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トランプ新大統領誕生!

就任演説全文(英語)

京都新聞 社説 2018年07月29日~07月22日掲載

2018-09-26 04:11:17 | 日記

水害多発列島 避難にもっと注力すべき

 怖くなるくらいの大量の雨が広範囲に、長時間にわたって降り続いた西日本豪雨。平成最悪の犠牲者を出し、住民避難が続いているというのに、今度は台風12号の列島直撃だ。
 毎年のように激しい豪雨が各地を襲っている。「災害環境は新たなステージに入った」と河田恵昭関西大社会安全研究センター長が警告していた通りだ。
 これまで経験したことのない事態に、どう対応するのか。一から現状を見直し、新たなステージに合わせて発想や対策を変える必要があろう。
 堤防などハード面の整備を進めるにしても、それに頼って安心するのはかえって危険だ。これからは避難がより重要となる。意識を高め、どう避難に導くか。人命に関わるだけに、もっと注力したい。
 気象庁は「大雨特別警報を出す可能性がある」と1日早く予告している。危機感を示す異例の発表だったが、自治体など受け手にどう伝わったか。避難勧告・指示を出す市町の中には混乱も見られた。
 平成の大合併で自治体は広域化する一方で、職員は削減されてきた。マンパワーの不足で情報が滞り、広くなった圏域に目が届かないことも少なくない。
 もはや一自治体では大規模災害の対応は難しいとの声も出ている。国土交通省の調査によると、インフラ管理や災害対応にあたる技術職員が5人未満の町は6割、村は9割に上る。深刻な事態だ。
 内閣府の「水害対応の手引き」には、市町村の実施すべき項目が盛りだくさんだ。一方で、停電や電話不通に加えて「職員が参集できず」「マンパワー不足」といった実態も書かれている。
 西日本豪雨では、今春に制度化された「対口(たいこう)支援」の初運用として、被災市町村のパートナー自治体が職員を派遣している。国交省の「緊急災害対策派遣隊(TEC―FORCE)」も活動している。
 これらは発災後の活動だが、人命を含めて被害の最小化をはかるには、発災前から支援に乗りだしていいはずだ。規模の小さな市町では、大量の収集・伝達、避難勧告・指示などに追われており、専門的な支援や助言が求められているのでは。
 府県、関西広域連合、国などで機動的な支援組織を常設し、市町をふだんからサポートしてはどうか。全国知事会は「防災省」創設を緊急提言し、一元的な復旧・復興だけでなく事前対策を担うことも含めた。
 地域に防災行政は十分浸透しているのか。ハザードマップを作成しても、職員の手が足りず住民に説明されない事例も少なくない。
 支援組織の専門家が地域に入り、防災・減災を担う人材を育てる必要がある。今回の豪雨では、高齢者のパートナーを事前に決めていて避難できた団地の取り組みなど、参考になる事例も見られる。
 いざ、という時では遅い。平素から支援の手も借りて、自らの命を守り、大事な人を守る行動を考え、身に付けておく。この水害多発列島で暮らす上で欠かせないことだ。

[京都新聞 2018年07月29日掲載]



外国人労働拡大 共生へ議論を深めたい

 政府が、新たな在留資格の創設による外国人労働者の受け入れ拡大策の検討を始めた。
 原則として認めてこなかった単純労働に事実上、門戸を開くもので、高度な専門人材に限っていた受け入れ政策を転換させる。
 一定の技能と日本語能力を持つと判断した人に最長5年間の在留を認める方向だ。中小企業や介護、農業など人手不足が深刻な業種での受け入れが想定されている。
 少子高齢化に伴う労働力不足が背景にあり、産業界の切迫した要望も踏まえ、安倍晋三首相が関係閣僚会議で指示した。
 これまで外国人の受け皿となってきた技能実習制度は、低賃金や給与の不払いなどが社会問題化している。劣悪な労働環境や差別的処遇も見られるが、国は実態調査や検証作業をしていない。
 現行制度を維持した上で新資格をつくるなら、国は現行制度の総括を、きちんと行う必要がある。
 今回の受け入れ拡大について政府は「移民政策とは異なる」と強調している。確かに新資格の滞在期間は原則5年で帰国を前提とし、家族帯同も認めていない。
 しかし専門分野の試験に合格すれば期間が撤廃され、家族帯同も認められる可能性がある。将来的な定住の容認も検討しており、そうなれば移民との境界は一段と曖昧になる。
 本当に必要な制度なら、新資格創設が移民とどう違うのか政府は真正面から国民的論議を喚起し、明確に説明すべきだ。
 外国人の受け入れには医療や社会保障、教育、治安など社会コストが増える。不況になれば排除するようなことは許されず、外国人労働者自身の人権が守られるよう丁寧な制度設計を求めたい。
 気になるのは働く外国人の生活を守る視点が欠けていることだ。
 実習制度と同様、家族帯同を認めていないが、5年間も家族と離れて暮らすのは酷な話だ。実習生から新資格へ切り替えた場合、10年間は別居生活を強いられる。人道上も問題だ。
 日本で働く外国人労働者は過去最多の約128万人に上る。新資格は来年4月に運用を始める予定で、数十万人規模の受け入れが見込まれる。
 日本社会はもはや外国人の支えなしに成り立たない状況となっている。現実を見据え、働く外国人が地域に溶け込める共生社会の構築を急がねばならない。
 外国人労働者の受け入れ拡大は国の在り方を問う政策転換だけに冷静に議論を深めたい。

[京都新聞 2018年07月28日掲載]


相模原事件2年  社会に潜む差別を絶て

 相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で19人が犠牲になった殺傷事件から2年がたった。
 「障害者はいなくなればいい」と語った植松聖被告の差別的な主張は私たちに衝撃を与えた。
 だが、障害者など社会的弱者・少数者に対するゆがんだ差別意識は、いまだに社会に根強く潜んでいるのではないか。
 どう乗り越えていくのか、重い課題が突き付けられたままだ。
 事件は、全国の障害者に大きな不安を与えた。共同通信が6~7月に障害者216人から回答を得た調査では、事件によって心や体に不調を訴えた人が3割にのぼり、不眠や外出への恐怖感を訴える人もいた。「病気がうつる」「国の税金を使っている」などと言われた経験を持つなど、差別や偏見に苦しむ姿もうかがえる。
 障害者を普通の人とは異なる存在として見下す社会の意識は、今に始まったことではない。
 今年に入り、旧優生保護法下で知的障害がある人たちへの強制的な不妊手術が各地で行われていた問題が次々と報じられた。障害者を社会から排除する考え方が連綿と続いてきたことを意味する。
 この非人道的な措置について国の謝罪は行われておらず、救済策が政治の場でようやく検討され始めた段階だ。相模原事件を生み出した背景には、障害者に関するこうした社会全体の感度の鈍さがあったように思える。
 最近、自民党の杉田水脈衆院議員が性的少数者(LGBT)カップルに関し「子どもをつくらない」「『生産性』がない」と月刊誌に寄稿し、批判を浴びた。
 「障害者は不幸をつくることしかできない」「生きる価値がない」とした植松被告の主張と底流でつながっていないだろうか。
 このような問題が繰り返されていては、社会的弱者・少数者は堂々と生きられない。世の中にはますます閉塞(へいそく)感が漂うだろう。
 23日に行われた神奈川県主催の追悼式では、亡くなった人たちのエピソードが読み上げられたが、氏名は伏せられたままだった。ネットなどで攻撃されるのを懸念する家族が多いことを物語る。
 事件を繰り返さないためには、犯行に至った動機を解明し、その過程や対応を社会全体で共有することが重要だ。それには刑事責任を追及する裁判では限界がある。
 県などを中心に、専門家の協力も得て調査・検証を行う組織をつくれないか。事件を風化させず、語り伝えていく知恵が必要だ。

[京都新聞 2018年07月28日掲載]



オウム死刑執行 懸念される事件の風化

 地下鉄、松本両サリン事件などオウム真理教による事件に関わったとして、殺人などの罪に問われ、死刑が確定した教団元幹部ら6人の刑が執行された。
 松本智津夫元死刑囚(教祖名・麻原彰晃)を含む7人の刑は今月6日に執行されており、教団による一連の事件で死刑が確定した13人全員の執行が終わった。
 事件は世界を震撼(しんかん)させた。判決で認定された死者は計27人。起訴後の死亡者などを含めた犠牲者は29人に上り、国は6500人以上の被害者を確認している。
 だが、教団が数々の凶行に手を染めた背景が、裁判で完全に明らかになったとは言い難い。死刑執行によって、教団幹部たちが真相を語る機会は永久に失われたことになる。
 武装化し、テロまで企てた教団に、医師などのエリートを含め多くの若者が身を投じたのはなぜなのか。
 謎や疑問が解消されないまま、適切な再発防止策を確立することは困難だろう。
 地下鉄サリン事件で夫を亡くした高橋シズヱさんは「執行はされても、後遺症を抱える人や遺族の被害は続いている」と語った。
 多大な犠牲を払って得た教訓を、次の世代へ継承しなくてはならない。だが、教訓と言えるはっきりしたものがつかめたといえるだろうか。
 国には今後、服役している元信者の証言を得るなどして、検証に取り組んでほしい。これで終わりとすれば、事件は風化する一方にならないか心配だ。
 国際的に死刑廃止の流れがある中、短期間に13人もの死刑を執行したのは極めて異例である。今回の執行を節目に、死刑存廃の議論の行方も注目される。
 法務省は死刑制度を存続させる根拠に国民世論の支持や、被害者、遺族の思いを掲げている。今回の執行は未曽有の事件に強い姿勢を示したといえる。
 だが、先進国には世論の支持にもかかわらず廃止した国もある。
 6日の執行は各国や人権団体が批判し、欧州連合(EU)などが「死刑廃止を視野に入れた執行停止の導入を(日本に)呼び掛ける」とする声明を出した。批判をどう受け止めたのだろう。
 死刑制度を巡る情報が十分開示されていないことも問題だ。制度の賛否とは違う次元の問題として、国民一人一人が制度に向き合い、議論を深める時期に来ているのではないか。

[京都新聞 2018年07月27日掲載]


情報公開漏洩 総務相の甘い問題意識

 情報公開制度の根幹を揺るがす深刻な問題だ。
 野田聖子総務相に関する情報公開請求を朝日新聞が金融庁に対して行ったところ、金融庁は開示決定前に開示請求の内容や請求者の所属を野田氏に伝えていた。
 野田氏はこの事実を複数の記者との懇親会で話題にもしていた。
 情報公開制度は、行政機関の運営を市民が検証するために欠かせない制度だ。請求者や請求内容が漏れることがあれば、請求することへの萎縮を招きかねない。
 2016年に、富山市などの議会事務局が、市会議員の政務活動費に関する情報公開の請求者を議員に漏らしていたことが明らかになり、総務省は全国の自治体に注意を促した。
 しかし今回、野田氏は「特段の問題意識を持つことなく話題にした」と述べている。制度を所管する大臣としての自覚のなさに驚くほかない。責任は重大だ。
 野田氏の責任はこの問題の発端についても問われよう。
 朝日新聞が金融庁に対して行った情報公開請求は、野田氏の事務所と同庁の担当者の面会記録についてだった。
 面会は野田氏の事務所で行われた。金融庁から無登録営業の疑いで調査を受けていた仮想通貨関連会社の関係者も同席し、金融庁の担当者に仮想通貨の販売規制について説明をさせていた。
 野田氏は、関係者を自身の友人と認めたうえで、「金融庁への圧力には当たらない」と説明している。しかし、なぜ現職閣僚の秘書が同席しなければならないのか。口利きとも受け取られかねない、極めて不自然な経緯だ。
 圧力になったからこそ、金融庁の担当者は総務省に情報開示決定書などを渡したのではないか。
 安倍晋三政権下で官僚が力のある政治家に忖度(そんたく)して行動する問題が森友・加計問題を通じて浮かび上がったが、同じ構図が透けて見える。
 菅義偉官房長官は金融庁の対応を不適切と批判し、金融庁は職員の処分を検討している。政治家の責任を問わず、官僚の処分で済ますとしたら、森友・加計問題と共通する。
 金融庁は「開示請求があったことを伝えることは問題がない」としているが、これも情報公開制度をゆがめかねない認識だ。
 野田氏は自民党総裁選への立候補を公言してきたが、このままでは安倍首相との違いを打ち出せないのではないか。

[京都新聞 2018年07月27日掲載]



岸田氏不出馬 政策論争が減り残念だ

 自民党総裁選は事実上、次の首相を決めるものである。
 党関係者でなくとも、名乗りを上げる人や、その政策について知りたいのは当然で、多くの国民は、総裁がどのような過程を経て選ばれるのか、よく見ている。
 そんな総裁選に立候補しない意向を、党政調会長の岸田文雄氏が表明した。
 9月に予定される今回は、安倍晋三首相の総裁任期満了に伴うものである。3年前の前回は無投票で、政策論争がなかっただけに、岸田氏の不出馬は残念だ。
 会見でその理由を、西日本豪雨への対応や北朝鮮問題などに、首相を中心に取り組むことが重要だ、と説明した。
 だが、立候補も想定して今年4月にまとめた自分の派閥の政策骨子には「持続可能な経済、財政、社会保障の実現」「平和憲法、日米同盟、自衛隊を3本柱とする外交を推進」などを挙げていた。
 これらについて、総裁選で安倍氏らと議論するのは、党や日本の将来にとって有意義なはずだ。
 不出馬を決断したのは、次の総裁に誰がふさわしいかを聞く直近の共同通信世論調査で、27・3%だった安倍氏に大差をつけられ、わずか4%にとどまるなど、支持を広げられなかったため、とみられる。当選か、せめて次点に入って将来につながる道筋を、見いだせなかったといえよう。
 確かに、大敗を喫すれば総裁候補ですらなくなるだろうが、次のチャンスが必ず巡ってくるとは限らないことも、踏まえておかねばなるまい。
 総裁選は、岸田氏が出馬せず、立候補に意欲を示す野田聖子総務相が、必要な推薦人の確保に努める状況とあって、安倍氏と石破茂元幹事長の一騎打ちとなる可能性が高まっている。
 安倍氏は、岸田氏が不出馬表明と同時に、派閥で結束して安倍氏を支持する方針を示したため、国会議員票の約6割を押さえたとされている。
 先の世論調査では、党支持層の5割近くが、総裁にふさわしいとしており、党員・党友による地方票でも優位に立っている。
 地方票頼みの石破氏は全国行脚を続けるが、これでは、総裁選が始まる前から安倍氏の3選が確実な情勢ではないか。
 結果として、派閥の合従連衡によって次期総裁を決めるかたちになれば、国民は冷めた目を向けるだろう。党にとっても好ましくない、と思うのだが。

[京都新聞 2018年07月26日掲載]


虐待緊急対策 総掛かりで悲劇防ごう

 痛ましい悲劇を繰り返してはならない。総掛かりで早急に取り組む必要がある。
 東京都目黒区で両親から虐待されていた船戸結愛ちゃん=当時(5)=が亡くなった事件を受けて、政府は児童虐待防止の緊急対策をまとめた。
 対策の柱は、児童相談所(児相)で働く児童福祉司の約2千人増員だ。今の約3200人が2022年度までに1・6倍の5200人になる。
 児相のマンパワーは慢性的に足りず、現場は疲弊している。人材確保は簡単ではないが、絵に描いた餅にならないように児相の体制を強化したい。
 児童虐待の通告件数は年々増えており、最近は事案内容も複雑化している。ただ、児童福祉司が多様な事例に対して的確に判断できるようになるには5年以上の実務経験が必要といわれる。
 16年の児相強化プランで増員策が打ち出されたこともあり、現場では勤務3年未満の職員が全体の4割を占めるという。今回の約2千人増員で経験の浅い職員はさらに増える見込みだ。
 人材の早期育成や組織力向上が問われる。そのために研修内容を工夫し、実践的な対応力を強めることが必要だ。
 今回の事件では家族が転居した際に、児相間で情報が共有されなかった。反省を踏まえ、緊急性が高い事案の場合は児相の職員同士の対面引き継ぎを原則にした。
 家庭訪問で保護者が面会を拒否した場合も「原則48時間以内に安全確認する」との指針に加え、確認できない場合は立ち入り調査を実施し、警察と情報共有を進めることをルール化した。
 警察への情報提供については「親族が情報共有を嫌がり、通報が減る」など慎重な意見もあるが、増え続ける児童虐待に児相だけで対応するには限界がある。
 保育や教育行政など市区町村との役割分担が必要だ。警察との連携強化やコミュニケーションも求められる。
 各市町村にある子育て世代包括支援センターや児童養護施設、NPOなどの民間団体は家族に関するさまざまな情報を持つ。連携を強めれば児相の負担も減らせる。重層的な地域ぐるみのセーフティーネットの構築を急ぐべきだ。
 児童虐待対策に即効薬はない。対症療法的かもしれないが、国や自治体は必要と思われることは全てやってほしい。尊い命を失ってから対策に乗りだすようなことはもう終わりにしたい。

