先週試写で、とっても素敵な日本映画を見せていただきました。松竹が作っている「シネマ歌舞伎」シリーズの最新作で、市川染五郎(撮影当時。現、松本幸四郎)の弥次さんと、市川猿之助の喜多さんが活躍する『東海道中膝栗毛(とうかいどうちゅうひざくりげ) 歌舞伎座捕物帖(こびきちょうなぞときばなし)』です。「シネマ歌舞伎」のシリーズは、2005年1月15日に公開された『野田版 鼠小僧』(演出:野田秀樹/出演:中村勘三郎、坂東三津五郎)から始まって、2018年1月13日に公開された第30弾『京鹿子娘五人道成寺/二人椀久』(出演:坂東玉三郎、中村勘九郎、中村七之助、ほか)まで、途中ちょっと間が空いたりしながらも、年2、3本のペースで作られ続けてきました。歌舞伎で上演されたすべての演目が「シネマ歌舞伎」になっているわけではないのですが、外部の演出家が起用された斬新な狂言を中心に、多くの演目がスクリーンに焼き付けられています。
今回「シネマ歌舞伎」化されたのは、2017年8月の歌舞伎座公演の『東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖』。つい、「昔の名前で呼んでます」になってしまうのですが、亀ちゃんと染ちゃんこと、市川猿之助と松本幸四郎が普段とは違うトボけた顔と演技を見せてくれる『東海道中膝栗毛』の第二弾で、その前年2016年8月の公演『東海道中膝栗毛(やじきた)』もシネマ歌舞伎化されています。まずは、出演者やおおまかなストーリーを知っていただくために、チラシを貼り付けてしまいましょう。
チラシでは字が小さくて見にくいかも知れないので、映画のデータとあらすじ等を付けておきます。「シネマ歌舞伎」の作品を皆様にお届けする≪月イチ歌舞伎≫のマスコット「かぶきにゃんたろう」がとってもかわいいので、区切り線の代わりに登場してもらいました。このロゴができたのはだいぶ前ですが、お知らせが配信されてきた時から、いつか使ってみたいと思っていたのです。
シネマ歌舞伎『東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖』
■2018年/110分
■製作・配給:松竹
■公開日:2018年6月9日(土)
■公開情報:東劇ほか全国56館で公開
■料金:一般当日2,100円/学生・小人1,500円
特別鑑賞券(ムビチケカード 公開前日まで販売):1,800円
■公式サイト
■作品紹介
《口上》
歌舞伎座の夏芝居の風物詩として好評を博してきた『東海道中膝栗毛』。
平成二十八年歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」ではお伊勢参りの途中でラスベガスにまで行ってしまうという新たな弥次喜多の物語が上演され話題となり、翌年にはシネマ歌舞伎として公開されました。
そんなお馴染みの二人が活躍する今回の物語は歌舞伎座で殺人事件に巻き込まれていく推理劇!
弥次さん喜多さんのお騒がせコンビが奇想天外な謎に挑む、"やじきた"初のミステリーを映画館の大スクリーンでお楽しみください。
《あらすじ》
お伊勢参りから江戸へと戻った弥次郎兵衛と喜多八。
伊勢までの道中で一文無しとなった二人は、仕方なく歌舞伎座でのアルバイトを再開します。
劇場では連日大入り満員で芝居は大盛り上がり。
しかし、舞台裏では俳優の悪い噂が流れ不穏な空気が。
一方、弥次喜多の二人は相変わらずの失敗続き、怒られてばかりの日々。
そんなある日、舞台で殺人事件が発生! 弥次喜多の二人は犯人として疑われてしまい…
以前、「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」の時には詳しい鑑賞レポートを書いたのですが、今回はそれはご覧になってのお楽しみ、ということで、ちょこちょこっとさわりだけ書いておきましょう。冒頭は、いなせな大道具係の棟梁(中村勘九郎)が出てきて、歌舞伎っぽく話が進むかと思いきや、前作で最後に花火に吹き飛ばされてボロボロの格好になった弥次さん(市川染五郎)と喜多さん(市川猿之助)が、歌舞伎座へと吹っ飛んで来ます。ここの宙乗りが、まず迫力満点。
©松竹株式会社
