に上るとみられる。
 実際の引っ越しの荷物量が、見積もり時より少なくても、そのまま請求していたといい、本来の料金の約2倍を請求したケースもあった。また、他の同業者の見積もりを取らない代わりに、価格が安い契約を結ぶなどしていた。
 これでは到底、正常な取引といえない。
 記者会見したヤマトHDの山内雅喜社長は、過大請求分を速やかに返還するとしたものの、「会社として指示したことはない」と、組織ぐるみの不正行為については否定した。だが、これをうのみにする人は少ないだろう。
 国交省が求めているのは、詳細な事実関係の把握とともに、再発防止体制の整備、そのための具体策である。ユーザーも当然、過払い分についての説明と返還、謝罪を待っているはずだ。
 こうした要請を、ヤマト側は誠実に受け止め、自浄能力を発揮すべきだ。
 宅配最大手のヤマト運輸を抱えるヤマトHDのグループでは、巨額の残業代の未払いが昨年、発覚した。厳しいノルマの存在も指摘されている。
 インターネット通販の普及で取り扱う荷物の量が激増して、人手不足となり、運賃の値上げにも踏み切った。
 業界を取り巻く環境は激変している。それだけに、公正で持続可能な輸送体制を、一から組み直す必要があるのではないか。

[京都新聞 2018年08月08日掲載]



豪雨から1ヵ月 高齢者の逃げ遅れ防げ

 西日本豪雨から1カ月が過ぎた。被災地での死者は15府県で225人に上っている。
 共同通信のまとめで、広島、岡山、愛媛、大阪の4府県では11人の行方が今なお分かっていない。猛暑が続く中、警察や消防などが捜索活動を続けている。
 甚大な被害を受け政府は、「激甚災害」指定など被災自治体への財政支援や、被災者の免許証更新などが可能となる制度の適用を矢継ぎ早に決めた。
 全国や地元からボランティア13万人以上が駆けつけた。復興は進んでいるが、爪痕は深い。
 1万棟以上の住宅が全半壊した。3日時点でなお9府県の3657人が避難所に身を寄せている。京都府でも5日時点で舞鶴市の3世帯7人が避難所生活を続けている。
 住まいの確保をはじめ生活再建へ、被災地のニーズに合わせた迅速な支援が求められる。
 なぜ、これほど被害が拡大したのか。教訓を今後へ生かさなくてはならない。改めて浮き彫りになったのが、夜間の避難や情報伝達の難しさだ。
 甚大な被害を受けた岡山、広島、愛媛の3県で犠牲者が出た土砂災害は、7月6日夕から7日朝までの14時間半に集中していた。
 逃げ遅れた犠牲者が相次いだとみられる。1人での移動が困難な高齢者も多数含まれていた。
 12人が亡くなった広島県熊野町川角地区では、身元が分かっている11人全員が6日夜、いずれも自宅で被害に遭っている。
 的確な避難情報提供が求められる。さらに重要度を増しているのが、その先の「行動支援」だ。
 戸別訪問が奏功し、住民の全員避難に結びついた事例もあった。
 岡山県総社市下原では、浸水したアルミニウム工場の爆発を受けて、自主防災組織の役員らが各戸を回り、避難を渋る人を粘り強く説得したという。
 自力避難が難しい高齢者ら「要支援者」には、1~2人のサポーターが自宅に迎えにいくようにしている地域もある。近隣の人が声を掛け、一緒に逃げるような共助が期待できるのは心強い。
 だが、一般的に避難率は低いのが現状だ。支援する住民の負担もあり、国が策定を促している要支援者避難の「個別計画」についても、3県の市町村の8割以上が作れてないという。
 災害に強いコミュニティーをいかに築くか。簡単ではないが、できることから始めたい。

[京都新聞 2018年08月07日掲載]



日大最終報告 運営の見直し根本から

 理事長はじめ大学全体の責任だ。学生第一の運営へ改革を徹底し、信頼回復に努めるべきだ。
 日本大アメリカンフットボール部の悪質な反則タックル問題で、第三者委員会が調査の最終報告を公表した。
 浮かび上がったのは、大学当局の当事者意識の薄さとガバナンス(組織統治)の欠如だ。
 第三者委はアメフット部について、選手に対し過酷な負担を一方的に強いるような指導実態があり、パワハラと評価すべきものだったとし、反則行為は内田正人前監督らが指示したと認定した。
 その背景としてアメフット部が日大の常務理事で人事部長だった内田前監督の「独裁」体制下にあったことを挙げた。前監督に物を言えるのは事実上、田中英寿理事長だけだったが、ガバナンスが働かない状態だったというわけだ。
 第三者委は辞任こそ求めなかったものの、田中理事長について「適切な危機対応を行わず、理事長としての説明責任を果たしていない」と厳しく批判した。
 関西学院大との定期戦から3カ月が過ぎた。だが、田中理事長はいまだに公式の場に姿を一度も見せていない。最高責任者として誠実さを欠くと言わざるをえない。
 大学の公式サイトを通じて反省声明などを発表したが、理事長は第三者の報告を重く受け止め、きちんと会見を開き、自ら謝罪と見解を示すべきだ。
 報告書では、タックルをした選手らに、内田前監督の関与がなかったと説明するよう求める隠蔽(いんぺい)工作の実態が明らかになった。「(同意すれば)一生面倒を見る。そうでなかった時には日大が総力を挙げてつぶしにいく」。当時の理事の1人がこう迫り、口封じを図ったという。
 まるで脅迫である。大学という教育の場とは思えない悪質な言動だ。日大関係者は組織の根深い体質の問題と向き合い、猛省しなければならない。
 日大は内田前監督と前コーチの懲戒解雇を決めた。アメフット部の再生には前監督らの影響力排除が不可欠だ。新監督に内定した元立命館大コーチの橋詰功氏の手腕に期待したい。指導者の質向上など再発防止策の徹底が必要となる。
 日大は学校法人としての社会的責任を自覚し、大学運営の在り方を根本から見直すことが求められる。教育、研究の場として社会から信頼されるに足りる運営ができているか、それぞれの大学も足元に目を向ける機会としたい。