[京都新聞 2018年07月26日掲載]



記録的猛暑 「災害」レベルの対応を

 災害と認識している-。気象庁の異例の警告と言ってもよいだろう。このところの猛暑である。
 23日に埼玉県熊谷市で国内最高の41・1度を観測した。
 7月中旬(11~20日)の平均気温は平年に比べ、関東甲信で4・1度、近畿で3・4度高くなっている。統計を取り始めた1961年以降では最も暑い10日間だ。
 記録更新はこれだけではない。
 総務省消防庁によると、16~22日の1週間に熱中症による全国の救急搬送者は約2万2千人にのぼり、集計を始めた2008年以降では最多となった。このうち死亡したのは65人で、昨年(5~9月)の48人を1週間で上回った。
 気が重くなるのは、この暑さがさらに続きそうなことだ。気象庁は「命の危険がある暑さ」と言っている。厳重な警戒が必要だ。
 日常生活にも影響が出ている。観測史上初の40度超えした東京都内では、夏休みに小学校の屋外プールの使用中止を決めた自治体もある。高温の中での運動と、登下校の安全を考えたという。
 工場の従業員に氷やスポーツ飲料を支給したり、猛暑を理由にした在宅勤務を認める企業もある。
 京都では祇園祭の花傘巡行が暑さを考慮して取りやめになり、高校野球の地区大会も気温のピーク時を避け、試合開始を遅らせた。
 もはや異常事態である。当たり前と思っている習慣も状況に応じて見直し、体調を崩す人が出ないよう万全の配慮をしてほしい。
 この猛暑は、日本上空に太平洋高気圧とチベット高気圧が居座って雲ができにくく、直射日光が地表を熱しているためという。
 異常な高温が続いているのは日本だけではない。7月に入り、米国カリフォルニア州で52度、ロサンゼルス郊外で48・9度に達したほか、アルジェリアのサハラ砂漠では51・3度を観測した。
 北欧の北極圏でも30度超えを記録し、スウェーデンでは約50カ所で森林火災が報じられている。
 世界気象機関(WMO)は、個別の異常気象がすべて気候変動の結果とはいえないとしながらも「温室効果ガスの濃度上昇による長期的な傾向に合致している」と述べている。だとすれば、夏の猛暑はこれからも続く可能性がある。
 暑さ対策を念頭に、まちづくりを見直す時期ではないか。特に市街地では、路面温度を抑制する舗装や、日差しを和らげる街路樹を大幅に増やしてはどうだろう。
 猛暑を「災害」と言うなら、地震や台風に準じた備えが必要だ。

[京都新聞 2018年07月25日掲載]


公文書管理 弥縫策では再発防げぬ

 森友学園を巡る財務省の決裁文書改ざんなどを受け、政府は公文書管理の在り方を見直す再発防止策をまとめた。
 決裁済み文書の事後修正を認めず、改ざんに懲戒免職などの厳しい措置で臨む方針を打ち出した。一定の効果が見込めるとはいえ、弥縫(びほう)策との印象は否めない。安倍晋三政権は一連の不祥事の幕引きを図りたいのだろうが、これでは抑止効果に疑問符が付く。
 公文書に関わる不正の監視強化のため、内閣府の独立公文書管理監の権限を拡大し、各府省庁にも公文書監理官室を置く。ただ特定秘密を扱う管理監が一般文書の不正監視も兼ねる形では片手間となりはしないか。
 さらに公文書担当幹部らへの研修を今夏から実施し、公文書管理への取り組み状況を人事評価にも反映する。変更履歴が残る電子決裁への移行も加速させる。
 公文書管理の適正化で国民の信頼回復を図るというが、外部のチェックが入らない仕組みでは効果を疑問視せざるを得ない。
 加えて公文書の定義を広げる公文書管理法改正に踏み込まなかった。各府省庁とも保存や公開の対象になる行政文書の範囲を狭く捉える傾向が強い。メールの扱いも含め、恣意(しい)的な運用ができないように制度を改めるべきだ。
 刑事罰の導入を見送っては官僚らの責任が曖昧になりかねない。財務省の改ざんでは大阪地検が関与した官僚らを不起訴としたが、改ざん文書により国会を冒瀆(ぼうとく)した悪質な行為は許されまい。刑事罰新設の議論を求めたい。
 2011年に施行された公文書管理法は、公文書を「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と位置付け、適正な管理・保存を求めてきた。
 公文書は政策決定や歴史的事実の記録であり、国民全員のものでもある。適正に管理、保存、公開されてこそ、国民が権力の行使をチェックできる。だが財務省による国有地売却交渉記録の改ざんばかりか、獣医学部新設に関する政府の内部文書発覚や自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)といった公文書管理のずさんさが露呈する不祥事が相次いだ。
 不都合な文書は極力隠し、廃棄した方が無難という考えは国民への裏切りである。一連の不祥事の背景には政権への忖度(そんたく)があったことも否めず、それを招いた政治家の責任は重い。政府は民主主義の根幹を揺るがす重大事と受け止め、専門家の知恵も借りて抜本的な公文管理改革を急ぐべきだ。

[京都新聞 2018年07月25日掲載]



G20閉幕 摩擦回避へなお努力を

 アルゼンチンで開かれていた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が閉幕した。
 共同声明は「世界の経済成長の下振れリスクが増している」とし、激化する貿易摩擦を世界経済の脅威と位置づけた。
 米国への名指しこそなかったが、トランプ大統領の強硬な姿勢に危機感を表した。
 だが報復の連鎖をどう食い止めるのか、具体策には踏み込めなかった。世界経済の失速を避けるため「対話と行動」を強める必要があると表明するにとどまった。
 米国が中国に制裁関税を発動し、中国が報復関税を始めて以降、初の会議だった。G20の協調が問われたが、米政権との溝が埋まらなかったのは残念だ。
 さらに自動車の輸入制限へ踏み込もうとする米国に、折れる気配はない。声明が緊張緩和につながるかどうか、実効性は不透明と言わざるをえないだろう。
 むしろG20の形骸化を改めて印象づける形となった。議長を務めたアルゼンチンのドゥホブネ財務相は「貿易紛争を解決する場は2国間交渉や世界貿易機関(WTO)だ」と議論の限界を認め、当事者同士の協議に委ねた。
 G20は先進国だけでは対処が難しい課題が増えたため、新興国に連携を広げようと発足した。
 リーマン・ショックの起きた2008年に世界経済を議論する主要な会合と位置づけられ、大胆な政策協調による処方箋を作り上げてきた。
 だが、多様な国が集まるため利害対立を常に抱えてきた。「自国第一主義」を掲げるトランプ大統領の登場で、協調体制が一段と力を失ったことは明らかだ。
 とはいえ、世界経済の混乱を少しでも抑制する努力は続けなくてはならない。危機感の共有を足がかりとしてほしい。
 世界経済は堅調だが、不安も潜む。今回の声明では、金融環境の変化で新興国からの資本流出を招く恐れにも警鐘を鳴らし、貿易や投資が成長に果たす役割を改めて強調した。
 来年はG20財務相・中央銀行総裁会議が始まって20年になる。日本が議長国を務め、6月に大阪で首脳会議がある。
 それまでには米国の中間選挙や英国の欧州連合(EU)からの離脱交渉などが終わり、新たな状況を迎えることも予想される。
 今回先送りとなった課題の解決に向け、実のある対話をいかに再構築するか。日本の真摯(しんし)な取り組みが求められる。

[京都新聞 2018年07月24日掲載]


五輪まで2年 暑さ対策も重要課題だ

 2020年の東京五輪開幕まで24日であと2年となった。
 史上最多の33競技、339種目の競技スケジュールや入場券販売の概要が固まった。聖火リレーは全国を回ることになり、五輪への機運が高まりそうだ。
 開催国の責務として万全の準備をしっかりと前に進めたい。
 いま最も気掛かりなのは、予想される酷暑への対策だ。
 マラソンはスタートが当初計画の午前7時半から7時に前倒しされた。競歩やゴルフ、トライアスロンなど屋外競技の多くで開始時間を早めたことは現実的な対応といえるだろう。
 マラソンのコースは特殊な舗装をし、路面温度の上昇を抑える方針という。木陰を増やす街路樹の整備や送風機などで涼める場所を増やしていく。会場や周辺の熱中症対策を強化してほしい。
 一定の気温を超えた場合の対応についても、専門家を交えて議論し「安心、安全な五輪」運営へ方策を探ってはどうか。
 競技スケジュールでは、決勝の時間帯を巡って協議中だった競泳が午前に実施する方針となった。
 競泳は予選や準決勝を伴う競技であり、主要な国際大会は「体が動き、記録も出やすい」との理由で夕方以降に決勝を行うのが通例だった。選手の負担の大きさから、午前の決勝実施は国際水泳連盟も反対していた。
 午前の決勝は巨額の放映権料を払う米国のテレビ局が北米でのゴールデンタイムの放送に合わせて希望していた。08年の北京五輪でも午前に決勝が実施された。
 米国の視聴者を優先し、「選手第一」の理念を置き去りにするのは主客転倒ではないか。選手の能力を最大限に引き出す大会であることも考慮してほしい。
 東京五輪では国内外から1千万人以上が集まり、交通混雑も見込まれている。選手と観客の輸送対策は急務だ。
 祝日を移動させ、開会式前後は4連休に、閉会式前後は3連休となる。だが交通量抑制へさらに努力が要る。大会に合わせた夏休みの取得、時差出勤、自宅で働くテレワークの推進、物流の抑制など官民挙げて知恵を絞りたい。
 開幕まで残された時間は長くない。会場警備やボランティア配備など他にも課題が山積しており、解決を急がねばならない。東京都、大会組織委員会、国など関係機関はこれまで以上に連携を密にし、スピード感をもって具体的な準備を加速させてほしい。

[京都新聞 2018年07月24日掲載]



豪雨から2週間 住まいの確保に全力を

 西日本の広い範囲で大雨特別警報が出されてから2週間が過ぎた。死者は全国14府県で220人を超え、行方不明者の捜索は現在も続いている。
 猛暑の中、各地で浸水被害を受けた住宅の後片付けが進められている。それと同時に、被災者の当面の住宅確保と再建の深刻さが浮かび上がっている。
 洪水や土砂崩れなどの被害を受けた家屋は3万4000棟を超え、全壊や半壊は5千以上に上るとみられている。
 広島県や岡山県では、行政が民間の賃貸住宅を借り上げて被災者に提供する「みなし仮設住宅」の受け付けが始まった。住宅が全半壊し自力で住居を確保できない人が対象で、家賃は無料になる。
 問題は、物件が被災地やその周辺には少ないことだ。広島県や岡山県は約3千戸を用意した。しかし多くは都市部にある。
 「みなし仮設のアパートに入れば、子どもが転校を迫られる」「遠くから家の復旧に通うのは厳しい」「借り上げだけでなく、仮設住宅も造ってほしい」-。被災地ではこうした要望が聞かれる。
 今回の豪雨災害では、大量の土砂が流れ込んで埋まった家屋も多い。国はこれらの家屋が全半壊と判定されなくても、自治体独自の判断で仮設住宅に入居できるとの判断を示した。被災者のすまい確保では、こうした行政の柔軟な対応が重要だ。
 避難所での生活が長引きそうな被災者のケアも重要だ。現在、約4600人が避難所で過ごしている。酷暑の中、体調不良を訴える人は多い。衛生面やプラバシー確保でさらなる対策が欠かせない。
 避難所ではなく、親戚や知人の家、車の中や被災した自宅で過ごしている人も少なくない。ペットがいる、心や体の障害が気になる、などが理由で避難所に身を寄せられないという。
 災害弱者の対応は、過去の災害でも重要な課題になってきた。行政は、専門的な知見を持つNPOなどとともに取り組んでほしい。
 住宅を再建する被災者には、被災者生活再建支援法が適用される。水害で全壊の場合は最大300万円の公費が支給される。
 だが、床上1メートル未満の浸水などは半壊となり支援の対象外だ。今回、被災地では大人の腰付近まで土砂に埋まった家屋が目立つ。長時間浸水した家も多い。外見は半壊でも建て直しが必要となろう。法改正でなくても、制度の運用で支援を広げられないだろうか。

[京都新聞 2018年07月23日掲載]


事業承継 京滋の中小企業を守れ

 経営者の高齢化や後継者難により、廃業に追い込まれる中小・零細企業が増えている。
 国の集計(2015年度)によると、廃業率で滋賀県が全国ワースト1位(4・9%)、京都府が同2位(4・6%)と連なって全国平均(3・8%)を上回り、特に深刻だ。廃業で優良な技術や雇用が失われると、京滋の経済基盤を弱めてしまう。円滑な事業承継は喫緊の課題といえる。
 政府は本年度の税制改正で経営権譲渡や株式移転を後押しする仕組みを導入した。この機を捉え、京滋の行政や経済団体、地域金融機関は連携を強め、承継先の仲介や後継者育成、経営相談などに一層注力してもらいたい。
 国の試算では、70歳以上の中小企業経営者は全国約245万人で、半数は後継者が未定だ。放置すると、廃業の急増で約650万人の雇用と22兆円のGDP(国内総生産)が失われる恐れがある。
 京都府内でも昨年度の休廃業企業は447件(民間調べ)。業種では建設、サービス、小売、製造などが多く、倒産件数(269件)を大きく上回った。
 国の全国調査で休廃業企業の5割近くは経常黒字といい、後継者さえ見つかれば企業を存続できた可能性は高い。そこで国は税制改正により、事業承継に伴う相続税や贈与税の負担を軽くし、株式売却の時点で株価を評価し、税を減免する制度なども設けた。
 連動して京滋の経済団体や行政も動く。滋賀では6月、県や経済団体、公認会計士など44団体が「事業承継ネットワーク」を立ち上げた。廃業率ワースト1の返上へ、経営者への聞き取りや承継計画作りの支援を進める。
 京都商工会議所が2年前に開設した府事業引継ぎ支援センターでは、昨年度の相談件数が初年度と比べて倍増した。本年度はM&A(企業の合併・買収)を手掛ける民間機関と連携を強めるという。
 後継者が親族や社内にいない場合、M&Aは承継の有効な手段だが、相手先企業がすぐに見つかるとは限らない。経営者は将来を見越し、早めに決断、行動することが欠かせない。そうした意識を高める経営者への啓発も重要になる。
 経験やスキルの豊富な大手企業出身者をトップに迎え、世代交代に成功した企業もある。企業同士の仲介だけでなく、経営者の人材登録のような仕組みも有効だろう。京滋などで府県を超えた情報の共有も考えられないか。慣例にとらわれず、手を尽くしたい。

[京都新聞 2018年07月23日掲載]


国会閉会 立法府の存在意義再考を

 1月から始まった通常国会の会期が、きょうで終了する。
 いったい、国会は言論の府なのか。そんな思いを抱かせるような光景が繰り返された。
 国民の関心が高かった森友・加計疑惑の解明は、真相に迫れないまま時間切れとなった。だが、釈明の答弁に立った関係者の不誠実な態度にうんざりさせられた人は少なくなかろう。
 とりわけ、過去の発言を覆すような文書や証言が次々に出ても、はぐらかしや言い逃れで審議時間を食いつぶした政治家たちの答弁にはため息が出た。
 問いに対しては誠実に答える-。私たちが当たり前としてきた対話の基本すら放棄したかのような姿勢は、権力を握る者の傲慢(ごうまん)さを印象づけた。
 与党の国会運営も強引さが目立った。働き方改革、カジノ、参院定数6増などの重要法案が詰め切れない多くの論点を残して成立した。委員会で採決を強行して数の力で押し切る「いつもの手法」だったといえる。
 国会は議論の場ではなく、単なる追認機関にすぎなくなっている。そんな様相がますます色濃くなってきた。政治不信を通り越し、立法府の存在意義が問われる事態である。
 今国会で象徴的だったのは、安倍晋三首相と枝野幸男立憲民主党代表が党首討論について、ともに「歴史的使命は終わった」と語ったことだ。
 党首討論は、首相の権限強化など政治主導を確立する改革の一環で導入された。いまの「安倍1強」も、その改革の一つの帰結といえる。両氏が現在の党首討論の役割を否定的にとらえたことは、「1強」の下での党首討論が形骸化しているのを認めたようなものではないか。
 森友・加計疑惑も、強すぎる首相とその周辺者の威を借りたりおもねろうとしたりした民間人や官僚の存在が背景にあったと思われる。財務省の文書改ざんや自衛隊の日報問題も同根だろう。
 突出した権限を持つ首相の存在は与党内の異論を封じ込め、弱体化した野党との実力差を拡大させる。その結果、内閣に対する国会の監視機能が働かなくなり、立法府が行政府に従属するかのような状況を招いた。
 ただ、与野党から立法府の仕組みを見直す動きも出てきた。
 自民党の小泉進次郎衆院議員ら若手有志がまとめた提言は、首相主導の重要性を認めつつ、行政を巡る疑惑解明のための特別調査会の設置や国政調査権発動を支援するスタッフの大幅増員を求めた。森友・加計疑惑が念頭にあるのは明らかだ。
 枝野氏率いる立民は、与党が法案の事前審査を行っているため国会審議での修正が難しく、数の力で原案を可決させることが多いとして、事前審査制度を改めて柔軟に修正できる環境を整えるよう与党に求めた。
 こうした動きは抜本的改革とは言い難いが、首相の権限強化に比べて遅れていた国会の機能充実への一歩にはなろう。与野党全体で機運を共有し、実りある改革につなげてほしい。
 権力を握る者の説明責任も重要だ。森友・加計疑惑の解明は今後も続けられねばならない。