続いて、旅姿の少年剣士2名(松本金太郎(現、市川染五郎)と市川團子)が登場すると、楽屋ネタがいろいろ出てきて笑わせてくれます。ご存じのとおり&現在の名前からもわかるように、松本金太郎は弥次さん役の市川染五郎(現、松本幸四郎)の息子で、もう一人の市川團子は市川中車、つまり香川照之の息子。喜多さん役の市川猿之助は、お父さんである市川中車の従弟にあたることから、これも親戚関係にあります。そういった関係が下敷きとなって、喜多さんがギャグをかましてくれるのです。この少年剣士2名は、その後も推理の冴えを見せてくれたりと結構出番があり、そのさわやかさで父親世代を喰ってしまっていました。そうそう、市川中車もエグいご面相の座元役で出演しているのですが、役名が何と「釜桐座衛門(かま・きりざえもん)」。これを同心らが「かまきり」と呼ぶもので、そのたびに「かま・きりざえもんにございます」と訂正する、というギャグも入ります。これも、某テレビ局の「香川照之の昆虫すごいぜ!」が元ネタなわけですね。「かまきり」なだけに、喰われるのも致し方なし、というところでしょうか。
©松竹株式会社
そして、舞台上の歌舞伎座で通称「狐忠信」の舞台稽古が始まりますが、次から次へと人が死んでいき...というわけで、弥次さん喜多さんの二人が奉行所同心を助けて事件解決に乗り出します、というかそんなにカッコいいものではなくて、二人がわあわあ言っているうちにやがて容疑者は2人にしぼられます。そこで登場するのが、何とも意表を突く「どちらを取り調べまSHOW」というショー仕立てのイベント。チラシの裏面の一番上に出ている写真や下の写真がそうなのですが、AとBの小舞台に容疑者をそれぞれ立たせ、どっちを取り調べるかを客席の拍手で決めようというものです。このイベントを始め、いろいろ斬新なアイディアが出てくるのがこの演目の素晴らしいところで、これは構成を担当した杉原邦生のアイディアによるものではないかと思われます。それを市川猿之助が、もう一人の脚本家と共に脚本に仕立て、猿之助が演出も担当しています。
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実際の歌舞伎座の舞台も素晴らしかったのだろうと思いますが、「シネマ歌舞伎」のいいところは、様々な映画的処理で舞台をさらに立体的に見せられるところ。今回も、舞台真下からのあおりの構図で撮られたカットがあったり、ロングショットとアップとをうまく使って芝居のリズムを加速させるなど、映像ならではの処理で楽しみが倍加していました。これまでにも「シネマ歌舞伎」は、『連獅子/らくだ』(2008年/「連獅子」監督:山田洋次/出演:中村勘三郎、中村勘太郎、中村七之助、「らくだ」演出:榎本滋民/出演:中村勘三郎、坂東三津五郎)、『海神別荘』(2012年/演出:戌井市郎、坂東玉三郎/出演:坂東玉三郎、市川海老蔵)等々何本か見てきたのですが、『東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖』は一番映像化に向いている演目では、と思いました。宙乗りの撮り方にもう一工夫あれば、さらに迫力が増したと思います。と言っても、歌舞伎座でドローンを使うわけにもいきませんが...。
©松竹株式会社
「シネマ歌舞伎」はいくつかDVD化されているものもあります。また、松竹の方にうかがったところによると、海外での上映も、全部ではないものの、何本かが英語字幕で上映されているとか。いやいや、これこそまさに「クール・ジャパン」を発信するのにはドンピシャの素材です。「これがカブキ?!」と海外の人々を驚かせるに違いありません。英語字幕付きDVDを販売して下さったら、海外の映画人へのおみやげに絶対買っていきますとも(その時は、もち、リージョンフリーでお願いします)。海外の衛星放送テレビとかにも売れるコンテンツではないでしょうか。前述の「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」なら、インドに売れますよ、絶対。
©齋藤芳弘、松竹株式会社
とまあ、あれこれ妄想が広がってしまった『東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖』でしたが、6月9日(土)から全国公開です。ご興味がおありの方、ぜひご覧になってみて下さいね。