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北辰夢想夜話

Com-Payこと根道和平の日記。日々思う事をそのまま書いております。

久遠の揺籠

2007-05-24 19:18:09 | 春の足音
(まえがき)
 ちょっとしたネタテキスト。続編が必要ならば書きます。一応言っておきますが、フィクションですよ。

(ほんぶん)
 久遠賢志(くどうさとし)が生まれたのは17年前のことだ。現在が西暦2047年とするなら、彼は2030年生まれと言うことになる。それは問題じゃない。一つ問題があるなら、彼が受け継いだ血のことだ。
 父親である久遠直俊(くどうなおとし)は世界的光学メーカー久遠光学の跡取り息子、母親である神宮司由美(じんぐうじゆみ)は神宮司財閥の当主の娘だ。久遠光学と神宮司財閥は昔から仲が悪い。しかし、それも問題ではない。
 神代から続く古き血、異能者の血族である久遠、神宮司はそれぞれにある特殊な能力を持つ。久遠の一族は結界を用いる能力者を多く輩出する一族で、別名は「魔眼殺しの久遠」と呼ばれるほどに、相手の能力を著しく減衰させる力を持つ。神宮司の一族は慧眼と呼ばれ、「見る」ことに特化している。別名は「神宮司の魔眼」。特に当主の一族は未来視の能力を持ち、その能力を生かして大きく勢力を伸ばした。
 ここでおわかりであろう。この二つの血族は能力的にかなり相性が悪い。攻めに強い神宮司、守りに強い久遠、まさに盾と矛である。

 久遠賢志が如何にして、この世に生まれたか……。簡単な話「出会った」そして「惹かれ合い」、「結ばれた」。これらについて少しずつ語ろうと思う。

刹那的な僕等、不定形の少女 その14

2006-12-18 22:58:12 | 春の足音
※注 この物語はフィクションです。

 カフェ・ド・ルージュは昭和初期に建てられた落ち着いた外観とリーズナブルで美味しいコーヒーで人気を博している喫茶店。瑠璃原市内の商店街の一角にそのお店はある。建物とは違って創業自体は十年ほど前で、その前は久遠光学の本店の置かれていた建物である。オーナーは久遠俊樹という三十代前半の男性で、東京のあるカフェで修行しただけあって、コーヒーだけではなく、気の利いた軽食やスイーツなんかも美味しいと評判。お昼はOLを中心にビジネス客でごった返すが、夕方頃になると様々な年齢層で賑わうのがこの店の特徴である。

 久遠直樹の親類(彼から見て叔父にあたる)が経営するこの店には社長室と書かれた札のある扉があり、その部屋は常連の予約がなければ使えない部屋として、一般的に知られている。盗聴器、監視カメラ掃除済み、ネットにおける防火壁も会社並に優れているため商談や会議などで使われることも多い。学校ではできない相談をするときにはもってこいの場所である。

 今日ここに集合したのは桜川美耶子の件だった。彼女の自殺を信じられない人間だったり信じない人間だったりする。
 一番最初に口を開いたのは空谷だった。
「狩野、メッセージでも送ったが生徒会からの正式な依頼だ。桜川美耶子の死に関する調査を依頼したい。会長からの委任状も預かっている」
狩野が差し出した封筒を受け取る。
「で、代償が……会長を一日自由にする権利……あの人らしいな」
開いた文面を横から覗いた久遠が口を挟む。
「依頼は受けよう。名前は明かすことができないが別口からも調査の依頼が来てる。急ぎではないが、殺人犯が学校をうろちょろされるのも困る」
「狩野君」静かだがはっきりと冷たさがわかる声で「一体誰が彼女を殺したの?」結子が狩野に問いただす。
「和子も気になる」
 皆の視線が狩野に集中する。
 一口だけコーヒーに口をつけ、カップをソーサーにおいて狩野が口を開く。
「サイバネティクスの移植者しか考えられない」
 サイバネティクスとは事故や病気などで失った手足のかわりに機械で代用する方法、およびその人工的な義肢のことを呼ぶ。数十年前と比べて格段と進歩した技術のお陰で、工業用のパワードスーツ(と言っても外骨格でマスタスレイブ方式の操作ができるもの)なども実用化されており、X線や磁気などの探知にはひっかかるものの、日常生活を送る上では欠かせない技術の一つとなっている。
「確かに、義肢系のサイバネティクスを利用すればできない事じゃないね」
 久遠は思ったことを口に出した。
「ただ、ウチの学校には結構いたはずだし、桜川美耶子の関係者だとしたら結構な数にならないか?」
「確かにそうだな」と空谷が言う。
「実際に、調べたところ義肢使用者は十人、パワードスーツの免許を持っている人間は百人以上いる」
「また、クラッキング?」結子が顔をしかめて言う。
「まあ、気にするな」
「で、水泳部関係者はどうなんだ?」
「それがほとんどいないんだ」
「え?」
「いると言ってもマネージャーの嵯峨野で桜川をいじめていた連中ではない」
皆が考え込むような空気に取り込まれる。少し経って口を開いたのは結子だった。
「私の知ってる限りでは、彼女がそんな事するとは思えないわ」
「そだね。私も彼女と一緒になったときあるけどこういう事に関わるタイプじゃないよ」と和子もそれを支える形の発言をする。

