幼小時代、私は<小鳥>と切ない思い出があった。
あの頃、私は病気で入退院を繰り返して学校をよく欠席していた。。一人きりで病院でつまらない一日を送っていた。皆が色々プレゼントをくれたが、私の蔭欝にこもっていた心を楽しませてくれることができなかった。しかし、従姉妹のくれたプレゼントは私に嬉しさを与えた。
これは飴でもなければ綺麗な洋服でもない。一羽の小鳥だった。この小鳥はその時の私の憂鬱な心を慰めてくれた。緑色まじりの黄色の羽が太陽に照らされてぴかぴかと光っている。長い尾をぴんぴんと突ったてながらチョンチョン動いている姿はなんとかわいいだろう。目のあたりから頸までは黒い雨の模様だった。胸回りに雪のような白い毛があり、羽の左右に赤い点が一つずつあり、まるで一対の赤い珠が真っ黒な壁に填め込まれたようだった。彼は薄赤いくちで鳥籠の柱にしきりに鳴き声を出していた。この声は優しくて晴れた日のように澄み渡っているのだが、蔭欝の色が含まれてなんとなく、寂しい気がする。
どうしたのだろう?鳥をとても可愛がっているので慌ててすぐ餌を持って来て鳥籠の前に出してやった。でも小鳥は見ることさえしなかった。続けて鳥籠の中で飛んだりしてまるで理性を失ったようだった。私が冗談を言うように「そんなにしなくても良いのよ、私が必ず貴方を幸せにするよ」と言った。ところが、小鳥が私の親切を極端に誤解するようになり、一層激しくバタバタと暴れて鳥かごの柱を破ろうとした。
二日経っても困らせたことがやはり続いている。小鳥は私の愛情を裏切って食べることなく一日中啄ばんだり、叫んだりする。鳥かごの外の大空を見上げると気が気でないように悲しい色が両目に浮かんでいる。あの子にいくら何をやっても、いつも足蹴りするばかりで、ぼんやりした目でかごの外を眺めている。
ある日、昼寝をしている途中にはっと目が覚めた。けたたましい小鳥の泣き声によって目を覚ましたのだ。その時皆昼寝をしているので病院の中はしいんと静まり返っている。その泣き声は昼中の静けさを物々しい騒々しさに転じさせた。確かに外には何か小鳥の神経を興奮させる事件が起きたのに違いない。私は外に出て見ると、小鳥が首を空に向けて彼としては最大限に大きな声で泣いている。
青空に三羽の小鳥が鳥かごの上を行ったり来たり飛んでいる。この三羽の小鳥と鳥かごの中の小鳥は互いに力を込めて甲高く鳴き交わしている。小鳥が声を三つに切って鳴くと三羽の小鳥も声を三つ切って鳴き、彼らは何かを話し合っているのに違いない。よく観察してみると、小鳥は「私を一緒に連れてて」と泣きすがっているようだった。なんと悲しくて懐かしい声だろう。
私がようやく分かった。この小鳥にも恋しさもあり、愛もある。彼は自分を育ててくれた大自然を愛し、昔の仲間を恋しく思っているのに違いない。彼の鳴き声を聞くと、自然を離れて仲間なく一人きりでの孤独をしみじみと感じ取れた。
小鳥がだんだん弱くなってそれまでぴかぴか光っている羽の毛も艶を失って油気のないぼさぼさの毛になってしまった。翼がたらりと垂れて覚束無い足取りでよろめいたりする。飛ぶのがやめたが、泣き声はいつもよりさらに甲高くて悲しかった。小鳥はまさしくかつて生活したことのある故郷を恋しく思っているだろう。どんな深い愛だろう。
私は小鳥の命を支配することが出来るが、彼の愛を奪う権利がないと、小鳥に悪いことをしたと気付き、彼を大空に放そうとした。でも私はこの小鳥がとても好きで彼といつまでも仲良く居られたらと願っている。この小鳥は私に面白さと楽しさを与えてくれた。もし小鳥が居なかったら私はまた一人きりで病院で生活しなければならなくなる。特に夜更けになると病室のベットにいる私に何とも言えない孤独感を襲ってくる。
しかし又小鳥の悲しい泣き声は実際に私を困らせてしまった。私は小鳥の天性を奪っては行けない。そう思うと私は思い切って小鳥を放すことにした。軽く小鳥の羽を撫でて心の中で「飛んでいこう、再び自然の恵みを受けるよ、これは貴方の権利だよ、幸せになるように」と祈っていた。小鳥はさも私の言葉を分かったように楽しそうに青空を見上げ、ぼんやりしていた目が又きらきらと光って、矢の如く青空へ飛んでいた。あっという間に消え去り、明るい泣き声だけが広がって残っている。これは本当の小鳥の鳴き声だ。小鳥が青空に飛び込む瞬間、私は急にさびしくなって仕方が無かった。しかし、音楽のように鋭く澄み渡ったその小鳥の泣き声が私の心を喜びで美しく輝かせた。私の孤独感もどこかへ消えてしまったようだ。
小鳥は今どこにいるか勿論知る訳がない。でもこの小鳥の空を仰ぎ、泣いている姿が私の心の中から消え去りはしない。夜になると、よく耳を澄まして、よほど注意しなければ聞こえないほど、かすかな小鳥の遠い鳴き声が聞こえてくるような気がする。私は、小鳥が幸せに暮らしていると思うと胸がすいっぱいなった。群れになって青空を飛んでいる小鳥達を見ると、あの小鳥もあの群れの中で私に挨拶をしていると思ったら何とも言えない幸福感が心から湧いてくる。
1985年国際作文コーンクール 最優秀賞【作者:曹 ぎょく華】