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アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

アミターブ・バッチャンと「786」

2011-06-14 | インド映画

以前の記事で書くことを予告しておきながら、ずっとそのままになっていた「786」という数字の説明と、アミターブ・バッチャン映画との関係をちょっとまとめてみようと思います。

アミターブ・バッチャン主演映画に登場する「786」は、まず、5月14日の記事でも紹介した『壁』 (1975/原題:Deewar)があります。下はこの映画の台本&歌詞が載っている廉価本です。いつ買ったのか忘れましたが、定価2ルピーなり。多分、1ルピー30ン円ぐらいの時に買ったと思うのですが。

「ディーワール」というタイトルの下には、「写真入り・歌詞・台詞」と書いてあります。確かに写真は数枚入っているんですが、紙質も印刷もも~のすごく悪くて、何が何やらわけわからん;;;という写真になっています。台詞ももちろん細かい部分はカット。しかし、紙が悪うて全然読めへんがな~(泣)。

 

 この映画は、労働運動活動家を父として生まれたヴィジャイ(アミターブ・バッチャン)とラヴィ(シャシ・カプール)の兄弟が、父亡き後共に母を大切に思いながらも、彼らの道は善と悪とに分かれてしまう、という物語です。兄ヴィジャイは、大金を手に入れようと沖仲仕からギャングの一員となり、ギャング団の中でのし上がっていきます。一方弟ラヴィは警察官になり、結局犯罪者の兄を追うことになるのです。ヴィジャイのモデルは、実在のギャングであるハッジ・マスターンであると言われています。

そのヴィジャイが沖仲仕になった時に支給される認識票が、上の左下に描かれている楕円形の金属プレートで、番号が「786」なのです。ヴィジャイはヒンドゥー教徒であるためこの数字の意味を知らなかったのですが、沖仲仕仲間のイスラーム教徒の老人がその番号を見て、「それは祝福された番号だ。ビスミッラー、つまりアッラーの名前で始める、という良き意味がある」とヴィジャイに教えます。その部分の映像はこちら。1分ぐらいの所に出てきます。

この老人の説明は、「イスラーム教数秘学」と言われるものらしく、各アラビア文字にはそれぞれ置き換えられる数字があるそうです。英語のサイトですが、こちらにその説明があります。

コーランの第9章を除く各章の最初は、「ビスミッラーヒ・アッラフマーニ・アッラヒーミ(慈悲あまねく慈悲深き神の御名において)」というバスマラと呼ばれる語句で始まります(アラビア語表記と訳は「イスラーム世界事典」明石書店、2002より)。そして、この語句を数字にしたのが「786」なのだそうです。「786」はヒンディー語ですと、「サート・ソウ・チヤーシー」と読みます。

「786」は、こんな風にイスラーム教徒向けステッカーに書かれたりもします。

これが映画『壁』で使われたのは、主人公ヴィジャイはヒンドゥー教徒という設定ながら、モデルになったギャングのボスがイスラーム教徒であることから、それを示唆しようと脚本を書いたサリーム=ジャーヴェード(サリーム・カーンとジャーヴェード・アクタル、共にイスラーム教徒)が考えた結果ではないかと思われます。余談ながら、サリームはサルマーン・カーンの父で、ジャーヴェードは監督兼俳優ファルハーン・アクタルと監督ゾーヤー・アクタルの父です。

アクション・シーンで、ヴィジャイの腕に付けた認識票がよく見えるシーンはこちら。ヴィジャイはこの認識票を付けている限り幸運が続くのですが、それが彼の手を離れた時、悲劇が訪れます。当時はシャシ・カプールの方がビリングが上だったのでしょうね。まあ、ラストは勧善懲悪にならないといけませんし。『壁』は同時期のアミターブ・バッチャンの映画『炎』 (1975)のスーパーヒットには及ばなかったものの、結構ヒットしたため、以後アミターブ・バッチャンと「786」は分かちがたく結びつくようになりました。

そして、1983年に『クーリー』 (原題:Coolie)が製作された時、アミターブ・バッチャン演じるクーリー、つまり駅の赤帽の認識票番号も「786」となったのでした。『クーリー』に関しては5月25日の記事で紹介し、ヘタウマ絵ポスターを付けておきましたが、今回はLPレコードのジャケットを付けておきます。30センチLPはスキャン機に入りきれなくて、あちこち切れてますがゴメンナサイ。

ここでも、タイトルの「Coolie」の最初の「o」が認識票になっていて、そこに「W.RLY NO.786 LICENSED PORTER(西部鉄道 No.786 認可ポーター)」と書いてあります。この映画では主人公イクバールがイスラーム教徒なので、さらにぴったりというところですね。なお、右側で半分切れている鳥は鷹で、名前はアッラーラカーと言います(これもええ名前や~)。その名の通り、賢い鷹なんですよー。

「786」はそのほか、テルグ語映画のメガスター、チランジーヴィの映画にも出てきたりします。大スターにとってはラッキーナンバーなんですね。ジャンボ宝くじも、この番号の入ったくじなら当たったかも知れなかったなあ(見事はずれました.....)。

 

 

 


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4 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (パゴール)
2011-06-16 23:41:52
そ、そうだったんですかああー!
なーんも知らんと口を開けて映画を観ていた記憶が。
30年以上たって知った真実。インド映画は深い。

老婆、感涙。
ありがとうございました。
文章のリンク先でクーリーのあの歌のシーンと再会。
おおおおおー!!!

ワタシも当時は若かったがアミタブも若かった。
当たり前か。しかし、いい時代になったものです。

苦労することなくきれいな画像で、家にいたままお茶漬けを食べながらインド映画が観られる。
老婆にとってこんなうれしい事はございません。

またこのようなお話を楽しみにしております。
ありがとうございました。
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パゴール様 (cinetama)
2011-06-17 10:29:01
素敵なコメント、ありがとうごさいました。

ひょっとして私と同世代の方でしょうか、同じ頃インドでアミターブ作品を見ていらしたのですね。前の記事までさかのぼってチェックして下さりありがとうごさいます。ホントに、YouTubeには懐かしい映像がいっぱいアップされていて、次々見ていると時の経つのも忘れます。

レトロな話題ばかり書いて、若いインド映画ファンの方は退屈かも、と思ったりしていたのですが、パゴールさんのような方がいらっしゃると思うと励みになります。老婆力全開でまた書きますね!
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納得! (ふらもん)
2011-06-17 22:39:45
ありがとうございました。
Veer-ZaaraでもVeerの囚人番号が786でラーニーが『アッラーが彼を守ってる』とかそんな言い方をしていましたよね。イスラムの数字なんだと言うのはわかりましたが、それ以上の意味がわからずずっと引っかかってました。
これでスッキリです。ありがとうございました。。。
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ふらもん様 (cinetama)
2011-06-17 23:17:01
貴重なコメントありがとうごさいました。

『ヴィールとザーラー』にも「786」が出てきていましたか! こんな風に、インド映画に出てきた「786」を皆さんに教えていただけるとありがたいです。どんどんチクって下さいませ。
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