[京都新聞 2018年08月07日掲載]


京都新聞社説 2018年08月06日~年07月30日掲載

2018-09-26 04:24:09 | 日記

原爆の日 鈍すぎる「核」への感度

 広島はきょう、長崎は9日に73回目の「原爆の日」を迎える。
 核兵器のない世界を目指す-。原爆の日の式典には、そうした願いが込められている。
 ただ、唯一の戦争被爆国でありながら、核の現状に対する日本政府の軸足は定まっていない。
 昨年7月、国連加盟国の6割を超える国・地域の賛成で核兵器禁止条約が採択されたが、日本は条約に反対する米国に追随して、距離を置いたままだ。
 その条約採択に尽力した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)が昨年のノーベル平和賞に決まり、日本の消極姿勢が際立った。
 核兵器が使用されればどんな惨禍を招くか。身をもって知っているのは日本だけだ。本来なら核廃絶の先頭に立たねばならない。
 しかし、政府は「(条約は)わが国のアプローチと異なる」と後ろ向きの姿勢を変えていない。
 福島第1原発事故を経て、私たちは原爆に加え、原発という新たな核問題を抱え込んでいる。
 人間にとって核とは何か-との問いに、答えは出せていない。
 原発事故ではいまだ多くの避難者がおり、汚染された国土の一部を元に戻すことも見通せない。
 それなのに、核と国民生活について深い議論もされないまま、原発が相次いで再稼働されている。使用済み核燃料などの処理にめどが立たず、核兵器に転用可能なプルトニウムもたまり続けている。
 身近にある「核の脅威」に対してすら、政治の感度は鈍い。これでは、核廃絶を求める国際的な潮流に取り残され続けてしまう。
 6月の米朝首脳会談で、北朝鮮による核攻撃の危機は遠のいたかにみえる。だが米国は年明けに示した新たな核戦略指針で「使える核兵器」の開発に踏み出した。
 小型化で爆発力を抑えるというが、被害が限定されるため安易な使用を誘発しないか。被害が甚大なゆえに相手にも使用をためらわせる核抑止論さえ揺るがし、核攻撃の危機を常態化させかねない。
 日本政府は「抑止力が強化される」と歓迎した。「核大国の代弁者」との国際的な受け止めを是認するつもりなのだろうか。
 広島市長はきょうの平和宣言で、自国第一主義が台頭し冷戦期の緊張が再現しかねないとの懸念を示す。長崎市長は核兵器禁止条約の早期発効を訴えるという。
 被爆地の声を、政府は聞き流してはならない。核の危険性、悲惨さを繰り返し訴えていくべきだ。

[京都新聞 2018年08月06日掲載]


「圏域」の提言  従来の施策とどう違う

 人口減少や高齢化が深刻になる2040年ごろの自治体行政の在り方を巡り、総務省の有識者研究会が報告書をまとめた。
 新しい行政主体として、複数の市町村でつくる「圏域」の法制化を提言している。
 その頃の日本は人口が年間約90万人減る一方で、団塊ジュニア世代が高齢者となり、65歳以上が約4000万人とピークに達する。人口減少は地方の9割以上の市町村で見込まれている。
 市町村ごとで施策をしていては住民の暮らしが維持できない。個々の市町村がすべての仕事をするフルセット主義から脱却するべきだ-。そうした報告書の方向性は理解できる。
 だが、自治体の連携はすでに、さまざまな形で進んでいる。
 総務省は08年に、地方から大都市圏への人口流出を抑制するとして「定住自立圏」の要綱を打ち出した。人口5万人程度の都市を「中心市」とし、周辺市町村と圏域を形成する協定を締結する。京滋を含め全国で500を超す市町村が取り組んでいる。
 消防やごみ処理などのサービスを共同で行う広域行政組合も各地で設置されている。さらに国の制度から外れ、交付税増額などの支援を受けずに独自の連携を進めるケースもある。
 新たな行政主体「圏域」がこれまでの施策とどう違うのか。提言では、まちづくりや救急医療体制の構築など利害調整が難しい行政課題で合意形成を容易にするために設けるとしている。
 自治体からは戸惑いや警戒の声が上がっている。
 まちづくり分野まで含めた連携は困難が予想され、実効性に疑問が示されている。国の号令で進められた「平成の大合併」の後遺症に悩む自治体も多い。
 とはいえ、さらなる人口減少を見据え、自治体行政が引き続き変革を迫られるのはやむをえないのではないか。
 政府は地方制度調査会で法改正の検討に入った。「圏域」の具体化を進める。
 議論に際しては、国からの制度の押しつけではなく、自治体の判断を尊重し、地域のことは地域で決めるという自治の原則を踏まえてほしい。
 そもそも政府は「地方創生」を掲げる一方で、自治体行政の将来像をどう描くのか、ビジョンがなかなか見えてこない。現実と向き合い、制度のメリットとデメリットを明らかにした上で、建設的な議論を求めたい。

