アジア映画巡礼

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陳木勝(ベニー・チャン)監督の遺作『レイジング・ファイア』のド迫真力を目撃せよ!

2021-12-15 | 香港映画

あと10日でクリスマスですね。そのイブの日、12月24日(金)に公開となるのが、近年にまれな迫真力を備えた香港映画『レイジング・ファイア』。11月の東京国際映画祭で上映された時は見逃してしまったのですが、見なくて正解でした。こんな作品見た日には、次の日から他の作品が見られなくなっていたかも知れません。というわけで、クリスマスイブに恋人と見る映画としてはちょっとオススメできませんが、今年の〆に歯ごたえのあるしっかりした作品を見たい、と思っておられる方には赤丸付きのお勧めの1本です。まずは、作品のデータをどうぞ。

『レイジング・ファイア』 公式サイト
 2021年/香港・中国/広東語/126分/原題:怒火/英語題:Raging Fire
 監督:ベニー・チャン(陳木勝)
 主演:ドニー・イェン(甄子丹)、ニコラス・ツェー(謝霆鋒)、秦嵐(チン・ラン)
 配給:ギャガ
12月24日(金)よりTOHOシネマズ日比谷他全国順次ロードショー

©Emperor Film Production Company Limited Tencent Pictures Culture Media Company Limited Super Bullet Pictures Limited ALL RIGHTS RESERVED

張崇邦(ドニー・イェン)は張Sir=チョン刑事、あるいはあだ名の阿邦や邦主からボン(邦)と呼ばれている、職務に忠実で正義感の強い警官でした。仕事を持つ妻(チン・ラン)は現在妊娠中で、愛妻家のチョンはいつも妻の身を案じていましたが、そんなチョンに先輩のイウ刑事(呂良偉/レイ・ロイ)は自分の子供達がかつて使ったベビー用品をプレゼントし、融通が利かなくて上司に睨まれているチョンを心配するのでした。チョンの同僚でポウ(寶)と呼ばれている袁家寶(譚耀文/パトリック・タム)は、チョンの杓子定規な事件の処理を改めさせるよう上司から命じられ、設けられた酒席にチョンを呼び出しますが、チョンは席を立って帰ってしまう始末です。

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しかしそのチョンの振る舞いによって、イウ刑事が画策していたマフィアの取引現場への出動から、チョンの隊だけがはずされます。それは香港マフィアとベトナム・マフィアとの取引で、大量のヤクと現金が動くことから、イウ刑事とチョンがずっと好機をうかがっていた事案でした。ところがイウ刑事たちが出動し、身を隠して事態をうかがっていたその取引現場を、仮面を着けた謎の5人組が襲って、マフィアたちはもちろんのこと、警官隊も殲滅して逃げ去ります。場所を突き止めてチョンらのチームが駆けつけた時には、イウ刑事も5人組のリーダーによって命を奪われてしまっていました。5人組のリーダーは、まだ若い邱剛敖(ニコラス・ツェー)で、ンゴウ(敖)と呼ばれていましたが、実は彼ら5人はチョンとは浅からぬ因縁のある一団だったのでした...。

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冒頭、チョン刑事が雨の中、ある男を囲んで暴行している6人の元に駆けつけようとするシーンが出てくるのですが、チョンの夢落ちで処理してあるものの、これが現在に至る事件の発端となります。このあたりの脚本が実にうまく、脚本にも加わっているベニー・チャンの作劇の腕にうならされます。映画が始まってしばらくは登場人物名が次々に出て来て、誰が誰やらよくわからない上、チョン刑事&「ボン」という正式名称と愛称が混在するなどでストーリーの把握が少々難しかったのですが、中盤のフラッシュバックでやっと物語が1本につながりました。その後は豪華なカメオ出演陣が次々と登場して、彼らの以前とほとんど変わらぬkeep fitぶりに思わずジーンとしてしまうなど大サービス。警察関係の役では任達華(サイモン・ヤム)に張國強(KK)、ヤクザ側では廬恵光(ケニー・ロー)に林國斌と、嬉しくなってきます。

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嬉しいと言えばニコラス・ツェーの大暴れも久しぶりで、今年で41歳になったのに、その細身の体で繰り出すアクションは俊敏で切れ味抜群。ドニー・イェンとの対決シーンは何カ所もあって、特に最後の「2人でガチ勝負@ピアノのある教会」はものすごい一騎打ちなんですが、ニコラスもドニーさんに引けを取らない闘いぶりです。もちろん、アクション監督のドニー・イェンとスタント・コーディネーターの谷垣健治による振り付けの上手さでしょうが、見応え十二分の「死闘」でした。さらに付け加えれば、そこへと続く一連のアクションシーンも特筆もので、日本公開に向けたチラシに「ラスト15分、アクション映画史上最も苛烈で壮絶な死闘が勃発!」と躍るキャッチコピーも、看板に偽りなし、です。ベニー・チャン監督作品は、上手な脚本の中に必ずこういうズンッ!とくるアクションシーンが盛り込まれていて、その塩梅がうまいですね。

©Emperor Film Production Company Limited Tencent Pictures Culture Media Company Limited Super Bullet Pictures Limited ALL RIGHTS RESERVED

ベニー・チャン監督が亡くなったのは、2020年8月23日。2019年に本作を撮影中、体調がおかしいと感じて受診すると、鼻のガンが発見されたのです。その後治療を続けたのですが、本作が遺作となってしまいました。本作の公開はコロナ禍の影響もあって、本2021年7月30日が中国大陸、8月19日が香港となったのですが、本作のラストに付けられたベニー・チャン監督の登場する様々なメイキングシーンには、きっと多くの観客が涙したことでしょう。1990年、監督第2作の『アンディ・ラウの逃避行(原題:天若有情)』で世間をアッと言わせてから30年間、ジャッキー・チェン主演の『WHO AM I?』(1998)、ニコラス・ツェー主演の『ジェネックス・コップ/特警新人類』(1999)、ジャッキーとニコラスを組ませた『香港国際警察/NEW POLICE STORY』(2004)、ジョニー・トー作品かと思った『レクイエム 最後の銃弾(原題:掃毒)』(2014)等々、いくつもいくつも印象に残る作品を残してくれました。享年58、まだまだ活躍してほしかった監督でした。予告編を付けておきますので、ぜひ監督の最後の仕事をスクリーンで目撃して下さい。

ドニー・イェン×ニコラス・ツェー 香港警察アクション大作『レイジング・ファイア』本予告/12.24公開

 

それから、本作が香港で本年8月19日に公開される前、ベニー・チャン監督作品に主演した男優たちが集まって、「眞的漢子」(元歌は、林子祥/ジョージ・ラムが1988年に歌った)の歌を彼に捧げた映像があります。ベニー・チャン監督の過去作品がいろいろ出てくるほか、本作のシーンも使われていますので、ご覧になってみて下さい。私はうかつにもベニー・チャン監督の逝去を知らず、本作の日本公開のお知らせで知ったのですが、その後中国語メディアをいろいろ調べてこの動画に行き着き、見ながら泣いてしまいました...。

娛樂新聞 | 陳木勝遺作即將上映 群星合唱真的漢子紀念Benny

 


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