でりら日記

日々の雑記帳

ようちゅう

2007年10月12日 | きょうのできごと
 ヒールの踵がすぐに磨り減る。
 右外側の部分から斜めに磨り減り、釘が頭を除かせている。これをそのまま穿き続けると、腰の
痛みへと繋がってゆくのだと経験上解っていたので、会社の近所の修理屋へと急いだ。昼休みの
時間、日差しも大分と和らいで涼しくなった。

 途中、柵で切り取られた空き地の横を通る。朝方は近所のお年寄りがゲートボールに興じるグラ
ンドになる場所だ。通りかかった時分は誰も居なかった。
 ふと足元に黒いものが見えて足を止める。黒地にオレンジの模様の入った芋虫だ。突起がある
芋虫であって、毛虫ではない。タテハ科の幼虫だろうか。よく見ると、無残にも踏み潰された仲間
が道路にへばりついている。

 グランドと歩道のあわいに、三匹の芋虫は蹲っていた。私の小指ぐらいの大きさだ。そこそこ大
きい。日向をぼんやり這うにしては、周囲に草もない。何故、こんなところに。

 謎は謎であったが、とりあえず余り時間もなかったので店へ急ぐ。お時間10分ほどかかります、
といわれていいですよ、と備え付けのスリッパを履いて丸椅子に座り込む。本を持って来れば良か
った、と思ったが、店の主は遣り掛けの派手なパンプスを脇へ置いて私のヒールを優先してくれ
た。

 帰り、空き地に連なるマンションの横を通った。見ると、いかにも素人の仕事然とした刈り込み痕
も新しい植え込みに目が付く。どうやら、ここから振り落とされたらしい。きっと、がさがさと纏めら
れた剪定後の枝葉からふり落とされたのだろう。

 再び足をとめる。三匹はまだそこにいた。二匹は変わらず動かなかったが、一匹は忙しく動き回
っていた。雑草の丸い葉をよじ登り、違う、これじゃないといわんばかりに頭を振る。何処だ、何処
だ、食べられる葉は。どこだ。

 おそらくツマグロヒョウモンの幼虫と思われるそれは、乾いた土の上で目当ての葉を見つけられ
なければ飢えて死ぬだろう。それと解らぬ道路へと這い出れば、恐ろしい巨人達にたちどころに踏
み潰されて感慨に浸る暇もない最後を遂げるだろう。

 もし、刈りとられた葉と一緒にゴミ袋に収められていれば、とりあえずの食糧には困らないだろう
が、恐らくはさなぎに変貌する暇も与えられず、瞬間的に業火に灼かれる運命だ。或いは収集車
の大きな腕に押しつぶされて?どちらが幸せなのだろう。

 私とて、彼等の姿から蝶の幼虫だと判ったのでこう思いを巡らすわけだが、もし彼等が蛾であっ
たなら話は別だ。幸も不幸もなく、ああ幼虫が居る、で終わっていたかもしれない。世の中そんな
もんだ。

 蝶と蛾の違いなど人によりけりだが恐らく大差ないのだろう。私は蝶を好ましく思い、蛾はおよそ
それに値しないと考えるだけで。しかし例外もある。外国では一からげで扱われるようだし、蛾の
中にも美しい種類は勿論いる。オオミズアオなど感嘆ものだ。オオスカシバなどは蛾には見えない
ので好きだ。対して、美しさを感じない蝶もいる。そもそも日本の蝶は地味だ。だが、蝶だというだ
けでどうにも別格扱いするきらいが私にはある。美しくとも、特異な存在でも、蛾は蛾、蝶は蝶、な
のだ。

 はぐれた蝶の幼虫(そういうシチュエーション自体そもそも稀だが)が居れば、食草を探してきて
はせっせと与えたものだった。蛹が羽化するのを見届け、空に放したことも何度もある。

 それは、自分の植えた花は手入れし、横から生えてくる雑草は無慈悲に摘み取ってしまう園芸
家の狭隘な博愛主義にも通じるところがある。花は大好きだ。だが、私の王国には私の許したも
のしか住まわせない。生えてくることを許さない。お前達は彼等とは違う。そこには、確かに命の重
さに違いがある。

 とまぁ昼の日中にそんな事を考えているとそれだけでお腹一杯になってしまう。可哀想だがそれ
も彼等の運命なのだと諦め、後ろめたさを彼等が何と呼ばれる存在だったのかを確かめたいとい
う探究心に挿げ替えて、ネットの海へダイブする。

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