古希を過ぎて、自分の人生を振り返って見ると、後悔と恥多き人生なれど、我は我、誰でもない私という人生を、それなりに正直に生きてきたと思っている。
奥浩平の「青春の墓標」にいたく感動し、二十歳までには死にたいと思っていた若き頃。
大学を卒業し、4月からある企業に勤めることになっていたにもかかわらず、3月31日に断りの電話を入れてしまったあの日。
仕事が終われば、駅前の屋台で焼酎をあおり、3畳1間のアパートに帰って死んだように眠るアルバイトの日々。
親の勧めで公務員の試験を受け、30歳までには辞めてやると思いながら、定年まで勤めてしまった公務員生活。
定年後は、平凡で穏やかな生活を想像していた矢先、突然去っていった妻と娘達。
一人暮らしだった母が病気になり、やがて老人ホームに入り、93歳で亡くなった朝。
今では、全てのしがらみから解き放され、自由気ままと思える半面、目的のない浮遊したような生活のなかで、明日は何を食べに行こうかくらいしか楽しみがない。
「人は何のために生きるのか」については若い頃から随分考えてきたが、「結局のところ、人が生きることに意味などはない。ただそれぞれの人生を経験するのみ」というのが現在の心境だ。
本棚を整理していたら、学生時代のノートがあって、そのノートに以下のような幼い若気に満ちた詩が残されていた。
醜悪な魂をつり革にぶら下げて 走る電車は幻想の精神病棟
窓から垣間見る風景は散り散りにちぎれ 瞳の中に鋭い痛みを与える
苦痛から逃れようと閉じた目には 欲望の先端が微かに忍び寄る
人は時に満員電車の中で孤独な犯罪者となり
干からびた映像の中に自己を解き放つ
それだけが精神の自由な意思だ 生まれたばかりの赤子の無垢だ
そう呟く名前を持たぬ精神病患者
あなた自身の内部のスクリーンに流された血の色が鮮やかだ
何食わぬ顔をした乗客の表情に殺意を感じ取ったとしても不思議はない
乗客もまたナイフを振りかざした犯罪者にすぎぬ
それに気づくのはお前自身の傷の痛み
焼き尽くされた生の裂け目のせいかも知れぬ
人々は今走る監獄の中 狂気の炎に向かって走る精神病棟の中
時代の流れが謀反をおこし 人々の頭に黒い川をそそぎこむ
風景が変わり 映像が変わる
醜悪な顔をした魂が 電車の窓から飛び降り自殺をする