庭に生えている山椒の木に、黒くて鳥のフンのような形をしたアゲハチョウの幼虫を見つけたのは、1か月ほど前のことであろうか。やがて緑のイモムシになるのだろうと思っていたが、その後幼虫は姿を見せず、鳥にでも食べられてしまったかと案じていた。
その山椒の木は、私が植えたものではなく、鳥によって運ばれでもしたのか、数年前知らないうちに芽を出していた。最初のころは、ひょろりとした木で、2~3匹のイモムシが付くと、僅かばかりの葉は食べ尽くされ、丸坊主になっていた。
今年は、山椒の木もだいぶ育ってきて、葉も生い茂り、イモムシが付いても食べ尽くされることはないだろうと思っていたが、肝心のアゲハの幼虫は姿を消したままだった。
今日、何気なく庭に出て、山椒の木を見ていると、黄色い蜂が木のまわりを飛んでおり、やがて木の枝に止まって動かなくなった。何をしているのか不思議に思って見てみると、蜂は何かに噛みついているようであった。用心しながら、注意深く見てみると、蜂が噛みついているのは、緑色のアゲハの幼虫であった。蜂はがっちりと幼虫を捕らえ、やがて息絶えた幼虫から黒い体液が滴り落ちた。私はそれ以上見ることができず、家の中に入ってしまった。
しばらく経ってから、先ほど幼虫のいた枝の部分や地面をくまなく探したが、何の痕跡も見当たらなかった。すべては何事もなかったかのように元のままであり、静寂だけが漂っていた。