[京都新聞 2018年08月06日掲載]



文化庁50年 地に足つけ新たな施策を

 文化庁が創設されて今年で50年になった。2021年度中の京都への全面移転を控え、文化行政の在り方が改めて問われている。
 政府は昨年末に「文化経済戦略」を策定し、文化を「経済成長を加速化する原動力」とした。先の国会では、地域の文化財を保護するだけでなく、活用を促す改正文化財保護法が成立した。
 東京五輪に向け、安倍晋三首相は「文化立国」実現を打ち出している。京都移転は安倍政権が看板とする「地方創生」の一環として決まった。
 文化財の指定や保護などに地道に取り組んできた文化庁に、にわかにスポットが当たっている印象だ。経済との結びつきが前面に出ることに戸惑う国民も多いかもしれない。
 新たな時代に求められる文化行政をどう打ち出していくか。文化庁は正念場を迎えていると言えるだろう。
 文化庁が発足したのは1968年6月。日本は高度経済成長のまっただ中だった。
 都市への人口集中が進み、地域社会が大きく変貌しようとしていた。文化が継承されなくなることへの危機感があり、初代長官は直木賞作家の今日出海氏が務めた。
 半世紀が過ぎ、日本は成熟社会となった。文化の重要性がより高まったのは間違いない。
 いち早くポスト工業社会を迎えたフランスなど欧州先進国では、文化を国の中心政策に位置づけ世界に発信している。
 日本がそうした方向性を目指すのは理解できる。だが、活用ばかりに前のめりになるとおかしなことにもなる。
 昨年4月に当時の地方創生担当相が、文化財保存を担う学芸員を、観光振興を進める上で「一番のがん」と批判して問題になったことは記憶に新しい。
 これまでの否定ではなく、培ってきたものを見つめ直し、新たな価値を生み出す工夫が必要ではないか。地に足のついた施策が求められる。
 移転に先行する形で昨年4月、京都市東山区に文化庁の地域文化創生本部が開設された。
 京都府や京都市、滋賀県などからの出向を合わせた職員が、新たに始まる文化行政の地ならしに取り組んでいる。
 力を入れているのが生活文化の振興だ。
 文化庁は茶道や華道、食文化などの日本の生活文化について国民意識調査を初めて実施した。趣味や習い事でかつて経験した人のうち、8割以上が継続していないことが分かった。
 残念な現状だが、手だてを考えるきっかけになる。創生本部は「若者世代の体験参加の場など施策を早急に検討したい」としている。
 移転を見据え10月には、組織改編で庁全体の機能強化を図る「新・文化庁」がスタートする。
 日本の文化政策の予算規模は国際的に小さく、担当職員数も少ない。そうした現状の見直しなくして「文化立国」実現はあり得ないだろう。
 そのためにも、国民に支持される魅力的な施策を模索してほしい。五輪後も視野に、京都からの発信に期待したい。

[京都新聞 2018年08月05日掲載]



東京医大入試 裏に隠した女性差別だ

 人を救う医師になりたい、という女子受験生の希望を踏みにじったことにならないか。入試で女性差別は許されるはずもない。
 東京医科大が一般入試で女子受験者の得点を一律に減点し、女子合格者を3割前後に抑える不正操作を繰り返していた疑惑だ。
 実際に2011年度以降、女子の合格率は男子を上回っていない。関係者によると、1次試験の結果を勘案し、女子だけに90%、85%といった係数を年度ごとに掛けていた。
 それ以前は暗黙の了解で減点していたとも明かし、長期にわたって不正操作した疑いがある。募集要項などには男女別の定員は明記されていない。入試の公正・公平が求められる教育機関として、きちんと説明する責任がある。
 東京医大では、今年の入試で文部科学省前局長の息子の得点に加点したとして、前理事長らが在宅起訴されている。大学の内部調査中に女子受験者への一律減点が浮かび上がったという。誰の指示で、いつから不正が行われたのか、明らかにしなければならない。
 女子の合格者を抑えるのは、大学の系列病院の医師不足を回避するためと関係者は説明する。女性医師は結婚や出産で職場を離れるケースが多いので、増えるのは困るというわけだが、まったく身勝手でおかしな理屈だ。
 大学と系列病院がからんだ構造的な問題となれば、他の医大でもあり得るのか。受験生らの間では、女子に不利な医大入試のうわさが絶えない。
 病院の医師不足が入試の公正さをゆがめたとしたら、方向が逆さまだ。女性だけでなく、医師の働き方の見直しや改善を急ぐべきなのだ。子育てしながら勤務を続けられるように、当直勤務免除や託児施設整備、配偶者支援などの要望に応える方が先だ。
 女性医師の多くは出産後、早期に職場復帰しており、子育ての年代での就業率も一般女性よりも高い。医師をめざす女子受験生に公平なチャンスを与え、意欲を大きく育てるのが医大の使命ではないか。
 女性医師の割合は19・7%(12年時点)で、経済協力開発機構(OECD)加盟平均の41・5%と比べかなり見劣りする。ただ、20代、30代では30%を超えている。入試で門戸を狭めるのは、時代の流れに逆行するものだ。
 「男女参画」が掲げられても、いまだに内実は伴っていない。東京医大だけでなく医科系大学は内部点検し、情報公開してほしい。

