二〇〇一年の春、イタリアは異常気象に見舞われた。三月末にシチリアで40度を超える気温が続いたかと思えば、翌週は冬でも雪の降らないナポリの南で、何十年ぶりかに雪が降った。
そんな中、毎年恒例となった私のイタリア旅行の最初の行き先はヴルカーノ島。シチリア島の北東に点在するエオリア諸島の一つで、火山島である。港に着くや、イオウの臭いが漂ってくる。イオウが付着した黄色い岩があちこちに目に付く。
国全体が世界遺産のような国、イタリアにしては珍しく歴史的建築物がない。そのためか、夏のバカンスシーズン以外はほとんど人がいないようだ。海岸沿いにはコンドミニアムや別荘が建ち並び、のんびりと夏のバカンス客がやってくるのを待っている。
海の側に天然温泉があり、水着を着て500リラ(約30円)で入ることができる。安い。だが、着替えるところがないので、島に宿泊していないとできない楽しみだ。人気のある隣のリパリ島ではなく、この島での滞在を選んだ大きな理由でもある。
ホテルで着替えて20分ほど歩くと温泉に着く。陽がかげると水着では寒い。
温泉は大きなドロの水たまりという感じで、ものすごく生ぬるかった。湯に浸かって体を温めようと思っていたのに、期待はずれだった。
寒い国から来たドイツ人達は顔にドロをつけてみたり、キャッキャとはしゃいでいて楽しそうにしている。それとは対照的に、寒そうに縮こまって浸かっている私たちに、イタリア人のおじさんが「こっちに来い。ブクブク泡の出てるところは暖かいぞ」と教えてくれた。確かに少しはマシだったが、暖まるにはほど遠い温度だ。
早々に引き上げようとしたが、ドロを洗い流すシャワーがなかった。困っていると、さっきのイタリア人のおじさんが手本を見せてくれた。
ザッブ~~~~~ン!!
海に飛び込んだのだ。まだまだ海水浴の楽しめる水温ではないのに。
波打ち際で海水をちょびちょびかけてドロを流していると、おじさんは「あそこの泡の出てるところに行くとお湯になってるぞ、行って来いよ」。お湯っていったって、風呂をライターで沸かすようなもの。絶対冷たいに決まってる!と思いつつ、言われたとおりザッブ~~~~~ン!ツ、ツメタイジャン、ヤッパ。
震えながら海からあがると、今度は地面から蒸気の出てるところで温まるよう勧めてくれた。どうせまた、と思いながら足をあてた。すると今度はやけどするほど熱かった。
その数日後、やっぱり風邪をひいて熱を出し、寝込んでしまった。こんなことで風邪をひくなんて、もう無茶ができるようなトシではないのだ。と自覚たものの、逆に、「今のうちに」と、次の旅への勢いがついてしまったのである。
(二〇〇二年七月)
エッセイ集『火曜日の森』(中日文化センター「自分史・エッセイ講座」自由テーマ)より
そんな中、毎年恒例となった私のイタリア旅行の最初の行き先はヴルカーノ島。シチリア島の北東に点在するエオリア諸島の一つで、火山島である。港に着くや、イオウの臭いが漂ってくる。イオウが付着した黄色い岩があちこちに目に付く。
国全体が世界遺産のような国、イタリアにしては珍しく歴史的建築物がない。そのためか、夏のバカンスシーズン以外はほとんど人がいないようだ。海岸沿いにはコンドミニアムや別荘が建ち並び、のんびりと夏のバカンス客がやってくるのを待っている。
海の側に天然温泉があり、水着を着て500リラ(約30円)で入ることができる。安い。だが、着替えるところがないので、島に宿泊していないとできない楽しみだ。人気のある隣のリパリ島ではなく、この島での滞在を選んだ大きな理由でもある。
ホテルで着替えて20分ほど歩くと温泉に着く。陽がかげると水着では寒い。
温泉は大きなドロの水たまりという感じで、ものすごく生ぬるかった。湯に浸かって体を温めようと思っていたのに、期待はずれだった。
寒い国から来たドイツ人達は顔にドロをつけてみたり、キャッキャとはしゃいでいて楽しそうにしている。それとは対照的に、寒そうに縮こまって浸かっている私たちに、イタリア人のおじさんが「こっちに来い。ブクブク泡の出てるところは暖かいぞ」と教えてくれた。確かに少しはマシだったが、暖まるにはほど遠い温度だ。
早々に引き上げようとしたが、ドロを洗い流すシャワーがなかった。困っていると、さっきのイタリア人のおじさんが手本を見せてくれた。
ザッブ~~~~~ン!!
海に飛び込んだのだ。まだまだ海水浴の楽しめる水温ではないのに。
波打ち際で海水をちょびちょびかけてドロを流していると、おじさんは「あそこの泡の出てるところに行くとお湯になってるぞ、行って来いよ」。お湯っていったって、風呂をライターで沸かすようなもの。絶対冷たいに決まってる!と思いつつ、言われたとおりザッブ~~~~~ン!ツ、ツメタイジャン、ヤッパ。
震えながら海からあがると、今度は地面から蒸気の出てるところで温まるよう勧めてくれた。どうせまた、と思いながら足をあてた。すると今度はやけどするほど熱かった。
その数日後、やっぱり風邪をひいて熱を出し、寝込んでしまった。こんなことで風邪をひくなんて、もう無茶ができるようなトシではないのだ。と自覚たものの、逆に、「今のうちに」と、次の旅への勢いがついてしまったのである。
(二〇〇二年七月)
エッセイ集『火曜日の森』(中日文化センター「自分史・エッセイ講座」自由テーマ)より