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熟年オジサンの映画・観劇・読書の感想です。タイトルは『イヴの総て』のミュージカル化『アプローズ』の中の挿入歌です。

アイム・ノット・ゼア

2008-05-04 | 映画
ボブ・ディランの伝記映画だが、そこは『エデンより彼方に』の鬼才トッド・ヘインズ監督だから、今なお現役のシシンガーであり詩人であるディランの単純な半生記などになろうはずがない。
11歳の黒人少年「ウディ」が、”ファシストを殺すマシーン”(ギター)ケース一つだけを持って貨車に乗り込む冒頭のシーンから、観客の意表を衝いた発想で、伝記と言うよりもトッド・ヘインズがディランから触発された多様なイメージを、6人の俳優が演じるディランで再現し、コラージュするという一筋縄ではいかない手法が用いられている。

例えば冒頭の少年は、ボブ・ディランが憧れた放浪の歌手ウディ・ガスリーが、ボブ・ディランに反映した姿として登場する。
同様に、ある時は天才詩人「アルチュール」ランボーであり、プロテスト・フォークを歌う革命的伝道師は「ジョン」、偽りの結婚生活を送る映画スターは「ロビー」、フォークと決別した反逆のロックスター「ジュード」、そしてアウトロー「ビリー」ザ・キッドとして、単なるオマージュではなく批評性を込めて、ディランの多人格像を創造していてユニークだ。

中でも、唯一女優で演じられたケイト・ブランシェットの「ジュード」ディランが圧巻で、カメレオン女優の面目躍如だ。特にインタビュアーとの応答バトルシーンは秀逸。
また、入院中のウディ・ガスリーを見舞う場面や、60年代の訪英時のビートルズとの戯れ、アレン・ギンズバーグとの邂逅のエピソードなどが、さり気なく描かれていて微笑ましい。

トッド・ヘインズ監督の嗜好として、フェリーニ風のシュールな幻想シーンが見られるのも嬉しい発見であった。
ディラン・ファンならずとも、音楽ファンも映像ファンも思わず惹きこんでしまう不思議な魅力をもった、新手法の「音楽伝記映画」である。


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2 コメント

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Unknown (ぷくちゃん)
2008-05-05 10:19:34
こんにちは。構成が凝っていて結構楽しめました。難しいこと考えないでディラン・ミュージックの再発見だと感じればいいのかもしれませんね。
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アイム・ノット・ゼア (butler)
2008-05-10 13:14:48
>ぷくちゃん、

タイトルは色々と解釈できますよね。
残念だったのは、どこで流れた曲が
タイトル曲だったのか判らなかったことです。
画面に曲名をインサートすると
やっぱり無粋だしなぁ。
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