[京都新聞 2018年07月22日掲載]


京都新聞 社説 2018年07月21日~07月14日掲載

2018-09-26 04:01:15 | 日記

カジノ法成立 負の側面に冷静な目を

 カジノ解禁を柱とする統合型リゾート施設(IR)整備法案が、衆院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。
 刑法が禁じる賭博を合法化し、ギャンブルで観光や経済の振興を図ろうという法である。それ自体がまっとうな成長戦略とは言い難い内容だが、とりわけギャンブル依存症拡大への懸念などを払拭(ふっしょく)しないまま、数の力で強引に成立させた政府・与党の責任は重い。
 今後、政府は規制機関「カジノ管理委員会」を設置し、国会での審議が不要となる政令、省令、委員会規則で331項目にも及ぶ詳細なルールを定める。だが国会の監視が届かなくなるからといって白紙委任されたわけではない。目指すものが野党の言う「人の不幸を食い物にして成り立つ経済」でないというなら、国民が納得のいく実効性のある規制にすべきだ。
 法案をめぐる国会審議で最も問題にされてきたのは、ギャンブル依存症対策である。
 IR整備法は日本人客の入場を「週3回、28日間で10回」に制限する規定を設けており、安倍晋三首相は「世界最高水準の規制」としているが、早くもほころびが目立っている。
 採決間近の審議で、1回の入場で24時間滞在できることが判明したからだ。これだと日付をまたげば1回の入場で2日間カジノを楽しめ、最大で週6日、28日間で20日間の滞在が可能になる。依存症の防止どころではない。
 加えて胴元であるカジノの民間事業者に入場客への金銭貸し付けを認める規定もある。競馬など既存の公営ギャンブルでは認められていない制度だ。一定の預託金を事業者に納めた客に、貸し付けることができる。
 政府は対象を富裕層に限定し顧客の返済能力に応じて限度額を決めるというが、富裕層の定義が不明であり、ギャンブルで負けた分をギャンブルで取り返そうとする心理をあおりかねない。そうなればまさに依存症の助長だろう。
 安倍首相は「世界中から観光客を集める」としているが、韓国では依存症患者が増える一方で、外国人観光客からの売り上げは増えていないという。
 現在、北海道や大阪府など複数の自治体がIRの誘致を目指しているが、カジノ設置の負の側面にも冷静な目を向けてほしい。カジノがなくても昨年は過去最高の2800万人を超える外国人観光客が日本を訪れた。賭博に依存しない観光振興の道はあるはずだ。

[京都新聞 2018年07月21日掲載]


ビキニ被ばく それでも国の責任重い

 1954年、太平洋・ビキニ環礁での米国による水爆実験の周辺海域にいたのは、第五福竜丸だけではない。
 高知県の元漁船員と遺族ら45人が、国に総額約6500万円の賠償を求めたが、高知地裁は判決で請求を棄却した。
 「被ばくを認めてほしい」という切実な願いを受け止め、被ばくを認定したのは評価できよう。
 しかし一方で、国は被ばくを隠すために支援や調査を放置したとは言えない、として賠償責任を否定したのは大いに疑問だ。
 長い間、被ばくの有無をうやむやにされ、不安を抱えてきた原告は納得していない。被ばくとの関連が疑われる白血病やがんに苦しみ、亡くなった元船員もいる。
 第五福竜丸以外の漁船も被ばくした事実や調査結果を、国は隠し続けたと原告は主張している。判決は退けたが、国の対応をふり返ると疑念は拭えない。
 80年代以降に国会質問や情報開示請求がなされ、国は「文書を保有していない」などと回答していた。ようやく2014年に当時の調査結果を開示したところ、水爆実験の周辺海域に漁船延べ556隻がいたことが記載されていた。それは元船員らの聞き取り調査を続ける元高校教諭の請求によるものだ。
 判決は、国は文書の所管部署がさまざまで継続的な放置ではないとした。さらに損賠請求の期間を過ぎているとした。しかし、訴えようにも長く調査結果は明らかにされていなかった。国の姿勢は問われてしかるべきではないか。
 そもそも、ビキニ水爆をめぐり日米の政治決着があったことを忘れてはならない。
 広島、長崎の原爆投下に続き、第五福竜丸が放射能の「死の灰」を浴びた衝撃は大きい。機関長の久保山愛吉さんが死亡し、国内に原水爆禁止運動が広まるなかで、米国が「見舞金」として日本側に7億2千万円を支払っていた。
 久保山さんの死因を含め、水爆実験による被害調査は、米国への配慮から不十分だったと言われる。
 当時、周辺海域に千隻以上の漁船がいたと見られるのに、第五福竜丸を除いて船員らの追跡調査はなく、隠された存在のようになった。国の責任は重い。
 一審の判決が出たからといって、これで決着ではない。水爆実験による被害の全容は今も分かっていない。国は歴史の真実に向き合うべく、調査し直すべきではないだろうか。

[京都新聞 2018年07月21日掲載]



被災地の鉄道 住民の足どう守るのか

 西日本豪雨の被災地の多くで、鉄道の復旧が進んでいない。
 国土交通省によると、全国で最大115路線が運転を休止した。その後復旧した路線もあるが、被害が甚大だった広島県などを中心に21路線が未復旧だ。
 中には運転再開まで1年以上かかる見通しの路線もある。
 生活再建に被災者の「足の確保」は欠かせない。JRなどの事業者は、早期復旧に努めてほしい。
 このうち芸備線、福塩線、木次線は全線復旧に1年以上、呉線の一部区間も来年以降となる。大動脈の山陽線は11月の見通しだ。
 京都では、線路の土台が流失した京都丹後鉄道の宮舞線(宮津-西舞鶴間)が動いていない。
 運休に伴い、夏休みを繰り上げた高校や、社員を自宅勤務にした企業もある。元の生活に戻るのには時間がかかりそうだ。
 鉄道復旧には多額の費用がかかるが、採算面で厳しい路線も少なくない。住民の足を守りながら、持続可能な交通の在り方を探る動きが出てくることも予想される。
 今回、寸断された鉄道網の代替輸送手段として新幹線やフェリーが注目を浴びている。特に通常の100倍近い5千人超が押しかけている広島-呉航路のフェリーは朝夕に増便までする特需ぶりだ。
 思いがけず存在感を発揮した形だが、旅客船業界は燃料高や船員の高齢化で経営は楽ではない。今後も災害時に代替手段であり続けられるかどうかは疑問だ。
 非常時の代替交通の確保策は普段から検討しておく必要がある。維持すべき交通機関を想定するなら平時の利用支援などコスト面も含め、地域の交通に組み込む議論を進めなければならない。
 復旧の遅れが、被災者の鉄道離れを加速させないかも気になる。車利用などにシフトする人が増えれば、ますます採算悪化を招き復旧の必要性を薄れさせる。
 過去には台風で被災したローカル線が廃線に追い込まれている。一昨年の熊本地震や昨年の九州北部豪雨でも、被災した鉄道の一部が今も再開していない。
 北海道では、JRが「単独では維持困難」とした路線が台風被害で不通になったまま、存続が見通せなくなっている。
 鉄道という形で維持することが必要かも含め、地域の実情に即した交通の在り方を遅滞なく議論することが重要だ。
 自然災害による長期間の運休が、路線切り捨ての大義名分にされるようでは困る。

[京都新聞 2018年07月20日掲載]


米ロ会談 トランプ外交に危うさ

 トランプ米大統領とロシアのプーチン大統領が、フィンランドのヘルシンキで会談した。独立した機会を設けた両者の公式会談は初めてである。
 会談後の共同記者会見で両首脳は2021年に期限を迎える米ロ間の新戦略兵器削減条約(新START)を含めた核軍縮で連携する考えを示した。
 14年のロシアによるクリミア半島の強制編入をきっかけに、両国の関係は冷え込んでいる。
 外交官を追放し合い、「新冷戦」と呼ばれるほど険悪化した核大国の関係に、修復の機運が出てきたことは歓迎できる。
 だが雰囲気が演出される一方で、会談自体に成果は乏しかった。新STARTも具体的な合意に至ったわけではない。
 逆に一昨年の米大統領選を巡るロシア介入疑惑についてトランプ氏が深く追及しなかったことに、米国内では与野党問わず反発が高まっている。
 介入があったとする自国の情報機関の結論より、「証拠はない」と否定するプーチン氏の立場に同調する考えを示した。
 民主党陣営にハッキングしたとして米連邦大陪審がロシア情報機関の当時の当局者ら12人を起訴したばかりである。他国の主権に介入するという重大な問題に、なぜ踏み込まないのか。
 その後、情報機関の結論を受け入れると釈明したが、ロシアが依然米国を標的としているかとの質問には「ノー」と述べた。混乱は収まりそうにない。
 「ロシアびいき」は今に始まったことではない。不動産王として知られていたトランプ氏は07年のインタビューでプーチン氏を「素晴らしい仕事をしている」と絶賛している。何か背景があるのか、米国民ならずとも気になる。
 トランプ氏は会談に先立ち、北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議に出席した。そこで、欧州諸国に国防費増額を要求した。
 巨額の貿易赤字から欧州への批判を強めているトランプ氏である。ロシア接近は、欧州をけん制する狙いもあるのではないか。
 だが、同盟国との信頼関係を損なうことになる。本来なら国際情勢に緊張緩和をもたらすはずの米ロの関係改善だが、通商上の利益を最優先するようなやり方は危険と言わざるをえない。
 トランプ氏にはロシア介入疑惑にきちんと向き合うとともに、米大統領として国際秩序を守る責務を自覚してほしい。

[京都新聞 2018年07月20日掲載]



日欧EPA署名 国内農業対策は万全か

 日本と欧州連合(EU)が経済連携協定(EPA)に署名した。
 双方の議会での承認手続きを経て来年3月までの発効をめざす。世界の国内総生産(GDP)の3割、貿易総額の4割を占める世界最大級の自由貿易圏が動きだすことになる。
 発効すれば、最終的に日本側は全品目の94%、EU側は99%の関税を撤廃し、日本の消費者にとっては、EUから輸入するワインやチーズ、豚肉などが安くなるメリットがあり、自動車など工業製品の輸出にも追い風になる。
 半面、懸念されるのは酪農や畜産など国内農業への影響だ。農林水産分野の8割ほどの品目で輸入関税が撤廃される結果、乳製品や牛豚肉などが打撃を受ける可能性がある。食の基盤を衰退させないよう、政府には万全の対策を講じてもらいたい。
 日本が発効を急ぐのは、多国間の自由貿易の枠組みを重視する姿勢を鮮明にし、保護主義的な動きを強める米トランプ政権をけん制したいからだ。特に今月下旬からは米国との2国間貿易協議が始まり、EPAを防波堤に交渉を有利に運びたいとの思惑がある。
 EPAのほかにも、米国が抜けた11カ国の環太平洋連携協定(TPP11)も年内発効を目指しており、その先には東南アジア諸国連合(ASEAN)など16カ国の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)も見据える。
 政府は、EPAとTPPが発効すれば、実質GDPが年約13兆円増え、75万人の雇用を生むと試算する。安倍政権にとっては、アベノミクスの成長戦略が決め手を欠くなか、経済外交で成果を得る好機とも映っているのだろう。
 一方で、安い海外産品の流入に伴う農林水産物の国内生産額の減少は小幅と推計し、2協定の単純合算で年間最大2600億円とはじく。
 農業への影響を限定的とみるのは、価格が下落しても政府が講じるコスト抑制などの支援策で農家の生産量や所得が維持できるからだという。だが専門家からは想定は現実味を欠くとの批判が出ている。
 こうした懸念について、政府が十分な説明をしてきたとは言い難い。近年は、自由貿易の議論の中で農業の競争力の強化が中心になり、農業の多面的機能や食料安全保障の視点が隅に追いやられがちなのも気掛かりだ。
 自由貿易と農業をどう両立させるか。そのビジョンが不確かでは農業現場の不安は消えない。

[京都新聞 2018年07月19日掲載]


災害ごみ増大 広域的な支援が必要だ

 西日本豪雨の被災地で、増え続ける災害ごみが住民や自治体を悩ませている。処理作業に手間取れば復旧の足かせとなりかねない。国は対応を強化すべきだ。
 岡山県倉敷市では浸水した家屋や店舗から運ばれた畳や家具、家電製品などが道路脇に山積みになっている。自衛隊や市による撤去も始まったが、分量が膨大なため簡単に片付きそうにない。
 各地の仮置き場も処理が追い付かず放置が深刻化している。まだ廃棄物の総量や処分方法を見通せない自治体もある。庁内態勢を整え、対策検討を急いでほしい。
 水害で発生するごみは水分を多く含むため腐敗しやすく、悪臭や汚水を伴う。豪雨から2週間近くたち、連日の猛暑で衛生環境の悪化が懸念される。生ごみから早期に処理するなど、収集・処理作業の優先順位付けや分別の徹底に努め、撤去に全力を挙げるべきだ。
 廃棄物は災害のたびに処理が問題となる。東日本大震災では約2千万トン発生し、原発事故のあった福島県の一部を除き処理に3年かかった。熊本地震では約300万トンが出て処理に2年を費やした。
 今回のごみの量は近年の豪雨災害では最大規模の数十万~100万トン近くになる見通しで、山から集落や道路に出た大量の土砂と岩石、流木の処分も課題だ。
 土地の特性に応じた対処が必要だ。広域連携による処理など迅速かつ実効性ある方策を考えたい。
 環境省は、災害時に想定されるごみの発生量と処理可能量、仮置き場の候補地を盛り込んだ処理計画の策定を全国の市区町村に求めている。
 だが昨年3月時点で処理計画を作っていた自治体は24%にとどまる。今回の豪雨被災地でも自治体が計画を作っていないため、ごみ処理を巡り初動対応が遅れた事例があった。マンパワーの問題もあり、基礎自治体だけで計画を策定するのは容易ではない。災害対応経験のある人材派遣など国や都道府県も後押しすべきではないか。
 安倍晋三首相は、災害ごみの処理について被災自治体への財政支援を行う方針を表明している。回収や処理が追い付かない自治体に対しては政府が中心となり、広域的な支援を広げてほしい。
 周辺自治体による分散処理の態勢づくりも急務だ。そのためには専門家や民間団体の協力が欠かせない。被災者の生活再建を進めるためにも、官民挙げて災害ごみの早期処理へ知恵を出し、さまざまな工夫を凝らしたい。

[京都新聞 2018年07月19日掲載]



