アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

4月は『メイド・イン・バングラデシュ』でダッカへ飛ぼう!②本日公開となりました!

2022-04-16 | バングラデシュ映画

バングラデシュ映画『メイド・イン・バングラデシュ』が、今日4月16日初日を迎えました。早速岩波ホールでご覧になった皆さん、いかがだったでしょうか。

昨日金曜日の毎日新聞夕刊には、ベテラン映画記者勝田友巳氏の「闘いの熱気、色彩豊かに▶メイド・イン・バングラデシュ」という映画評が載っていましたが、その中に「筋立てはまるで、1950年代の山本薩夫監督作品」というくだりがありました。山本薩夫監督(1910-1983)は社会派として知られた監督で、1950年代には労働争議をテーマにした『太陽のない街』(1954)や『人間の壁』(1959)を撮っていますが、私が『メイド・イン・バングラデシュ』を見ながら連想したのは、同じ山本監督作品ながら1968年の『ドレイ工場』という、やはり労働争議を描いた作品でした。労働の現場で理不尽な目に遭い、そこから出発して仲間作りや組合結成へと意識が目覚めていく、というストーリーは、戦後の経済発展途上にあった1960年代の日本人労働者の心に響いたのですが、それが今のバングラデシュ、ということなのでしょうか。でも、職場の多くに組合がある(たとえそれが会社の意を汲む御用組合であっても一応存在する)今の日本でも、非正規雇用の人たちが自分たちの権利が守られていないとして、勤務する職場単位で組合を結成したり、横の繋がりで同業種の組合を作ったりしています。それを考えると、今の日本にも通じるテーマですね。

© 2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES

主人公シムが働く縫製工場は、上写真のように女性たち数十人がミシン掛けをして働く職場です。映画の初めの方では工場の入ったビルで火災が起き、仲間の1人モイナが亡くなるという事件が起きます。そして、しばらくの間工場のあるビルは閉鎖となり、給料も未払いのまま日にちが過ぎていきます。シムが給料をもらおうと工場に行っても、ビルのある敷地の門が閉ざされていて、ガードマンから門前払いを喰らわされます。ムカムカしながら帰ろうとしていたシムに声を掛けたのが、女性の権利を守るための団体のスタッフであるナシマで、その後「聞き取り調査に応じてくれたら謝礼を出す」というナシマの申し出に惹かれ、団体の事務所にシムが行ってから、組合結成の話が動き出します。その後、シムが同僚たちを誘って集会というか学習会に行き、ファルザナという女性講師の話をいろいろ聞いたりして学んでいくのですが、驚いたのは組合結成のためには職場の労働者の3割の署名を集め、それを添えて労務省に申請を出さないといけない、ということでした。

© 2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES

政府の許可を受けない結成できない組合って? と思ってしまいますが、案の定そのからくりが最後の方でわかります。当初はナシマからの「組合を作れば上司にあなたたちの要求を呑ませることができる」という言葉に勇気づけられ、シムと仲間は動き始めるのですが、それはすぐにいろんな圧力となってシムたちに降りかかってきます。圧力第一は、もちろん職場の上司。直属の上司はレザという男性で、シムたちの縫った製品を管理したり、業務の指示を出したりする言わば現場監督です。その上にいるのが、社長なのかそれとも中間管理職なのかちょっとはっきりしなかったのですが、給料を支払ったりする男性です。彼らは女性たちの持ち物検査をしたり、給料日に残業代を払おうとしないことに抗議したシムを突き飛ばすなど暴力をふるったり、組合への賛同書を集めていたシムの友人を解雇したりするのですが、その場ですぐに激しい抗議が女性たちから起きたりしないのが、ちょっと歯がゆいところでした。

© 2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES– BEOFILM – MIDAS FILMES

圧力第二はシムの夫からで、現在無職でシムの収入に頼っている身でありながら、「組合なんかやめておけ。警察につかまるぞ」と言ったりしてプレッシャーを掛けます。根は悪い人ではなく、シムとも愛し合っているのですが、時として夫(おっと)風を吹かせるのは南アジア男性の気質でしょうか。一緒に料理して食事を作ったりするシーンもあるものの、シムの件で工場に呼び出されて行くと、門前でガードマンから侮辱され、その怒りをシムに向けてしまうダメ夫、ダメ男として描かれています。そうそう、このお料理のシーンで、シムが使う包丁があるのですが、日本ではまず見たことのない台所用具なので、「あれは何?」と思う方もあるかも知れませんね。農業用具の鎌(かま)の刃を台座に固定したような調理器具で、その刃に野菜などを当てて押し切りにします。これ↓です。シムが使っていたのは刃の形が半月形だったのですが、その写真は見つけられませんでした。名称が違うのかも知れません。

そういう紆余曲折が描かれていき、見ている方は結構ハラハラドキドキさせられます。ホッとするのは、途中に出てくる同僚の結婚式シーンぐらいかも知れません。ここではシムたちが、日頃の憂さを忘れようとするかのように、きれいなサリーを着て出席し、歌い踊ります。この時の曲を調べてみたら、バングラデシュの人気女性歌手ミラ・イスラムの「Jatra Bala (যাত্রা বালা)」という曲でした(下にPV動画を付けておきます)。普段は仕事をしているためサルワール・カミーズ(ゆったりしたズボンとワンピース丈のブラウスのセット)を着て、スカーフを肩に掛けているかあるいは仕事中は体に縛っているシムたちですが、このシーンでは素敵なサリー姿になって現れます。それまでは女性団体スタッフのナシマのサリー姿しか登場せず、こちらは上流階級の女性なのね、とシムたちとの階級差を実感させていたのですが。ただ、このシーンでのシムたちのサリーと比べると、ナシマのサリーは上質で値段の高いものだと見て取れます。しかも、ナシマはたいていノースリーブのサリー・ブラウスを着用していて、これも中流以上のオシャレな人しか着ないスタイルです。そんな細かいところでも、バングラデシュの現実を見せてくれる作品です。

MILA-jatrabala

 

こんな風に、いろいろ見どころの多い『メイド・イン・バングラデシュ』。ぜひ早めに岩波ホールでご覧になって下さいね。基本情報を付けておきますので、首都圏以外の皆様も、あなたの街に『メイド・イン・バングラデシュ』が来るまで楽しみにしてお待ち下さい。

『メイド・イン・バングラデシュ』 公式サイト 岩波ホールサイト
 2019年/フランス、バングラデシュ、デンマーク、ポルトガル/ベンガル語/95分/原題・英語題:Made in Bangladesh 
 監督:ルバイヤット・ホセイン
 出演:リキタ・ナンディニ・シム、ノベラ・ラフマン、パフビン・パル、ディバニタ・マーティン
  提供・配給:パンドラ
4月16日(土)岩波ホール 以後全国順次公開予定

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« インド映画自主上映会:テル... | トップ | <スペース・アーナンディ/... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

バングラデシュ映画」カテゴリの最新記事