でりら日記

日々の雑記帳

アイゼンハイム、大トカゲ、薄紫の光背

2010年01月19日 | 読んだメモ&観たよメモ
寒い。脚が冷え切って+痺れてイヤンな感じに。

 観たよメモ。ギリギリ、ネタバレしてない…かな。
 映画『幻影師アイゼンハイム』。2006年米。
 舞台は18~19世紀?ウィーン。今ほど科学の発達していない時代。奇術師として名を馳せていたアイゼンハイムが舞台上で警官隊に取り囲まれるところから物語は始まる。詐欺罪及び皇太子への反逆罪を問われるアイゼンハイム、舞台では驚くべき交霊術が繰り広げられている。

 ゴシック&サスペンス、現代のCGを駆使した美しく幻想的な奇術、いや、幻影。ああ、これは劇場で観たかった! 途中までは、これはまたキレイだけれども救いが無いなと思っていたがなんの。エドワード・ノートン(アイゼンハイム)がまた良い。なんというかもう立ち居振る舞い含めて美しい。

 家具職人の息子エドゥアルドは少年時代、身分違いの恋を引き裂かれ、故郷を捨て旅に出る。そしてとある奇術師と運命的な出会いをし、世界を廻る旅へ。数年後、稀代の奇術師アイゼンハイムとして世の寵を受ける青年となってウィーンの街へ現れる。舞台上、観客の中に忘れられぬかつての恋人の姿を認める。公爵令嬢ソフィ、彼女は政略結婚の犠牲にされようとしていた。相手はオーストリア皇太子、残忍で殊に女性への暴力癖が取り沙汰されていたが、その権力ゆえに警察権の届かぬ場所にいた。

 アイゼンハイムとソフィは駆け落ちを企てるが、皇太子に感づかれたソフィは約束の朝に変わり果てた姿で発見される。納得しないアイゼンハイム、奇術で皇太子の罪を暴こうと交霊術のショーを開催し、人々の絶大な支持を得つつ、ソフィの霊を呼び出し、殺人犯はまだ捕まっていないと公言させる。

 事件を追う警部もまたいい味を出していて、皇太子含め人物一人一人が魅力的。原作はスティーヴン・ミルハウザーの短編。おお、私の好きな柴田元幸氏の訳ではないか。という訳でまた読みたい本に加わりますよ、と。


読んだメモ。ああこれはネタバレしてしまっている、な。
『終わりからの旅』辻井 喬
 2005年4月30日 第一刷発行 朝日新聞社 646p
 カバー装画/岸田春草「夕の森(部分)」 装幀/菊地信義

 装幀が美しい。辻井氏のハードカバーは日本画+菊地信義氏の手になるものが多いようだけれど、開いた部分、遊び紙、題字、緑と黒のコントラストが非常に美しい。

 二人の異母兄弟の物語。忠一郎は戦地に赴き、ジャングルの中で彷徨い、被弾し意識を失っていたところを捕虜となる。戦後内地へ戻り、米軍相手の経験を活かし商社へ勤務。やがて独立し、アメリカ式サンドイッチチェーン店の創業者となる。

 良也は戦後の生まれ、兄・忠一郎とは20歳近く年の離れた異母弟。母は18、9の頃、空襲での最中50近かった忠一郎の父と出会い、本妻でない事に引け目を感じることも無く良也を生み育てる。良也はやがて新聞社に勤務し社会部で記者として働くようになる。

 それぞれ、ほとんど互いを知る事無く育った二人の兄弟、考え方も育ち方も違いながら、各々忘れられない恋と、それを秘めたまま結婚し、初老を迎える。ふと立ち止まった時に甦るかつての恋人の姿、自分の過去、戦争、戦後。

 二人の人生と、二人と交わりながら逸れていった二人の女性。人生の岐路に立ち、偶然の出会いに呼ばれるまま良也は遠い昔に自分の元から突然姿を消した恋人の消息を辿る決心をする。元陸軍大佐の父を持つ茜は、母を早くに亡くし、肝臓を患う父を一人看病してきた。その父からも半ば公認のようであった筈の関係が、突如途絶えたのは何故なのか。そして、消えた茜を積極的に探せないまま、良也は唯々諾々と日々を過ごし今の妻と結婚する。子供がいないまま定年間近になってどことなく冷えた家庭、そんな中、茜の従姉妹と偶然に出会う。当時の茜のノートを読み返しているうち、取材の仕事と併せて茜の足取りを追うことに。彼女はバリ島へ渡っていた。まだ独身で居るのか、別れの理由は何だったのか。

 一方、戦後の日本を支えた起業家として成功を収めた忠一郎は、野戦病院時代から続く逆行性健忘症に悩むようになる。自分はあの戦場で、ジャングルを彷徨う中、戦友の肉を食べて生き永らえていたのではないか。戦争体験が経営者としての自分の原動力であり支えでもあったのだが。

 また忠一郎は在米の商社マン時代、ナチスの手を逃れリトアニアからアメリカへ亡命してきた女性・グレタと愛し合っていたが、生き別れになった家族の消息を知りたいと願う彼女は戦後リトアニアへと飛ぶ。当時リトアニアを抑圧していたソ連の弾圧の前にそのまま行方知れずとなる。生きていれば彼女は現在80歳。ナチスのユダヤ人迫害に勝るとも劣らぬ数の犠牲者を生んだソ連とリトアニアの実態を知らなかった当時、そして非の打ち所もない妻と二人の息子に恵まれた現在。妻の知らない女性の姿を追って、二人の男が旅に出る。

 テーマや時代背景から、現在放送中の「不毛地帯」に重なる部分が。割合好きな時代だったりテーマだったりすることもありほぼ一気に読めた。この作者の著作を読むたび、この時代を生きてきた人にとっては、思想なき書き手など薄っぺらく見えるのだろうな、とよく思うのだが、この本の中に「戦争を体験していない者はどうやって戦争反対を語ればよいのか」というテーマが一つあって、(主人公はこれで一つ悩む)さほど現代人の心、私を含めて、から乖離しているわけでもないぞ、とちょっとだけ妙に嬉しかったり。

 ひかりごけ、ウミガメのスープ、戦争体験で語られたり語られなかったりするけれども陰に必ずと云っていいほどついて廻る話がちらりちらり見え隠れする。
 「ひとのにくをくった、ひとのにくを」と夜中突然騒ぎ立て母に掴みかかる父、その背に薄紫の光背を見た、と茜はノートに綴っている。また、忠一郎は自分がジャングルでトカゲになった夢をみる。自分が食べたのは本当に大トカゲだったのか。

 「ひとのにく」というのを、「他人の食糧の肉を横取りして食べてしまった」という意味にとった。「そうでないとは知りながら」。

 仕事で「読まなきゃいけない本」を頑張って読んだ後の自分へのご褒美、でした。

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