[京都新聞 2018年08月04日掲載]


LGBT寄稿 正しい認識を共有せよ

 議員本人だけでなく、自民党の姿勢も問われている。
 自民党の杉田水脈衆院議員が雑誌に「LGBT(性的少数者)のカップルのために税金を使うことに賛同が得られるのか。彼ら彼女らは子どもを作らず、『生産性』がない」と寄稿した。
 特定の性的指向や性同一性障害ののある人を排除する発言だ。
 子どもを産む、産まないは、個人の問題である。にもかかわらず、「生産性」という物差しで優劣をつけるなど、許されることではない。
 杉田氏の寄稿は「『LGBT』支援の度が過ぎる」というタイトルだが、そもそも認識が間違っている。
 LGBT支援の本質は、特別扱いではなく、権利の保障である。男女の区別と異性愛に基づく従来の社会制度を、多様な性のあり方に応じたものにしよう、ということだ。同性の結婚などを認める流れが国際的に広がっているが、それに伴い誰かの権利が削られるということはない。
 杉田氏は、日本は寛容な社会で差別はあまりない、とも書いているが、LGBTに対する社会の無理解が、生きづらさを助長している実態を知らないのだろうか。
 思春期に自らの性的指向について悩む人の中には、自殺を考える人も多いことが、さまざな研究から明らかになっている。
 国会議員の役割は本来、こうした問題を抱える人たちの声を国政に届けることである。
 自民党は杉田氏に対し「問題への理解不足と関係者への配慮を欠いた表現がある」として、注意するよう指導し、党見解をホームページに掲載した。
 これで十分ということなのだろうか。杉田氏の寄稿は、間違った認識に基づく攻撃的な内容だ。注意を促して済むとは思えない。
 二階俊博幹事長は「人それぞれ、いろんな人生観がある」「大げさに騒がない方がいい」などと繰り返すが、このような姿勢が、差別を深刻化させていることに気づいてもらいたい。
 安倍晋三首相は「人権と多様性が尊重される社会をつくるのは当然」と話すが、人ごとのような印象を受ける。杉田氏を公認した党総裁として、説明責任を果たしてほしい。
 自民党はLGBT支援を議員立法で進めるというが、その前に党として正しい基本認識を共有する必要がある。杉田氏の発言に厳しく対処できなければ、本気度が疑われよう。

[京都新聞 2018年08月04日掲載]


地上イージス 「導入ありき」見直しを

 費用対効果を考えれば、巨費を投じて導入する必要があるのだろうか。政府が2023年度の運用開始を目指す地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の取得経費が大きく膨らみそうだ。
 小野寺五典防衛相が、1基当たりの取得経費が約1340億円になると発表した。防衛省は当初、1基約800億円と見積もり、その後1千億円弱と説明してきた。見通しの甘さは否めない。
 トランプ米大統領は昨年11月の来日時、米国製防衛装備品の購入を日本に迫った。米国の貿易赤字削減のため、「言い値」をそのまま受け入れていまいか。
 2基分の「本体価格」に加え、土地造成費や建物建設費などを含めると最終的に4千億円以上になる可能性がある。搭載するミサイルの購入費など費用はさらに膨らむ。導入後も要員の訓練や整備維持に相当な経費が必要といい、重い財政負担になりかねない。
 アショアは昨年12月、北朝鮮の核・ミサイル脅威に対応するため2基の導入が閣議決定された。
 北朝鮮を想定した日本の弾道ミサイル防衛は、イージス艦搭載の海上配備型迎撃ミサイル(SM3)が大気圏外で迎撃し、打ち損じた場合に航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が対処する。これでは不十分としてアショア導入が急きょ決まった。
 アショアはイージス艦同様のレーダーやミサイル発射装置で構成され、秋田、山口両県に1基ずつ配備し、日本全体を防衛できるという。今年末の決定を目指す新たな防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」と中期防衛力整備計画(中期防)の目玉とみられる。
 ところが、緊迫した朝鮮半島情勢は今年に入り一転した。米朝首脳会談が実現し、ミサイル発射の可能性が低下した。防衛省は6月以降、日本海へのイージス艦の常時展開を取りやめ、北海道などに配備していたPAC3も撤収し始めた。こうした情勢下でアショア配備計画には疑問が膨らむ。
 防衛費が6年連続で増え続けている。既に世界有数の水準にある日本の軍備増強は、かえって地域を不安定にする恐れがある。本当に必要な装備、対応能力であるのか、費用対効果や優先度の厳格な検討が欠かせない。
 アショア導入は米側との調整に手間取り、運用開始目標が先延ばしとなる可能性が高い。配備候補地では懸念が強まっている。導入ありきで拙速に計画を進めるべきではない。再考を求めたい。

[京都新聞 2018年08月03日掲載]