原子力協定延長 政策見直す好機とせよ

 日本の原子力政策が、一段と難しい局面にさしかかった。
 原発の使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、再利用することなどを日本に認めた日米原子力協定が延長された。
 国策の核燃料サイクルを継続することが可能なようにみえる。だが、今後は一方の通告で協定を終了できるようになった。
 米国は朝鮮半島の非核化をにらみ、日本が持つプルトニウムの削減を求めている。米国の意向次第で協定が破棄され、再処理ができなくなる不透明な状態になった。
 そうでなくても、プルトニウムを再利用するはずの高速増殖炉もんじゅの廃炉が決まり、通常の原発で燃やす「プルサーマル発電」も原発の再稼働が進んでいない。
 プルトニウムの消費にめどが立たないまま、米国の削減要請に応えることは果たして可能なのか。
 日本が保有するプルトニウムは約47トンあり、核兵器6千発分に相当する。2021年度の完成を目指す青森県六ケ所村の再処理工場が稼働すれば年間最大8トンが取り出され、保有量はさらに増える。
 米国のプルトニウム削減要請は再処理工場の稼働制限を迫っているようにもみえる。これではプルトニウムの抽出は減っても、使用済み核燃料の処理は進まない。
 各地の原発では、使用済み核燃料を保管するプールの容量が逼迫(ひっぱく)し、7割以上が埋まっている。
 政府は同県むつ市にある中間貯蔵施設を一時保管場所として活用したい考えとされるが、再処理工場はこれまでに20回以上も完成延期を繰り返している。工場が稼働しなければ、中間貯蔵施設が最終処分場になってしまいかねない。
 こうした現状にもかかわらず、政府の方針は腰が定まらない。
 先ごろ閣議決定したエネルギー基本計画では、引き続き核燃料サイクル政策を進めるとし、プルトニウムに関しては「保有量の削減に取り組む」と初めて明記した。
 国の原子力委員会も近くまとめる指針案で、プルサーマルに必要な量のみに限定して製造することなどを示すという。
 ともに米国の意向に配慮したことは明らかだが、どこまで実効性があるのかは疑問だ。
 協定が延長され、従来と性格が変わる今こそ、原子力政策を抜本的に見直す好機ではないか。
 まずは事実上破綻している核燃料サイクルから撤退する。そのうえで、余剰プルトニウムを減らす方法を具体的に考えなくてはならない。

[京都新聞 2018年07月18日掲載]


NHKとネット 事業の肥大化だけでは

 公共放送とは何か。役割や定義を改めて見直す議論が必要だ。
 NHKがテレビ番組を放送と同時にインターネットで配信することを総務省が容認する。同省の有識者会議が常時・同時配信を「妥当」とする報告書案をまとめた。
 NHKは2019年度中の配信開始を目指している。しかし、有識者会議は、業務や受信料の抜本的な見直しなどが必要、と条件を示している。
 テレビの同時配信は、放送のあり方を大きく変える可能性がある。NHKはまず有識者会議の示した条件を十分にクリアする必要がある。拙速は許されない。
 NHKがネットの常時・同時配信を目指す背景には、若い世代を中心にしたテレビ離れがある。ネットの大容量・高速化に伴い、動画視聴の主役はテレビからスマホなどに急速に移行しているためだ。
 大阪府北部地震の臨時ニュースやサッカーW杯ロシア大会の生中継が試験的に同時配信され、多くの人が視聴した。配信する体制もニーズもある、ということだ。
 一方で、NHKはすでにテレビ4チャンネル、ラジオ3チャンネルを持ち、12月からは高精細の「4K」「8K」を使う衛星放送2チャンネルも始める。ネットでは放送済みの番組の有料配信も展開している。この上さらに同時配信に進出となれば、業務の肥大化は明らかである。
 英国のBBCはテレビのチャンネルを減らした。NHKもネット配信の前に、業務と組織の見直しが必要だ。チャンネル数の削減も視野に入れる必要がある。
 受信料制度で成り立つNHKには、何より信頼性が求められる。分単位の視聴率を気にする必要はないのに、民放のようなバラエティーや娯楽番組が必要だろうか。NHKにしかできない番組作りや、災害時の適切な情報発信にこれまで以上に注力すべきではないか。
 ネット配信の受信料も課題だ。NHKは当面、配信をテレビの受信契約者に限り、追加負担は求めない方針だが、それでは本来の狙いであるスマホ層は捕捉できない。ネットでも受信機を持つ人が負担するのが筋だが、現実的な徴収方法をどうするのか。
 NHKは公共放送から公共メディアへの脱皮を目指すというが、その意味ははっきりしない。潤沢で安定した収入を背景に、民放を圧迫することではないだろう。十分な説明が必要だ。

[京都新聞 2018年07月18日掲載]



熱中症 危険認識し身を守ろう

 猛烈な暑さが続いている。熱中症で多くの人が病院に搬送され、亡くなる人も出ている。
 近年、熱中症による夏期の救急搬送者数は全国で5万人前後という高水準で推移している。梅雨明け直後のこの時期が、最も発症しやすい。暑さに体が慣れていないためだ。
 14日からの3連休も、35度以上の猛暑日になる地域が相次いだ。救急搬送された人は15日だけで2千人を超えた。米原市で女性、大津市で男性が死亡した。
 厳しい暑さは今週も続くとみられる。今や「災害」とも言われる熱中症である。危険性を十分認識し、台風と同じように気象情報に注意を払う必要がある。水分補給などで身を守りたい。
 熱中症は高温多湿の場所に長時間いることで、体内の水分や塩分のバランスが崩れ、体温の調節機能が低下して発症する。
 めまいや頭痛、手足のしびれ、吐き気などが起き、重症化すれば生命を脅かすことになる。
 とくに注意したいのが「高熱弱者」とされる子どもや高齢者だ。一昨年の救急搬送者のうち、65歳以上は50%を占め、7歳以上18歳未満は13%、生後28日から7歳未満も1%いたという。
 子どもは背が低く地面に近い分、暑さの影響を受けやすいとされる。14歳ぐらいまでは汗を出すなどの体温調整機能も未熟だ。
 高齢者が部屋で熱中症になるケースも多い。食事の量が少ない分、水分やミネラルが不足しがちだ。家族をはじめ周囲の人ができるだけ目配りをしてほしい。
 環境省は熱中症の起こりやすさを示す「暑さ指数」の情報サイトを設け、日常生活や運動についてアドバイスしている。例えば指数が31度以上では運動は「原則中止」としている。
 中高生はクラブ活動中の発症に注意が要る。ところが大津市の中学校で、顧問から校舎周囲を80周走るよう指示された生徒が熱中症で倒れる事案があった。
 もってのほかのことである。部活動の在り方を改めて見直し、再発防止を肝に銘じてほしい。
 今年はとくに西日本豪雨の被災地が心配される。断水も続いており、多くの被災者は過酷な状態に置かれている。
 「何とか支援を」と炎天下でもボランティア活動や復旧作業が続いている。頭が下がるが、くれぐれも無理はしないよう注意してほしい。予防を呼び掛け合って酷暑を乗り切りたい。

[京都新聞 2018年07月17日掲載]


西脇知事初予算 府民との協働が重要だ

 京都府の西脇隆俊知事が初めて編成した総額182億円の本年度一般会計補正予算が、府議会の6月定例会で成立した。
 西脇知事が4月の知事選で掲げた「将来に希望の持てる新しい京都づくり」に向け、選挙公約を色濃く反映した内容となった。補正後の予算規模は、教職員給与費など制度改正の影響を除く実質で前年度当初比1・6%増となった。
 子育て支援や観光振興などに重点配分した上で、防災や医療・介護など目先の課題にも配慮した。元官僚らしい手堅さが感じられる。閉会日には西日本豪雨の被害対策として106億円の追加補正案も提案し、被災から1週間でのスピード可決につなげた。
 子育て支援に力を入れた背景には、選挙を通して実感したという府の人口減少への強い危機感があるようだ。府の2017年の合計特殊出生率は0・03ポイント低下の1・31と2年続けて前年を下回り、都道府県では44番目にとどまる。
 予算には、周産期医療の拡充や小児科医と保育士の確保、育児と介護を同時に担う「ダブルケア」の支援といった幅広いメニューを盛り込んだ。北部地域では小児科医が少ない。府民が安心して子どもを産み、育てることができる環境づくりは府の発展に不可欠だ。知事就任後から強い意欲を示してきた子ども医療費助成の拡充についても、京都市をはじめとする府内市町村との議論を急ぐべきだ。
 ただ、人口減少対策に即効薬はない。6月下旬に庁内で立ち上げた「子育て環境日本一推進本部」を軸に、広い視野で息の長い取り組みを進めてほしい。
 国土交通省出身の知事とあって、公共工事の予算配分も注目された。補正予算では防災・減災に流域下水道事業特別会計分を含めて40億円を計上し、西日本豪雨でも氾濫危険水位を超えた桂川や鴨川などの整備、原子力災害時の避難路となる主要道の改良などに充てた。新名神高速道路のアクセス道路や貯水施設いろは呑龍トンネルなどの整備費負担が重く、特別会計を含む補正後の公共事業費は566億円まで膨らみ、前年度当初を3%上回った。
 西脇知事が公共工事の前提として挙げた必要性、緊急性、ストック(資産)効果について十分な事後検証を求めたい。予算化した施策については、6月の人事・機構改編を生かして部局間連携を深めるとともに、市町村や企業、大学、NPOなどとの協働体制を整え、実効性を高めねばならない。


[京都新聞 2018年07月17日掲載]



初の司法取引 想定と正反対の構図だ

 組織ぐるみの犯罪を解明する制度ではなかったのか。
 6月に導入された司法取引が、外国公務員への贈賄疑惑事件に初めて適用された。
 タイの発電所建設事業を巡り、大手電機メーカー「三菱日立パワーシステムズ」(MHPS)の社員がタイの公務員に賄賂を渡した疑いがあり、MHPSが東京地検の捜査に協力することで合意した。特捜部は不正競争防止法違反の疑いで社員のみを立件し、法人の起訴を見送る方針という。
 司法取引は、容疑者や被告が共犯者の犯罪を明らかにする見返りに、検察官が起訴を見送ったり、軽い罪で起訴する制度だ。
 取り調べの録音・録画の義務付けに伴い導入された。供述を得にくくなるとの懸念が捜査当局から出たためだ。薬物や銃器関連、詐欺や贈収賄事件、企業の不正事件などが対象になっている。
 「社長に帳簿改ざんを指示されていた」「組長に犯罪行為を指示された」。当初、想定していたのは、こうした組織犯罪だった。だが初の適用例は正反対の構図で、企業が社員を告発する形となった。トカゲのしっぽ切りにならないか。
 MHPSは内部告発で不正を把握して特捜部に情報を提供し、司法取引を持ちかけたとされる。
 海外公務員への贈賄罪で有罪が確定すると、法人は3億円以下という高額の罰金を科される。国際金融機関から融資などを受けられなくなる可能性もある。海外で事業展開する企業にとっては深刻なダメージだ。MHPSは企業防衛の観点から、何としてもその事態を避けたかったとみられる。
 ただ、タイの公務員に渡った賄賂は数千万円と高額だ。社員の一存で用意できる金額だろうか。司法取引が成立しているため、特捜部は会社の関与を立件しないが、それで事件の全容が解明できるのか。違和感が拭えない。
 司法取引の協議や合意には容疑者らの弁護士が関与、同意することになっているが、弁護士は共犯者の利益を守る立場ではない。今回の事件の場合、社員が不当な扱いを受けないか、注視する必要がある。
 新興国での大型事業が増える中、日本企業が国際的な信用を保つために司法取引を積極的に利用するのは、新制度の望ましい効用ではあろう。一方、企業の責任逃れに使われるばかりなら、制度への不信が募るのではないか。検察には適正な運用を求めたい。

[京都新聞 2018年07月16日掲載]


海の日 悲しい水難事故なくせ

 きょうは「海の日」。夏休みを迎え、レジャーで海に行く機会が増えるこの時期に、自然に潜む危険を知り、安全最優先で行動することの大切さを再認識したい。
 警察庁のまとめによると、2017年に全国の海や河川、湖沼、プールなどで発生した水難事故は1341件(前年比164件減)で、水難者は1614人(128人減)。このうち死者・行方不明者は679人(137人減)だった。いったん発生すると、命にかかわる重大な事故になる可能性が高いのが水難の特徴といえる。
 都道府県別の件数は沖縄県が81件と最多で、北海道73件、新潟県57件と続く。京都府は16件で滋賀県は30件。死者・行方不明者はそれぞれ7人と14人だった。全国の死者・行方不明者を場所別でみると、海が56・6%を占めた。
 こうした悲しい事故をなくすためにまず重要なのは、危険な場所に近づかないという大原則だ。
 海には急な深みや激しい流れに加え、海藻が遊泳者に絡みつくなどの危険もある。「危険」「遊泳禁止」といった掲示や標識がある場所で泳いではならない。
 岸に近いところでも、沖に向かって速く流れる「離岸流」には特に注意がいる。もし入り込んでしまった場合は、流れに逆らわず岸と平行に泳ぎ、抜け出してから岸に向かうようにしたい。
 健康状態にも気をつけてほしい。体調不良や睡眠不足は事故につながる恐れが高まる。酒を飲んで水難事故にあうと死亡率は約2倍になるとされ、飲酒しての遊泳は避けるべきだ。入念な準備運動も欠かせない。
 溺れている人を見つけた場合は、すぐに海に入って助けようとするのではなく、大声を出して周囲の人に知らせるとともに、救助機関に速やかに通報することが重要だ。
 幼児や泳げない子どもが水遊びをする際は、必ず大人が付き添い、目を離さないようにしなければならない。混雑する海水浴場では、子どもが見失った保護者を捜して一人で海に入り、溺れるケースもあるという。
 今年2月には海中転落による死亡・行方不明事故を防ぐため、プレジャーボートなどすべての小型船舶の乗船者についてライフジャケットの着用が原則として義務化された。生存率は着用によって2倍に高まるという。救助を求めるために携帯電話を防水パックに入れて携行することと合わせ、新ルールをしっかり守りたい。

[京都新聞 2018年07月16日掲載]



概算要求基準 一定の歯止め設けるべき

 2019年度の政府予算が、当初の段階で100兆円を超えてしまい、過去最大の規模となる可能性が高まっている。
 政府が先週、閣議了解した概算要求基準に、有効な抑制策が見当たらないからだ。
 野放図な予算編成を続ければ、財政再建は遠のき、国の将来に不安が募る。今後強まる歳出圧力に分別のある対応が求められよう。
 概算要求基準は、次年度の政府予算編成に向けて、ルールを示すものである。これに沿って、各省庁は8月末に概算要求を行う。財務省との折衝を経て、12月には政府予算案が示される運びとなる。
 来年度は、何といっても、10月に予定される消費税率の10%への引き上げに、備えなければならない。
 概算要求基準では、安倍晋三政権の成長戦略に手厚く配分することを狙って、より巨額な特別枠を設ける。
 削った経費の3倍まで計上できるとの誘因をつけて、成長戦略となる生産性の向上や人材育成といった分野の事業に予算を集中させる。
 特別枠の要求額は、本年度を約6千億円上回り、4兆4千億円を超える見込みだという。
 また、これとは別に景気対策費の上積みも検討する。
 例年なら補正予算で対応するところだが、税率引き上げに伴う駆け込み需要と反動減を平準化するため、10月をにらんで当初予算に盛り込む方針だ。
 14年に消費税率が5%から8%になった際の約5兆5千億円を念頭に要求すべき、との声が与党にある。
 税率引き上げに、消費マインドをなえさせない景気対策が必要なのはいうまでもないが、予算額が大きければ効果があるとは限らない。冷静な判断も欠かせないはずだ。
 年金や医療などの社会保障費については、本年度予算から6千億円を増額する要求を認めてしまった。
 次期の中期防衛力整備計画を反映する防衛費、西日本豪雨を受けた治水対策、自治体に配る地方交付税などにも、増額を求める要因がある。
 来年は、統一地方選と参院選が予定されている。歳出圧力が強まる一方ではないか。
 概算要求の総額が5年連続、100兆円を超えるのは確実で、本年度当初予算が約97兆7千億円だったことを考慮すれば、来年度の100兆円超えは避けられそうもない。
 今回の概算要求基準でも、歳出に上限が設けられなかった。6年連続で、いわば「青天井」の要求が通る状況だ。
 本年度までは、社会保障費の自然増を年5千億円以内に抑えるとの目標があったが、来年度は設定されていない。
 やはり、何事にも一定の限度、歯止めというものを、用意しておかなければならない。
 国と地方の借金は、1千兆円を超えている。25年には団塊の世代が75歳以上となり、社会保障費の急増が予想される。場当たり的に、消費増税さえ乗り切ればよいのではない。
 国の持続可能性についても、目配りしてもらいたい。

[京都新聞 2018年07月15日掲載]



