6月の旧暦呼称の水無月とはほんに優しい、月の名でございます。グレグリオ暦の現在では6月といえば雨期、梅雨のシーズンですが旧暦の太陰太陽暦では7月中旬の夏真っ盛りの季節であり、したがって雨の降らない水無月でそのギャップはなかなか面白い。
カラッと暑い季節には、のどを潤すビールというのが、大人の楽しみ。家庭用の冷蔵庫が一般的でなかった、幼少期に父の帰宅を待って、井戸端で冷やされていたビールを注いだグラスの泡のなんと魅力的であったことか。
泡を子供に舐めさせて、その苦さに顔をしかめる表情を見て、愉快そうな父や祖父の表情を思い出す夏の到来であります。
「取り敢えずビール」がポピュラーな居酒屋でのオーダー言葉になったのは、何時頃でしょうか。
最近大人に仲間入りした世代は、ビールを飲まない、いや宴席に顔を出さないとも聞いています。アサヒがかのドライ方式で最初の一口目の喉に非常に刺激的なタイプを販売する前から、渇いたのどには炭酸の刺激が心地よい夏の風物詩だと思います。
といいながら、夏の火照りを残したアスファルトの道を、ビールで潤し焼き鳥で口中が脂っぽいまま帰宅する(出張中のホテルでも)のは、少しもったいない夏の宵。
コロナのせいで街でお酒を飲む機会がめっきりどころか、すっかり減ってしまいました。仕事帰りの居酒屋で一杯とか、夏の暑い時期のビヤガーデン。少し出来上がったところでちょいと刺激を求めて、きれいなお姉さんのいるお店とか。日本の街中はなんともたくさんのお酒を飲むお店があるのでしょうか。
そのなかで、Barというちょっと若いころには敷居の高かった種類のお店がございます。いかにも都会的で田舎育ちの私には、さていくら取られるのであろうかとか、お子ちゃまは受け入れてもらえないのではないかと、逡巡していた記憶が。それが年齢を重ねるにつれ、仕事や旅行で地方に行くと必ずその手のお店で深夜までグラスを傾けている。
さて、Barの語源はやはりカウンターの足もとに横たわる、横木であるようですが、この横木が馬の手綱を繋ぐためだったのか、直接酒樽にアクセスさせないようにしたのかは、諸説あります。
まあいずれにせよ、アメリカの西部劇をイメージさせる、所謂「酒場」でありますが、西部劇映画などでは看板にはBarと書かれずにSaloonと書かれているのが多い様に思います。まあ、街の社交場という雰囲気でしょうか。中にポーカーテーブルがあったり、胸元露わな歌姫が歌っていたりというような。必ず始まる店中をぐちゃぐちゃにするような、大ゲンカもございます。
現在のアメリカでは、大きなスペースでカウンターで注文をし、お酒を受け取りとボックスで、飲んだりダンススペースがあったり。基本的にアメリカでは21歳にならなければ、お酒を売ってくれませんので、30歳を過ぎても童顔だったせいかわたくしは、パスポートの提示を必ず求められたことを思い出します。
上記のアメリカのようなバーは、オーストラリアのシドニーでも入ったことがあります。キャッシュオンデリバリで、一杯ずつ支払いながらちびちびと飲み、少しきわどいショーを眺めるみたいな感じです。
ヨーロッパ、といってもオランダのアムステルダムや、ロッテルダムでは日本でいうプールバー即ちポケット式のビリヤード台や、ダーツが置いてあり、カウンターでショットのお酒を飲み、おつまみはせいぜいコイン式のピーナツ販売があるタイプ。また、お店の雰囲気的には日本のスナックみたいなカウンターとボックス。午後には開店していておじいちゃん達がバックギャモンに興じていたり。お腹が空いたと言えば、ストーブでペッパーステーキを焼いてくれたり、ソーセージを焼いてくれたりするタイプのお店がBarの看板を出していました。
さて、現在の日本のBarであります。
