「おもしろい」って、どういうことよ?

売れていないラノベ作家が「おもしろい」とはどういうことか、
日々悶々としています。

自分会議

2015年03月13日 | 日記
 ふとした場所から、20年以上前に作ったバングルが出てきました。高校生の頃、課外授業で自分で作成したものです。
 当時私はこのアクセサリーを大変気に入っていました。確かに今見ても、少しだけ尖ったデザインで、けれどとっぴ過ぎず、なかなかの物です。けれども作りはかなり大雑把で、抜かなくていい手を抜いており、全体的に歪でガサツで、それが原因で全体的にチープな印象を与えます。
 なんとなくそれを利き腕に嵌めながら、心の中に当時の自分を召喚しました。
 キラキラネームも真っ青な、恥ずかしいペンネームだった私。
 毎日が楽しくて楽しくて仕方がなかった私。
 漫画家を目指して我武者羅だった私。……結局、漫画家は諦めて、ラノベ作家になった私を、彼はなんと思うでしょう。

「こんにちは、(痛ペンネーム)さん」
「こんにちは。ていうか自分にさん付けって変だからやめてよ」
「(このペンネームをダサいとは思わないんだな……)で、どう? 元気? 毎日楽しい?」
「楽しいよ! 早く学校行きたいから早く明日になって欲しい!」
「(ああ……そうだった。そんなだったな)」
「で、何か用?」
「(本当は、今回の作品がコケた相談をしたかったんだけど……お話を描くのが楽しくて楽しくてたまらなかった私に意見を聞きたかったんだけど)その前にお前のその格好なんなの」
「え」
「そのダサい服。ボサボサの髪。黒縁眼鏡。年頃なのによく恥ずかしくないな」
「そんなに変かな。別に困ってないけど」
「一緒に歩く友達は恥ずかしいと思うよ。それじゃ女にもモテないだろ」
「結構不自由してない」
「(そういえば何故かそれなりにモテてはいたな……なんだったんだ、あれ)でももっと痩せてファッションにも気を配ったらもっと人気出るぞ」
「どうしたらいいかわかんない」
「ファッション誌買えよ! 千円かかんないだろ! 気恥ずかしいのも抵抗あるのもわかる。でも、ただ真似するだけでいいんだよ。スタンダードで無難なのが一番『ウケがいい』ってことなんだよ!」
「ふーん」
「(コイツやる気ないな……)」
「で、未来の俺は何を聞きたいの」
「う。うん。お前には申し訳ないけど、将来の私はあんまり、というかてんで売れてない作家でね。今回も自分にとってはなかなかに大きなプロジェクトの中核をやらせてもらったんだけど、全然上手くいかなくてな。正直、コケた。何が悪かったのか、どうしたらいいか、八方ふさがりで……」
「雑誌でも見なよ」
「え」
「アンタが言ったんじゃん。ファッション誌買えよって。アンタもアニメ雑誌なりゲーム雑誌なり買ってトレンドでも勉強したら?」
「あー……うん。けど、まぁ言いたいことは分かるけど見たまま真似すればいいファッションとは違って作品作りって、」
「同じだよ。流行ってる物のキーワード抜いて組み合わせてもいいし、そのままガワをパクってもいい」
「…………」
「アンタのことだから『アイドルとか魔法少女とか流行りのワードだけ抜き出して会議室で決めたようなコンテンツは許せない』って言うかも知れないけどさ、それで相手は儲かってんだろ?」
「でもそれは会社の規模が」
「規模が大きかろうとなんだろうと、とにかくビジネスは成功してる訳だ」
「…………」
「ガワパクってもそこに自分なりのアレンジとか個性とか加えればいい、とか図々しいこと考えるなよ。そんなの要らないんだよ。そういうのは基本をマスターした人だけに許される行為なんだよ。お洒落だってそうだろ、ファッションのこと分かんない奴が個性とか言い出すと突然髪に派手なメッシュ入れたり勾玉のペンダントしたりするだろ」
「痛い」
「図々しいんだよ」
「返す言葉もありません」
「まずは仕事として形になってから個性とやらに挑戦しなよ。体裁整ってない人の意見なんか誰も耳を貸さないよ。デブにファッション語られたくないでしょ」
「はい」
「あと、人のせいにするのも止めな。人間関係ってのは鏡なんだからさ、信用出来ない相手しか周りに居ないとしたら、アンタがその程度の、使えないレベルの人間だってことだよ。使える奴はどっからでも声がかかる」
「はい」
「他に聞きたいことは?」
「……お前は今回の作品、どう思う?」
「よく覚えてたなって思う」
「ん?」
「これ、元ネタアレだろ? 高一ん時文化祭で描いた漫画」
「ん? ……あー!!」
「な」
「確かに。うん、そうだ、あのキャラをアレンジして同人誌で出して、改稿して文庫にした奴を、更に改変して今作になってるんだった! あーなるほどな。そうだ、原点は高校生の頃だ!!」
「嬉しかったよ、自分の描いたモノを商品にして貰えたの」
「…………」
「主人公カッコいいじゃん」
「うん。理想の男だよ」
「ヒロイン可愛いじゃん」
「これ以上に可愛いヒロイン、誰か描けるもんなら描いてみろって思ってる」
「可愛いと思うよ、ベジータみたいで」
「それヒロインに対する褒め言葉かなぁ」
「あ、もう行くわ」
「もう?」
「『やっぱり猫がすき』始まるから」
「懐かしいなぁ」
「じゃね」
「ん」

 バングルは確かに歪で、拙くて、安っぽくってダサくって、着けて歩くのは恥ずかしい品かもしれませんが、やっぱりこのデザイン好きだなぁと、しみじみ思った次第です。