「必要なのは動機なんだ。少なくとも生徒会による予算に対するものなのかどうかが知りたいんだ」
「少なくとも彼女が水泳部の予算に関してかなり調べていたことがわかっている。そして、彼女がやったことが結果的に何かを招いたのは確かだ」
「最初の前提が間違ってる可能性はどうなんだ?」久遠が口を挟む。「まず最初に桜川が殺された件の直接的な理由として挙がっているだけなんじゃないのか?」

続く

刹那的な僕等、不定形の少女 その13

2006-12-12 01:24:20 | 春の足音
※注 この物語はフィクションです。

インターミッション

 彼女は知りすぎたのだ。だから殺された。
 我々としては知られてはいけないことだった。

 これ以上知られるわけにはいかない。
 だから、彼女を自殺に見せかけて殺したのだ。




 本当にこれで良かったのだろうか?
 確かに桜川美耶子を殺したのは私だ。他の誰でもない。

 自分が生きるためとはいえ仕方がないことだ。
 あの人が安心して暮らすためでもある。

 私の大切なあの人のためだから……。




 疑いはあった。
 だから、彼に調べさせている。
 この街で奴に恨みを持つ人間は多い。
 彼なら、やってくれる。
 そう信じて私は待つことにした。




 連絡があった。
 いつものこととはいえ、準備はしておこう。
 兄貴の忘れ形見の頼みだ。断るわけにはいかない。
 あいつが真実にたどり着くことを願いつつ、仕事に戻ることにした。

刹那的な僕等、不定形の少女 その12

2006-12-08 21:58:42 | 春の足音
※注 この物語はフィクションです。

 そろそろ帰ろうかと図書室を出たときだった。モバイルウェア着信があり、狩野から空谷のメッセージが転送されてきた。付け加えられたメッセージには「1800、いつもの場所で」とだけ書かれていた。今は17:20、今から向かえば十分に間に合う。
 いつもの場所というのは久遠賢志の叔父である久遠雅志が経営している喫茶店のことだ。そこには行きつけの人間しか入れない個室があり、何か事件の相談の際は狩野や相談者とそこで話すことにしている。

「さとくん」
 振り向かずに無視。関わると時間の無駄と心に命じながら、下駄箱へと向かう。
「ねえ、さとくんってば」
 声の主はもう十年以上も聞き慣れた人物。関わるとろくな事にならないと思いつつ、更に足を速める。
「むー」
 いきなり背中から、タックルされる。体を掴まれるが、それでも引きずって歩く。
「つっかまえた~」
 足を止めて、一つため息をついて、その人物の名前を口に出す。
「わんこ!」
 彼女――神宮司和子の活発さの象徴でもあるポニーテールが自分が気がついてくれたことを喜ぶように跳ねて元に戻る。
「やっと気付いてくれた」と満面の笑み。
「時間の無駄だから、とりあえず、止めてくれないか?」
「いつだって、私はさとくんに用事があるよ」
 生まれた頃からの付き合いとはいえ、ここまで愛情表現を露骨に出してくる奴は世界中何処を探しても和子くらいだろう。同じ従妹で彼女の双子の妹である結子と足して二で割ってくれるとちょうど良い位なんだが、彼女は彼女でかなり問題のあるコミュニケーションを取るから三で割った方が確実だろう。
「で、わんこ、何の用事だ? 急いでるから手短にな」
「桜川さんの件でちょっと調べたいことが……」
「ついてこい、その件で話を聞きたい人間に会うことになってる。コーヒーおごってくれるならついてきても良いぞ」
「普通、男が女におごるもんでしょ」
「なら、来るな」
「むー。勝手について行くもん」