被災地支援 生活再建の知恵絞ろう

 西日本の広い範囲に大雨特別警報が出されて1週間が過ぎた。
 河川の氾濫や土砂崩れの被害を受けた地域では、道路など生活インフラの復旧作業が始まっている。60人を超える行方不明者の捜索活動も続いている。
 一方で、これから進捗(しんちょく)に差が生まれかねないのが、浸水被害を受けた住宅の後片付けや清掃など、個々の被災者の生活再建だ。被災地には高齢者だけの世帯が多い。自宅に流れ込んだ大量の土砂を前に途方に暮れている人もいる。被災弱者をきめ細かく支援することが必要だ。
 今週末からの連休で、ボランティアとして被災地で活動する人も多いのではないか。京都市のボランティア団体は福知山市内で被害を受けた家の清掃などに取り組む予定だ。
 ただ、被災地に向かう道路は各所で寸断されている。求められる活動もさまざまだ。現地で混乱せず適切な活動をするために、被災自治体が提供するボランティア募集情報を確認してほしい。
 被災地も猛暑が予想されている。乾いた泥やほこりを吸い込まないためのマスクやゴーグルはもちろん、肌を露出しない服装で身を守って行動したい。スコップなどの資機材や食料、水の持参は不可欠だ。被災地に負担をかけないよう心がけたい。
 被災地を訪れなくとも、ふるさと納税制度を活用して被災自治体を支援する方法がある。
 ふるさと納税を紹介する大手インターネットサイトでは、被災を申し出た自治体に対する返礼品なしの寄付を受け付け、すでに3億円を超える金額が集まっている。
 被災者個人に渡るのは義援金で、ふるさと納税は自治体への寄付になる。どちらも重要だ。自分はどちらを望むのかを考えて選んでほしい。
 避難生活をしている被災者は6千人を超える。京都府内でも約90人が避難している。政府は公営住宅や民間賃貸住宅など約7万1千戸を確保し、順次、入居者の募集を始めるという。
 ただ、確保した住宅が全て被災者の望む場所にあるとは限らない。多くの被災者は地元で暮らしながら生活再建を目指すはずだ。
 広範囲で冠水した岡山県倉敷市真備町などでは町内に仮設住宅建設を望む声が出ているという。
 今回の災害の規模は大きく、復旧・復興作業の長期化は避けられない。国や自治体は被災者の声にしっかり耳を傾ける必要がある。

[京都新聞 2018年07月14日掲載]

 

 


お茶大の改革 「心の性」に門戸開いた

 戸籍上は男性でも自身を女性と認識しているトランスジェンダーの学生を2020年4月から受け入れると、お茶の水女子大が発表した。
 共学の大学と違って女子大は戸籍上の性が壁になり、心と体の性が一致しないトランスジェンダーの人には入学の道が閉ざされていた。今後、「女子」としてきた入試の出願資格を「戸籍または性自認が女子」と改めるという。国内の女子大では初めてだ。
 奈良女子大や津田塾大、日本女子大など複数の女子大でも受け入れを検討しており、女子大が前提としてきた「女性」の意味が問い直されることになる。社会生活や学校生活でさまざまな困難を抱えている性的少数者(LGBT)の権利保障に向けた一歩としたい。
 多様な性を認める取り組みは、04年の性同一性障害特例法施行後、少しずつ進んできた。
 文部科学省は15年、性的少数者の児童生徒に対し望む制服の着用を認めるなど、きめ細かな対応を求める通知を全国の小中高校に出した。これを受け、制服を男女共通のブレザーに変えたり、性別に関係なくズボンとスカートを選べるようにしたりする取り組みが中学校などで広がり始めている。
 日本学術会議も昨秋、性的少数者の権利保障に向けた提言で教育機関の在り方に言及。文科省通知で女性を自認する学校生活を保障されてきた生徒が女子大に進学できなければ、「学ぶ権利」の侵害になると指摘し、大学側は対応を迫られていた。
 受け入れを決めたお茶の水女子大は、今年から施設整備やガイドライン作りを始める。トイレ使用や体育・健康診断への配慮、通称名使用の権利などを通じて本人が安心して学べる環境を整えてもらいたい。
 性的少数者を巡っては、近年、東京都渋谷区など複数の自治体が同性カップルを認定する条例を制定したり、生命保険会社が同性のパートナーを保険金の受取人に指定できるようにしたりと、多様な性を尊重する意識が広がりつつある。
 だが国の対応は遅れており、同性婚を認めず、結婚に準じる「パートナーシップ制度」も先進7カ国で唯一、法制化していない。
 電通が15年に20~59歳の7万人に実施した調査では、13人に1人が性的少数者に該当した。学校だけでなく、家庭、地域、職場など日常生活のあらゆる場面で、多様性や個性が重んじられる社会にしていけるかが問われている。

[京都新聞 2018年07月14日掲載]

 


Russia blames Israel after its jet is downed off Syria

2018-09-19 14:30:35 | 日記
By Noga Tarnopolsky and Nabih Bulos, Los Angeles Times


Getty A undated photo obtained on September 18, 2018 shows a Russian IL-20M (Ilyushin 20m) aircraft landing at an unknown location. - Russia blamed Israel on September 18, 2018 for the loss of a military IL-20M jet to Syrian fire, which killed all 15 servicemen on board, and threatened a response. (Photo by Alexander KOPITAR / AFP) (Photo credit should read ALEXANDER KOPITAR/AFP/Getty Images)


JERUSALEM - Russian officials Tuesday blamed Israel for the downing of a Russian military aircraft near Syria's Mediterranean coast that killed 15 people, even though the plane was shot down by Syrian air defenses.
The aircraft, an Ilyushin Il-20 reconnaissance turboprop, disappeared from radar screens late Monday night as it was approaching Hemeimeem, home to a Russian military base located 13 miles southeast of Latakia. The disappearance occurred around the same time four Israeli F-16 fighters were conducting a missile attack near the Syrian coastal city, said Russian defense ministry spokesman Igor Konashenkov, according to a report by Russian state-news operator TASS.

The Il-20's wreckage was later found in the sea 22 miles southwest of Hemeimeem, said Russia's defense military spokesman Igor Konashenkov on Tuesday. He added it had been shot down by a Syrian anti-aircraft artillery system retaliating against the Israeli strike.
"By using the Russian plane as cover, the Israeli air pilots made it vulnerable to Syrian air defense fire," said Konashenkov, according to TASS.
"As a result, the Ilyushin-20, its reflective surface being far greater than that of the F-16, was downed by a missile launched with the S-200 system."
Konashenkov insisted the Israelis "could not but see the Russian plane, which was approaching the runway from an altitude of (3 miles)."
Israel gave warning on a hotline set up with Russia "less than one minute before the strike," Konashenkov continued, "which left no chance for getting the Russian plane to safety."
"We view these provocative steps by Israel as hostile. Due to the Israeli military's irresponsible actions, 15 Russian servicemen were killed," Konashenkov said.
"This is absolutely against the spirit of the Russian-Israeli partnership. We reserve the right to take adequate tit-for-tat steps."
In an unusual move, the Israeli military acknowledged it had conducted the airstrike on Syrian territory controlled by the government of President Bashar al-Assad.
Israeli army spokesman Brig. Gen. Ronen Manelis issued a statement expressing Israel's "sorrow for the death of the aircrew members of the Russian plane that was downed tonight due to Syrian anti-aircraft fire."
He added that Israeli planes had targeted overnight Syrian army installations "from which systems to manufacture accurate and lethal weapons were about to be transferred on behalf of Iran to Hezbollah in Lebanon."
"These weapons were meant to attack Israel, and posed an intolerable threat against it."
The United States, meanwhile, expressed sorrow for the fatalities. Secretary of State Michael R. Pompeo said in a statement that the "unfortunate incident reminds us of the need to find permanent, peaceful, and political resolutions to the many overlapping conflicts in the region and the danger of tragic miscalculation in Syria's crowded theater of operations."
Pompeo said the incident underscored the need to resolve "Iran's provocative transit of dangerous weapon systems through Syria, which are a threat to the region."
Israel has long accused Iran of using Syria as a conduit to funnel weapons to Hezbollah, the Lebanese Shiite militant group and political faction with whom Israel went to war in 2006.
Russian Defense Minister Sergei Shoigu informed his Israeli counterpart, Defense Minister Avigdor Lieberman, on Tuesday that Moscow held Israel "wholly to blame" for the shootdown.
Israel, for its part, held "the Assad regime, whose military shot down the Russian plane, fully responsible for this incident" adding that it also "holds Iran and the Hezbollah terror organization accountable for this unfortunate incident."

© Staff/TNS/TNS Locator map of Med. Sea, where Russian military plane was shot down.

Russian President Vladimir Putin, speaking in a news conference in Moscow, said the incident looked "like a chain of tragic circumstances," according to a report by the state-run English-news broadcaster Russia Today.
Russia would investigate the incident, Putin said, and boost security for Russian troops in Syria.
"These will be the steps everyone will notice," he said.
Later Tuesday, Israeli Prime Minister Benjamin Netanyahu telephoned Putin.
According to an Israeli readout of their conversation, Netanyahu "expressed Israel's sorrow for the death of the Russian soldiers," laid responsibility for the downing of the plane on Syria, and underscored the importance of continued coordination between the two countries.
Although it insists it has not interfered in the seven-year civil war in Syria, Israel has acknowledged striking hundreds of Iranian-affiliated targets, saying the attacks are aimed at hobbling Iran's impact in the region and preventing its entrenchment in Syria.
A report from the Syrian Observatory for Human Rights, a pro-opposition watchdog based in the U.K., on Monday estimated more than 113 members of Iranian forces and Tehran-backed militias had been killed in Israeli attacks in the last two months.
The state-run Syrian Arab News Agency reported late Monday that an unknown party had launched a missile attack on what it described as the Technical Industries Corporation in Latakia's eastern suburbs.
There was no mention of casualties, but the Syrian Observatory for Human Rights, a pro-opposition watchdog based in the U.K., said the attack, which had targeted the munitions depot, left two Syrian servicemen killed and at least 10 other people injured.
"Our air defenses are dealing with hostile missiles coming from the sea towards Latakia city and intercepting a number of them before they had reached their target," said a Syrian military source to SANA.
The downing of the Russian plane illustrated the difficulties in operating over the crowded battle space Syria's skies have become, an area where pro-government air power, including Syrian and Russian warplanes as well as Iranian drones, contend with aircraft from a U.S.-led coalition along with the occasional Israeli or Turkish incursion.
It has made for a volatile mix: In 2015, Turkish F-16s shot down a Russian Su-24 warplane near the Syrian-Turkish border, killing one of its crew members. That attack spurred a diplomatic row that saw Moscow impose economic sanctions on Ankara.
Fears of similar clashes pushed Moscow and Washington to create what reports have described as a 24-hour "de-confliction" hotline. Russia has set up a similar framework with Israel and Turkey.
Israel claimed that the system "was in use" early Tuesday, and that its fighter jets were "already within Israeli airspace" when the Syrian projectile was launched.
"The Syrian anti-air batteries fired indiscriminately and from what we understand, did not bother to ensure that no Russian planes were in the air," Manelis' statement said.
Monday's downing also hinted at the complicated relationship Russia has with al-Assad and Iran.
Although Russia works with both of them in the fight against rebels in the country, and despite possessing advanced radar and missile systems to detect and stop most attacks, it has nevertheless tolerated coalition and Israeli strikes on Syrian and Iranian assets - often without informing its putative allies.
That hot-and-cold attitude was on display Monday, when Russia and Turkey announced a demilitarized zone in Idlib, the northwestern Syrian province that has become the last redoubt of the rebels.
The agreement derails the Syrian government's plans to launch an assault on Idlib; in recent weeks, government troops and their allies have positioned themselves around the rebel-held province, according to state media, with officials insisting an operation was imminent.
Speaking after a meeting with Turkish President Recep Tayyip Erdogan in the Russian resort city of Sochi, Putin said the two countries would jointly enforce a 9- to 12-mile-wide demilitarized zone.
Later, Russia's defense minister said there would be no offensive on Idlib.
Turkey would oversee the withdrawal of the opposition's heavy weapons, tanks, missile launchers, artillery and mortars by Oct. 10, said Putin. Hard-line militants, including 10,000-15,000 al-Qaida affiliated jihadis thought to be in Idlib, are also to withdraw.
Control in the demilitarized zone would fall to Turkish units and Russian military police, and transportation traffic would resume on major highways in the area.
"In general, the Syrian leadership supports this approach," said Putin.
Syria's foreign ministry insisted in a statement Tuesday that the agreement had come as a result of "intense consultations" between the Russian and Syrian government and "with full coordination between the two nations."
But it gave a lukewarm reception to the deal, saying in a statement quoted by SANA that although it welcomed "any initiative to avert the spilling of Syrian blood" it nevertheless insisted it would continue "in its war against terrorism until it liberates every last inch of Syrian territories, whether through military operations or local reconciliation (deals.)"
___
(Special correspondent Tarnopolsky reported from Jerusalem and staff writer Bulos from Beirut. Staff writer Tracy Wilkinson in Washington contributed to this report.)

オウム“村井事件”の実行犯が激白 「僕が村井を刺した本当の理由」

2018-07-13 22:07:35 | 日記
森下香枝2018.7.6 18:05週刊朝日#オウム真理教


 6日、オウム真理教元代表の松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚ら7人の教団元幹部の死刑が執行された。一連のオウム真理教事件のひとつで、幹部だった村井秀夫が刺殺された「村井事件」は、多くの謎が残った。その場で逮捕された徐裕行・元服役囚(48)は12年の懲役刑を終え、2007年に満期出所した。最後の特別手配犯3人の逃亡生活にピリオドが打たれた年に発売された『週刊朝日 緊急臨時増刊「オウム全記録」』では、彼にインタビューを敢行。「残された謎の数々」に迫ったインタビューを掲載する。

【写真】多くを語った「村井事件」実行犯・徐裕行の素顔はこちら

*  *  *
──共犯として暴力団幹部が後に逮捕され、裁判では無罪になった。だが、謎がたくさん残されている。

「この事件はもう判決が出て終わっている。今もお話しできないこともある。だが、なぜ、僕が事件を起こしたか。それは、最終的には『個人の憤り』です。あの当時、社会全体がオウムに対し、憤りがあったし、僕も『とんでもない連中だ』と強い義憤を感じていた。いろんな要因はあったにせよ、殺害しようと決断したのは僕です。一番の動機をあえていえば、地下鉄サリン事件の映像を見た衝撃で義憤にかられたことです」

──サリン製造の統括責任者だった村井幹部の殺害は「麻原による口封じ」という説が根強く残っている。

「僕は最初から村井を狙っていたわけじゃない。上祐(史浩)、弁護士のA・Yの3人なら誰でもよかった、と当時から一貫して話していた。口封じ説が今も疑われているのは知っているが、村井を人前で殺害した僕がなぜ、わざわざ3人を狙っていたと言う必要があるのか。それで背後にある陰謀を隠すことができますか。できないでしょう。3人を狙おうが、最初から村井を狙おうが、僕にとっては意味がない」

──しかし、結果的に村井幹部の死で、化学兵器、武器などの密輸ルートなどが解明されずに終わった。

「オウムはこれまで教団にとって都合が悪くなった人間を、自分たちで『ポア』してきた。なぜ、村井の時だけ外部の僕にわざわざ頼むのか。教団内部で殺害し、どこか山奥に遺体を隠し、行方不明と言えば、当面は発覚しなかったでしょう。公衆の面前で殺したら疑われるだけ。口封じ説は理屈に合わない」

──当時、あなたに借金があり、それを帳消しにするために、暴力団にヒットマンとして雇われたという見方もありました。

「僕は事件の2年前、経営していたイベント会社を倒産させ、借金は1千万円以上ありました。倒産後、半年ぐらいは、取引先、銀行などから金を返せと催促の電話がありましたが、事件当時はほとんどなく、追われるような状況じゃなかった。警察は僕の収支を徹底的に洗いましたが、代償に借金を払ってもらった形跡も、大金をもらった形跡もなかったはずです」

──当時、オウムとの接点は何もなかったのか。

「取り調べの時、オウム幹部の写真をたくさん見せられた。テレビで見た人は知っていたが、それ以外は全然わからなかった。『誰をどう知っている』ということは証明できるが、『接点がないことを証明しろ』と言われるのが、一番難しい。当時は僕が韓国籍なので、オウムと闇で接点があったとも言われましたが、『ありません』と言うしかなかった。A・Y、上祐、村井のいずれも当日、初めて会いました」

──犯行当日の様子を聞かせてほしい。

「本部ビルに午前11時過ぎに着いたが、教団幹部たちの動向は知らなかったので、最初はウロウロしていた。報道陣は十数人ぐらいでした。するとビルの前に車が横付けされ、誰かが『A・Yだ』と叫んだ。え、と思って見たら、僕は入り口と反対方向にいた。追いかけようとしたときには、彼はもう足早にビルの中に入ってしまった。凶器はカバンの中に入れていたが、出すこともできなかった。出入り口はわかったが、怪しまれるので、ずっと立っているわけにはいかず、距離を保ちつつ、付近の様子を見ていた。次に上祐の車が来たが、すぐ報道陣に二重、三重に囲まれていた。A・Yの時よりは近寄れたが、群がる報道陣を引き離すわけにもいかず、物理的に(殺害は)不可能だった」

