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マッキントッシュの思い出

2011-10-08 23:44:44 | エッセイ
アップル社のCEOだったスティーブ・ジョブス氏。まだ56歳だった。
たくさんの人に夢を与えた遊び心いっぱいの素敵な「大人」。
彼に影響を受けたひとも、直接影響を受けなくても彼の創造したもので楽しんでいるひとも、きっとみんな衝撃を受けたにちがいない。

私が始めて触ったコンピュータはMacだった。
まだカラーディスプレイもなかった時代。あれは1990年代最初の頃。
当時働いていた会社でエンジニアの人が忘年会か何かの宴席で社長に「マッキントッシュ買いましょうよ!」と言うと社長も「おお、いいね。買おう。買おう。」と二つ返事。
かくして1代目の小さなMacが会社に届いた。
これは言い出したエンジニア君の部下になったことは言うまでもない。
やがて「社長、もう1台買いましょう。新しいのが出たんですよ。」と言うことになり、2代目がやってきた。
私は社長の秘書だったのだけど、彼は不要になった(?)1号機を私のデスクの上に置いて「これ秘書さんが使えば?面白いよ。」と言う。
「でもいったい何に使うの?」と平気で聞くくらいの時代だ。
マウスにも触ったことがない。「机が足りないんだけど・・。」と間抜けな発言をして彼を大いに笑わせたのは私・・。
でもしばらくして、そのMacのドロー系のソフトを使ってプレゼン資料用の通信衛星の絵が描けるまでになった。なつかしい思い出だ。

それから会社の中にMacが増えていった。
もちろん当時は1人1台なんて贅沢は許されなかったから、みんなで3台のMacをシェアして使った。薔薇の花のアイコン(笑)が私のファイルだった。
Macは遊び心いっぱいで、書類をゴミ箱に入れるとゴミ箱が太り、中身を削除すると音がしてやせるのも可愛かった。

やがて会社は解散してしまい、私はしばらくのブランクののちに復職しようと仕事を探し始めると、知らぬ間に世の中はウィンドウズ一色になってしまっていた。
なんとMacしか実務経験がないと言うと、仕事にありつけないなんて!
あわてて講習会に通ってウィンドウズに触ってみる。
偶然講師はMacを使っていた人だったらしく、いちいちMacとの違いを説明してくれたので私にはありがたかった。ああ、でもこの先生もMacを愛していたんだろうなぁ。

ウィンドウズのゴミ箱はオフィスにおいてある紙くずかごだ。
Macのは家の外においてある大きいやつ。セサミストリートのオスカーが住んでいるような所謂ゴミ容器の形。
なんだかMacがなつかしく、ウィンドウズには祖国を乗っ取られて自国の言語を禁じられて勝った国の言葉を話せと言われているような気がしてしまった。
「右クリックって何?」そう、Macには右クリックはなかった。
メニューバーもポイントすれば指をはなしても消えないとは知らずにいつも指を押したままだったり・・・。
そうして私はウィンドウズの世界に入らざるを得ずにMacから離れていった。

自宅のパソコンは2002年にウィンドウズXPを買った。
すでにMacはマイノリティになってしまったので、やはり広く流通しているほうがいろいろな面で便利だったからだ。
Macが巻き返しを図ってくるのはこのあとくらいかな。
Macは今でも根強いファンをたくさん持っているし、クリエイティブ系の人には人気だものね。

我が家の2代目のノート君もウィンドウズだ。
途中でMacに変えるのはやっぱり面倒だと思ってしまう。
でもいつか、またあの遊び心いっぱいのMacを使いたいという気持ちは心の中にしまってある。
あの若き日の思い出と渾然一体となっているからなのかな。

スティーブ・ジョブス氏が世界にもたらしたたくさんの遊び心。
彼は人生を楽しくする術を知っている貴重なクリエイターだった。
でもきっとその遊び心を引き継いでくれる人が世界中にたくさんいるはずだ。
彼の蒔いた夢の種を育てる人たちは、きっときっとたくさんいるはずなのだ。



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