「おもしろい」って、どういうことよ?

売れていないラノベ作家が「おもしろい」とはどういうことか、
日々悶々としています。

「いいからデレマス18話を見て来い」

2015年10月09日 | 日記
我が家の近所に、ケーキ屋さんが出来ました。
ちっちゃなちっちゃなお店です。
規模や内装から個人経営であることは想像に易く、うちの妻は改装工事をしているうちから「まだかな、まだかな」とそわそわ待機していました。見事なアーリーアダプターです。

さて某日、ようやく店舗がオープンしました。
カントリー調のとても可愛い店内です。
メニューは少な目でこじんまりとしていましたが、個人経営でいずれも手作りなら、そんなに品数も増やせないでしょう。飲食店でメニューを一品ふやすのがどれほどリスキーか、他人事ながら話には聞いたことがありますから、オープン当初はこんなもんかな?という感じで、さほど気にはなりませんでした。

接客に現れたのは若い女性で、コック服を着ていました。おそらく彼女が店主であり、パティシエールなのでしょう。少し緊張した面持ちなのがとても初々しく、応援したい気持ちになります。

店内には、友人や先輩から贈られたであろう開店祝いの家具や花。
お店を持つって、簡単なことではありません。
ここに来るまでにどれだけの苦難の道があったでしょう。

さて、肝心のケーキですが、先述したとおり品数は少なく、見た目も大変シンプルです。
そして何より、高い
うん、単価がとても高いのです。
不二家のケーキの2/3位のボリュームで、平気で800円くらいする。
シンプルなのに。シンプルなのに!!

まぁそれもこれも個人経営ですから、工場から運び込むより、どうしても原価が高くつくのでしょう。
こんなもんかな、と少し諦めにも似た気持ちで、私は妻と自分の分、ふたつのケーキを買って帰りました。

お土産片手に帰宅すると妻は大変喜び、早速紅茶を淹れてくれました。前々から気になっていたショップでしたから、期待値も高かったのでしょう。「美味しかったら通っちゃうかもね、こんなに近所なんだものね」と食べる前からウキウキです。二人で向かい合ってテーブルにつき、いざフォークをケーキに、

固ぇ。

なんだろ、こう、タルト生地がとにかく固い。
不味くはないんです、添加物のないナチュラル系のケーキがふわふわしてないとか匂いが素朴とかあまり甘くないとかよくある話なのでそこは店主の腕が悪いとも思わないし、不味いと言うほどでもないのです。
ただ、通うほど夢中になる味かと言えば……うーん。
別に普通

「これは麺吉の二の舞かもねぇ」
食べ終わると、妻がぽつりと言いました。
麺吉(仮名)とは、ケーキ屋が開店する前にテナントに入っていたらーめん屋です。美味しいお店だったのですが、この不景気の中、一年と少しで閉じてしまいました。
「そうかもねぇ」
食べ終わった皿を見つめながら、私は答えました。やはり少し小さかったらしく、やや食べ足りません。
「女子校がすぐそばにあるんだから立地はいいはずなのに、なんで活かさないんだろ」
妻の言いたいこともわかります。
ケーキ屋は、私立女子高と目と鼻の先。上手くやれば放課後に彼女らをキャッチ出来る筈です。たとえば100円のシュークリームを帰り道に食べるとか、150円のクッキーを放課後に買って帰るとか、いくつかシーンは想定できます。
けれどそこにあるのは一個800円のケーキ。
食べ歩きも出来なければ、高校生には敷居の高い金額です。
しかも、高校の少し先にはセブンイレブン。
400円も出せばヤマザキのショートケーキ(2個入り)が買えちゃうわけです。ふわっふわでボリューミィなやつが。

「手作りケーキだからヘルシーなのだろうとは思うけど……」
とは言えこの立地で、客層に合った展開とは思えません。しかし、それが店の方向性であり、店主のやりたかったことなら仕方ない。私たちが口を挟むことではありません。

それから数日後。
ポストに、ダイレクトメールが入ってました。住所が書かれていないので、おそらくポスティングされたのでしょう。差出人は、件のケーキ屋。ぺらりとめくると裏面には、可愛らしいショップの前でコック服を着てにっこりほほ笑む店主の姿が。


違ぇ――――――――――――――――――よ。
そうじゃねぇよ!!


長年の夢だった店舗をオープンして舞い上がりもするでしょう、そうでしょうとも。
でも、そうじゃないよ!!
お客にとっては貴女の夢なんて全く興味のない情報です。
いいからケーキの写真載せようよ!!
添加物のないナチュラルでヘルシーな手作りケーキなんでしょう?
その話をしようよ!!
どうしてこのサイズで800円もするのか、デメリットではなくメリットなのだと、コンセプトを納得させようよ!
貴女が嬉しい気持ちはフェイスブックに書き込もうよお友達がいいねするから!!



さて現在、私はとあるプロジェクトに参加させていただいています。
しかし、業績は芳しくありません。
各種媒体に広告を出してはいるものの、いずれも成果が出ていません。
広報について口を挟める立場ではないので黙って見守っておりますが、正直なところ、当然の結果のように思えています。
掲載誌がターゲットとズレている。
告知のタイミングが遅い。
スペックと価格と発売日の話だけで、作品の魅力を伝えていない。
恐らく、というか確実に、広報担当者はこの作品に触れていません。内容を理解していません。もちろん魅力もわかっていません。そんな状態で全くまっさらな人たちに「お客様になってもらおう」なんて無理な話に決まっています。
滅びゆくプロジェクトをぼんやりと眺めながら、私はただ、思うのです。

「いいからデレマス18話を見て来い」


松本大洋「GOGOモンスター」感想(ネタバレ含む)

2015年10月08日 | 日記
お久しぶりです。
どれくらい久しぶりなのかも思い出せないくらい久しぶりですが、ようやっと仕事も終わりが見えてきました。この二年、ずっとかかりきりだった案件がようやく幕を閉じそうです。その間体験したもろもろは主に辛い思い出ばかりですが、ひょっとしたら同業の皆様の手助けになるやもしれないこともありますので、そのうちぽつりぽつりと、身バレしない程度に遺していきたいと思います。

突然ですが、「GOGOモンスター」を読みました。
今更、で大変お恥ずかしい。松本大洋作品はいくつか既読ではありますが、こちらは初めて拝読しました。
本の所有者である妻からは「貴方の好みではないかもしれない」と言われていたのですが、いやなに、むしろ逆でした。私もユキの片足、とまでいかず1/4足くらいあちら側に突っ込んだ子供でしたので、ぽろりぽろりと泣けました。

妻は松本大洋ファンではありますが、「ピンポン」はあまり好きではないそうです。なんでも、「わかりやすくしすぎ」だとか。私はそのわかりやすさが松本大洋の親切心(あるいはこれまで「わかりづらい」と言われた数々の感想への保険)だと思うのですが、今作もクライマックス、特に雨のシーンは非常にわかりやすく、作者の親切心がよく出ているなぁと思いました。

何より、本が。
本の作りがこれ小憎い。

表2から溢れるほどの勢いで始まるユキの世界。
それが表3に到着している頃には「普通の本」になっているんですよね。

奥付も。
作者の既刊案内もある。

ごくごく普通の単行本に戻っている。
なんと憎い演出でしょう。完敗です。

音楽や絵にも言えることですが、言葉にできないものを表現することの素晴らしさ。可能性の広さ。
もしユキがマコトに出会ってなかったら、将来、作家になっていたかもしれませんね。
そう、松本大洋みたいな。