最低賃金 引き上げに後押し必要

 正社員やアルバイトなど全ての労働者に支払われる賃金の下限額「最低賃金」について、国の審議会は全国平均の時給を26円引き上げ、874円とする目安をまとめた。
 深刻な人手不足を背景に、政府が昨年3月にまとめた「働き方改革実行計画」で掲げた3%程度の引き上げ目標に合わせる形で決着した。2002年度に時給で示す現在の方式となって以降、最大の引き上げ幅である。
 それでも、目指す「時給千円」には程遠い。生活を送るのに十分な水準とは、とてもいえないのではないか。
 日本の最低賃金は国際的に低い水準にとどまっている。労使が参加した審議会の議論で、労働者側は「現状の最低賃金水準では年収が200万円にも満たない」と指摘した。
 非正規労働者は過去最多の2133万人に達し、働く人の約4割にまで増えている。最低賃金が及ぼす影響は大きい。
 労組は「人間らしい暮らしができる最低限の時給は1500円」と主張している。
 国の目安を参考に都道府県がそれぞれ最低賃金を決定し、秋以降に順次改定するが、大都市圏と地方の格差拡大も問題だ。
 目安通りに引き上げても、最高額の東京都と最低額の沖縄県などの格差は現在の221円から225円に広がる。地方を中心に19県がなお時給700円台にとどまるという。
 地方創生の掛け声と相反すると言わざるを得ない。都道府県の審議会は、目安を上回る積極的な引き上げを検討してほしい。
 一方で、「官製賃上げ」の限界も近づいている。政権主導の急ピッチの引き上げに、中小企業などが「経営が成り立たなくなる」と悲鳴を上げ始めている。
 法的強制力がある最低賃金引き上げは、労働者の処遇を改善するが、企業には負担となる。
 残業の上限規制などが盛り込まれた働き方改革関連法が成立したばかりだ。人手が足りない中、中小企業にとっては残業の抑制も容易ではない。
 大企業の負担のしわ寄せを受けるような劣悪な下請け構造を脱し、賃金アップできる環境を整備しなくてはならない。
 政府は目標を掲げるだけでなく、具体的な手だてを示すべきだ。生産性向上につながる支援や税制優遇などの後押し策が求められるのではないか。

[京都新聞 2018年08月03日掲載]



文科汚職拡大 構造的な問題と捉えよ

 文部科学省の局長級幹部が二つの汚職事件で東京地検特捜部に相次いで逮捕された。行政中枢の腐敗にがくぜんとする。
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の業務を巡る収賄容疑で逮捕されたのは、同省の前国際統括官だ。JAXAに理事で出向中に元コンサルタント会社役員から約140万円相当の接待を受けたという。
 東京医科大の講演会に宇宙飛行士を派遣するなど便宜を図った見返りとされる。
 事実とすれば公務員としての規範意識を欠いた悪質な行為だ。行政の私物化であり、言語道断だ。
 接待の狙いが宇宙飛行士の手配だけだったとは考えにくい。宇宙開発には巨額のカネが動く。将来性が見込める研究に集中投資する科学技術分野の予算を狙って業者が接近した可能性がある。
 飲食接待は高級クラブなどで10回以上に及び、タクシーチケットの提供も受けていたとされる。
 前統括官は逮捕容疑を否認している。特捜部の全容解明とともに、同省も事件の背景などを厳しく検証することが求められる。
 文科省では、私立大支援事業を巡り、前科学技術・学術政策局長が東京医科大に便宜を図った見返りに息子を「裏口入学」させたとして受託収賄罪で起訴された。前局長は起訴内容を否認している。
 二つの事件に関与していたのは同じ元会社役員だ。人脈を広げるため他の省幹部らとも会食を重ねていた情報もある。利権を狙って近づく「ブローカー」のような人物の暗躍を許す土壌が省内に広がっていたとすれば問題の根は深い。
 文科省では昨年、国家公務員法に反する組織的な「天下り」問題が発覚した。加計学園の獣医学部新設を巡っても関連文書の隠蔽(いんぺい)体質が浮き彫りになり、真相はその後もうやむやにされたままだ。
 不祥事の連鎖は官僚としての倫理観や責任感の欠如を改めて露呈した。文科省そのもののガバナンス(組織統治)が効かなくなり、異常化しているのは明白だ。個人の資質ではなく、構造的問題と捉えてメスを入れなければならない。
 同省の中堅・若手職員有志は先ごろ、早急な改革を訴える申し入れ文書を事務次官らに提出した。異例の動きであり、組織の自浄作用にも期待したい。上層部は正面から向き合ってほしい。
 官民癒着の実態解明と抜本的な再発防止策は急務だ。徹底捜査に加え、第三者による補助事業の詳細な調査も欠かせない。それなくして信頼回復はあり得ない。

[京都新聞 2018年08月02日掲載]