──村井幹部の時はなぜ、実行できたのか。

「夜になると、教団側が生放送でインタビューを受けるのか、テレビ局の中継車が続々と東京総本部前の路上に横付けされた。報道陣ややじ馬ら数百人で現場はごった返していた。そのため、村井が乗った車は入り口にたどりつけず、途中で車を降りて歩き出したようだった。テレビのスポットライトが四方八方から村井の姿を照らし出し、その光がこちらへどんどん近づいてきたので、位置がわかり、近寄れた。村井の顔が見えるか、見えないか、という状況で視線は合わなかったが、洋服を見て、すぐに村井本人だとわかった」

──衝撃的な殺害の瞬間は多くのテレビカメラがとらえていた。中でもTBSのカメラは犯行前から執拗にあなたを撮影していて、事前に計画を知っていたのでは、という疑惑を呼んだ。

「その疑惑はありません。途中からカメラが僕を撮っているのはわかっていた。僕は報道関係者ではないから、漂わせている空気も違う。それなのに昼間から現場に10時間近くいたから、相当、怪しく見えたのでしょう。ディレクターらしい人がこちらをチラチラ見ながら、カメラマンに撮るように指示していた。カメラが僕のことをずっとマークしているなと思っていましたが、そんなに気にはしませんでした」

──当時、オウム幹部には警官が張り付いていたはずだが。

「刺した後に、私服警官が人をかき分けてやってきて、『誰がやったんだ』と叫んだので、凶器を捨てて『僕です』と名乗り出ました。すると、『覆面パトに乗れ』と言われた。そのまま、赤坂署に連行された」

──殺害に対し、迷いはなかったのか。

「ありましたよ。僕には両親など家族がいましたから、事件によって多大な迷惑をかけることになる。僕から家族の絆を一方的に断ち切るような形になってしまった」

──村井幹部に対し、いまはどう思うか。

「収監された旭川の刑務所の中で、オウムや村井について、いろんなことを考えました。その思いをここで今、整理してお話しすることは難しいですね。刑務所の中にいて、僕は家族の絆というものが、本当にありがたいものだな、と再確認しました。事件を起こし、迷惑をかけた僕を家族は見捨てず、ずっと支えてくれた。オウムはあのような未曽有(みぞう)のテロを起こし、被害者らの命を突然、何の理由もなく、奪った。彼らはそんな家族の大事な絆を理不尽に断ち切ってしまったのです。それが許せなかった、という気持ちは今でも変わりません」

──出所から5年。現在はどう生活しているのか。

「昨年の3・11の大震災の時は居ても立ってもおられず、仲間と一緒に水と援助物資を持って福島へ行きました。今はリサイクル関係の仕事をしながら、北朝鮮拉致被害者救出の署名集めをしています。僕は在日社会が拉致事件でもっと動くべき、というのが持論です」

(編集部・森下香枝)

※週刊朝日 緊急臨時増刊「オウム全記録」(2012年7月15日号)から抜粋





「法廷で空中浮揚」計画も… 麻原彰晃が本気で明かしたかった「私の真実」とは? 元主任弁護士が語る

井原圭子2018.7.6 15:19AERA

 7月6日に死刑執行されたオウム真理教教祖の麻原彰晃死刑囚(63)=本名・松本智津夫=。同死刑囚の主任弁護人を一審の途中まで務めたのが安田好弘弁護士だ。安田氏が獄中で会った教祖は、法廷で空中浮揚をしてみせる計画を立てたり、2003年日米開戦の予言もしていたという。1審判決を前に、安田弁護士が当時の麻原死刑囚について語った記事をAERA2004年3月1日号から再録する。

【『彼』とは三つの面でかかわりを持ったという安田弁護士】

*  *  *
「『どうすれば、私の真実を明らかにできますか』と彼が僕に問うのです。僕は考えたすえ、『法廷でみんなが見ている前で、空中浮揚をやってはどうでしょうか』と言ったんです。法廷でやってみせれば、僕たち弁護人も納得するし、検察官、裁判官は腰を抜かして逃げてくと思うよって。それで、彼は、『やってみます』と言いました。95年の暮れのことでした」

「直接その様子を見ることはできませんでしたが、96年4月の初公判に向けて、警視庁の留置場や東京拘置所の中で、『空中浮揚』のための修行を重ねていたようでした」

 オウム真理教(現在はアーレフと改称)の教祖だった松本智津夫(麻原彰晃)被告。95年5月に逮捕されて以来、東京拘置所にいる彼の勾留生活を伝える情報は、ほとんど公になっていない。

 東京地裁の要請で在京の弁護士会が編成した弁護団の主任弁護人である安田好弘弁護士が沈黙を破り、今回、それをあえて語ったのは、この裁判でいかに異常なことが起きたかを知ってほしかったからだという。

●看守に触られ「失敗」

 坂本弁護士一家殺害事件、松本サリン事件も含め、一連のオウム事件の残忍さ、異常さ、被害の大きさ、そして社会全体を不安に陥れた影響の大きさ。「絶対許せない」という国民感情は当然だろう。ただ、それと、憲法で保障された「公正な裁判の手続き」とは別問題。被告人が無実か否かにかかわらず、弁護人が、その「権利」を守るのは当然の責務で、起きたことの真相を追求し、事件を正確に理解するには、被告人と信頼関係を築かなければならない――「悪ふざけ」と誤解されかねない「空中浮揚」を法廷でできないか真剣に持ちかけたのも、安田氏にとっては、その延長線にあったという。

「でも結局、彼はできませんでした。初公判を前にして、『修行により体内にためたエネルギーが、看守に体を触られて消えてしまう』って言う話でした。彼は、時間も空間もそして重力も人間の力によってコントロールできると本当に思っているようでした」

 弁護団のそうした姿勢が、しかし、「裁判引き延ばし」と批判される風潮になっていたのも事実。その過程で、後で詳しく述べるが、安田氏自身も98年にオウム事件と関係のない強制執行妨害罪で逮捕(一審は無罪)され、結果的に、途中で「被告を放り出さざるを得なくなった」。その「無念さ」もあるという。

「僕は『彼』とは三つの面でかかわりを持ちました。弁護人として、家族や弟子たちとのパイプ役として。そしてまた破防法適用をめぐる教団の今後についても相談に乗りました」

 死刑廃止運動でも知られていた安田氏が松本被告に初めて会ったのは95年秋。場所は警視庁の留置場の接見室で、それは、10月26日に予定されていた初公判が横山昭二弁護人の突然の解任劇で取り消しになった後だった。

 突然、弁護士会に呼び出され、国選弁護人就任を依頼されてから4日後の夕方。安田氏は、それまで「何よりも本人の意向を聞かなければ引き受けられない」と回答を留保していた。

●メロンではなくバナナ

「彼(松本被告)は、開口一番、『あなたをお待ちしていました。あなたの名前は聞いていました』。驚きました。後から知ったことですが、当時、弁護士会と、オウム事件の他の被告人の弁護人サイドが、それぞれ別々に国選弁護団を編成しようと動いており、その双方で僕の名前が挙がっていたんだそうです」

 安田氏は、月5~10回のペースで彼に接見した。

「短いときで1時間。警視庁に勾留されている時は、夕方から翌朝まで続くこともありました。今でもそうですが、裁判所が彼を接見禁止にしているものですから、弁護人以外の人はたとえ家族であっても会うことができません。もちろん、手紙のやりとりもできません。しかし、衣類や食料の差し入れはできます。当時は、教団の差し入れがありました」

「彼が差し入れを希望した食べ物は、確かバター。マーガリンだったかもしれません。肉や穀類は『殺生になるから』だめだという話でした」

「当時、『メロンが好物』などと報道されていましたが、彼は『メロンなんかここ2~3年間食べたことがない。好物はバナナなのに』と笑っていました。でもバナナでは安くてだめなんでしょうね、弟子に粗食を強いて自分だけ贅沢していたという検察側のシナリオの下では」

●接見中に戦争予言

「拘置所や法廷で着る服も教団が差し入れました。Tシャツやトレーナーなど普段着が主でした」

 当時、流行の兆しがあったフリースをいち早く着て、法廷に出たこともあった。

「でも、あの詰め襟のようなサマナ服を着ることは裁判所も拘置所も認めなかった。被告人にふさわしくない、法廷の傍聴人や拘置所の他の収容者を扇動することになるというのでしょう」

 松本被告は90年代初めから、世紀末にハルマゲドン(最終戦争)が起きると予言し、危機感をあおって信者を集めた。獄中でもこんな「予言」をしたという。

「接見中、『2003年に、アメリカが日本や世界に向けて最終の宗教戦争を引き起こす』と言い出したことがありました。自分は時間と空間を超えることができる。2003年の広島に飛んだところ、焼け野原になっていた。通りがかりの人に聞くとアメリカが原爆を落としたと広島弁で話した。これは、予言ではない、現実に行って見聞してきたことだとまじめな顔で言うのです」

 国選弁護団が選任された95年11月当時、オウム真理教は教祖の裁判と並行して、教団の存続問題が大きな焦点となっていた。宗教法人の解散命令に続き、12月には破防法の団体適用の手続きが始まった。団体適用を避けるため、松本被告は安田氏らの助言で、教祖をやめ、教団は解散、殺人を肯定する教義だとされたタントラ・ヴァジラヤーナの教えを封印するという「苦渋の決断」をした。

●「獄中指令」の中身

「そのころ、彼は警察・検察から揺さぶりを受けていました。『容疑を認めれば、教団の解散命令や破防法適用を止めてやる』と取引を持ちかけられ、自白を始めました。『供述を始める』と報道もされた。ところが後で冷静になって考えて、そんなことはあり得ないと思い直し焦って検事に自白の撤回を求めた。でも、そんなことが通るはずもありません。それで、彼はその経過を証拠として残すため、大学ノートに書き記していました」

「ただ、目が見えなかったので書くのに苦労したようです。それで看守がノートを広げてくれて、書く場所を教えてくれたと言っていました。その文面からは、明らかに動揺のあとが見て取れました」

 弁護団も「取引などありえない」と、黙秘をアドバイスした。その後、松本被告は黙秘に転じた。

「目が見えない、と言えばこんなこともありました。警視庁の接見室で彼と会っているとき、突然電気が消えて、真っ暗になったんです。部屋の外も停電しており、完全な暗闇です。その状態が20秒ぐらい続いたでしょうか。彼はその間、何も気づかずに話し続けていました。目が見えないというのは本当なんだと知りましたね」

 破防法適用をめぐる公安調査庁と教団の攻防が激しさを増していた95年暮れから96年。松本被告が弁護人を通じて教団に「獄中指令」で徹底抗戦を命じた、と報道されたことがあった。

「私がやったことは、教団から彼への質問を預かり、接見室で私が読み上げ、彼がちょっと考え、回答する。それを私が一字一句書きとめて持ち帰り、教団側に伝えるということでした。破防法への対応については、抵抗ではなく、破防法にふれないような団体になることを指示したのであって、もしも教団が解散になった後は数人ずつのグループで生活し、1人が月に10万円ずつ稼げば生計がたてられる、と彼は答えていました。ほかに修行の相談、病気や結婚の悩みなど、さまざまでした」

●対決後「ぐちゃぐちゃ」

 弁護人が松本被告と意思疎通ができたのは97年初めごろまでだった。異変が起きたのは、96年9月、松本被告の側近中の側近だった井上嘉浩被告との「師弟対決」だった。

 検察側証人として出廷した井上被告は、地下鉄サリン事件の直前、教団本部に帰るリムジンの車中で、松本被告が故・村井秀夫幹部らにサリンの製造と散布を指示したと証言。この「リムジン謀議」は、教祖の地下鉄サリン事件への関与を決定づける証言だとされた。

 10月18日。弁護団は井上被告の反対尋問をしようとして、松本被告に遮られた。「井上証人は私の弟子、偉大な成就者。このような人に反対尋問すると、尋問する者だけでなく、それを見聞きする者も害を受け、死ぬこともある」として、弁護人の反対尋問をやめさせようとした。

「僕は、懸命に彼を説得しました。反対尋問をしなければ、井上被告の証言がそのまま認められてしまう。弁護人としてそのようなことはできない。とにかく、僕たちと彼とがじっくりと話し合うことが必要。それで、裁判所にその日は裁判を打ち切ることを求めた。しかし、裁判所は認めなかった。それで仕方なく、彼の意思を無視し、反対尋問を続けることにした。

 翌週、他の弁護人が面会に行った。そのときの彼は錯乱しており、顔は、流れ続ける鼻水や涙でぐちょぐちょだったそうです。

 僕は、他に用があってすぐには会いに行けなくて、1週間後、ようやく面会ができた。様子がすっかり変わっていました。いつもの彼の姿はそこにはありませんでした。終始うつむき、僕の言葉が届いているのかどうか、彼の反応はとても心もとないものでした。それからというものは、たまに言葉が通じることがあったが、状態は悪化の一途で、結局、面会さえ拒否されるようになりました。

 彼の不可解な言動についてはいろいろと取りざたされています。詐病説、乖かい離り性人格障害、過去の統合失調症発病による人格崩壊、そして薬物のフラッシュバック。あるいは心理的な閉じこもり、拘禁性の防御反応。本当のところはわからないが、僕には、詐病とは思えない。結局、彼はその後も沈黙し、事件は多くの未解明な部分を残したままです」


【エリート傾倒の一端も 「3.20は日本の9.11」】

 主任弁護人の安田氏が警視庁に逮捕されたのは98年12月。「旧住宅金融債権管理機構の債権回収を逃れるため、顧問をしていた企業の資産隠しを指示した」というもので、オウム事件とは全く無関係の強制執行妨害の容疑だった。

 弁護団を揺さぶったこの事件は、松本被告の裁判がなかなか検察側の主張通りに進まない中で、起きた。安田氏は無実を主張。渡辺脩団長以下、松本被告の弁護団も強く抗議し、土屋公献日弁連会長の呼びかけで1000人以上の大弁護団が結成された。

 拘置は10カ月に及び、東京地裁は安田氏を松本被告の国選弁護人から解任した。その後も私選弁護人として主任弁護人にとどまったものの、弁護活動からは事実上離れている。

 03年12月、東京地裁は安田氏に無罪を言い渡す。判決は「検察官の態度はアンフェア」と捜査を厳しく批判した。東京地検は東京高裁に控訴。2審では有罪となり、11年12月、最高裁決定で50万円の罰金刑が確定している。

 松本被告の裁判は、主任弁護人不在のまま、03年10月に結審した。被告との意思疎通を欠いたままの弁護団は、「弟子たちの暴走」だとして無罪を主張したが、一審で死刑判決が言い渡され、上級審でも覆ることはなかった。

 安田氏によると、接見室で向き合った松本被告はジョークも言うし、相手の心を読んで、話を引き出すような問いかけをする。弁護人の安田氏が仲介していたからかもしれないが、教団や信者からの相談に対する答えも、決して威圧的でも断定的でもなかったという。

 こんな話を聞くと、理系のエリートたちが、狂気の集団に引き寄せられていった理由の一端が、わかる気もする。

 安田氏は「(地下鉄サリン事件の起きた)95年3月20日は日本の『9.11』だったとつくづく思う。あのときを境に、法律ではなく主観、感情で物事が進むようになった」とも言う。

 確かに、「マインドコントロール」という言葉だけでは解明しきれない謎は、まだ残っている。(肩書は当時)

(編集部・井原圭子)

※AERA 2004年3月1日号




麻原彰晃らオウム死刑囚7人を死刑 「安倍疑惑潰し?タイミングに疑問」有田芳生氏

西岡千史、福井しほ、森下香枝2018.7.6 12:04dot.

