白琥と、白龍がうちにくるまえに(というより、彼の死によって、このコたちはうちに来たんだけれど)
初めてうちに来た猫、
メインクーンの コトラ。
きれいで、すてきなコでした。
3か月のおわりくらいに京都からうちにきて
7か月めに、転落死しました。
だいじにだいじにされたお坊ちゃま育ち。
死ぬまで、「シャー」って いちども言いませんでした。
わたしがうっかり、すこしだけ開けたままにしてしまった
細いサッシの隙間から
夏の明け方の小鳥の飛び交う時間帯のベランダに出て
そのまま小鳥を追ったのか
5階から転落しました。
娘が探しにいったら
その声で、きんもくせいの生垣から、いざって出てきたそうです。
すぐに先生に電話して、連れていきました。
そのあと意識がなくなり
3日後に死にました。
「急いできて」と先生から最初に電話があったとき
わたししか家にいませんでした。
病院のケージで、彼はもう見えていない目を開いて
瞬膜が半分くらい出ていた。
「コトラ」というと
彼は見えていない目でわたしを見て
「あ、おかあしゃん」と言った。
「おかあしゃん、おかあしゃん」とケージの中で寄ってきて
先生はドアを開けてくれて
でも「頭が心配だから、あまり触らないで」と
ちょっと撫でたあと、もうそれだけでした。
結局、下の家の室外機に頭をぶつけていたのだと思う。
その後、また意識がなくなって
口から血が出て
3日めに命は失われた。
ごめんね。
ごめんね。
そして、「猫は10年以上は生きるんだよね、
わたしが大人になるまで、いてくれるよね」
と言っていた娘にも
ごめんなさい。
死ぬということは
もう二度と会えなくなるのだということを
どんなに後悔しても、もう二度と帰らないと
取り返しがつかないことがあるのだということを
自分がご飯をあげていた このコからはじめて教わりました。
わたしはこのコの命に責任があったのに。
たった、7か月で、おとなの猫にもならず
死なせた。
ごめんね。
でも、いまならやっと、言えることがあります。
わたしが行ったとき、彼は目をあいて
「あ、おかあしゃん」と言った。
「あのとき、もうだめだと思って呼んだのに」とあとで先生は言った。
わたしが行ったときだけ、彼はおきあがって、
目を覚ましてくれたのでした。
怒っていない。
悲しんでもいない。
よく、わからないけれど
でも、「おかあしゃん、おかあしゃん」って寄ってきてくれた。
ありがとう、って
そして大好きだよって
かれは言ってくれたんだと思う。
もし
ほんとうにほんとうにいじな人と一緒に事故にあって
わたしがその人を庇って死んでいくとしたら?
そのとき、その人を、けして憎んだり、恨んだりしないでしょう。
あなたと遭えて、幸せだった。
ほんとうに、ありがとう って言う。
大好きだよ、ずっと って。
だから泣かないで って
きっと言う。
見えない目で、ケージのなかをいざって
「おかあしゃんだ!」と寄ってきてくれた彼
わたしのこと
とっても、好きでいてくれたんだ。
でも、わたしはこれを書きながら、
やっぱり、
ものすごく泣いている。
きみに会うことは、もうできない。
でも、きみに遭えて
よかった。
大好きだよ。コトラ。
やっぱり、
ごめんね。