黒い衣裳は神秘的だ。 Keiko Suzuki/SOLEA
舞台の照明によって様々なニュアンスに変化する。
黒に反射した光と影が、
踊る身体のラインを演出し、深みと色気をさらに加えてゆく。
Keiko Suzuki/TARANTO
私にとって、黒い衣裳は
シギリージャ・タラント・ソレアなどの、重厚な曲を踊るときに
自然と心を落ち着かせてくれる。
ところが、黒い衣裳で失敗した話もいろいろとあるのです。
1年半前に共演したラファエル・エステベス。
マドリッドで活躍している個性豊かなバイラオールです。
3~4年前までは、そんなに太っていなかったのに、
私との公演のときには、ビックリするほど太ってやって来たのです。
私は、”そこまで太ったのなら、中途半端な太り方より
いっそのこと、もっと太ったほうが面白いかも・・・” と思いました。
でも、彼は ”少しでも痩せたい! デブに見られたくな~い。” と言って
今更、ささやかな抵抗をする。
・・・が、彼は日本食が大・大・だぁい~好き!
私はラファエルの来日中
「コレ美味しいよっ! アレも食べてみたら・・・」 と
面白がって、いろんな食べ物をすすめました。
最初は 「太るからやめとくよ」 1度は断るくせに、
いつの間にか 「どれどれ、 パクッ、うぅ~ん・・・ 美味しい!」
と誘惑に負けて食べてしまうところがカワイイ。
おじさんっぽく見えるのに、ファン・デ・ファンより1歳若いのには驚いてしまいます。
若いんだね。 食べ盛りなんですねっ!
ラファエルの踊りは、
そのプリップリの体格でしか出来ない腰の動きと
柔らかくて美しいブラッソで、女性に負けない表現をする。
得意のタンゴを踊らせたら、観てる人みんなを惹きつけるのです。
Keiko Suzuki con Rafael Estevez/TANGOS
ラファエルは、けっこうお洒落。
本番では、衣裳の黒いズボンにも
「ピチッと線を入れてアイロンをかけてくれ」 とスタッフに催促する。
私たちは 「どうせ穿けばピチピチで、線なんか消えてしまうのにね~」
と日本語で喋りながら苦笑い。
とりあえず、言われた通りにスタッフがアイロンをかけた。
黒のシャツに黒いズボンの衣裳で、ピチッと決めたラファエルが
「 ぼく、どう? いいでしょう!
黒い衣裳だから太って見えないよね~。」
照れくさそうに聞いてくる。
私は、だらしないカッコウのレッスン着しか見てなかったので、
「へぇ~、いいね~。いいよ! いい男に見えるし。
痩せて見えるよ! いつもよりは。。。(言ってないけど心の中で思った)」
と言いながらズボンを見れば、
案の定、せっかくアイロンをかけたズボンの線は自然消滅していた。
彼はスペインから、公演を撮影しようとビデオカメラを持ってきていた。
本番前にカメラをセッテイング。
るんるんと楽しみにしていたのだ。
無事公演が終わり、早速ラファエルは楽屋でビデオを見はじめた。
何度も何度も、巻き戻したり進めたりして確認している。
音は入っているようだ。
でも何か焦っているので、
「どうしたの?」 と聞くと
「何度見ても、ぼくが映らない」
ガ~ン・・・呆然としてカメラを見ている。
「これじゃぁ、何を踊っていたかわからないよ~。
大失敗だー。」
私も撮影したビデオをみると、
”ありゃ~ぁ~、 舞台はバックが大黒(おおぐろ)。 舞台の専門用語で暗幕のこと
彼がメインで踊った曲はソレアで照明も暗め。
黒い上下の衣裳。
この3点セットでは、闇夜のカラス状態だ。
痩せてみえるようにひげを伸ばしていたせいで、小さな顔。
おまけに靴も黒かったのです。
救われたのは、ブラウスの袖を肘までめくっていたからまだ良かった。
暗い場面は、本番の舞台では見えても
普通のホームビデオで撮影すると見えにくくなるんですね。
これは、写真でも同じことです。
(その時の舞台写真)
この写真は、プロのカメラマンが撮影したものなのでよく見えています。
Rafael Estevez/SOLEA
黒の衣裳は、こうして記録を見ようとすると
見えにくいときがあります。
<おまけです>
黒といえば・・・
ノースリーブの衣裳に、黒のフレコ(リリアンのような紐の飾り)のついた
マントンシージョは危険ですよ。 <長さによりますが・・・>
踊っているうちに汗を掻いてくると、脇の下にくっ付く場合がありま~す。
そうです!
わき毛に変身するんです。
私は今まで、そういった失敗をした人を何人も見てきました。
他にも本番中のハプニングは、いろいろあります
・・・・・が、
踊りを観ている人は、
気になることが発生すると、そればっかり気になってしまうもの。
集中して踊りを観てもらうには、
皆さん~、 身だしなみに気を付けましょうね!
本番前のチェックをお忘れなく~
舞台写真・中尾務