 松本・地下鉄両サリン事件などで計29人の犠牲者を出した一連のオウム真理教事件で、死刑が確定していた教祖の麻原彰晃(しょうこう)死刑囚(63)=本名・松本智津夫(ちづお)=、井上嘉浩死刑囚(48)、早川紀代秀死刑囚(68)、中川智正死刑囚(55)ら7人の死刑が6日午前、東京拘置所などで執行された。

【写真】サリンガスの発生する液体がまかれた地下鉄日比谷線車内

教団が起こした事件の死刑囚は計13人おり、執行は初めてで、上川陽子法相が執行命令を出した。

 逮捕から23年。犯罪史上類を見ないオウム 事件は大きな節目を迎えた。

 麻原死刑囚が収容されていた東京拘置所前には記者やカメラマンが数十名集まり、警察官が厳重な警備にあたるなど騒然とした雰囲気になっている。テレビ中継では、英語で世界に向けて放送している局もあった。近所に住む70代の男性は、「エリートたちがなぜ、洗脳されてしまったのか。いまだにわからないことの多い事件だった」と話す。

 6日、朝の情報番組では内容を変更し、死刑執行について報じる番組が相次いだ。地下鉄サリン事件当時の映像や松本死刑囚の映像が流れ、東京拘置所からの中継に切り替える番組も見られた。

 執行の知らせが入るたび、テロップで死刑囚の名前が報じられる様子にインターネット上では違和感を抱く声も多く上がっている。インターネット上では、「死をショーにしてるみたい」「死刑執行までショーにしているようで怖さを感じる」「リアルタイムで報道するなんてまるで死刑執行ショー」「死刑の実況中継なんて異様すぎる」など、今回の死刑執行の報道に違和感を抱く声も多く見られた。

 麻原、井上ら死刑囚は地下鉄サリン事件など10の事件に関与したとして、殺人などの罪に問われた。麻原死刑囚の命令の下、井上死刑囚は地下鉄サリン事件などで指揮役を務めた。今回死刑が執行された13人のうち7人は、今年3月に東京拘置所から別の5カ所の拘置所に移送されていた。そのころから、「死刑執行は近い」との見方が出ていた。法務省関係者は言う。

「来年春には天皇陛下が退位され、平成が終わります。皇太子さまが天皇に即位されるまでには行事も多く、恩赦の実施も検討されています。お祝いムードの中での死刑執行は難しいのが実情です。今年1月にはオウムの裁判は終結しており、平成で起きたことは平成で終わらせるのではとの見方も出ていました」

 一方で、警察関係者は死刑執行後に起きる事態を警戒している。

「麻原の死刑が執行されたことで、残っている信者は、麻原をイエス・キリストと同じように不当な裁判による死刑を受けた受難者とみなし、さらに神格化する可能性もある。警察はいま、報復テロを警戒しています」(官邸関係者)

 菅義偉官房長官は6日午前の記者会見で、オウム真理教元幹部の死刑執行を受け、「警察当局において万全の態勢を取る」と強調した。菅長官は麻原死刑囚の刑執行に関し、「報告を受けている」と認めた上で、「法相が会見する」と詳細についての説明は避けた。

 霞が関、永田町ではゴールデンウイークの連休前から、「オウム死刑囚の執行が近い」と話題になっていた。当時、事件を追ったジャーナリストの有田芳生参議院議員はこう疑問を呈する。

「国会でモリカケ疑惑の追及が激しくなった時期からオウム死刑囚らの死刑執行が話題になったので、これまで何度も法務省幹部らから状況を聞いたが、世論が沸騰するのは間違いなく、『強い法務大臣の下でないと難しい』などと話していた。だが、今朝、マスコミにリークして7人の死刑執行を敢行した。なぜ、このタイミングだったのか」

 立憲民主党など野党6党・会派は、森友学園をめぐる財務省の決裁文書改ざん問題で、佐川宣寿前国税庁長官が3月の証人喚問で偽証にあたる証言をした可能性が高いとし、議院証言法違反容疑で告発すべきと主張していた。麻生太郎副総理兼財務相、安倍晋三首相の責任追及と併せて、森友問題を引き続き追及する構えだった。

「安倍内閣への不信任案の提出、IR法案の審議などで国会はこれから山場を迎える。日本代表の敗退でW杯もひと区切りとなり、国会での審議が注目される時期でもあった。しかし、今回のオウム死刑囚の死刑が執行で報道はそれ一色になり、国会での審議はほとんど報じられなくなる。死刑執行のタイミングには疑問を感じざるを得ない」(前出の有田議員)

 安倍首相は今朝、記者団の呼び掛けに無言だったという。

(AERAdot.編集部・西岡千史、福井しほ、森下香枝)


東京新聞 社説 2018年07月3日~06月27日掲載

2018-07-13 19:08:11 | 日記






世界遺産 観光と維持のはざまで  2018年7月3日

 二百五十年の弾圧に耐え、独自の信仰形態を守り続けた「潜伏キリシタン」。その関連資産が世界遺産に登録された。信者の暮らしと心の中に息づくこの宝物。どうすれば守り伝えていけるのか。 
 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は、主に長崎県、そして一部が熊本県の十二の“資産”で構成されている。
 その中には「島原の乱」で名高い原城跡(長崎県南島原市)や、国宝の大浦天主堂(長崎市)など、すでに観光地として知られるものも含まれる。しかし、その多くは海外にはもちろん、国内的にもほとんど無名の集落だ。
 江戸時代初期から約二百五十年、禁教による弾圧に耐えながら、ひそかに守り続けた信仰のあり方、住民の信仰生活そのものが、“守り伝えていくべきもの”という評価を受けたのだ。
 世界遺産そのもののルーツは、文化財の略奪行為を禁じた一九〇七年のハーグ陸戦条約にあるという。世界的に貴重な文化遺産や自然遺産を破壊や衰亡から「守る」のが、七二年の国連教育科学文化機関(ユネスコ)総会で結ばれた世界遺産条約の基本精神なのである。それがいつしか、観光価値の有力な評価指標にもなっている。
 登録件数が千を超え、資産単体での登録が難しくなったため、地域の構成資産による「物語性」が重視されるようになってきた。そのことが“誘致競争”に拍車をかけた感もある。
 世界遺産登録で多くの観光客が訪れるようになれば、雇用も増えて、遺産の保全に資することにもなるだろう。
 だが一方で急速な観光地化で、守るべき伝統的な暮らしや風景が損なわれるケースも増えてきた。
 昨年「神宿る島」として登録された福岡県の沖ノ島は、世界遺産登録を機に神職以外の入島を原則禁止した。「守る」を重視したためだ。
 世界遺産には登録後の保全が義務付けられる。例えば今回の構成資産の一つ「春日集落」(長崎県平戸市)は、約二十戸六十人の小集落である。
 もしそこへ多くの観光客が訪れるようになったらどうなるのか。静かな信仰生活を守ることができるのか。それでなくても、高齢化が進む集落そのものを、どうすれば守っていけるのか-。
 国内二十二件目の世界遺産。もちろん、うれしいことではあるが、私たちはまた一つ、大きな責任を背負ったことになる。


「入国規制」判決 米国は歴史から学べ  2018年7月3日

 太平洋戦争中の日系人差別を容認した汚点の再現ではないか-。トランプ政権によるイスラム圏からの入国規制を支持した米連邦最高裁の判決はこんな批判を浴びる。米国は歴史から学んでほしい。
 先週あった判決は、国家の安全保障のために入国管理には大統領に幅広い裁量権を認めた。九人の判事のうち保守派四人と中間派一人の計五人の賛成によるという際どい司法判断だった。
 トランプ氏は大統領選中からイスラム教への差別発言を繰り返し偏見をあおった。
 大統領令として踏み切った入国規制措置は「イスラム禁止令」と非難された。
 ところが判決は、対象国のシリアやイランなどのイスラム教徒は世界の全イスラム人口の8%にすぎないし、安全保障上のリスクがある国に限定してもおり、大統領令に「宗教的敵意」があるとは言えないと主張した。
 大統領令は宗教には何も言及しておらず「文面上は宗教に対して中立だ」とも指摘。信教の自由を保障した憲法に反するとの原告の主張を退けたうえで「われわれは政策の健全性には見解を示さない」と締めくくった。
 大統領令の字面をなぞって、隠れた意図や動機に踏み込まないことを認めたにも等しい。ブレーキ役を果たすべき司法が逆にお墨付きを与えてしまっては、トランプ氏の暴走が高じかねない。
 米国最大の人権団体である全米市民自由連合(ACLU)は声明で「司法が間違ったからには、あなた(国民)が行動を起こさないと、自由、平等という国の最も基本的な原則を支えきれなくなる」と訴えた。
 反対に回った四人のリベラル派判事の中には、太平洋戦争中の日系米国人強制収容を追認した最高裁判決と「同じ重大な誤りの繰り返しだ」とする意見もあった。
 ルーズベルト大統領の命令によって十二万人余の日系人がわが家を追われた悲劇である。米政府はレーガン政権時の一九八八年になって謝罪し生存者に補償した。
 キャスチングボートを握っていた中間派のケネディ判事が引退を表明したのも気掛かりだ。トランプ氏は後任に保守派を指名する構えだからだ。
 二〇一五年の同性婚の合憲判決をはじめ、最高裁の判断は社会に大きな影響力を与える。それだけに偏った判決が増えないか懸念する。最高裁は建国の精神を思い起こしてほしい。



パナマ文書報道 公平へのたゆまぬ努力  2018年7月2日

 世界の政治リーダーや王室、著名人らの税逃れの実態を暴露した「パナマ文書」で新たな報道があった。日本人が個人情報を流用された被害も判明した。不公平根絶に向け、歩みを進めたい。
 二年前と同じ中米パナマの法律事務所から流出した文書百二十万通を、共同通信社などが加盟する国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が分析、報道した。
 税金がゼロか極端に低いタックスヘイブン(租税回避地)は、秘密保持を売り物にして、世界中から税逃れの資金が集まる。そこでは法律事務所などが窓口になり、ペーパーカンパニーの設立などさまざまな税逃れの手段を富裕層らに指南し、報酬を手にしている。
 タックスヘイブンの罪深さとは何か。それは報酬を支払うことができる金持ちが税を逃れ、彼らが支払うべきだった税まで金持ちでない人が負担するという不条理である。
 本来なら税の所得再分配機能が格差を縮小するはずだ。それが反故(ほご)にされ、まったく逆の事態になる。より格差を広げ、不公平を助長する。こんなあしき仕組みが許されていいはずはない。
 パナマ文書の報道は、こうしたタックスヘイブンの秘匿のベールを剥ぎ、著名人らの実名と税逃れの手段を白日の下にさらした。秘密が守られないリスクを富裕層らに知らしめ、恐怖心を植え付ければ大きな抑止力となるはずだ。
 今回も資金流用疑惑で捜査されるマレーシアのナジブ前首相の兄弟やアルゼンチンのマクリ大統領、さらにサッカーの同国代表、メッシ選手の名前が報道された。
 日本人絡みの不正被害も発覚した。タイを旅行中にマッサージ学校を利用した日本人がパスポートの写しをとられ、タックスヘイブンに設立された法人の代表者として無断で登録されていた。
 タックスヘイブンは秘匿性が強いゆえ、こうした組織的な不正行為にも利用される実態が明るみに出た。ICIJのような報道の繰り返しとともに、国際機関や各国政府が連帯して撲滅に動く必要があるのは言うまでもない。
 経済協力開発機構(OECD)などが中心となり、ブラックリストづくりや金融機関の口座情報の交換などの対策を進めている。
 だがG7の中心として取り組むべき米英両国が、国内や属領などにタックスヘイブンを温存しているという矛盾がある。これを放置したままでは問題は解消しない。



<北欧に見る「働く」とは>(6) 国民が安心できてこそ 2018年7月2日

 北欧二カ国を見て強く感じるのは、危機意識を持ち将来を見通し対策を練る姿勢だ。当たり前のようだが、先送りはしない。
 スウェーデンの職業訓練は絶えず改善が加えられている。フィンランドの社会実験は導入するか分からない制度の検証に国の予算を投じている。
 企業側ではなく働く側に立つ視点を忘れていない。国民が意欲を持って働けてこそ国が成り立つと考えている。経済界が求める高度プロフェッショナル制度を創設させた日本政府とは姿勢が違うのではないか。国の大小は関係ない。学びたいところだ。
 日本ではどうすべきだろうか。
 日本の働き方の特徴は終身雇用制度だ。これを大切にしながら、能力を生かすために転職したい人や、正社員になりたい非正規社員がそうなれるような職業訓練や教育の機会は増やすべきだ。
 今、支援が必要なのは、低収入で雇用が不安定な非正規社員と、個人で事業をする人たちだ。
 非正規は雇用されていても職場の健康保険や厚生年金に加入できないなど法制度の「保護の網」は限定されている。確かに企業の負担にかかわる。それでも網の拡大や正社員化は国の将来を見ればもっと進めるべきだろう。
 生活保護制度は収入があると利用しにくい。フィンランドのように働いても低収入なら、それを補う給付制度は検討に値する。
 日本では非正規の増加で格差拡大は最大の課題となっている。富の再配分の見直しを通して是正する必要がある。スウェーデンは再就職による安定した賃金確保で、フィンランドは低収入を補う社会保障の給付で格差をなくそうとしている。
 日本でも人工知能(AI)の進展などで個人で事業を始めたり起業する人が増えそうである。だが、「保護の網」は雇用される人が対象でこうした人はそこから漏れる。働き過ぎの防止や、最低賃金の保証、失業給付、労働災害の補償などがない。働き方が多様化している以上、それに対応した制度の改善に取り組まねばならない。
 日常生活や将来に安心できてこそ働き続けられる。人の幸福の原点でもある。 (鈴木穣)



週のはじめに考える 嘘とへつらう者たちよ  2018年7月1日


 「バレている嘘(うそ)をぬけぬけと-」「国家の破滅に近づいている」。二人の元首相の嘆き節です。嘘とへつらいに満ちた権力周辺にはうんざりです。

 NHKの大河ドラマ「西郷どん」はまだ幕末です。西郷隆盛は明治維新の後、一八七七(明治十)年に西南戦争を起こし、鹿児島で自刃しました。その頃「西郷星が見える」という評判が起こります。赤い火星のことでした。

 望遠鏡でのぞくと、西郷が陸軍大将の姿で見えると新聞で報じられたりしました。今風に言えば、罪のないフェイク(嘘)・ニュースでしょう。もう一つのフェイク・ニュースがありました。
◆西郷隆盛は生きている

 「西郷隆盛は死んでおらず、シベリアに渡って、ロシア兵の訓練をしている」という流言です。九一年にはロシア皇太子・ニコライが来日予定で、西郷が一緒に帰国するとも。虚か実か、不明なまま各地に伝わりました。

 さて、今の日本でも虚か実かの問題が覆っています。いや嘘がまかり通っています。森友学園と加計学園の問題です。あえて疑惑と書きます。政府側が嘘をつき、国会や国民を欺いたからです。

 森友学園では国有地の取得で約八億円もの値引きがされました。国会でさんざん追及されました。そのたびに当時の理財局長が「森友学園との交渉記録はない」「総理夫人の話はなかった」などと答弁をしました。真っ赤な嘘でした。

 決裁文書が何と約三百カ所も改ざんされていました。交渉記録などもありました。その結果、二十人の職員が処分されました。

 嘘はもっと深い所にあるかもしれません。例えば財務省記録の中に二〇一五年十一月に首相夫人の安倍昭恵氏付きの公務員が、財務省側と電話した記録です。
◆「首相も議員も辞める」

 昭恵氏は子どもが教育勅語を暗唱していることに「感動した」とありました。名誉校長にも就きました。土地の値引きに、どんな力学が働いたのか。安倍晋三首相は「私や妻は土地の払い下げに関与していない」と言います。

 なら、なぜ財務省文書は改ざんされたのでしょう。「わからない」。これが麻生太郎財務相の答えです。嘘でしょう? 安倍首相は「私や妻が関係していたなら首相も国会議員も辞める」と述べています。これが契機かと問えば、麻生氏は否定します。本当ですか? 嘘ではないの?

