でりら日記

日々の雑記帳

としょかん

2007年10月18日 | きょうのできごと
 予約した本を取りに行った。
 目についた児童書と、昔読んだホラー長編の上下巻を持ってカウンターへ行く。カウン
ターの向かいに並ぶ検索PCには、生活臭の滲み出た、かろうじて女と判る人物が背を向け
て、懸命にメモを取っている。

 目当ての本よりもおまけで借りた本の方が遙かに重い。小さな手提げにそれらを押し込
んでいると、カウンターの向こう、絵本コーナーから子供の喚き声が飛んできた。

 おかあさん。こっちにいっぱいあるよ。えほんいっぱいあるよ。おかあさん。おかあさ
ん。おかあさん!!

 中年女はぴくりともしない。女の傍らに立っていた小さい男の子が、胡乱気な不安を漂
わせた瞳を向ける。少女の声はなおキイキイと響く。ネズミのようだ。ネズミの声だ。

 私より年若い司書はどうするのだろう。昼下がり、他にも利用者は数人いたが静かなも
のだ。静かな空間に、キイキイと仔ネズミの声は響き渡る。

 私はかけっぱなしのヘッドホンに意識を集中させながら、ネズミの声を背中で聞きつつ
階段へ足を向ける。子供が騒ぐのは仕方のないことだ。赤ん坊が泣くのも、駄々を捏ねる
のも。それを他人事のように放置する親たちを、許せないだけなのだ。子供に罪はない。

 先日張替えたばかりのヒールの踵が階段の縁をとらえる音を聴きながら、私は尚も追い
すがるネズミの声を追いやろうとする。ふいにそれが止んで、代わりに何かを殴打する音
が1フロア下の階段にまで届いた。ばしん、ばしん、ばしん。いっそ悲鳴や怒号、狂気に
満ちた叱責が聞こえたほうが幾らもましなのだが、ただただ殴打の音だけが一定のリズム
をもって続く。
 ばしん、ばしん、ばしん。

 耳元に流れるのは、短いが美しい曲だ。歌詞のある部分は90秒ほどなので、不評を買い
そうだがそれでも一度はカラオケで歌ってみたいなぁ、と私はぼんやり考えながら階段を
降りる。かつん、かつん、かつん。踵を張替えるのはもう何度めだろう。それほど高価な
靴でもないし修理代もさほど高くはないのだが。

 届かない指先へ手を伸ばし、何度もその名を呼ぶ祈りの歌だ。透明感のあるボーカルは
エンドレスで私の耳元に囁き続ける。何度も、何度も、伝えたいの。何度も、何度も。

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