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アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

”北”を描く衝撃のアニメーション『トゥルーノース』のトークイベント(上)

2021-05-28 | アジア映画全般

来週、6月4日(金)から公開が予定されている、日本・インドネシア合作のアニメーション映画『トゥルーノース』。昨年の東京国際映画祭で見た時大きな衝撃を受けた作品で、まずは作品データと、昨年見た時のレポート再録を貼り付けます。

『トゥルーノース』 公式サイト 
 2020年/日本、インドネシア/英語/94分/原題:True North
 監督・脚本:清水ハン栄治
 声の出演:ジョエル・サットン、マイケル・ササキ、ブランディン・ステニス、エミリー・ヘレス
 配給:東映ビデオ
6月4日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開

©2020 sumimasen

北朝鮮の収容所の実態を描いた、というより暴いたと言った方がいいアニメーション映画です。お話は現在のカナダ、バンクーバーから始まり、12年前に脱北したという男性テッドが、壇上で聴衆に向かって自分の家族の物語を語り始めます。物語の主人公はヨハンという小学生。両親と妹と共に、平壌の団地に住んでいます。父は在日だったらしく、「パチンコ」という看板の前で撮った写真が家に飾ってありました。現在は北朝鮮政府に従順な父で、表彰も受けているのですが、1995年の現在、日本との繋がりのせいで父や祖母、親戚たちは政府の監視を受けるようになりました。そしてある日、父が姿を消します。出張とも言っておらず、不審に思った母は各所に問い合わせますが、父の行方はわからずじまい。そしてある晩、家に数人の警官がやってきて、母とヨハン、そして妹は、身の回り品だけ持つことを許され、追い立てられるようにしてトラックに乗せられます。そこには、ほかの家族もいました。

©2020 sumimasen

1日走ったトラックがヨハンたちを運んでいったのは、山の麓にある広大な収容所。ヒトラーのような所長が君臨し、看守以外に収容者の中から選ばれた監視役たちが見張っている、地獄のような世界でした。ヨハン一家は小屋を一つあてがわれ、昼は農作業や炭鉱での労働、あるいは森林伐採と、様々な重労働に駆り出されます。与えられる食糧はほんの少しだけ。誰もが飢えで苦しんでいました。誰かを密告すれば食糧が手に入るため、人々はすべてチクリ屋になってしまい、心を許せる人がいません。でも、ヨハンの母は隣人を助け、時には胡弓を弾いて皆を慰めました。そんな中で、ヨハンは吃音障害のある同じ年頃の男の子インスと親しくなります。母を亡くしながらも、ヨハンと妹、そしてインスは生き延び、9年の歳月が経ちました。しかし、妹が看守に暴行されて妊娠したのをきっかけに、ヨハンはここから脱出することを考え始めます。他の仲間とも極秘に相談し、金日成の誕生日、「太陽節」と呼ばれる4月15日に、炭鉱のトロッコに仕組んだ二重底に隠れ、ヨハンと妹、そして妹に好意を抱くインスは脱走することにしますが...。

©2020 sumimasen

収容所の描写がすさまじく、日々の生活のほか拷問の様子や看守たちの腐敗ぶりなど、体験した人にしかわからないであろうディテールが描かれます。丁寧な絵ですが、ちょっと変わった画風のアニメーションで、それがまたリアリティを醸し出す力にもなっています。清水ハン栄治監督には、1960年代の北朝鮮帰還事業で北に渡ったまま消息の知れない友人がいるそうですが、ちょうどヨハンぐらいの年だったのでは、と思います。しかし、1970年代ならいざ知らず、2000年前後でもこんな収容所が存在したとは。衝撃のアニメ作品でした。(2020.11.2)

公開に際して作られた新しい予告編(ショートバージョン)はこちらです。

映画「トゥルーノース」新予告編ショートバージョン

 

昨日、5月27日(木)に渋谷のユーロライブで一般試写会が開催され、上映後に清水ハン栄治監督(下写真左/TIFFの時と印象が全然違いますね)と映画評論家の森直人さん(同右)によるトークイベントが開催されました。宣伝担当の方がそのトークを記録したものを送ってきて下さったのですが、とても中身の濃いトークで、いろんなこと(©の「すみません」の由来、なぜアニメ作品にしたのかetc.)がわかるため、そのまま転載させていただくことにしました。長いので、2回に分けて掲載します。

©2020 sumimasen

『トゥルーノース』、本当に凄まじい映画ですが、色々な感情が一本の映画の中に入っていてクオリティも高いと思いました。監督がプロデュースした『happy-幸せを探すあなたへ』は世界の幸福度を調査する映画ですが、それから8年たち、今度は北朝鮮の強制収容所をテーマにした作品を作りに至った経緯を教えてください。

清水監督(以下監督):『happy-幸せを探すあなたへ』公開からずいぶん経ちましたが、いまだに感謝のメールや「この映画のおかげで自殺を考えていたんだけどやめました」というメッセージなど、色々な声をいただきます。映画で観た人の人生を変えられたという気持ちがすごくて、また作りたい、と思っていました。また、ダライ・ラマ、マザー・テレサなど人権にかかわる偉人たちの人生を描いた伝記マンガプロジェクトを手掛けたのですが、色々な国に訴求していったんです。それらの経験を経て、世界の中で現在進行形で起きている北朝鮮の人権問題にたどり着きました。

:監督は本作のために、綿密な取材をされたとお聞きしていますが、それならばドキュメンタリーという選択肢もあったと思いますが、なぜアニメーションという形をとったのですか?

監督:脱北者や実際に収容所を体験した方の証言をカメラで撮影しているので、もちろんそれをドキュメンタリーとして出すことや実写でもできたと思うのですが、あまりにも聞いた話がむごすぎてしまって・・・。拷問の話など実写やドキュメンタリーで描いてしまうと、一般の皆さんにはあまりにもショッキングでホラー映画やグロテスクな話になってしまう。観客の皆さんが最後まできちんとみてくれて、かつ、この話が火星や金星などで起こっている話とは思われないリアリティがありつつ、トラウマにならない表現方法を探した結果、我々が小さい頃からみているアニメーションという方法にたどりつきました。

©2020 sumimasen

:なるほど。アニメにすることで抽象の回路が入るといいましょうか、リアルな話なのだけど、自然に寓話性に昇華することができるのでしょうね。清水監督は、東南アジアのアニメーターのネットワーク「すみません」を主宰されているとききました。

監督:インドネシアのアニメーターが中心なのですが、スタジオという企業体をもつと一つのプロジェクトが終わっても、雇用を確保するために作品づくりを続けなくてはならない。ですので僕はフリーランスのネットワークのような形でプロジェクトごとに集めるようにしました。そして先ほどいわれた「すみません」という名前についてですが、この作品自体のテーマが物議を醸しだすかもしれない、だから会社名で最初に謝っておこうと思って(笑)。いや、本来の思いとしては物議を醸しだす作品をどんどんやっていこうと思っているんです。最近日本は、きっと皆さんも感じていらっしゃると思うのですが、変な同調圧力とか、あれやってはいけない、これやってはいけない、というのがあって。僕のようにちょっと無茶する人が出てくると、迷惑をかけてしまうけれど、そのことによって今までなかった扉が開き、そこでの揺らぎの中で社会が発展していくと思うんです。特に若い人たちと話していても元気がないように思うので、僕の場合は最初から(会社名で)謝ってしまえ、と。

(「下」に続く)


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