モバイルウェアのリモコンを操作しマイクに一言告げる。
「わんこ追加」

刹那的な僕等、不定形の少女 その11

2006-12-08 00:00:48 | 春の足音
※注 この物語はフィクションです。

 空谷豊が生徒会室戻ってくると神宮司結子が女生徒と話していた。背は男子の平均と変わらない長身、髪はあごのラインで切りそろえられ、紫のヘアバンドをした女傑と言えば、この人しかいない。男子からはもちろん女子からもラブレターが来るほどの精悍な女性である生徒会長、竹見香奈その人であった。
「会長、戻ってきてたのですか」
「特に成果はなかったけどね」
 あまり期待はしていなかった。
「とりあえず、わかってることから話すわ」
「美耶子ちゃんをいじめてた連中のことだけど、この前の事件の水泳部の杉田、木田、鎌田の三人組ね」
「やっぱりそうでしたか」
 これも予想通りだった。
「あいつらが私の美耶ちゃんをいじめてたのは、許せない。でも殺人を犯すようには思えないのよ」
「確かにそんな感じがしますね」
「私も同意」と神宮司結子が口を挟む。
「空谷君、そう言えば水泳部の部費って結局どうだったんだっけ?」
「部費を私用で使い込んだ水泳部の三人組が情報提供者の三鷹君によって発覚して、調査を狩野に頼んだ。そうしたら水泳部の前部長、三年の広瀬先輩の実家であるヒロセフィットネスクラブが無料でプールを水泳部員に貸して、その浮いたお金を貯めていたのは憶えてますか?」
「そうだったわね」
 その後、前部長と前会長との協議の結果、部費の返納と今年の予算がゼロと言うことになった。来年以降からは部費が支払われることになっているが、使用時には生徒会のお守りがつく予定となっている。そして、来年まではプール代金に関しても、個人負担となった。まあ、水泳部に必要なのは練習場所と試合用の水着だけと言うわけで、予算はきちんと調べて見積もりを出してもらった上でそのぎりぎりの範囲で出すと言うことになったわけである。
「まあ、この件は解決したはずなんですけど。桜川さんが予算を握っているという誤解から矢面に立たされたような感じでしたね」
「わかってるんだけど腑に落ちないのよ。だって何で桜川さんはそんな些細なことで自殺したの?」
「それは……」
「だってそうじゃない。彼女と最後に会った人間として言わせてもらうけど。彼女は亡くなる直前まで笑顔でいたのよ。それも全然無理した笑顔じゃなかった。あれがこれから死のうとするような笑顔だって言われたら、みんな死んでしまうように思うんだもの。そう、誰かに殺された。そうとしか思えないもの。だから私は調べようとした。でもわからなかった。それが一番悔しい」
 会長は今にも泣き出しそうな顔をしていた。少し考えて言葉を紡ぐ。
「ちょっと狩野を当たってみます。あいつなら何か知ってるかもしれない」
「この前の時と同じくらい期待しても良いの?」
「彼が知らなくても、僕が何とか調べてみます。大切な同志を失ったのは僕も同じですから」
「お願いね」

 生徒会室から出て誰もいないことを確認すると、モバイルウェアを取り出して、狩野へとメッセージを送る。

「桜川の件で話がある。時間があるならすぐに会いたい。代償はエトワールのコーヒーで」

続く

蛇足 他愛もない会話
「そう言えば三年の先輩に次の被害者は僕かもしれないから気をつけるように言われましたよ」
「困ったわね。あなたがいなくなると来期の引き継ぎがかなり苦しくなるんだけど」

刹那的な僕等、不定形の少女 その10

2006-12-06 23:08:33 | 春の足音
※注 この物語はフィクションです

 久遠賢志と狩野勇介は屋上に来ていた。桜川美耶子が飛び降りたとされる場所である。ここに入るためにちょっとしたテクニック(ピッキング)を使ったのは狩野である。本来なら生徒会室に言って鍵をかしてもらえるのだが、桜川の自殺によって鍵は教師が全て管理するようになってしまった。まあ、狩野はあまり人には言えない用事でここに来るため扉を開けるための道具が手元にあったりするのは久遠のみが知っている事実である。