ハードボイルドといえば、レイモンド・チャンドラーの描くところのフィリップス・マーロゥシリーズ。Long Good-Byで出てくるバーの雰囲気を現す表現が「ギムレットには早すぎる」とか「開店したてのバーの雰囲気が好きだ」。こんな雰囲気の似合うのは、どうも日本の現在のBarのような気もします。もっとも米国では何故かドラッグストアでワンショットを飲ませるという、風習もあったようです。
Barにはいろんな種類がありますが、今回取り上げるのは上記のような、大人の雰囲気のBar。即ちオーセンティック・バー、ショットバー、カクテルバーといったところでしょうか。
大層な食事や、大掛かりなライブショー、ダーツやビリヤードなしで、カウンター主体にバーテンダーが本格的なサービスを提供してくれる小ぶりなバー。
単にわたくしの趣味ではございますが・・・。
オーセンティックバー。日本語にすれば「正統的」なバーでしょうか。ホテルのバーに近い雰囲気で、街中できちんとした服装のバーテンダーが、カクテルであれ各種のショットであれサーブしてくれます。入る方にもそこそこのドレスコードが求められたりする場合もあったり。
わたくしの好きなこの種のお店は、各地にございます。宇都宮はすごく多い。バーテンダー協会登録のお店だけでたしか30軒以上。こちらは都内にもある「パイプの煙」系列のお店が多く、「パイプの煙 夢酒(ムッシュ)小川」さんとか、宇都宮で一番小さいながら、サントリーのカクテルコンテストで複数回のチャンピオンになった、カクテルバーTANAKAさんなどなど、「ぱいぷの煙」から派生した何件かが行きつけです。TANAKAさんのお店は都内の有名ホテルのバーテンダーさんも、わざわざこちらで飲むためにいらっしゃったり。
北九州市八幡西区黒崎ではBar井口さん。当然リーゼントに蝶ネクタイ、白のタキシード。オリジナルのカクテルは映画の題名だったり、そのシーンだったりのネーミング。
スタンダードなカクテルも当然独自のひねりや、ベースのスピリットに主張が。例えばサイドカーもベースはヘネシー、キュラソーはマスターの最近お好み。おつまみもちょっと気が利いたお洒落な器で。
ショットバーでは兵庫県尼崎の「カルマンギア」さんと、名古屋市中村区名古屋駅桜通り側のKoboさん。ここは確か午後3時から営業しています。埼玉県深谷駅近くにはスコッチのシングルモルトだけで数百種類の、ショットバーもございます。
いずこも、一人でも入りやすいそれぞれのオーナーバーテンダーさんの個性が光るお気に入りのお店です。
どちらかといえばオーセンティックバーに近いのですが、カクテルがおすすめなのは、新潟の駅近くのハイダウェイさんか、古町のFAROさん。こちらも素敵なオーナーバーテンダーさんです。以前「魔の霊酒考」紹介したアブサンを戴けるお店でございます。
長野県上田市の女性オーナーバーテンダーのお店シャノワール(黒猫)さんもお気に入りです。
最近お伺いしたのが、掛川市の106(ワンオーシックス)さん。果物のカットも素敵でした。
姫路の老舗バーIZAKAYAさんもショットバーですが、流行のシングルモルトに拘らない楽しいお店でございます。
彦根のSalon Bar Thistleさんも必ずよらせて戴くお洒落で、マスター以下のバーテンダーさんの腕も確かなお店です。
ちはら台から最も近くにあるのが、鎌取駅近くのアンカーダウンさんです。
キリがございませんが、旅先で楽しくお酒をお楽しみになればとの、ちょっとしたヒントになれば幸いです。むろん他の地方でも行きつけがございますので、お問い合わせ戴ければご紹介致しますが、サントリーの「バーナビ」というサイトで調べると様々なお店が紹介されています。
コロナがひと段落してご旅行にいらっしゃる際のご参考に。