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熟年オジサンの映画・観劇・読書の感想です。タイトルは『イヴの総て』のミュージカル化『アプローズ』の中の挿入歌です。

パンズ・ラビリンス

2007-10-08 | 映画
前評判どおり、台所や迷宮の回廊などの場面における、グレコやゴヤなどのスペイン絵画を思わせる陰影は秀逸だが、本作はビジュアル面だけが先行する一般的なファンタジー映画とは趣きを異にしている。
主人公の少女が足を踏み入れる迷宮も、『ふしぎの国のアリス』が訪れる魅惑のワンダーランドなどではない。

同じスペイン映画の傑作、ビクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』と同様、スペイン内戦終結後のフランコ独裁のファシズム政権時代が背景になっている。
また、「昔むかし その昔 あるところに・・・」のお伽噺、妖精または精霊、汽車、懐中時計などの記号の類似点が多くあるのも特色である。
主人公の少女オフェリアが交流するお伽噺の住人は「フランケンシュタイン」ではなく、「パン」(山羊の角の頭で木の足の牧神)である。

内戦で父親が死んで、母親の再婚相手のフランコ軍の大尉の赴任地へ向う途中、お伽噺が大好きな少女オフェリア(イバナ・バケロ)は、カマキリのような昆虫に出会います。この昆虫は実はティンカーベルのように自由に飛び回る妖精で、後にオフェリアを迷宮(ラビリンス)へと誘う。この「ラビリンス」の奥深くにいる守護神が「パン」である。
パンはオフェリアに、彼女が地下王国の王女の生まれ変わりだと告げ、パンが与える3つの試練を克服すれば、国王(死んだ父親)がいる王国に戻ることが出来ると言う。
新しい父親になった大尉はが好きになれないオフェリアは、パンの言葉を信じて3つの試練に挑むのだが・・・。

この映画は、少女が紡ぎだす単なる幻想物語ではない。オフェリアの居る現実社会は、母親の言葉を借りれば、「人生はお伽噺じゃない。残酷なもの」で、その通り、お腹に大尉の子を宿して体調が悪い母親もオフェリアも幸せではない。
かと言って、オフェリアが足を踏み入れたお伽噺の世界も決して美しい夢の世界ではなく、現実世界と同様に、少女には荷が重過ぎる過酷な試練が立ちはだかっている。
昔むかしの大昔のお話が、ゲリラ勢力がフランコ軍に抵抗する1944年の現実世界と違和感なく交錯するクライマックスからラストにかけては、現実世界を敵にまわして戦う姿が『風の谷のナウシカ』にダブリ、哀切の涙でカタルシスがもたらされる。
果たして少女は救済されるのか?そこには、非現実的ではない結末が用意されている。


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2 コメント

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ラスト (kimion20002000)
2007-10-16 23:03:52
TBありがとう。
ナウシカもこういうラストのもってきかたも、ありかもしれなかったね。
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戦争と乙女 (butler)
2007-10-17 10:15:26
>kimionさん、

穢れなき少女の血が 生贄として供されるのは
ジャンヌ・ダルクも同様ですかね。
「戦争と乙女」は永遠のテーマかも。
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