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「集団投資スキーム」を巡る「重大な懸念事項」に思う 

2006-10-06 | この決算書・会計処理はおかしい
お疲れさんです。
本日は、「企業会計」2006年11月号に掲載されております、橋上徹先生によります論考
「集団投資スキームの法律・会計・開示・監査を巡る動向と課題」から簡単にご紹介。
ご興味ある方は、是非、原文をお読みください。

橋上先生は「企業会計」4月号でも「投資サービス法制定に当たっての課題」を寄稿されており、
私も3月7日付「集団投資スキーム(投資ファンド)の実態と問題点とは?」という記事で
紹介しております。
http://blog.goo.ne.jp/dancing-ufo/e/c0e5237b22b4b230aafa4bb7b9530133


で、本題にあります「重大な懸念事項」は、ズバリ「信託」。

具体的には今秋の臨時国会に提出される信託法改正法案で目玉となっている、
   ・ 自己信託(=企業や個人が財産を自分に信託できる)
   ・事業信託(=事業の資産と負債をセットで信託できる)
を取り上げております。
それぞれにつき、何故問題なのか、ポイントを(自分のために)整理しました。

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 ■「自己信託」の懸念点


①資産の消滅要件を満たさない可能性が高い

・ 日本の信託では委託者=受託者のケースが通常となっているだけに、
  信託への資産の譲渡については、資産への継続的関与が遮断されないことから、
  支配の移転が認められず、資産の消滅要件を満たさないと考えられると。

・ しかも、自己信託では財産の移転そのものもない
  (現行法では財産権の移転が信託成立要件であるが、
   改正案では財産移転無くても信託成立)。


②財務諸表の見方が大きく変わりうる

・ 「自己信託宣言」をすることにより、会計対象企業の財産が信託勘定に転換され、
  その財産を裏づけとして信託受益権(金融商品取引法上、有価証券となる)が発行される。

・ この場合、仮に、「資産の消滅要件を満たす」という整理が行われたとし、
 さらに、発行された信託受益権を財務諸表提出会社・連結子会社が引受ける場合を想定すると、
 その場合、会計監査の対象となる開示財務諸表には、
    「信託受益権勘定」(金融商品取引法施行後は、有価証券勘定)として計上される。

 現行、「信託受益権勘定」については、何が裏づけ財産になっているかについては
 開示する義務が無い。 

 したがって、例えば、不良資産が裏付け資産となっている場合など、その実態が開示されず、
 「自己信託」制度の導入により財務諸表の信頼性が損なわれるおそれがある。

 また、信託受益権を、例えば関連会社やその他の関連当事者に保有させた場合などで、
 不良債権・不良在庫や不適切な集団投資スキームがその裏付け資産である場合、
 連結財務諸表には「有価証券信託」と表示されるのみで、開示の実態を不透明にする。


③信託勘定には会計監査が無い

 ・ 自己信託における信託勘定には会計監査に関する規定が無く、会計監査の対象外。
  仮に、資産の消滅要件を満たすという整理が行われたとすると、次の懸念点あり。

・ 改正信託法案99条では受益権の法規を可能としており、企業が不良債権など不良資産を
 自己信託した場合、受益権の放棄により、ある日突然、会計監査の対象となる開示財務諸表に
 大きな欠損が表示される可能性がある。

 信託勘定につき会計監査を行い、受益権放棄の可能性を見ながら、固有勘定に引当金などを
 計上することが必要であるが、信託勘定への会計監査が制度化されていないため
 問題が生じる可能性ありと。


■「事業信託」の懸念点

・企業の事業の一部が信託されることになると、信託された事業で何が行われているか
 不明瞭になり、開示統制が大きく後退することとなる。
 (子会社・関連会社を通じた事業であれば、連結決算により開示統制が働く)。

 集団投資スキームの連結上の対応として、企業会計基準委員会実務対応報告第20号
 「投資事業組合に対する支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の取扱い」
 が公表されたが、事業信託によりこれを潜脱することは可能。

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(コメント)

・ ・・・・・ということで、橋本先生からの警告、非常に参考になりました。 
 先生も論文の末尾に書かれておりますが、要は改正信託法により、ライブドア事件で
 問題視された「投資事業組合」に代わる新たなビークルが提供される可能性がある、
 ということですね。
 企業側への牽制球という見地から、少なくとも会計士協会による「監査上の留意点」と
 いった通牒は出して欲しいものです。

・この他、私は信託法改正関係で春先に2つのネタを書いております。
 ご興味ある方はどうぞ。特に後者は、「悪用事例集」にもなっております。

  2月9日「事業信託」は新たな粉飾決算ツールになるのか?
http://blog.goo.ne.jp/dancing-ufo/e/b03add23ae6a94922ad02e700a037192

  3月21日「信託宣言」はやはり新たな粉飾ツールとなるのか?
http://blog.goo.ne.jp/dancing-ufo/e/d933757bdf1291a6a7f0c68170855c08


改正信託法問題は、会計・監査上の論点が多そうなので今後もフォローしていきます。

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