衆院議長所感 緊張感取り戻す契機に

 国権の最高機関の長である衆院議長の提言は、安倍晋三首相や国会議員にどう聞こえるのだろう。
 大島理森衆院議長が、相次ぐ不祥事に揺れた通常国会について、異例の所感を公表した。
 森友問題をめぐる財務省の決裁文書改ざん、陸上自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)などを挙げ、「民主主義の根幹を揺るがす」「立法府の判断を誤らせるおそれがある」とした。
 特に安倍政権に対しては、問題を起こした経緯や原因の究明と再発防止への制度づくりを求めた。
 大島氏の指摘は、行政府が立法府を欺いた前代未聞の不祥事への危機感といえる。安倍政権は深刻に受け止める必要がある。
 とりわけ、経緯や原因の究明については、問題に真摯(しんし)に向き合う意思があるかどうかの試金石といえよう。逃げずに実行すべきだ。
 ただ、国会が終わった今ごろになって議長が所感を示したことには疑問も残る。問題が明るみに出た段階で機動的に乗り出していれば、その後の国会運営も違った展開になったのではないか。
 参院では参院定数6増法案などに関し、野党が伊達忠一議長の不信任案を提出する一幕があった。
 仲介役を期待されながら調整に動かなかった伊達氏の姿勢には「自民党いいなり」と厳しい声が上がり、与党の議長経験者からも「努力不足」の苦言が出た。
 議長が出身政党の意向に気兼ねして議事運営が不公平と見なされるようでは、言論の府である国会議員を束ねる役割は果たせない。責任と誇りを持ち、リーダーシップを取るべきだった。
 今後の国会の在り方について、大島氏は「正当かつ強力な調査権の活用」に言及した。具体的には40人以上の国会議員の要請で衆院調査局に調査を求めることができる「予備的調査」を例示し、国会の調査機能充実を求めた。
 予備的調査は、国政調査権に基づく調査と違って強制力が伴わないが、官公庁に資料提出などの協力を求め、拒否された場合はその理由を述べさせることができる。
 限界はあるが、工夫次第では少数会派にとっても疑惑追及の重要な武器になりそうだ。こうした方法を駆使し、行政府と立法府の間に緊張感を取り戻したい。
 個々の議員も自覚が必要だ。特に与党議員は、所属政党の決定に唯々諾々と従い、審議を軽視している面はないだろうか。
 多様な問題を提起し、論じ合うことこそ、国民の代表である議員の本分とわきまえてほしい。

[京都新聞 2018年08月02日掲載]



日銀緩和策修正 かじ取りさらに難しく

 日銀が、金融政策決定会合を開き、政策の修正を決定した。大規模な金融緩和に伴う副作用を軽減するため、長期金利の一定幅での上昇を容認する。
 短期金利をマイナス0・1%ととし、長期金利を0%程度に抑える枠組みは維持するというが、一部金利の上昇容認は、金融政策の大きな転換を意味する。
 どのようなメッセージとなって市場に伝わり、今後の株価や為替、景気動向に影響するのか、注視しなくてはならない。
 2013年、安倍晋三政権のもとで就任した黒田東彦総裁は、デフレ脱却を目指して「異次元緩和」を導入し、円安、株高による好況をもたらした。
 ところが、脱却の目安となる物価上昇率は、目標の2%に届かない状況が、5年以上が経過した今も続いている。
 長引く金融緩和で金利はほとんどなく、金融機関の収益悪化、年金などの運用難といった副作用が生じている。国債の大量買い入れに伴い、市場機能も低下した。
 長期金利の上昇容認は、これらの副作用に何らかの対処が必要とする考えに基づく。その意味においては、当然の判断である。
 会合後の会見で、黒田総裁は「上下0・2%程度の変動を容認する」との考えを示した。
 今は0%程度に誘導している長期国債について、こうした変動を受け入れるということであり、年80兆円をめどとする買い入れも、弾力的に実施するそうだ。
 上場投資信託(ETF)の購入配分を見直し、株価を形成する市場機能を、ゆがめることがないようにする。
 米国の利上げ、欧州の緩和縮小を受けて、異次元緩和からの出口戦略を探っているとも映る。
 問題は、この時期の金利上昇容認が、急激な円高や株価下落をもたらし、景気に冷水を浴びせないか、という点だろう。
 今年初めに、超長期国債の購入を減額した際には、利上げの地ならしとの観測から、思わぬ円高を招いた。細心の注意が必要だ。
 そこで、物価上昇率2%の目標達成について、これまでの想定よりも時間がかかると見通しを修正するとともに、来年10月に予定される消費税率の引き上げも踏まえ、当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持すると、予防線を張った。
 副作用のない金融緩和を追求したいのだろう。日銀は、さらに難しいかじ取りを担うことになる。

[京都新聞 2018年08月01日掲載]


諫早開門無効 対立乗り越えて解決を

 国営諫早湾干拓事業(長崎県)の堤防排水門の開門を命じた2010年の確定判決を、国の請求を認めて無効化する判断が、福岡高裁によって示された。
 先の判決確定後、干拓事業で入植した営農者の要請に応じるかたちで開門を拒んできた国の姿勢を事実上追認するもので、堤防排水門の開閉を巡り、異なる司法判断が併存する異例の事態は解消されることになった。
 しかし、閉門後の潮流の変化で海の環境が悪化したとする漁業者側は納得せず、最高裁に上告する方針という。
 問題が解決したわけでなく、営農者と漁業者の利害対立を解消するため、さらなる工夫が要るのではないか。
 干拓は、有明海内の諫早湾を全長約7キロの堤防で閉め切り、農地を造成した事業で、高潮対策も目的とする。
 排水門を閉じた後、漁場悪化を理由に漁業者が開門を求めた訴訟で、佐賀地裁が開門を命令、福岡高裁も支持。国は上告せず、10年に高裁判決が確定した。
 ところが、国が開門に応じないうちに、営農者側が海水の流入による被害を懸念して申し立てた仮処分で、長崎地裁は13年、開門の差し止めを求める正反対の決定を出した。
 司法上の判断がねじれ、板挟みの国も身動きが取りにくい状況となったようだ。裁判で白黒をつけるのではなく、総合的な見地からの解決策が必要とされていた、ともいえる。
 開門命令に従わない国は、100億円の漁業振興基金の設立を柱とする解決案を提示した。基金の運用主体になると想定される有明海沿岸4県の漁協が賛成し、福岡高裁も支持。今年3月に和解を勧告したものの、漁業者側との協議は決裂した。
 開門命令を無効化する判断は、こうした経緯を経ており、事態の解決に向けて、やむ得ないのかもしれない。
 とはいえ、判断を下すに当たって裁判長が、国側の主張に沿って「漁業者の共同漁業権は13年に消滅し、開門を求める権利も失われた」とした点などは、解決ありきで無理があると指摘されても仕方あるまい。昔から漁業権の更新を繰り返してきた漁業者側に、受け入れられるはずがなかろう。
 本来の解決策は、諫早湾を以前の豊かな海に戻すことである。基金設立にとどまらず、国には本腰を入れた対応を求めたい。

