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熟年オジサンの映画・観劇・読書の感想です。タイトルは『イヴの総て』のミュージカル化『アプローズ』の中の挿入歌です。

野田版 研辰の討たれ

2008-01-15 | 歌舞伎
今年の文化活動のスタートはシネマ歌舞伎。去年の玉三郎+菊之助の『京鹿子娘二人道成寺』に続いて二回目の経験である。

シルエットで「赤穂浪士の討ち入り」の剣戟場面を見せて、紗幕が飛ぶと江州粟津藩城内の剣道の道場になるオープニングから、江州粟津の田舎藩へとスムースに移行する。
討ち入りが持てはやされ、世は「仇討ちブーム」の真っただ中。研ぎ屋あがりで、町人から俄か侍になった辰次(中村勘三郎)は、生来の口先だけの調子の良さで、ただ一人「赤穂浪士の仇討ち」を批判しているが、それを裏打ちする性根も無く、剣もからっきし駄目で、嫌々ながら家老(坂東三津五郎)から剣術の指南を受けることになる。
結果は散々痛めつけられ、それに根を持った辰次は家老への仕返しに悪戯を仕掛けるのだが、それが元で家老はショック死。辰次は家老の息子二人(市川染五郎、中村勘太郎)から仇として追われる羽目に…。
かくして、メジャーな「忠臣蔵」とは似ても似つかぬ、マイナーな「仇討ち」のお膳立てが強引にデッチあげられるのだが、如何なる展開をみせることになるのか?

逃げる辰次と、追っかける兄弟。「仇討ち」が「金の看板」だと言って憚らない「仇討ちオッカケ」姉妹(中村福助、中村扇雀)が、無責任な戯画化された群衆を代表している。
野田秀樹の言葉遊びは、井上ひさしのそれと違って、流行語やその時の話題を切り取って使用しているため駄洒落に近く、どうしても軽く感じてしまう。
中村勘三郎はやり過ぎの感もあるが、大汗かいての大熱演。ただ、ペーソスを醸し出すところまでは行かなかった。
大詰め近くで、「仇討ち」の無益を解く僧良観(中村橋之助)の登場で、やっと落ち着きが出るのだが…。

今となっては叶わぬ夢だが、辰次を藤山寛美で観たかった!「研辰」は歌舞伎ではなく、藤山寛美と松竹新喜劇にこそ相応しい演目だったようだ。
(2008-1-14、東劇にて、butler)


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