 加計学園の疑惑では、愛媛県から決定的な資料が出ました。一五年四月に首相官邸で当時の首相秘書官と愛媛県などの担当者が面会した際の備忘録です。「本件は首相案件となっており」と明記された文書です。中身は一口で言えば、加計学園へのサポートです。実際にその通りに国家戦略特区での獣医学部開設が実現しました。

 愛媛文書は安倍首相と加計学園理事長との会食で獣医学部の新設が話題になったと記しています。首相が「いいね」と語ったとも。

 でも、安倍首相が学部開設を知ったのは「一七年一月二十日」と国会答弁しています。どちらかが嘘をついている-。そんな状況の中、加計学園幹部が「県への説明は嘘だった」と謝罪しました。そして、加計孝太郎理事長も突然、記者会見をして追認しました。それにしても県に対し嘘とは。

 虚偽で自分の名前を使われ、安倍首相は怒りを感じないのでしょうか。しかも嘘によって税金を獲得したとも言えるのです。でも、六月二十七日の党首討論で首相はそれを聞かれて「あずかり知らない」と答えるのみでした。税の行方なのに。

 さて、西郷隆盛の話に戻ります。ロシア皇太子の来日の際、滋賀県で大津事件が起きました。巡査の津田三蔵がニコライをサーベルで切り付けたのです。動機は何か。ロシアの強硬姿勢への不満とされますが、異説もあります。作家吉村昭の「ニコライ遭難」にこう記述されています。

 「西郷モ共ニ帰ル由。西郷ガ帰レバ、我々ガ貰(もら)ツタル勲等モ剥奪(はくだつ)サルベシ。困ツタコトダ(調書)」
◆明治の国難は嘘から

 ニコライ来日前に親類宅で語った言葉です。津田は西南戦争で戦い勲章を受けました。西郷生存説という嘘を信じ、勲章の剥奪を恐れたのでしょうか。

 強国ロシアの報復が予想されました。嘘が明治の国難を生んだのです。現在の二つの疑惑でも、嘘は必ず民心を腐らせ国難となるはずです。冒頭の「バレている嘘をぬけぬけと」は小泉純一郎元首相が週刊朝日に、「国家の破滅に近づいている」は福田康夫元首相が共同通信に語った言葉です。

 権力にへつらう者たちが見ざる・聞かざる・言わざるでいる限り、国は滅びの道です。




W杯日本代表 結束し勝負に徹した  2018年6月30日


 サッカーのワールドカップ(W杯)で日本が決勝トーナメント進出を決めた。大会前は圧倒的不利が予想されたチームは、自分たちの力を謙虚な気持ちで俯瞰(ふかん)し、結束して番狂わせを起こした。

 日本の躍進はサッカー界に起こした奇跡だ。W杯前の予想では、大方の評論家や担当記者はグループリーグ三試合を0勝3敗、あるいは0勝2敗1引き分けとしていた。それを覆した原動力は、やはりチームの結束力ではないか。

 今年四月七日、日本サッカー協会は突然に日本代表監督だったハリルホジッチ氏を解任した。当時の技術委員長で後任監督に指名された西野朗氏が選手と個人面談し、その報告を受けた協会が「コミュニケーション不足」と判断したとされている。

 W杯開幕まで約二カ月と迫った時期の監督交代は、通常ならあり得ない。その上、日本の世界ランクは六十位台を前後している。世界各地の予選を突破した三十二カ国が出場する大会で白星を挙げることは難しいと評されても、チームは誰も反論できなかったのではなかろうか。

 だが、そのような当たって砕けろの気持ちが集団を生まれ変わらせることが往々にしてあるのが、スポーツの面白いところだ。

 初戦は開始直後の退場者で十人となったコロンビアが、引き分けに持ち込むより勝つことにこだわった“強者のおごり”を見せた。それに対し、日本は最後まで一人一人がチームでの自分の役割に徹して勝利をもぎ取った。

 二戦目は体格やスピードで上回るセネガルの攻撃に対し、執拗(しつよう)な守備や相手の動きを読んだパスカットで最後は精神的に相手を追い込み、引き分けに持ち込んだ。

 そしてポーランド戦は自分たちの力を冷静に分析して自力による決勝トーナメント進出を試合終盤にあきらめ、批判の声が出ることを覚悟の上で他会場の試合結果に委ねる決断を下した。

 かつてプロ野球の東京ヤクルトスワローズを率いて弱小から強豪に変貌させた名将の野村克也氏は「弱者の勝利戦略」として、選手一人一人が謙虚となってチームの目標に向かって一つとなる大切さを説いた。

 西野監督は急造態勢でW杯に臨んだチームの現状を俯瞰し、世界各国のリーグにちらばる選手たちをまとめ上げて勝負に徹するサッカーを貫いた。その手腕は称賛に値する。今後の采配に、ますます注目していきたい。




<北欧に見る「働く」とは>(5) 「貧困のわな」から救う  2018年6月30日


 ベーシックインカム(BI、基礎的な収入)は働いていても、そうでなくても月五百六十ユーロ(約七万三千円)を受け取れる。

 失業給付に代わり導入できないか、フィンランド政府が社会実験を続ける目的は「貧困のわな」の解消だ。

 失業給付は働き始めると減らされたりカットされる。働いた収入が少なくて、それだけで生活できない人は就労をあきらめたりやめてしまう。結局、貧困から抜け出せない。

 「こうなる恐怖が一番大きい」 BIを担う社会保険庁のオッリ・カンガス平等社会計画担当部長は話す。わなに陥らぬ制度としてBIの可能性を探っている。

 背景には近年の経済格差の拡大や、人工知能(AI)やITの進展による働き方の多様化がある。

 経済成長率は五年前からやっと上向きに転じたが、失業率はここ数年、8%を超えたままだ。3%前後の日本よりかなり高い。少子高齢化も進む。

 AIの活用が進めばなくなる職種がでてくる。就業できても短時間労働になり十分な収入が得られない仕事が増えるといわれる。

 若者が減り高齢化が進む中で就業率を高く保つために長く働けるような社会にせねばならない。

 ピルッコ・マッティラ社会保険担当相はBIに期待を寄せる。

 「BIの実験対象者は経済的に厳しい人たちだが、BIが働く意欲を後押しし前向きに人生を考える機会を提案していると思う」

 実験は終わり次第、検証作業に入る。

 他方で実は、働いていることや求職活動をしていることを条件に現金を支給する別の給付制度も始めた。

 また四十種類もの給付制度が林立、複雑化して国民に分かりにくくなってしまった今の制度全体を思い切って簡素化し、必要な給付が分かりやすく国民に届くようにする案も検討されている。

 どんな支援なら働く人が安心し増えるのか。いうなれば、走りながら考えている。 (鈴木 穣)




ごり押し「働き方」法案 額に汗して働けない  2018年6月29日


 「働き方」関連法案が成立する見通しだ。働く人の健康を守り待遇格差を是正する。そこに疑問と不安が残ったままでは、とても額に汗して働けない。

 働き方の実情を知るため今月、スウェーデンを訪れた際、こんな体験をした。

 ある研究機関の研究者に話を聞いていて一時間ほどたったころ、彼は「これから学童保育に子どもを迎えに行くのでこれくらいで」と場を後にした。時刻は午後四時半ごろ。子育てを退勤の理由として堂々と言える。

 なにより、勤務時間を自身で調整できるような「裁量」のある働き方をしていた。この国の労働者はだれも残業はしない。仕事と生活の両立ができているようだ。
◆裁量のない働き方

 国情はもちろん違うとしても、日本の「働き方」関連法案は働く側にとってどうか。

 政府は、高度プロフェッショナル制度(高プロ、残業代ゼロ制度)を働く本人が労働時間や仕事の進め方を決められる働き方だと説明してきた。だが、法文上、明確とはいえない。

 政府の説明をうのみにできないのは日本では裁量のない働き方が大半だからだ。

 欧米では猛烈に働く専門職はいる。能力が評価されれば高年収を得られるし、労働条件が合わなければ転職する。働く側の立場は弱くはない。

 高プロは年収千七十五万円以上の人が対象だ。だが、収入が高いからといって自分で業務量を調整できるか、はなはだ疑問だ。

 日本の会社の正社員はどんな業務でもこなし、どこへでも転勤する働き方が主流だ。業務の担当範囲が不明確なため次々と仕事を振られ過酷な長時間労働に追い込まれかねない。
◆対象者拡大する懸念

 高プロとは労働時間規制から丸ごと外す働き方だ。行政の監視の目が緩みやすい。さらに労働時間の把握がされないことで労災認定が難しくなるとの懸念も指摘されている。

 厚生労働省が約七千六百事業所を対象に行った監督では、約四割で違法な時間外労働があった。時間規制という“重し”がある今の働き方でも違法に長く働かせる例は潜んでいるだろう。

 この状況での高プロ導入は、過労を増やし過労死を増大させかねない。

 野党の質問もここに集中した。だが、加藤勝信厚労相はじめ政府側の答弁は、知りたい点を明らかにしたとは言い難い。この制度に対する最も根本的な疑問と不安は消えていない。

 対象業務は金融ディーラーやアナリストなどに限定すると政府は言うが、これも疑問だ。

 高プロは経済界が長らく導入を求めてきたものだ。経団連は同種の制度導入を求めた二〇〇五年の提言で対象を年収四百万円以上とした。これでは多くの人が対象になってしまう。経済界の制度導入への思惑は人件費抑制だろう。

 経営者の皆さんに言いたい。

 労働コストの抑制が生産性の向上策と考えていないでしょうか。本来なら人材育成に取り組み収益の上がる業務を追求し、業務量を減らして効率化を進めるべきではないか。無理でしょうか。

 もちろん政府・与党の姿勢は批判を免れない。

 経済界の意向を受けて高プロ創設が盛り込まれた法案が一五年に提示された際、当時の塩崎恭久厚労相が「(制度を)小さく産んで大きく育てる」と発言した。対象業務の拡大を想定したとして批判を浴びた。

 過去には制度の対象を広げてきた例がある。労働者派遣法は、制度創設後拡大を続けた。製造業にも拡大され〇八年のリーマン・ショックでは「派遣切り」で失業者が出た。立場の弱い労働者が追い詰められてしまった。

 制度ができれば、対象を広げたいというのが政府の考えではないのか。

 一五年当時、高プロは批判されて法案は国会を通らなかった。

 安倍政権は今国会で「働き方改革」を前面に出し、「長時間労働の是正」と非正規で働く人の「同一労働同一賃金の実現」を目玉に掲げた。
◆不誠実な政権の対応

 批判されにくい政策を掲げる陰で、過労死を生むような高プロと裁量労働制の対象拡大を滑り込ませる手法は姑息(こそく)である。

 首相は、高プロを批判する過労死の遺族との面会を拒み続けている。一方で、国会では数の力で法案成立を強行する。政策の責任者として不誠実ではないか。とても働く人の理解を得られる法案とは言えまい。

 論点が多い八本の法案を一括提案し成立へごり押しした政府の責任は重い。




富山交番襲撃 銃を奪われない体制に  2018年6月28日


 仕事熱心な警察官が落命したのは悔しいが、奪われた拳銃が使われ、市民が殺害されたのは由々しき事態だ。日ごろの管理に抜かりはないか。警察当局は猛省し、再発防止策を徹底せねばならない。

 富山市内の富山県警の交番で二十六日昼下がり、警察官が刃物で刺されて拳銃を奪われ、近くの小学校の正門で工事車両の誘導に当たっていた警備員が撃たれた。残念ながら二人とも亡くなった。

 殺人未遂の疑いで、現行犯逮捕されたのは、元陸上自衛官の二十一歳の男だった。学校の敷地内で、駆けつけた警察官に撃たれ、重体となったという。

 米国の学校で後を絶たない銃乱射事件が、脳裏をかすめた人もいたのではないか。児童たちが無事だったのは不幸中の幸いだ。大人はしっかりと寄り添ってほしい。

 なぜ交番を襲い、銃を奪ったのか。なぜ小学校へ向かったのか。予兆はなかったのか。男の動機をはじめ、全容解明が急がれる。

 市民を守るために警察官に所持が許されている拳銃が、凶悪犯罪に使われたのは、警察当局の失態といわざるを得ない。地域を恐怖と不安に陥れた責任は免れまい。

 犠牲となった警察官は、交番の所長を務める警部補だった。不測の事態に備えて訓練を積んでいたはずだが、裏口からの不意打ちをかわしきれなかったのだろう。男は自衛隊で鍛え上げた高い戦闘能力を身につけていたのか。

 警察官は制服を着て仕事をする場合には、原則として銃を携帯する。ふだんは頑丈な金属製の芯を通したつりひもでつなぎ、腰ベルトのホルスターに収めている。それでも、強奪事件が絶えない。

 二年前の米紙ワシントン・ポストによれば、英国(北アイルランドを除く)やアイルランド、アイスランド、ノルウェー、ニュージーランドの五カ国では、地域を巡回する警察官は特段の事情がない限り、拳銃を持たないという。

 英国の警察官は、市民の守護者を自任し、市民との間に障壁をつくらないように伝統的に非武装を貫いているようだ。武器を持てば、かえって犯罪者の武装を誘発しかねないとの意識がある。

 日本警察の交番は、非常事態に対処する最前線としての機能のみならず、市民のよろず相談窓口の役割を果たす。危険と隣り合わせだが、地域に開かれた場であってこそ、安全安心を担保できる。

 もはや銃を奪われない体制づくりは喫緊を要する。武装のあり方から抜本的に見直してはどうか。




<北欧に見る「働く」とは>(4) 就労を後押しするお金  2018年6月28日


 人は収入があっても働くか。

 フィンランド政府が実施しているベーシックインカム(BI)という現金給付は、それを探る社会実験だ。

 BIは就労の有無や収入などに関係なく国民全員に定期的に生活に最低限必要なお金を配る制度である。いわば国による最低所得保障だ。古くからこの考え方はあるが、フィンランドで行われている実験は対象者も金額も絞っている。限定的なBIである。

 昨年一月から二年間、長く失業している現役世代二千人を選び、失業給付の代わりに無条件で月五百六十ユーロ(約七万三千円)を支給している。

 BIを受ける人に聞いてみた。

 新聞社を解雇されてフリージャーナリストとして働くトゥオマス・ムラヤさんは収入が安定しない。「生活保護を受けていた時は、恥ずかしいという気持ちがあったが、BIは自分からお願いしなくても支給を受ける権利としてもらえるものだ。ストレスがなくなった」と好評価だ。

 働き始めると給付をカットされる失業給付と違い、働いて収入があってもBIは受け取れる。「講演などして少し報酬をもらう仕事も安心してできる」と話す。

 二年間失業中だったITエンジニアのミカ・ルースネンさんはやっと再就職が決まった直後に実験対象者に選ばれ喜んだ。

 「新たな仕事の給与はそんなに高くない。給付は家のローンに充てている。失業中に再就職に向け勉強してきたボーナスのようだ」

 生活保護だと毎月、求職活動や収入などの報告書を出さねばならず「煩雑な作業で抵抗感があった。政府から監視され信用されていないようにも感じた。そこから解放された」と話す。

 ムラヤさんが実験参加者数人に取材したところ就活に前向きだという。

 BIが失業者の働く意欲を高めるか、逆に失わせるか調べる。裏を返せば、今の社会保障制度が社会変化に対応できていないことの表れだ。 (鈴木 穣)




トルコ大統領選 文明の十字路であれ  2018年6月27日


 トルコ大統領選でエルドアン氏が再選を決めた。権力を強化してメディア統制をさらに強め、独裁化を進める恐れもある。東西の両文明が交わる国。政治、安全保障上の要衝だけに気掛かりだ。

 エルドアン氏はイスタンブール市長として行政手腕を発揮後、穏健イスラム政党、公正発展党を設立し、国政での権力掌握はすでに十五年に及ぶ。首相を三期務めた後、大統領に転じた。昨年の憲法改正で実権型大統領制に移行したため、今後は国会の解散権や最高司法機関のメンバーの任命権も持つ。三権分立がおろそかにされないか心配だ。

 大統領選は一年以上前倒しして実施され、エルドアン氏は「強い指導者」の必要性を訴え、一回目の投票で過半数を獲得した。

 しかし、選挙戦に対しては、欧州連合(EU)が「報道の自由が制限され、不公平だった」と疑問視する声明を発表している。

 トルコは、政教分離を徹底してきた世俗主義のイスラム国家。その守護者を自任する軍の一部が二〇一六年七月、クーデターを決行。未遂に終わったが、エルドアン氏は反対勢力一掃に乗り出し、イスラム色、強権姿勢を強めた。

 今も続く非常事態宣言下で、政権に批判的な百八十の報道機関が閉鎖され、テロ関連容疑で百二十人以上の記者が収監されている。

 言論も萎縮し、主要メディアの選挙報道は、圧倒的に政権寄りだったという。

 対外的にも強さを誇示する。シリアの反体制派を支援する一方、クルド人勢力を攻撃する。

 エルドアン氏の姿勢はロシアのプーチン大統領を想起させる。首相、大統領などと立場を変えながら強権政治を強化している手法は同じだ。欧米との溝が深まる中、似たもの同士となったトルコ、ロシアの関係は強まっている。

 強権政治はEU加盟国のハンガリー、ポーランドなどでも広がりつつある。トランプ大統領が米国第一主義を掲げる中、リベラルな国際秩序は大きく揺らいでいる。

 自由、協調など戦後世界を支えてきた価値観の意義を思い起こし、強権政治の広がりに歯止めをかけたい。

 トルコは米欧の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)のメンバーであり、EUの仲間入りも目指す、欧州とも密接な国だ。混乱する中東で、秩序を保つ数少ない大国でもある。難民問題での役割も大きい。懐深く文明をつなぎ合わせてほしい。