「お前の話は本当だったんだな」
 ここに来る前に言われたように屋上のフェンスには変形した跡があった。それも普通の女子では壊せないような手すりが壊れていた。
「毎日のように観察してたからな」
 そう言って、狩野は鞄からシガーケースとZIPPOを取り出すと手慣れたように煙草に火をつける。彼が毎日のように屋上に来ていた理由だ。
「少なくとも彼女が死ぬ日までは、こんな形跡はなかった」
「どういう事だ?」
「彼女を死に追いやるために誰かがやったとしか考えられない。それも短時間でそれなりの知識を持った人間が入り込んだ可能性がある。少なくとも校内に工事関係者が入った形跡がない以上、校内の誰かがやったとしか考えられない」
 狩野が言っていることはほぼ事実だ。しかし、誰が何のためにどうして彼女を殺す必要があったのかが疑問なのだ。
「ここからが、俺の仕事か」
「そう言うことになる。このような知識を持った人間、この手の特殊技能を持った人間、殺害の実行犯、そしてこの事件の黒幕、少なくとも一人、多くて数人を突き止める」
「わかったよ」
 狩野は煙草の火を消すとクロムメッキの吸い殻入れを取り出し、喫煙の証拠を消す。
「生徒会も動いてる。空谷と神宮司妹が何かをつかんでる可能性があるから、あいつらと協力して動くことを勧めるよ」

 校庭を眺めると女子のラクロス部が練習を始めていた。里中さんが上級生たちに混ざってゲームに参加していた。

刹那的な僕等、不定形の少女 その9

2006-12-05 23:31:03 | 春の足音
※注 この物語はフィクションです。

 神宮司結子は珍しく体育館に来ていた。体育倉庫の物品調査が目的だった。文化系イベント用の物品チェックと言うべきだろう。埃まみれになりながらも、何とか目的の物が揃っていたことは突き止めた。それから生徒会室へと戻ろうとしたときのことだった。
「神宮司さん」
聞き覚えのある声に呼び止められる。
「嵯峨野さん」
 同じクラスの嵯峨野ゆきよ――水泳部だったことは記憶しているが、大会には出ていないらしい。
「珍しいね。神宮司さんがこんな所に来るなんて」
「まあ、今度の全校俳句大会で使う資材の調査って所、体育倉庫に仕舞ってたから、使える状態にあるかどうかチェックしに来てたの」
「ふーん、そうなんだ」
 結子は思った。嵯峨野さんそう言えば水泳部だったわね。この時間他の部員たちが何をしているのか聞いた方が良いかもしれない。
「嵯峨野さん、ちょっと話が変わるけど良いかしら?」
「はい、何でしょうか?」
「水泳部の他の人たちは?」
「……今日はプールが使えないから、自主トレになってるの」
「自主トレってあなただけ?」
「まあ、他の部員は家に帰ってからトレーニングするって言ってました」
「そう、わかったわ。ありがとう」
「神宮司さん、何でそんなことを?」
「ちょっと聞きたいことがあってね」
「桜川さんのこと? 彼女は自殺だって……」
 図星だった。ここは正直に言うことにする。
「まあ、水泳部と生徒会側のいざこざが発端になってる可能性があるからね。生徒会としては今後調査するって事だけはみんなに教えてあげてちょうだい」
「わかったわ、なるべくみんなに伝えておくわ」

 水泳部員が一人で活動することが希でないにしろ。彼女が一人でいることの方が多いのが少し気になっていた。事件との関連性は薄いにしろ、これも参考に入れておくべきだと神宮司結子は考えた。

刹那的な僕等、不定形の少女 その8

2006-12-05 00:01:13 | 春の足音
※注 この物語はフィクションです。

 空谷豊にとって、天気図制作の結果、トップでAチームにはいることができたのはこの週の最大の幸運と言って過言ではないだろう。Bチームで使われる旧世紀の遺品である三角テントは張るのも大変だし、寝ているとすきま風が入ってくるような代物である。そんなわけで、彼はパソコン部室にて遠征のしおりの作成を行っていた。
 しおりと言うのは修学旅行のしおりに近いのだが、注意事項だけじゃなく装備リストや緊急連絡先から遠征地のラジオの周波数まで、ありとあらゆる情報が詰まってる。果ては遺言とだけ書かれたページまである。
 これを毎回内容をチェックしつつ、装備品の調整や連絡先などを書き換えて毎度作っているのだ。モバイルウェアが発達したとはいえ、紙媒体の薄さと軽さにはまだ勝てないのが現状だ。そう言った理由でパソコンとプリンタが必須で、遠征前には毎度部長が来る理由となっている。

「空谷」
「ああ、三鷹か」
振り向いた先には三鷹がいた。
「また、遠征か?」
「ああ、今度の秋の大会用。もしかしたら雪が降るから少し重装備になりそうだ」
「大変だな。遭難はするなよ」
「大丈夫だ。集団で登る上に滅多なことでコースを外れるわけがない」
「そういうことか」
「そう言うことだ」