[京都新聞 2018年08月01日掲載]



iPS治験へ 実用化向け安全優先で

 iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った神経細胞をパーキンソン病患者の脳へ移植する再生医療の治験を、京都大が来月から始める。
 さまざまな組織や臓器になる能力があるiPS細胞が開発されて10年余り。再生医療の実用化が現実味を帯びる中、大きな一歩になると期待される。
 iPS細胞の再生医療は、理化学研究所などが目の病気「加齢黄斑変性」の患者を対象に臨床研究を実施している。大阪大は重い心臓病患者を対象に臨床研究を計画している。
 保険適用を見据えて厳格な基準で実施する治験は、より実用化に近い。国内では初めてとなる。
 治療法が確立すれば治療の選択肢が広がる。患者にとって朗報となるだろう。
 脳という複雑な臓器の病気への応用は、iPS細胞の研究の上でも重要な意味を持つ。
 パーキンソン病は、脳の黒質という部分で神経伝達物質ドーパミンを出す神経細胞に異常なタンパク質が蓄積し、神経細胞が失われて発症する。
 運動障害や認知症などさまざまな症状があるが、根本的な治療法はない。
 現在の治療は、ドーパミンの補充などを目的とした薬物療法が主流だが、完全には神経の死滅を止められない。
 iPS細胞から作った神経細胞の移植を合わせれば、長期間にわたる治療法として期待が持てるというわけだ。
 治験を行うのは、京大iPS細胞研究所の高橋淳教授らのチームである。
 あらかじめ作製し備蓄しておいたiPS細胞でドーパミン神経細胞を作り、頭蓋骨に穴を開けて移植する。数年間の長さで安全性と効果を確認する。
 一方で、過剰な期待は避けなくてはならない。今回の移植は、体の動かしにくさなど運動障害が対象である。多くの人が関心を持つ認知症などへの効果はあまり期待できない。
 治療法が確立しても、完全に健康な状態に戻せる訳ではない。再生医療以外の治療法も引き続き重要だという。
 iPS細胞にはがん化の懸念があり、副作用にも慎重な判断が求められる。高橋教授らはサルを使った実験で効果や安全性を確認してきた。
 何より安全が優先されることは言うまでもない。治験を冷静に見守りたい。

[京都新聞 2018年07月31日掲載]


辺野古「撤回」 話し合いに戻るべきだ

 対立が深まる理由は主に国にある。話し合いに立ち戻るべきだ。
 国が沖縄県名護市辺野古で進める米軍基地の建設について、沖縄県の翁長雄志知事が海の埋め立て承認を撤回する方針を決めた。
 翁長知事は就任後、前任の仲井真弘多知事が出した埋め立て承認に瑕疵(かし)があったとして「取り消し」たが、国との裁判になり最高裁で取り消し無効となっていた。
 今回の「撤回」は、事業の承認後に事業者の違法行為や問題が判明した場合に取り消す措置だ。
 翁長知事は、埋め立て地の地盤が極めて軟弱なことが判明したのに設計変更を届けず工事を続けていることや、環境保全対策をしていないことを理由に挙げている。
 仲井真前知事の承認の条件では、環境保全対策や工事、設計の変更があれば国は県と協議し知事の承認を得る必要がある。
 しかし政府はサンゴの移植をせずに本体工事の一部に着手した。今月には、埋め立てる沖合の海底が、深さ40メートルの「マヨネーズ地盤」とも言われる軟弱層ということが分かった。
 計画通り埋め立てるなら大規模な地盤改良が必要になる。ところが国は設計や工法の変更を沖縄県に届け出ず工事を進めている。
 海底の岩石などを壊すのに必要な岩礁破砕許可についても、国は「漁業権の消滅」などを理由に県に対し手続きをせず、沖縄県が差し止め訴訟を起こして係争中だ。
 沖縄県に届けて協議すれば、基地建設がストップする。国はそう踏んでいるのだろう。できる限り工事を進め、既成事実を積み上げる狙いが透けて見える。
 安倍晋三政権は「防衛は国の専権事項」と常々主張するが、国と自治体は協議すべきことを忘れているのではないか。国が行政手続きを無視していいわけがない。
 安倍首相はまた、「最高裁判決に従い辺野古移設を進める」と言うが、判決書には「承認の取り消しは違法」と書いてあるだけだ。
 11月の沖縄県知事選で安倍政権は県政奪還を目指している。県内自治体選挙では近年、政権寄りの候補の勝利が続いているが、「辺野古推進」を前面に掲げて勝った例は一つもない。強引な建設は分断と対立を招いている。歓迎されているわけではない。
 軟弱地盤の改良もあり、建設費は当初見込みの2500億円を大きく上回るのは確実だ。投じられるのは全額日本国民の税金である。この問題が京滋の私たちにも無縁ではないことを、直視したい。

[京都新聞 2018年07月31日掲載]



財務省人事  自己改革は可能なのか

 信頼回復より組織の都合を優先したような人事ではないか。
 財務省が、新たな事務次官に主計局長だった岡本薫明氏を、国税庁長官には同庁次長だった藤井健志氏をそれぞれ起用した。
 セクハラ問題や森友学園を巡る決裁文書改ざんで、次官級の2トップが約3カ月も不在となっていた異常事態は解消した。
 ただ岡本氏は、文書改ざんが起きた時、文書管理や国会対応に責任を持つ官房長だった。改ざんは知らなかったというが、管理責任を問われ厳重注意処分となった。
 改ざんした文書を国会に提出した前代未聞の不祥事に間接的に関わったともいえるだけに、国民の理解を得られるかは疑問だ。
 それ以上に問題なのは、組織を立て直して刷新する意図が人事から読み取れないことだ。
 事務次官の後任を巡っては、主税局長や財務官の名前が一時浮上したが、最終的に「本命」だった岡本氏となった。「5年先まで決まっている」とされる次官候補の順番をたがえることはなかった。
 改ざん問題では、佐川宣寿前国税庁長官ら職員20人が処分されたが、麻生太郎財務相は閣僚給与1年分を自主返納することで決着を試み、大臣の座にとどまった。
 不祥事に手を染めた官僚個人の責任は問うたが、麻生氏の政治責任は問題にされず、財務官僚の人事の既定路線も守り抜いた。
 財務省は不祥事の再発を防止するとして、事務次官を議長とする「コンプライアンス推進会議」を設け、民間人を起用して法令順守や組織立て直しを図るという。
 だが、一連の改ざん問題に責任がなかったとはいえない大臣と次官の下で、厳しい自己改革ができるかどうかは極めて疑わしい。
 こうした形ばかりの改革を許したのは、新潟県知事選の勝利や世論調査の結果などで、森友問題への世論の関心が薄まったと安倍政権が感じているからではないか。
 政権は内閣人事局によって省庁の幹部人事を握っており、官僚は政権におもねりやすい。
 ほとぼりを冷ましたと思っている政権に、省内人事の慣行を認めてもらった同省がこれまで以上に従属を強めるなら、「国民全体の奉仕者」ではなくなってしまう。
 来秋に予定される消費税増税への対応や、与党などからの歳出圧力が強まる中での財政再建への取り組みなど、財務省に対する国民の目は厳しさを増そう。
 改めて襟を正し、不信感を払拭(ふっしょく)する努力を続けるしかない。

[京都新聞 2018年07月30日掲載]


自伐型林業 山村活性化へ好循環を

 山の荒廃と中山間地の過疎化を憂い、森林資源の活用による農山村振興に取り組む人たちの間で、山の暮らしと密着した小規模な「自伐型林業」が注目されている。
 自伐型とは、住民や移住者自らが少人数で間伐などを担いつつ、薪(まき)の販売、狩猟など山林の豊富な資源を生かした副業を持つ複合型の林業を指す。
 山林所有者が森林組合や民間会社に手入れや伐採などを委託し、集約化、効率化、高性能機械の活用によって採算をとろうとする現在の林業とは異なる発想の林業とも言える。
 山を持たなくても新規参入できるため、過疎化が進む山村地域の雇用や定住にもつながり、「地方創生の鍵」と期待されている。
 合併によって市域の半分以上を森林が占めるようになった長浜市は2015年、「地域おこし協力隊」に、自伐型林業の実践と普及に取り組むチームを設けた。県外から応募した3人の男性が、同市余呉町で暮らしながら、資機材の扱い方や作業道の整備、高い樹木を倒さずに切る特殊伐採、製材技術などを身に付けてきた。
 協力隊には国や市から活動費や給与が出るが、期間は最長3年と決められている。3人は、自立を見据えて装備や工具をそろえ、狩猟免許も取得した。昨年秋に有限責任事業組合「木民(もくたみ)」を設立。今夏、いよいよ独り立ちする。
 これまで、集落の高齢化で管理の手が入らなくなった森林で作業道を整備し、切り出した木を薪にするなど、地域や人のつながりの中で仕事を得てきた。木民の東逸平さんは「山の暮らしが成り立つことを実践を通して示したい。自分たちのような小さな組織が増え、協力しあえば山の手入れも行き届くようになる」と将来を描く。
 考えてみれば、森林組合などへの作業集約が奨励されるようになったのは最近のことで、それまで山の手入れは持ち主や住民が担っていた。生き物を育んで恵みを与える身近な存在だからこそ、大切にしてきた。そうした経験なしに山への関心や経営意欲を持てといわれても難しい。
 山で暮らす人材と資源や資産とを引き合わせる目的で設立されたながはま森林マッチングセンターも今年、自伐型林業の就労体験を始める。木民の3人に続く、長浜市の地域おこし協力隊の選考も進む。木材や山が人をつなぐ。移住者たちが山村を活気づかせ、また新たな人々を呼ぶ。そんな循環が生まれてほしい。

[京都新聞 2018年07月30日掲載]