「そうだそうだ、空谷、お前のことを神宮司が探してるぞ」
一瞬、結子の顔が思い浮かぶが、一応聞いてみる。
「姉と妹どっちだ?」
珍しい名字だが、同学年に二人、それも双子だから名字だけ言われると正直困る。三鷹は一瞬天井を見て、向き直って答える。
「姉の方」
「なんでだ!?」
 驚いたのは無理もない、神宮司和子とは縁もゆかりもないのだから。クラスも違えば校内での行動範囲も違う。神宮司結子とは生徒会の活動でよく顔を合わせてるから問題はないのだが、彼女が姉の話をしないことは生徒会の七不思議の一つとして数えられている。噂で聞く限りだが彼女が通った後は何かが破壊されると言うことで有名らしい。それが人間であるときもあるから、人間台風の異名を取るそんな女生徒らしい。
「例の水泳部のネタ。うっかり口をすべらしちまって、多分あいつ、聞きに来るぞ」
「なるほどね」
「そう言うことだ。まあ、気をつけろよ」

 どう気をつけろと言うのだろう。
 とりあえず、部室で待ってる連中に気をつけるようにとだけは警告しておこう。

刹那的な僕等、不定形の少女 その7

2006-12-04 23:34:25 | 春の足音
インターミッション

 桜川美耶子は殺された。
 自殺に見せかけての殺人。

 そう、われわれは判断した。
 判断した理由は次の通りだ。
(1)自筆の遺書が見つかっていないこと
(2)彼女がトラブルに巻き込まれていたこと
(3)彼女は自殺するような精神状態ではなかったこと

 だから、駒を動かすことにする。
 我々は学校の中で動きにくいからだ。そして、彼は情報収集者(エージェント)として優秀だから、決して裏切ることはないから我々は彼にこの事件の調査を託した。

刹那的な僕等、不定形の少女 その6

2006-12-01 23:29:07 | 春の足音
 その日、三鷹明裕は部活の買い出しのため商店街に来ていた。実を言うと後期分の部費が支給され、ほとんどの部活で買い出しやら出入りの業者との折衝が始まる日でもあるのだ。パソコン研究部の目的は部活で使っているメインマシンの強化のため新しいメモリとハードディスクの購入である。そう言ったわけで部長である三鷹が商店街のPC関連の店をまわっていた。少なくとも、水泳部女子の姿を見るまでは……。

 ファーストフード店で休んでいるときのことだった。個人所有のモバイルウェアを開いて、これまでの見てきた店での交渉した値段とネット通販との見比べてどちらで買おうかと考えていた。他の部員からこの件に関しては完全に任されているため、なるべく予算を浮かして、消耗品(主にプリンタのインクと紙類)を多く購入しようと考えていた。
 そんな時だった、ちょっと騒がしいと思ってレジを見てみるとウチの学校の制服を着た女子の一団がいたのだ。なにやら封筒からお金を出している様子が見えた。よく見てみると見覚えがあった。水泳部の女子たちだ。ルール違反だ。部費として支給されたお金、少なくともここで使うような物ではない。

「それで、どうして桜川さんの一間に繋がるわけ?」
神宮司和子がふと疑問を口にする。
「空谷にこのことを言ったんだ」
「なんで生徒会監査の空谷君がここで出てくるわけ?」
「山岳部とパソ研は長年の協力関係にあって、予算について話したことがあったんだ。その時にこのことを話した」
「ふーん、それで?」
「水泳部はここ最近成績が芳しくないから、生徒会としては予算を減らす方向で動きたいと前々から思っていたらしい。それに予算の使い方についても何かおかしいところがあるって前々から疑われていたらしい」
「なるほどね。減らされるべきして減らされたって感じ?」
「そんなところだろうね。多分生徒会が調査を行った可能性は高い。そしてその調査を元に水泳部の予算をきっちり減らした。それを逆恨みした結果、攻撃の矛先が桜川さんに向けられたのだと思う」

 どうすればいいのか? 彼女の死の責任は何処にあるのか?
 彼女が死んだ理由、それがわからない。彼女が自殺するような人間ではないことは確かだ。水泳部の犯行なら必ず真っ先に疑われる。たかが部費のためにそう言うリスクを負うだけの価値はない。

「ありがとうね」
そう言って、神宮司和子は駆けだしていた。